手違いTS転生ウマ娘の運命改変録 〜ウマ娘トレーナーは史実を書き換えたい〜   作:みやび

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7 菊花賞

 クラシック三冠の最終戦、菊花賞。

 3000mという過酷な長距離を制したのは、ボクの担当であるメジロアルダンだった。

 芦毛の怪物ことオグリちゃんが天皇賞(秋)へ向かったため、強力なライバルが一人減っていたこと。さらにアルダンが参加した影響か、史実の勝者であったスーパークリークさんが除外対象になってしまったこと。様々な要因が重なった結果ではあるが、それでも勝ちは勝ちだ。スタミナを温存するスリップストリームと、勝負所での的確な牽制スキル。ボクが夏合宿で教え込んだ技術を使いこなし、アルダンは堂々たる走りで一着をもぎ取ったのである。

 

 さて、この菊花賞勝利だが、ウマ娘のレース界隈において記録を作ることになってしまった。

 アルダンの成績ではなく、ボク自身の関係だ。すなわち、「史上最年少のクラシックレース勝利トレーナー記録」である。

 もし史実通りにスーパークリークさんが勝っていれば、彼女の担当である奈瀬トレーナーがこの名誉ある記録の保持者になる予定だった。しかし、ボクのほうが奈瀬さんよりトレーナーとしてのキャリアが浅い、1年目の新人で、おまけに飛び級制度を利用したため、年齢的にはまだ未成年という存在だ。十代中頃のトレーナーがクラシック三冠レースを制したという記録は、おそらく今後数十年はひっくり返らないであろう。

 

 ボク自身が元GⅠウマ娘としてそこそこ名前が知られていたこともあり、マスコミからインタビューの申し込みが殺到し、本当に面倒なことになってしまった。

 まあ不幸中の幸いだったのは、今の時期、アルダンもマックちゃんもボクが付きっきりで管理する必要があまりなかったことだろう。

 アルダンのほうは激戦の疲労を抜くための調整がメインだから、そこまで手間はかからない。スキル関係の指導については、ルドルフの担当トレーナーに頭を下げて、少しだけ見てもらうように手配している。大半のスキルはボクとルドルフで被っているのだが、あちらにしか教えられないスキルもいくつかあるはずなので、アルダンにとっても良い刺激になるはずだ。

 マックちゃんのほうはひたすら基礎練習の繰り返しである。夏に教え込んだ理想のフォームを、あとは反復練習で体に染み込ませるだけの段階に入っているため、ボクが常に横で監視している必要もなくなっていた。

 

 では、空いた時間でボクが連日のインタビューを受けながら何をしていたかというと、クラシック登録制度を公の場で徹底的に叩き潰すためのネガティブキャンペーンである。

 ローマ時代の言葉に「カルタゴは滅ぶべきである」というものがあるが、ボクにとってはこの前時代的なクラシック登録制度も等しく滅ぶべきものだ。

 

 スポーツ紙の記者やテレビのインタビューに乗じて、制度の不備と閉鎖性を理路整然と指摘し続けていたある日のこと。ボクはルドルフに呼び出された。

 卒業してから彼女と会うのは久しぶりである。

 

「URAのお偉いさんが、君の発言にひどくお怒りでね。あまり事を荒立てないでほしいと、私経由で苦言を呈してきたよ」

「そりゃあ、彼らにとっては旨味のある利権がなくなるかもしれないんだから、怒るでしょ」

 

 ボクが肩をすくめると、ルドルフは静かにため息をついた。

 クラシック登録には安くない登録料がとられる。もしこの制度が廃止されれば、URAは確実な収入源を一つ失うことになるのだ。

 ぶっちゃけ、それ以上の価値がこの制度にあるとは思えない。前世の競馬の歴史を持ち出せば、ステークス制の理念や血統の保護といった理屈で正当化することもできるだろう。だが、この世界のトゥインクル・シリーズは、トレセン学園という教育機関の一環でもあるのだ。才能あるウマ娘の可能性を、入学直後の事務手続き一つで摘み取るような制度に、教育的な正当化の余地などないだろう。

 

「君はいつも過激だね」

「ルドルフほどじゃないよ」

 

 ボクが皮肉っぽく返すと、ルドルフも諦めたように苦笑した。

 まあ、彼女も大変なのだろう。大学での勉学をしながらURAの運営委員という二足のわらじを履いているのだ。名門シンボリの次期当主様は、さぞかし気苦労が多いことだろう。

 

「で、どうすればいいのさ? 今からボクが手のひらを返して発言を撤回したら、URAから圧力がかかったのが世間にバレバレじゃないか。余計にURAへの風当たりが悪化するのは目に見えてるけど」

「君は最初から、そう仕向けるつもりで動いているんだろう?」

「まあ、否定はしないけど。でも、ボクが仕向けなくても、もうこの流れは止まらないよ」

 

 ダービーウマ娘となったあのオグリキャップがこの制度のせいで夢の舞台に立てなかった危険性があるのがそもそものきっかけだ。その事実は、ダービーの前からすでにウマ娘専門雑誌の記者たちが取材していた話である。

 彼らの嗅覚をなめてはいけない。ジャーナリストは場合によっては当事者よりも痛い真実への嗅覚が効くものだ。

 そんな状態でここでボクが急に黙り込めば、圧力がかかったことは誰の目にも明らかだ。そして、その圧力をかけた大元がURAでないわけがない。

 もちろん、ボク自身は被害者ぶって口をつぐむことで、知り合いの記者たちにあえて「察する」ように仕向ける計算はできている。こういう盤外戦術において、ボクのような小柄で子供っぽく見える外見は、世間の同情を引くための武器になるのだ。

 

 それにしても、URA側は判断が遅い。鱗滝さんもきっとそう言うだろう。

 そもそもルドルフ経由で釘を刺せばボクが大人しく言うことを聞くとでも思ったのだろうか? 火が燃え広がってからではどうしようもない。

 ボクが気になるのは、むしろルドルフの方だ。そんなこと、聡明な彼女なら言われずともわかっているはずだ。それなのに、なぜわざわざボクを呼び出してこんな無意味な忠告をしてきたのだろうか。

 

「で、ルドルフの本当の用件は何なの?」

「別に。ただ、君に会いたくてね」

「きゃっ、何それ。愛の告白?」

「いや、私には心に決めたトレーナー君がいるから」

「うん、知ってる」

 

 ルドルフが自分の担当トレーナーにぞっこんなのは、誰もが知っている事実だ。だから、それが冗談交じりの言葉であることはわかっているが……。

 

「こうでもして口実を作らないと、最近忙しそうな君は会ってくれないだろう?」

「いや、なんでそうなるのさ」

「私のこと、嫌いかと思っていたが?」

「……嫌いではないし、悪友みたいなものなんだから、普通に会いに来てくれればいいんだけど」

 

 まあ、苦手な部分があるのは認めよう。

 現役時代にはこいつには一度も勝てなかったし、こいつの尻拭いばかりやらされてきたのだ。ターフの上では威風堂々としたライオン丸のくせに、事務手続きや対人関係になると途端に詰めが甘いへっぽこになる。オグリちゃんのクラシック登録の件も、ボクの中ではまだ許していない。

 

「まあ、暇なときにでも一緒に飯でも食べに行こうよ。牛丼以外でお願いしたいけど」

「ああ、そうさせてもらおう。それで……実は君に相談したい逆スカウトの話があってね」

「逆スカウト?」

「来年、学園に入学してくる私の知り合いなんだが……君に担当をお願いできないかと思ってね」

 

 ボクは首をかしげる。

 

「そっちのトレーナーさんにやってもらえばいいじゃないか」

 

 悔しいが、ルドルフのトレーナーの腕は純粋な育成技術においてボクより上だろう。こっちはまだ開業一年目の新人だが、向こうはルドルフのさらに前の世代からトレーナーをやってきた大ベテランである。ルドルフへの愛が重すぎるという一点を除けば、指導者として何の問題もない。皇帝ルドルフのコネがあるなら、彼も喜んで引き受けると思うのだが。

 

「それが、トレーナー君が『その子は君に任せるべきだ』と強く推していてね」

「えー……」

 

 一体どういう風の吹き回しだろうか。あの男が、ボクを名指しで推薦するなんて。

 

「まあ、前向きに考えはするけど……誰なのさ、その子」

「トウカイテイオー。私の遠縁にあたる子だね」

「ふむ……」

 

 なるほど、そこが来ちゃうのか。

 トウカイテイオー。史実では無敗の二冠を達成しながらも、四度もの骨折に泣かされ、そのたびに不死鳥のような復活を遂げた伝説のウマ娘だ。

 才能は疑いようがない。だが、彼女の体格は小柄で華奢な印象がある。ボクの得意とする基礎トレーニングは、彼女にはあまり向いていなさそうだが……。

 

「まあ、検討はするよ。一度、本人と顔合わせの機会を作ってくれると助かるな」

「ああ、手配しよう」

「あとは、なんでボクを推薦したのか、ルドルフのトレーナーにも直接話を聞いておくよ」

「頼む」

 

 まあ、どうせ彼女が入学してくるのは来年の春だ。急ぐ話ではない。

 それまでに、新しいトレーニングのプランを含めてじっくり考えればいいだろう。




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