暴れウンピョウから始まる異世界生活   作:ネイムレス

10 / 16
第十話

 前回のあらすじ。見た目が怖い新入りさんは話してみると実に朗らかで気さくな人であった。どっかの街で獣狩りしてそうな格好だが、それらも全て職務の為に必要なのだと言う。そして青年がよくよく考えてみれば、見た目は良いのに性格が悪い奴らより、見た目は怖いけど性格が良い方がずっと素晴らしいのではないだろうかと気が付く。そう思えば受け入れるのも楽勝だなと思った矢先、人間に程近い小鬼を喜々として解体する新人の姿を見て己の考えの甘さを再認識する青年であった。気苦労が絶えないね。

 

「あー……、なんもかんも考えずに田舎でスローライフ送りてぇ……」

 

 そんな事を言い始めるのはご存じ転生者の青年。狩り終わった後の飲み会で程よく酔った頃合いで、ぽつりとこぼれた言葉に対して同席する他三人はぎょっとした。それほど青年の言葉は唐突で、なおかつとち狂っていたからである。

 だからこそ、仲間達は口々に青年に対して思っている事をそのままぶちまけ始めた。

 

「なぁにとち狂った事言ってんすか、アニキぃ。こんなに毎日酒が飲めるほど儲けていて、おぜぜで風呂に入れるぐらい稼いでんのに田舎暮らしなんてもったいないでゲすよ。むしろ、この金で装備を整えてさらなる稼ぎに挑戦すべきでやしょう。まだまだ儲けられますぜぇ、ゲへへへへ」

「替わり映えの無いスローライフとかされたら困る。……にゃ。僻地だと発生するイベントが偏るかもしれない。にゃ」

「そもそも、組んだばかりなのにパーティの要に抜けられると非常に困るんですけど」

 

 うーん、ごもっとも。特に最後の解体屋さんの指摘には言葉も無い。本当に申し訳ないと青年は新入りの解体屋さんには心の中で謝罪する。確かに募集して入ってもらったばかりでこんな事を言うのは義理にも人情にももとる行いであるだろう。猫科二匹の都合は知らん。

 だけれども、青年の摩耗した心に癒しが必要なのもまた確かであった。

 

「わぁってるんだよぉ……、魔物が居るのに田舎でのんびりスローライフとか無理なんだってこたぁさぁ……。わぁってるんだよぉ……」

 

 この世界に安息の場なんて無いと言う事は、今までの経験で青年には良く分かっている。解っているからこそ憧れは止められない。止められないからこそ、求めてやまなくなるのが穏やかで平穏な生活なのだ。酔いのせいで零れ出ている言葉ではあるが、その分青年の限界と素直な渇望の表れでもある。その思いが、知らず知らずの内に青年に涙を零させていた。自覚は無いが、なぜか溢れて来る悲哀の涙だ。

 その事を知ってか知らずか、猫科二匹は珍しく慌てた。まさかここまで追い詰まっているとは思っていなかったのだ。

 

「しっかりしてくだせぇ、アニキぃ。アニキが居なくなっちまったら金づる――じゃない、チート――でもない、えーっと、とにかく今更アニキ無しの生活なんて考えられませんぜ」

「まったくもってその通り。……にゃ。楽しい事が出来ないと一緒に居る意味がない。にゃ」

「いやー、種族的には最高ですが、倫理的にはやべー所に入ってしまったかもしれませんねぇ。まあ、沢山お仕事ができるならそれでも問題ないんですけど」

 

 少しは取り繕いましょうよ。思わずそう言いたくなる程に、猫科二匹達は畜生であった。そんな奴らの発言に対して解体屋は、のほほんとしながら自分本位な事を言っている。三者三様ではあるが、それぞれが青年を必要としているのは確かだ。

 だが、だからと言って青年に対して何ができるかと言えば、特に何もないと言うのが現状であろう。

 

「青年、異世界人とお見受けした。ならば、スローライフへの幻想を捨てるのです。田舎暮らしと言うのは重労働と不便の合わさったもので、想像している様なのんびり生活とは無縁でしょう。それではさようなら」

「んあああああ!? 聞きとうなかったそんな事実!! 知ってたけどね!! 上手く行きっこないなんて知ってたけどね!! くううううっ!!」

 

 そうこうしている内に現れた木こりさんによって、ぽんと肩に手を置かれると同時に真実を知らされた青年はついに崩れ落ちる。木こりさんは青年が料理に突っ伏さない様に皿を素早く退けてあげると、そのまま空いた皿を回収して厨房へと消えて行った。お手伝い中かな? ありがとう、親切な木こりさん。

 そんな青年の姿に、ついに猫科二匹は席を立ちあがって青年の両脇に移動して来た。流石にこれは重傷だと判断した様だ。

 

「まあまあこう言う時は飲んで忘れやしょうぜ、アニキぃ。こうして美味い酒が飲めるのも、みんなアニキの力のおかげなんでゲすよ。自信もってくだせぇ」

「少なくとも一緒に居て楽しいのは本当。……にゃ。ほら、悲しい時はお肉を食べて忘れると良い。にゃ」

 

 慰め方が雑だったが、ゲス畜生も倫理観狩人も青年の涙を止め様とそれなりに尽力していた。そんな様子を解体屋も防毒面の奥から微笑ましく見守っている。そう言えばどうやって飲み食いしているのだろう。いや、それは今は重要な事ではない。

 しばらくの間両側からわいのわいのやられた青年は、突っ伏した状態からすっと上体を起こすと口元に笑みの形に歪める。何時の間にやら、滂沱の如く流れていた涙は止まっていた。

 

「ふっ……、よくよく考えたら……、まったく知らない土地でこうして飲み食いできてるのも恵まれてるんだよな……。それを考えたら、稼げてる今の状態は冒険者として最上、なんだよな……?」

 

 まるで自分に言い聞かせる様な言葉ではあったが、少なくとも青年は前向きに考え様と努めていた。乗り越えたと言うよりは、追い詰められすぎて吹っ切れたと言うべきだろう。何よりも、青年が本気で落ち込むと猫科二匹ですら慰め様としてくれる、と言うのが分かったのが効いていた。なんだかんだ言って、必要とされていると言うのは有難い事なのかもしれない。

 そう思えばこそ、青年はふうと大きく息を吐いて、胸中のわだかまりも吐き出す事が出来ていた。

 

「悪かったな、弱音吐いちまって。お前らに慰められる様になったら、いろんな意味でおしまいだもんな」

「なんでしょう。良い事を言っている風にしているけど、とても失礼極まりない事を言ってますよね」

 

 青年の爽やかに放った言葉に、解体屋は感心した様に返す。だが青年は気にしない。なぜなら今の青年は、この理不尽ばかりの世界にも救いはあるのだと実感してしまっていたから。喉を潤した酒の勢いで、今なら普段では言えない事も言えてしまうかもしれない。

 青年は改めて席に戻った仲間達に向けて、今の素直な気持ちを伝える事にした。

 

「こんな情けない俺だが、どうかこれからも一緒に頑張って欲しい。今回の事で改めて実感したよ、俺にもお前らが必要なんだって事を。だって俺達、仲間だもんにぇ!!」

 

 噛んだ。大事な所でこれ以上ない程に噛んでしまった。これには思わず仲間達も失礼ながら大爆笑。猫科二匹は指を指しながらげらげらと嗤い、解体屋も面の奥で咽る程に大受けである。ツボに入るとはまさにこれだろう。そんな状況で、顔が鬼灯より赤くなった青年は逃げ出した。これが後戻りの効かない青春だと言わんばかりに脱兎である。

 宿に戻って自室に引っ込んだ青年が復活するのには一晩掛かり、翌日にはもう田舎暮らししたいなどとは口が裂けても言わなくなっていた。

 

 めでたいかめでたく無いかで言えば、あえて言うならおめでたいと言うべきか。青年には頼もしい仲間達が居るのは確かである。それが行幸かどうかは、それこそ青年次第と言う物であろう。

 愉快である事が、誰にとっても愉快であるとは限らないのである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。