暴れウンピョウから始まる異世界生活   作:ネイムレス

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海よりも高く、山よりも深い心でご覧ください。


第一話

「うわあああ!! 知らない青年が突如現れた暴れウンピョウに!?」

「誰か、誰か警察を呼んで!! 救急車も!!」

「新しく猛暴れウンピョウ注意の標識も作られたってのに、なんてこった!!」

 

 青年はその日、偶然出くわした暴れウンピョウによって亡くなった。標識の力など所詮はこんなものか。あまりにも理不尽すぎる終焉。しかし、それは始まりでもあった。

 次の瞬間目覚めると、青年は全く知らない異世界へと転生を果たしていたのだ。

 

「なんで!? なんで暴れウンピョウ!? そもそも暴れウンピョウって何!?」

 

 それは誰にもわからない。作者にもわからない。

 ただ一つ解る事は、青年が既に知らない世界の住人となり生きて行く事となる事実のみだ。つよく、そう、強くあらねばならない。生き残る事には確かな証が必要なのだから。

 

「青年、異世界人とお見受けした。ならば、『すてぇたす・おーぷん』と叫ぶのです。さすれば道も開かれるでしょう。それではさようなら」

「誰ぇ!? 誰、誰なの!? 怖いよう!?」

 

 通りすがりのおじさんは、それだけ言うと立ち去って行った。きっと親切な木こりさんなのだろう。周囲に見える木々の列に向かって、まさかり担いでえっちらおっちらだ。

 

 取り残された青年に出来る事はなんだろう。そうだね、現状確認だ。とりあえずは身に着けていた衣服はそのままだが、知らない世界に来る前のあの凄惨なる衝撃の痕跡は一切残されていない。

 ぶるりと一瞬身を震わせるも、直ぐに気を取り直して教えを実行する事にした。ありがとう、通りすがりの木こりさん。

 

「す、すてぇたす・おーぷん……? お、おお!! なんか出た!?」

 

 言われた通りにしてみれば、果たして現れたのは四角い画面。何でこれ浮いてるのとか、どこから映し出されてるのとかは二の次だ。興味は自然と内容へと移っていく。

 名前と誕生日とキュートな数字ばかりがずらずらと並ぶ情報集積体。欠点が一つあるとするならば、数字だけ見せられても基準が解らないので凄いのか凄くないのかがさっぱりだ。

 

 電子遊戯には一寡言ある青年ではあったが、数字の示す意味が解ってもそれが自分の凄さを示すかがわからなければ喜び様も半減である。

 ついでに生命力が数値化しているという事は、些細な傷でも受け続けたら死に至るのではないかとも思い付いたが――深く追求すると怖いので考えるのをやめた。

 

「……うん。まあ、追々確認すればいいんだよこう言うのは……。それよりも大事なのは、アクティブとかパッシブのスキルだろう。ソシャゲ的に考えて」

 

 青年の中の内向的な魂が電子遊戯への回帰を選ぶ。最早縋れるのは経験則と願望だ。自信の無さがそうさせていた。

 なんか出来んじゃねぇのと思って浮かぶ画面を指でなぞれば項目を動かせたので、手慣れた指捌きで下に下にと読み進める。程なくして、お目当ての物が青年の脳裏に快感を刻んで行く。

 読み取れた文字は、彼だけに与えられた特殊技能。その名は、襲撃者への逆襲を意味する。

 

「『リベンジ・アブダクター』……。効果は、使用回数無制限の自動反撃!? 襲撃者からの理不尽をそのまま相手に返す……。被捕食者の復讐の刃……。これは使えるスキルだ!! ――ん……?」

 

 喜びもつかの間。青年は違和感を感じて更に指を動かしすぐ下の欄を見る。くれたのは誰か知らんが、都合良く与えられた典型は一つではなかったのかと胸が逸った。

 しかしそれは、あっという間に落胆へと変わる。

 

「ユニークスキル……。『暴れウンピョウフラッシュバック』……?」

 

 何それ。ギャグ? 青年は思わず真顔になった。

 技能効果は青年の死因が形となった物。猫科の生き物に対する恐れと戸惑い。拭い去れぬ過去が、影に日向に襲い来る。体に刻み込まれた恐怖の記憶。それは、原因その物を越えて、似た存在からでもたやすく想起されてしまう。呪いじみた贈り物。

 つまり簡潔に言うと、猫怖い。

 

「もし、もし……、そこのお方……。もしや、貴方様は異世界からの方ではございませんか? でしたら――高く売れそうな身包み置いて行ってもらおうか、とっぽい兄ちゃん!!」

「今度はなんだ!? 脈絡が無さ過ぎる!!」

 

 打ちひしがれる暇もなく、青年の背後から声をかけて来る者が居た。最初は丁寧で清楚な雰囲気を醸し出していたというのに、途中からそれはまるっきり野盗ですと言わんばかりの粗暴な物となる。げんなりしつつ青年が振り向けば、果たしてそこに居たのは意外に小さい存在であった。

 青年の腰くらいの高さで直立する、白黒の喋る猫であったのだ。青年の心と体がビクンと跳ねる。

 

「きゃあ!? 暴れウンピョウ!?」

「可愛いヒロイン登場かと思ったか? 俺だよ!! 暴れウンピョウが何かは知らんが、とにかく売れそうな物を寄越してもらおうか。へへっ、こいつブルってやがるぜ」

 

 誰だよ。そんな当然の疑問は答えずに、直立猫が手にした短刀をギラリと光らせ青年につきつけて来る。爪よりも武器を選ぶとはこれが進化と言う物か。

 そして理不尽は、げへへへと下卑た笑いを見せながら飛び掛かって来た。このまま青年は無抵抗にやられてしまうのか。そんなのは嫌だ、でも心の中の恐怖の記憶が邪魔をする。

 可愛さとは程遠い迫りくる猫の顔。直立し武器を構え、げひげひと笑う姿は猫と言うより野盗じみたおっさんではないか。

 あれ、これ猫じゃなくね?

 

「『リベンジ・アブダクター』!!」

「ぐはぁ!? 馬鹿な、あの体勢からどうやって反撃を!? しかもなぜ、この愛らしい猫科特有のキュートなお顔に蹴りを入れられるというのだ!? 神を畏れぬのか貴様はぁ!?」

 

 神も随分俗っぽくなったものだ。青年は勝手に動いた自らの体にドキドキしつつ、決め顔を意識しながら襲撃者を見下ろした。よく見れば長靴を履いて居るこの直立猫は、やけにゆっくりゆっくりと地面に落ちて行きうーわうーわと間延びしたやられ声と共に弾んでからぽてりと倒れ伏す。意外とまだ余裕があるのかもしれない。

 

「貴様は猫ではない。畜生だ」

「ちくしょう、ちくしょう!! 誰だよ異世界人は金目の物を持ってるちょろい奴で、吹っ掛ければはした金で持ち物を売るような馬鹿だなんて言った奴は!! あ、俺だ」

 

 どうしてくれようかこの猫。長靴を履いた猫ならぬ、長靴に剥いだ猫にしてくれようか。青年は割と真面目に考え始めていた。

 それを感じ取ったのか、長靴にされそうな猫は素早い動きで青年の足に縋りつきゲヒゲヒと愛想笑いを浮かべ始めた。

 

「へっへっへっ、兄さんお強いじゃないですか。どうです、あっしを旅の道連れにしちゃあくれませんか? お役に立ちますぜぇ、スリとか盗みとかで」

「有能さを示そうとして、犯罪教唆をするんじゃあないよ。まったく、何なんだこの世界は!?」

 

 最初からこんなんだ、この世界は。青年の困惑をよそに、不条理な世界は彼を包み込んで離さない。これから何が起きようとも、青年は過去の恐怖からは逃れられないのだ。

 それを悟った青年は、直立猫に引っ付かれながら思わず天を仰いで叫びをあげる。

 

「暴れウンピョウから始まる異世界生活ってなんだよ!? やり直しを要求するぅぅぅぅぅーーーーー!!!」

「げっへっへっへっ、にがさんでぇ金づるにがさんでぇ。一生一緒に居て甘い汁吸って左団扇になっちゃるけぇのぉ!!」

 

 だばだばわちゃわちゃとする猫と青年。そしてそんな青年達を、遥か遠くから見守る一つの影があった。光源がどこなのかはわからないがなんだか顔は都合よく見えず、きらーんと瞳だけが輝いて瞳の奥で瞳孔がすっと縦に狭まった。眩しかったらしい。

 

「面白そうな奴、みーっけ……。にゃ」

 

 それは果たして捕食者か否か。今の青年には分からない。

 わからなくても話は続く。理不尽さをはねのける様にして、青年はとりあえず星になってしまえと縋りつく猫を空に向かって蹴り解いた。

 それはまるで、青年のこれからを示す様な美しい流れ星となっていた。所詮、堕ち行く定めか。




暴れウンピョウって何かって? それは金色のガッシュ2を読めばわかるさ。皆読もう!!
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