手違いTS転生ウマ娘の運命改変録 〜ウマ娘トレーナーは史実を書き換えたい〜 作:みやび
トレセン学園におけるウマ娘の気晴らしというと、アプリゲームなんかにもあった「トレーナーとのお出かけ」という文化が存在する。
とはいえ、これを実際にやるかどうかは、ウマ娘と担当トレーナーの距離感や方針次第なところがある。
ウマ娘とトレーナーの関係性など、それこそ千差万別である。
仲がいい組み合わせもあればビジネスライクな組み合わせもある。ウマ娘とトレーナーのキャラクターもあるからどれがよくてどれが悪いということはない。
あと、トレーナーという職業は基本的にめちゃくちゃ忙しい。特に規模の大きなチームを運営している場合、一人ひとりの担当ウマ娘とお出かけなんて悠長なことはやっていられない。ボクが現役時代にお世話になっていたところなんて、レースや手続きの事務処理だけを請け負う大規模チームだったため、トレーナーと二人きりで休日のお出かけなんてしたためしがない。
そうすると、休日の気晴らしは同年代の友達と出かけるというのが基本になる。
ボクの場合、ラモーヌと買い物に出かけたり、シリウスさんと連れ立って遊びに行ったり、あとは転生者仲間ということでルドルフの担当トレーナーと出かけることも結構あった。あいつ、ボクの容姿がちんちくりんなウマ娘だということを一切気にせず、「か弱い女の子」として扱わないのだ。完全に気の置けないおっさん仲間として見ているからな。休日の夜にいきなりキャバクラに連れていかれた時はどうしてやろうかと思った。見た目も戸籍も未成年なんだから酒なんて飲めるわけがないだろう。
そういえば、ルドルフ本人とプライベートで出かけたことは一度もないかもしれない。生徒会関係の仕事でよく二人で出張に行ったり、そのついでに飯を食うようなことは何度もあったが、純粋に遊びに行った記憶がない。なんだか少し申し訳ない気がしてきた。ごめんよ、ルドルフ。
さて、今のボクの担当であるアルダンとマックちゃんのお出かけ事情についてだ。
アルダンは大体の場合、休日になるとボクと一緒にお出かけするのを好む。
なんだかんだで去年の一年間はルームメイトとして同じ部屋で暮らしていたし、お互いに気心が知れていて性格の相性もいいので、ボクの方も付き合うのはそう負担にはならない。ただ、なんかアルダンはボクのことをトレーナーというより「手のかかる妹分」か何かだと思っている節があるのだ。
飛び級を利用しているとはいえ、ボクの実年齢は彼女の姉のラモーヌと同じなんですけどね。まあ、発育の暴力みたいなメジロ姉妹と並ぶと、どう見てもボクのほうが年下にしか見えないという悲しい事実は否定しないけれど。
先週の休日もそうだった。二人で街へショッピングに出かけたのだが、気がつけばボクはブティックの試着室に放り込まれ、アルダンが次々と持ってくる可愛らしい洋服を着せ替え人形のように試着させられる羽目になった。
「ふふっ、トレーナーさん。フリルのついたこちらのワンピースもとてもよくお似合いですよ」
「いや、ボクは君のトレーナーであってだな……」
「さあ、次はこちらの帽子を試してみましょう。ああ、なんて愛らしいのかしら」
結局、抵抗する間もなく大量の服を買ってもらい、その後のカフェではボクの口元にケーキのフォークが当然のように運ばれてくる始末だ。あの豊満で優しさにあふれるアルダンに甘やかされると、最初は抵抗していても、次第に脳が溶けてふにゃふにゃになってしまうのだ。ボクのトレーナーとしての威厳は常に風前の灯火である。
一方、マックちゃんに関して言えば、こちらも一緒にお出かけする頻度は少なくない。
彼女とのお出かけのメインは、主に他レースの視察見学だ。お嬢様育ちのようでいて、マックちゃんは根がとてもストイックなのだ。休日であっても有力なウマ娘の走りを見ておきたいという彼女の要望に合わせて、二人でよく競馬場のスタンド席へと足を運んでいる。
そして、レースを真剣な眼差しで見学した後のもう一つの楽しみ。それが彼女の唯一の趣味といえる甘味巡りである。
聞くところによると、ボクが担当になる前は「体重が増えると脚に負担がかかるから」と、大好きなスイーツをかなり我慢していたらしい。だが、ボクの指導方針は筋肉をつけて骨を鎧で覆う方向性だ。基礎トレーニングをしっかりとこなし、そればかりを主食にして栄養バランスを崩すようなことがなければ、好きなだけ甘いものを食べていいだけのカロリー消費と余裕が今の彼女にはある。そのため、二人で出かけたときは大体レース場からの甘味処巡りというコースが定着していた。
今日も、都内で有名なフルーツパーラーのテーブル席で、そびえ立つようなジャンボパフェを前にしたマックちゃんはご機嫌絶好調だ。
幸せそうにクリームを頬張るマックちゃんと一緒にボクも自分のケーキを食べていると、彼女がふと、なんときなしに問いかけてきた。
「そういえば、トレーナーさんとアルダンさんは、いつからのお付き合いなんですか?」
「アルダン? んー……ボクが中等部のころだから、もう四年ぐらい前になるかな」
最初の関わりは、妹のアルダンではなく、姉のラモーヌと出会ったのが先なのだ。当時、あのシンボリルドルフとバチバチにやり合っていたボクの走りに、ラモーヌが興味を持ったらしい。
当時から中学生とは思えないほど色気のある、いわゆる違法熟女みたいなルックスだったラモーヌだが、実際に話してみると案外レースに対するストイックな考え方で気が合ったのだ。それもあり、彼女のいとこでもあったシリウスさんを含めた三人でよくお出かけをしたり、練習について語り合ったりしていた。
その交流の中で、ボクが実践していた「体を丈夫にするためのトレーニング理論」の話をしたところ、ラモーヌが食いつき、脚元に不安を抱えていた妹のアルダンに引き合わされた。そこから個人的にトレーニングのアドバイスを始めたのが、すべての始まりである。
「でも、より親密になったのは、アルダンがトレセン学園に入学してきてからかな。ボクのルームメイトになったから、それからの一年間はずっと一緒だったしね」
「ほえー、そうだったのですね」
少し間の抜けた声を出したマックちゃんが、スプーンを口にくわえたまま小首をかしげた。
「あれ? でも私、トレーナーさんがアルダンお姉様と婚約したから、特例で同室のルームメイトになったのだとばかり聞いていたのですが」
「……え? 婚約? なにそれ」
完全に初耳である。というか、誰だそんな恐ろしいデマを流したのは。
「いつもお二人でイチャイチャされていますし、ラモーヌさん公認の仲だと。てっきり、そういう将来を見据えたご関係なのかと思っておりました」
「いやいやいや! ただの元ルームメイトだし、先輩と後輩の健全な関係だよ!?」
「そうなんですか……」
ボクが慌てて全否定すると、マックちゃんはパフェのグラスを見つめながら、何やら色々と察したような、思うところがありそうな反応を返してきた。
「よく、普通の人間はウマ娘の力には勝てないと言いますけれど。ウマ娘でありながらトレーナーの立場にいるあなたは、果たしてどうなんでしょうね」
「……なんかそれ、ボクがアルダンの包囲網から逃げ切れないみたいなこと、暗に言われてる?」
「いえ、私からはそこまで申し上げておりませんよ。ふふっ」
上品に微笑みながらパフェの最後のひとさじを口に運ぶマックちゃんに、ボクは背筋に冷たい汗が流れるのを感じながら、ただ意味深な言葉を受け止めるしかなかったのだった