暴れウンピョウから始まる異世界生活   作:ネイムレス

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第二話

 前回のあらすじ。暴れる猫科の猛獣に襲われ異世界転生し、木こりとすれ違い、数字の恐怖から目を逸らし、直立する野盗猫に襲われ、それを撃退したら舎弟にしろと縋りつかれ、なんか遠くから謎の存在に監視され、そして野盗猫は流れ星となった。

 異世界に叩き込まれた猫科の猛獣を恐れる青年の明日はどっちだ。誰か教えてくれ。

 

「ゲッヘッヘッヘッ、ここがお話しした人の居る場所でさぁアニキぃ。さあ、どいつの財布から狙ってやりやしょうかねぇ、アニキの為ならいくらでも働きやすぜぇ」

「ナチュラルに道案内から犯罪教唆をするんじゃあないよ。ほら、何か門番の人がこっち睨んでるだろ、やめろよ着いた早々不穏な空気にするんじゃない」

 

 青年が直立猫に案内されてたどり着いた人類の生存圏は、何とも立派な壁に囲まれた城塞都市であった。道行く人の格好からしてまさに異世界幻想世界。服装の奇抜さが、青年の荒んだ心をわくわくさせてくれていた。全身鎧の門番さんに睨まれたって、これで強く生きていけると言うものだ。

 

「でもよぉアニキぃ。先立つおじぇじぇが無けりゃあ、お飯も寝床も手に入りやせんぜ。だからここは一つパパっと女子供を狙って……」

「おい馬鹿止めろ、門番さんの目の前でアホな事を言うんじゃない。いや、確かに稼ぎは欲しいがこう言うのはもっと真っ当に稼ぐもんだろう。例えばそう――」

 

 せっかく異世界に生まれ変わったのであれば、やりたい事は溢れ放題夢沢山。欲しがりますよ、男の子ですから、ありったけ。

 そんなわけで、どうせならこの世界でしか出来ない事がしたいと思うのが人情純情作者の事情。さっそく町の中に入って行こうと青年は一歩を踏み出した。

 

「青年、異世界人とお見受けした。ならば、冒険者ギルドに行くのです。そして登録を済ませてからクエストをこなせば報酬が受け取れましょう。それではさようなら」

「木こりさん!? えっ、何で木こりさんがここに!? 森に木を切りに行ったのでは!? え、別人!?」

 

 それは誰にもわからない。作者にもわからない。通りすがりの親切な木こりさんは、青年達が歩いて来た方向にえっちらおっちらとまさかり担いだまま街から離れて行った。

 青年はその背中を見送った後に、何やら周囲の物色を始めた直立猫の首根っこを掴んで都市の中に入っていく。理不尽にはまだまだ慣れそうもない。

 

「それにしても、剣と魔法の世界って割にはなんて言うか、普通のヨーロッパの街並みって感じだな。人しか歩いてないし、道もなんか綺麗だし。本当に中世代なのか?」

「何言ってんすかアニキぃ。人間の国に人間ばっかり歩いてるのは当たり前のことだし、道が汚れたら掃除するもんでゲしょう?」

 

 それはそうだ。誰だってそうするし、青年もそうする。でも脇に居るゲヒゲヒ嗤っている直立猫に言われるのはなんと言うかその、控えめに言ってクソかなと彼は思った。

 だが、気を取り直さねば物語は進まないのだ。

 

「それで、冒険者ギルドだっけ? 何処にあるかは知らんけど、なんとなく街の真ん中にあると利便性がよさそうな施設だよな。どこにあるか知ってるか?」

「すいやせんねぇ、アニキぃ。俺っちもこの都市にゃ来たのは初めてでやんして、にっちもさっちもいかねぇって訳ですよ」

「まあ、そんな都合よく知ってる奴なんて居ないよな。ファンタジーやメルヒェンでもあるまいし」

「冒険者ギルドなら、この町のど真ん中にデカデカとそそり立ってるよ。……にゃ。その大通りをまっすぐ行くと付き当たる筈。にゃ」

「げへへ、わかり易くていいじゃないっすかアニキぃ。このまままっすぐ歩いてりゃいいだけみたいですぜ」

「あ、そうなんだ。じゃあ迷わずに済みそう――って、誰だお前は!? ナチュラルに会話に参加し過ぎてて気づかんかったわ!?」

 

 さもありなん。青年と直立猫の傍らにはいつの間にか外套を纏う不審人物が立っていた。被り布の中で縦に細められた虹彩がきらりと怪しく輝きを見せる。光源何処だよ。

 青年が地の文と同調している間にも、外套で被り布な人物はバレちゃあしょうがねぇと言わんばかりに顔を隠していたフードを取り払った。果たして現れたのは、猫耳を付けた短髪の女性の立ち姿。猫耳と腰元の尻尾以外は割合普通の女の子であった。

 

「ひいっ!? 暴れウンピョウ!?」

「違う、暴れウンピョウじゃない。……にゃ。どこからどう見てもケモミミと尻尾を生やした猫科獣人族そのもの。にゃ」

 

 よかったね、暴れ猫科の猛獣じゃないらしいよ。青年が自らの命を奪った死因を想起させる存在に戦慄したが、それを恐怖した相手がわざわざ否定してくださる。なんて優しい世界。

 どう見ても仮装した普通の人にしか見えないが、そんな獣人少女は聞いてもいないのに自分のことを説明し始めた。

 

「君が転生者なのはそこの猫とのやり取りを見てたから知っている。……にゃ。転生者はそこに居るだけでなぜか悲喜こもごもなイベント盛りだくさんになるから、近くで眺めてるだけでも恩恵にあずかれる。にゃ。私も楽しめそ――好き勝手出来そ――面白そうだからついて行く事にした。にゃ」

「何で言い直した全部同じ事だよな。というかなんだその迷惑な設定は、この世界には理不尽しか存在しないのか!? 責任者説明しろぉ!!」

 

 どこかの科学者によると神は死んだらしい。責任者不在でも世の中は回って行くものさ。

 とりま、天下の往来でぎゃいぎゃい騒いでいれば人の視線は集まるというもので、青年の繊細な心は早くも視線に耐えられなくなってきていた。ここは撤退を推奨する場面だろう。否、後ろに向かって前進だ。

 

「こんな所に居られるか!! 俺は冒険者ギルドに行って健康的に日銭を稼がせてもらう!!」

「人ごみを見ると血が騒ぎやすねぇ。こう言う時が狙い目なんでさぁ。あ、待ってくださいよ、アニキぃ~」

「冒険者ギルドは外からしか見た事が無かったから楽しみー。……にゃ。三人で登録すれば初心者でもそれなりの稼ぎができる筈だよね。にゃ」

「付いて来るなよ!? なんなの!? ヒロインのつもりなの!? こんな唐突な加入ってあるぅ!?」

 

 喜べ、可愛い女の子だぞ。こう言う唐突な加入が流行りなんだろう作者知ってる。

 とにもかくにも騒がしい一行は、ぎゃあぎゃあ騒ぎながらも冒険者の集う場所を目指していった。そこに果たして何が待ち受けているのだろうか。世の不条理に振り回される青年には解かるはずもない。

 

 そんなこんなで辿り着いた冒険者の集う場所は、都市の大きさに見合うほどに大きく活気にあふれていた。ここからいよいよ青年の異世界生活の第一歩が始まる。そんな予感が青年の期待を膨らませて、力強く後押しするのだ。

 その建築だけ周囲から浮く程に近代化された四角い建物に向けて、青年はいざ行かんとばかりにその扉に手を掛けた。

 

「たのも――あれぇ!? 何で扉が勝手に開いて!? ぐふぅっ!?」

「うわー、顔から行きましたねアニキぃ。大丈夫ですかい? でけえ都市じゃ自動開閉扉は当たり前にあるんでゲすよ。ゲヒヒヒ、どこの田舎もんだよって感じでしたねぇ」

「ぷふー、おもしろ……。にゃ」

 

 第一歩を踏み外した。それはもう盛大に。青年の手に入れた自動反撃はこういう時には役に立ってはくれない。だって攻撃じゃないからね。

 青年はなんで自動扉が異世界にあるんだと憤慨しつつ、気を取り直して建物の中に入って行った。愉快な猫科二匹もその後に続く。

 

 なかなかどうして、異世界に放り込まれた青年の前途は多難と言うにはあまりにも理不尽である様だ。だが生きろ。二度目の命はその為にある。

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