暴れウンピョウから始まる異世界生活   作:ネイムレス

11 / 16
第十一話

 前回のあらすじ。酔った勢いで青年がのんびり田舎暮らしがしたいと言い始める。仲間達好き勝手な事と正論でそれを引き留め、更に木こりさんが現実を突きつけて止めを刺す。心の摩耗で涙が止まらなくなっていた青年、遂に崩れ落ち仲間達は慌てる。雑に慰められると何とか青年が自分を取り戻し、大事な所で格好つけた台詞を噛んで爆笑される。復活に一晩掛かった青年はもう田舎暮らしをしたいとは言わなくなっていた。酒は飲んでも飲まれるな。慣れない事はする物じゃないね。

 

「そう言えば、『暴れウンピョウフラッシュバック』なんてユニークスキルの設定あったなぁ……。身近に居るのが猫ばっかりだから、正式名称忘れかけてたよ……」

 

 そんな風に独り言ちるのは、ご存じ異世界転生を果たした青年であった。住み慣れて来た宿屋の一室で、本日は休養日としてベッドに腰掛けながら虚空に浮かぶ半透明の画面を覗き込んでいる。同室の直立猫は配分されたあぶく銭で、今頃下衆笑いしながら豪遊でもしているのだろう。他の面々も各々体と心を休めているに違いない。青年はそんな時にする事が、己の数値との睨めっこだったと言う訳である。

 そして、本来の意味とかけ離れた有難くない贈り物の体感に関しては、その仲間の猫科達が大きく関わっていると青年には推察出来ていた。

 

「相変わらずあの猫娘の視線は獲物を見る狩人の目だし、ゲス畜生は猫そのものだしそりゃ慣れるわな。ついでに、最近は直接的に怖いのも加わったから、スキルの存在感が薄れるのもしゃーないか」

 

 猫科二匹と日常を共にして、猫科の猛獣を想起させる様な依頼を徹底的に避ける。最早それ自体が日常となってしまえば、おのずと心的外傷に苛まれる機会も減ると言うものだ。上手く付き合えさえすれば、日常生活には支障がない症状まで抑え込めると言う実例だろう。これは慣れと言うより操縦に近い。

 そもそも本来の意味で恐れなければいけない物に、この世界に来てから一切遭遇していないと言うのもあるだろう。類似品では真の恐怖足り得ないのだ。

 

「そもそも死因がユニークスキルになるってなんだよ。嫌がらせかよ」

 

 多分嫌がらせだよ。誰のかは知らないが。

 とは言え完全に慣れたかと言えば答えは否で、背後から猫耳少女に寄りかかられたりすれば背筋が凍るし、ゲス畜生の方も油断すると猫扱いして心的外傷が発生する瞬間もあるのだ。怖さに慣れたと言うよりは、心構えがある分受け流しやすくなったと言うべきかもしれない。

 つまりは、環境が青年を強くしたと言う訳だ。不本意ながら。

 

「それにしても、レベルってちゃんと上がってたんだな……。相変わらず数字の意味が解らんと喜んで良いのかさっぱりだけど。なんだよ、ステータスが見られるのは異世界人だけって……」

 

 流し見する情報の羅列の中には青年の強さに関する物も当然ある。しかし、それらの数値は他と比較して初めて価値が出る物であり、他の異世界人を知らない青年にとっては大体の目安ぐらいにしかなり様がない。確かに力や素早さなどの数値は最初より大きくなってはいるが、それで石が握りつぶせるかと言えばそうでも無く、走る速度もまた尋常になった訳でもない。つまりは、生活に一切支障がない時点で、数字の大きさの意味が把握できていないのだ。

 電子遊戯でなら数字が上がれば強さが実感できたのだろうが、戦闘が自動的に終わる青年には尚更感慨は無かった。

 

「ああでも、HPが倍以上になってるのは有難いかな。ダメージって日常生活でも結構発生するみたいだし」

 

 自動反撃が発動しない転倒や打ち身等には、なまじ数字が見える分青年の肝が冷え冷えとした物だ。少なくとも今の体力でなら、箪笥の角に小指をぶつけて死ぬと言う事は無くなりそうで一安心である。これが今の所唯一見つけられた利点だろうか。毒等の状態異常で症状が数字で示されたらまた意見も変わるのだろうが、今の所は過剰な程に治療の薬を持ち込んでいる為に問題は無い。だが、完全に油断はできない事柄だろう。

 なんとも、身体能力が数字で解ると言うのも善し悪しだ。

 

「転生者だけ……、異世界人だけ、か。前にさりげなくぶっちゃけられたけど、魔王とかとっくに倒されてんのになんで俺は転生したんだろうな。そもそも、異世界転生ってなんなんだ?」

 

 青年の発した素朴な疑問。目的も無く、それでも定期的に呼ばれ、そして今では立派な観光客としてぼったくられると言う役回りとなった異世界人。果たしてそんな物に本当に意味があるのだろうか。青年でなくてもそう思うのは当然だろう。であれば、青年が今ここに居る意味とは何なのかという疑問が浮かぶのは、あまりと言えばあまりに自然な帰結であった。

 誰でも良いから教えて欲しい。そう願う青年に対して、答える者は当然この部屋には居ない――かと思いきや唐突に声が掛けられた。

 

「青年、異世界人とお見受けした。ならば、意味の無いと言う事に意味がある事もあると知るのです。それを覚えておけば、これからもまっすぐに生きて行ける事でしょう。それではさようなら」

「うん、何時から部屋に居たのかとか、どうやって入って来たのかとか、そもそも何を言ってるのかとか、とにかく全て丸ごと一切合切、意味が解らない!!」

 

 青年の疑問に答えるのは、やはり通りすがりの木こりさん。一体全体どうやって宿の個室に通りがかったのか、と言うのは気にしてはいけない。それは作者すら知らないし、今は重要な事ではないはずだ。

 そして疑問に答え終わった木こりさんは、言うだけ言ってまさかり担いでえっちらおっちらと退室して行った。ありがとう、親切な木こりさん。扉を閉める時は、隣室に配慮して静かにお願いします。

 

「……この異世界、やっぱ普通じゃねぇ。いや、普通の異世界ってなんだ? 他の異世界ならこんなに理不尽の連続は無かったのか!? あああああ!! 疑問がどんどん浮かんで来る!! 糞みたいな世界の常識が俺の脳に全面戦争仕掛けて来るぅ!!」

 

 大変だね。疑問に答えてもらったと言うのに、青年の脳裏には次から次に疑問が浮かび懊悩させてくる。悩み悩んで寝床でごろんごろんしたとしても、その疑問にきっと答えなどで無いのだろう。異世界人に詳しい猫科の二匹も、中身は常識人に見えない事も無い解体屋さんも、きっと青年の疑問には答えられないのであろう。聞いて答えが解るのであれば、とっくに答えは出ている筈だ。

 

「あー、あいつらに聞いてもどうせいつも通りニヤニヤして、たいした事言わないくせにこっちの反応を楽しむんだろうなぁ。この現地人の異世界人に対する舐め腐った認識は何なんだ……。先人の転生者や転移者達は一体この世界になにをしたってんだよ。分からない事が多すぎるだろう……」

 

 何をしたかと言えば、青年と同じく翻弄されつつも生き抜いたのであろう。少なくない影響を異世界に与えているのであれば、それだけは確かだ。もっとも、それが青年にとっての幸不幸のどちらかになるかは、それこそ遭遇してみなければわかりもしないのであるが。つまり、悩めど悩めど答えなどそもそも出ないのだ。

 そうして青年は悩み悶える内に、天気が良かったので暫くしたらすかーっと眠りこけていた。人一人の悩みなど、所詮はそんなもんだ。

 

 さりとて、思考する事が無駄とは言えない。何事も、継続させる事が肝心と言う事もある。

 答えが無いのに悩みは尽きぬ。意味が無いのに意味を尋ねる。ああきっと、それこそが青年に与えられる物の筆頭なのだろう。

 それが祝福なのか呪いなのかは、受け手と与える側の匙加減一つだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。