暴れウンピョウから始まる異世界生活   作:ネイムレス

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第十四話

 前回のあらすじ。魔法の事をすっかり忘れていた青年が疑問を持つと、なんとこの世界には魔法ではなく魔術が普及していたらしい。じゃあ魔法と魔術の違いってなんぞやと気にしてみれば、魔法は異世界人の専売特許で気合と想像力でどかーんとする物なのだとか。偶然通りがかった自称好敵手さんが魔法剣士を名乗っていたので、お前異世界人だろうと指摘すると恰好良いから名乗っていただけぇと舐めた事を言われる。そんな自称好敵手を新入りの解体屋さんの見た目で追い返してやると、今度は木こりさんが空から現れて青年びっくり。びっくりついでに気合で魔法覚えられるよと教えられ、気合一丁魔法を会得してみれば猫科の猛獣を呼び出す召喚獣で機体を粉砕される。心的外傷の原因を召喚出来る様にされた事で、すんとなった青年は魔法の使用を諦めました。こんな長いあらすじを最後まで読んでくれてお疲れ様です。

 

「んー……? なあ、冒険者ギルドの前に停まってる高そうな馬車どっかで見かけてないか? なんか見覚えがある気がするんだけど……」

 

 今日も今日とて疑問を生み出しているのは転生者の青年その人。朝の日課と言っても差し支えない程の依頼確保の為に冒険者の施設に向かっている途中、どこかで見た様な場所を見つけたので素直に疑問を口にしていた。見覚えと共に、何やら嫌な予感も感じているのでなおさらである。

 それに答えたのは、青年の隣をてふてふと歩む直立二足歩行の舎弟猫。今日もその表情は邪悪で下卑た笑みで歪んでいた。

 

「ありゃあ、お貴族様用のお高い馬車ですぜアニキぃ。装飾に金が掛かってるから端材でも良い値段で売れるんでゲすよねぇ。何でしたらかっぱらってやりやしょうか、ゲヘヘヘヘ」

「その文言も久しぶりに聞いたな。天下の往来で犯罪教唆をするんじゃあないよ。そもそも、そんな事しなくても十分稼いでるだろうに……」

 

 口を開けば下衆い狡い。それがこの直立猫ではあるが、最近大人しくなったかと思えば性根は変わっていない様で頼もしい限りだ。いつか兵隊さんにしょっ引かれないかと青年は気が気ではない。

 それにしても貴族かと青年は独り言ちる。貴族には正直良い思い出が無い。以前関わった時に碌な目に遭わなかったからだ。豪奢な馬車を見たせいで、その時の忌まわしい記憶が呼び起こされたに違いない。

 とは言え、何時までも思い悩んでいる訳にも行かないので、青年は気を取り直して施設に入るべく世界観にそぐわない自動扉に向かって歩みを再開した。

 

「ま、早々何度も出会うなんてこたぁないよな。あれから一向に音沙汰ないし、勝手に説明したらいなくなった位の間柄なんだし――」

「おーっほっほっほっ!! お久しぶりにお会いしましたわねぇ!! 壮健息災の様で何よりですわぁ!!」

「うん、知ってた」

 

 何と言う事でしょう、何故か自動扉を潜った先に何時ぞやに追いかけ回された貴族のお姫様の姿が。青年は自身にまだ諦めるなと言い聞かせていた。そう、まだたまたま偶然なんとなく出会ってしまっただけで、これから関わり合いにならないと言う可能性も残されている。挨拶だけしてお別れすれば、面倒ごとには関わらなくていいかも知れないんじゃないかなぁと思いたい青年であった。

 今ここに至っては、口先こそが最大の武器である。

 

「お久しぶりですね金髪縦ロール公爵令嬢様。今一度御尊顔を拝せて光栄至極。お名残り惜しいですが、先を急ぎます故それでは失礼しま――」

「何故……、此処にわたくしが訪れているのか、説明しなければなりませんわね!!」

「ちくしょう、やっぱ一欠けらも人の話を聞かずに説明が始まりやがった!!」

 

 説明が始まってしまったからには逃げられない。なぜなら、以前であった時に説明を聞きたくないと逃げた青年は、とんでもない速度で衣装の裾をたくし上げながら走って来たお嬢様に追いかけ回されたからである。知らなかったのか、公爵令嬢からは逃げられない。その事を嫌というほど思い知らされた青年には、もはや観念して話を聞く以外の選択肢は無いのだ。何事も諦めが肝心である。

 

「実はわたくし、この度は冒険者の皆様に護衛の依頼を受けていただきたく参りましたの。なにせ都市の防壁の外は危険が一杯、か弱いわたくしには耐えられぬ魔境ですもの」

「どんな理不尽な事を言われるのかと身構えてみたら、非常識存在の割りに意外と普通の事だったな。あと、スライムを扇子で真っ二つに出来る人はか弱くは無いと思います」

 

 お嬢様は優雅に扇子で口元を隠しつつ、青年にとつとつと説明を続けていた。まるで説明が生きがいとでも言う様に活き活きと、それはそれは上機嫌な口ぶりに青年も困惑である。だがそのおかげで、目の前のお嬢様の目的が青年目当てでない事は確認できたのは有り難い。後は適当な所でお暇して別の冒険者なりを護衛に雇ってもらえば、青年が面倒ごとには関わらずに済むだろう。表を歩けば盗賊に当たる様な世界での馬車移動など、碌な事になる訳がないと青年の経験が囁いているのだ。治安悪すぎて行商とか絶対無理だろうこの世界と青年は辟易している。

 だからこそ、何時までも出入り口を塞いでいる訳にも行かないので青年はその場を立ち去ろうとした。

 

「ちなみに、報酬の方はかなりの色を付けておりますので、引き受けた方は暫く遊んで暮らせる筈ですわぁ。具体的な金額を申しますと――ごにょごにょですわですわ……」

「ふむふむゲスゲス……――なるほど、こいつはかなり好条件ですぜアニキぃ!!」

「貴族の依頼は無駄に高額になる物。……にゃ。ここは一つこのビックウェーブに乗るべき。にゃ」

 

 立ち去りかけた青年の代わりに猫科二匹が話を聞いてしまう、そうは問屋が卸させない推移と現状。お嬢様は冒険者の施設から外に出て人の迷惑顧みずに入口でわちゃわちゃし始めてしまう。仲間達を放っておく訳にもいかないので、必然的に青年も一度自動扉の外に出るしかない。なぜなら、知らない内に厄介事が三つ位に増えるかもしれないからである。割と死活問題だ。あと、大金と言われると心が揺れるのは、青年も同じ庶民故致し方なし。

 ふと最後の一人の解体屋はどうなのかと視線を送ってみたが、防毒面の奥で曖昧に目を伏せるばかりだった。お任せしますという意味だろう。では、お任せされますと青年は言葉を紡ぐ。

 

「あー、それでぇ、盗賊塗れの治安の終わってる馬車旅で、一体全体どちら迄行かれる予定なんですかねぇ?」

「よくぞ聞いてくれましたわ!! 何を隠そうわたくし、この度あの王立魔術学院に入学する事が決まりましたの。その行く道を護衛できるなんて光栄な事でしてよ、おーっほっほっほっ!!」

 

 どの学園かはさっぱり知らないが、この世界にも教育機関はあるのかと青年は驚いた。詳しく聞けば創立に異世界人が携わったという、由緒正しき伝統的な学園であるらしい。元々の理念は貴族平民貴賤無く、広く開かれた魔術の学び舎としての校風を持っていたのだが、それは何時しか風化して貴族御用達の社交場へと変質して行ったらしい。異世界人の財力有りきで支えられていたのもあるが、庶民が魔術を覚えるならわざわざ学院に行かずとも魔術師に師事すれば良いのもある。つまりは形骸化して久しいと言う事だ。

 どんなに立派な志も創立者が没してしまえばそれまで。何時までも変わりえない組織など無いと言う事の表れなのだろうと青年は寂寥感を覚えた。

 

「結局金かよ……。いや、金に心を揺さぶられるのは良く分かるけど、創立者の志とかもっと大事にするもんじゃないのか? これも理不尽の一種なのか……、それとも現地人達なりの敬意の表れか……?」

「勉学や魔術の習得は家庭教師で十分ですので、せっかくの学園を取り潰してしまうよりは社交場として利用するのはむしろ最大の敬意ですわぁ。それで、依頼の方はいかがでしょう? 私としては是非とも貴方方にお願いいたしたいのですわ」

 

 はてさて、遂に選択を迫られる場面となった訳だが、護衛と言う難しい依頼に対して高額とは言え報酬は果たして本当に割に合うのだろうか。ぜったい盗賊やら魔物やらに襲われてまともな道行にはなりはしないだろうし、何だったらその場にいる筈がない強大な竜やら龍やらが現れる可能性も無くはない。

 それに何か、何か大切な事を忘れている様な気がする。そう、例えば毎回現れるけど今回は一度も姿を現していない誰かの様な大事な事を。

 そう青年が思った瞬間、木こりさんが貴族用馬車の中から扉を開けて現れた。

 

「青年、異世界人とお見受けした。ならば、馬車での移動は時間がかかり拘束時間も長くなるので依頼の期間を確認するのです。帰りの時間も同じだけ掛かる事も考慮し、よく考えて決めると良いでしょう。それではさようなら」

「あー、忘れてたのそれかー、助かった助かった――ってぇ!? 何で馬車の中から出てきたの!? 何時からそこに!? って言うか出待ちしてたの!?」

 

 木こりさんの言葉で一番大事な拘束期間について思い出せた青年が声を上げた時、木こりさんは既にえっちらおっちらと雑踏に消えていた。ありがとう、親切な木こりさん。まさかり担いで馬車に潜んでいたのは持ち主的にどうなのかと思ったが、公爵令嬢のお嬢様は特に気にはしていない様だ。この世界の貴族はいい加減なのか大らかなのか計り知れない。

 それはともかく、青年はお嬢様に護衛の期間を素直に聞く事にした。

 

「陸路で各都市を経由しつつ進むので一か月程を目途にしておりますわぁ。とは言え、道中はきっと刺激的な事になる筈なので、厳密に一月で着く必要もありません。いざとなれば転移魔術で一瞬で行く事も出来ますし、貴方方は大いにお力を振るってもらえばそれで問題ありませんわぁ」

「一か月かぁ……、報酬は魅力的だけど帰りも考えると二か月掛かる――今転移魔術で一瞬って言った?」

 

 青年が聞き捨てならない事を聞いた気がするので確認してみれば、お嬢様はさっと口元を扇子で隠して涼やかな顔をしている。だが青年はその目元が確かに笑っているのを見咎める。あれだ、この女猫耳少女の同類だ。青年の理不尽に慣らされた直感がそう訴えかけていた。一か月方々連れ回して、異世界人の数奇な運命力を間近で楽しむ気に違いないと。

 

 真実に気が付いた青年は、丁寧に丁寧に申し出を辞退して仲間達を引っ張って自動扉の向こうへ逃げ出す。その時の青年の心の中を一言で表すならばこうだろう。

 一昨日きやがれ!!

 

 さてはて、変わらない物は無いとは言うが、変わらないからこそ愛しい物もあるだろう。それは日常であったり伝統であったり距離感であったりと様々だが、今青年の欲して止まないいのは、変わらぬ安息の日々なのかもしれない。

 そんな物が、本当にあればの話だが。

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