暴れウンピョウから始まる異世界生活   作:ネイムレス

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第三話

 前回のあらすじ。青年は直立猫と共に都市についた。そこへなぜか木こりがまた現れる。その上、なぜか獣人少女が自然に合流。そして舞台は冒険者の職業斡旋所へと移る――と見せかけて、青年は第一歩を踏み外して顔面を強打した。痛いやら恥ずかしいやら複雑な思いのままに青年は、猫科二匹と共に施設へ入る。

 まあ、大体そんな感じ。異世界は危険がいっぱいだね。強く生きろ。

 

「ここが、冒険者ギルドか。なんて言うか、公共の役所みたいだな。酒場とかは併設されてないのか」

「ゲヘハハハハ、そんな田舎の冒険者の酒場じゃねぇんですから。都会じゃわざわざ併設しなくても、そこら中に酒場があるんでゲすよ」

「あんまりキョロキョロしてるとお上りさんみたい。……にゃ。自動ドアも知らなかったみたいだし、相当田舎の方から呼び出されたのかも。にゃ」

「やかましいよ、畜生と猫娘。ファンタジー世界の住人だからって、口にしても良い事と悪い事があるんだぞ。あと自動扉の事はもう思い出させないでください、お願いします」

 

 試練の自動開閉戸を潜り抜けた一行は賑やかしくじゃれ合いながらも、冒険者が集う場所に足を踏み入れていた。青年の顔が赤いのは床に強打したためだけではない。

 そして、そんな彼らをすぐさま新たなる洗礼が迎え入れるのもまた世の習いだ。

 

「おうおうおう、入口で騒いでんじゃねぇよ!! ヒック!! おめえらみてぇな若造が冒険者になろうなんざ十年はえーんだよ!!」

「ひっ!? 酒場も無いのに酔っ払い冒険者が絡んできた!? なんで!? え、ほんと何で!?」

 

 それはお約束だからである。冒険者集まる所絡みあり。絡むと言ったら酔っ払い。異世界で絡んでくる酔っ払いと言えば冒険者。何もおかしくはない。

 酔ったおっさんに大歓迎された青年は一瞬どころか盛大に怯んだが、すぐさま自分には便利な力がある事を思い出した。そうだ、自動反撃があればこんな酔っ払いなど屁でも無いと。

 気が大きくなれば態度も大きくなるもので、怯え顔は直ぐに挑発的で不適な笑みに変わる。若干引き攣ってはいるが。

 

「俺のわけぇ頃はなぁ!! んだぁ、その目はぁ!? ぶん殴られねぇと分かんねぇのかぁ!?」

「はっ、良いぜやれるもんならやって――」

「はい、そこまで!! ギルド内での私闘は禁じられています。まったく、また貴方ですか。飲酒しながらギルドにやって来て、入ってきた新人に絡むのは業務妨害ですよ。警備兵、奥にお連れしなさい」

 

 はい、公共の施設で暴れればこうなりますよね。酔っ払いのおっさんは兵士っぽい人達に連れられて施設の奥へとお持ち帰りされて行った。仲裁しに来た職員の男性曰く、ほぼ毎日現れる新人専門の迷惑冒険者らしい。その執着、まさに玄人の貫禄。その道なんと二十年というからあまりの無駄さに驚きだ。

 被害者とは言え挑発に乗った青年にも軽く口頭注意がされて、その様子を猫科二人がにやにやと眺めている。職員の男性に頭を下げながら青年は思った。あいつら箪笥の角に小指ぶつければいいのに。

 

「次からは絡まれても不用意に反撃しない様にしてくださいね。さて、遅ればせながらですが、冒険者ギルドにようこそ。新規登録なら一番の、クエストのご依頼なら四番の受付にお並びくださいませ」

「あっ、はい……。なんかほんとすいませんでした……」

 

 ひとしきり注意を終え、さらには丁寧な案内をしてから職員の男性は酔っ払いの後を追って行った。きっとこれから向こうにもお説教をするのだろう。この世界に来て初めて人らしい対応を受けた青年は、恥ずかしいやら嬉しいやら恥ずかしいやらで涙目である。男性職員ではあったが、青年不覚にも胸がときめく。

 なんせ連れ合いが、ゲスな畜生と恐怖の猫娘であるゆえに。

 

「あ、アニキぃこっちでもう新規登録の手続きしてるんで、後はアニキがサインを書くだけでゲすよ。異世界人はこっちの字が読めるのに書けねぇって言う、摩訶不思議な生態をしてるのは承知の上でさぁ」

「お前が字を書けるってのがこの世界に来て一番の衝撃だよ。返せよ俺の異世界への憧れを」

 

 まだあったんだ、憧憬心。青年は涙を袖で拭ってから、畜生が導くままに一番の受付へと向かう。果たしてそこには、見た事もないはずなのになぜか読める文字で書かれた書類と、引き攣った笑みを浮かべる慣れてなさそうな受付嬢が居た。

 わかるよ、畜生と猫娘と説教されてた奴が一気に来たら戸惑うよね。そんな事を思い青年はうんうんと頷いた。

 

「えーっと、マジで読めるなこれ……。うん、詐欺じゃなさそうだな」

「意外。……にゃ。てっきり何も読まずに迂闊にサインするかと思ってたのに。にゃ」

「当たり前だろう。俺はもうこの世界に対して一切信用なんぞせんからな。畜生、お前は特にだ」

「ゲヒゲヒゲヒ、冗談きついですぜアニキぃ。……アニキ? 冗談でゲすよねアニキ? ねえ?」

 

 痛いほどの沈黙に、耐えきれなくなった受付嬢から遂に引き攣った笑みすら消える。彼女の見てしまった青年の目は、この世全ての悪を見たとでも言わんばかりの闇であった。

 色々と疲れが溜まって来た青年ではあったが、何も悪くない受付嬢さんに当たる訳にも行かない。気を取り直して書類に羽製の筆記用具で見様見真似の文字を書き入れ、努めてにっこりと笑顔を浮かべながら書類を返した。

 三人一緒の徒党として登録されるのは、もう既に抗うのを諦めている。

 

「え、えっと……、はい確かに新規登録と徒党の結成を受理いたしました。直ぐに冒険者登録証をお作りしますので、もう少々お待ちくださいね」

「ああ、登録証がもらえるんですね。やっぱり、ステータスとかスキルが表記されてるんですかね。あ、でもステータスオープンできるなら必要ないのかな?」

「えっ、ステータスとかスキルって何のことですか……?」

 

 えっ? えっ? 青年と受付嬢が見つめ合いながら疑問符をぶつけあった。目と目が合う瞬間、理不尽に気が付く。あれ見えてんの俺だけかよと、青年はいろんな意味で戦慄する事となる。

 そんな二人の様子を見て、今度は猫耳少女がぶふーっと盛大に失笑した。どうやら彼女はこの事実を知っていたらしい。今は放心しているが異世界人に詳しい畜生も知っているのだろう。

 指の先ささくれちゃえば良いのに。青年は強く呪った。

 

「お待たせしました。こちら作成終了した冒険者登録証となります。――ここから先は変わるわ。休憩していらっしゃい」

「せ、先輩……。す、すみません失礼しますぅ!!」

 

 青年が心の中で藁人形を釘打ちしていると、いつの間にか受付嬢が仕事慣れしていそうなお姉さんに代わっていた。どうやら新人の受付さんには荷が重かった様だ。青年にはその事実の方で余計気が重い。

 入れ替わりで現れた受付のお姉さんは、淡々と交代を詫びた後に冒険者証明書について説明をし始める。何度も同じ説明をしてきたのだろう淀みの無さに、澱み切っていた青年の心も少し癒されていく。

 

「異世界人の方とは知らず失礼をいたしました。ステータスやスキルについては当ギルドも把握はしておりましたが、新人教育が間に合わずにご不便をおかけいたしましたことお詫びいたします」

「いやもう、ほんとすいません……。異世界転生してすいません……」

 

 こんなに丁寧に謝られたら逆に申し訳なくなるのが人の性。青年は居た堪れなくなって、お姉さんに負けじと頭を下げてしまう。その拍子に冒険者証明書が目に入り、何とはなしに持ち上げて裏表を確認するとふと気になることを発見した。冒険者と言えば当然あるだろうあれがどこにも書いていないのである。

 そう、みんな大好き冒険者等級が。

 

「えっと、もしかしてこの世界って冒険者の等級――」

「ありません」

「AとかBとかSとかは――」

「ございません」

「銀とか金とか白金とか――」

「存在しません」

 

 あるのは勤続年数による大まかな認識で、新人中堅玄人が分けられているだけらしい。それ以上に強い存在はただ英雄とだけ呼ばれるのだとか。質実剛健ですね。

 挫けそうになった青年だが、そんな彼の傍らからすっと手が伸びて猫耳少女が自分の分の登録証を取り上げる。その瞬間青年の体がびくんと跳ねる。恐怖で。

 おかげで落ち込む心はどっかに行った。

 

「新規登録を済まされたばかりですが、本日はこのままクエストの受付もなされますか? 今ですと薬草採集の依頼と、初心者向けの討伐依頼が幾つかございます」

「討伐ですか、相手によってはそっちの方が楽かもしれませんね。ほら、スキルとかあるんで」

「そうですね、異世界の方たちはおおむね討伐を選ばれる方が多いとこちらも把握しております。それですと今残っている新人向けのクエストは……、暴れオオヤマネコの討伐と猫科と思われる肉食獣の撃退、それから中堅向けですが森林地帯に現れるフォレストタイガーの調査などしか――」

「薬草採集でお願いします!!」

 

 都合良く猫科の猛獣の依頼しかないとかってあるぅ!? 青年は心の中でそう絶叫したが、それがあり得るのがこの世界である。あり寄りのありだ。

 これ以上ここに居るとどんな猫科を押し付けられるかわかった物ではない。青年は未だ黄昏る畜生の首根っこを掴むと、日銭を稼ぐために施設を飛び出した。自動開閉だから手が塞がっていても安心だ。

 畜生の分の登録証も持って、猫耳少女も楽し気に身を弾ませながら後に続く。まだまだ逃がさないと猫科らしく目が輝いていた。狩る者の目である。

 

「青年、異世界人とお見受けした。薬草採集ならば南門へ向かうのです。南門から出ればすぐに森に出られます。さすれば道も開かれましょう。それではさようなら」

「今ぁ!? 今来るの!? 今回来ないと思ってたらここでぇ!?」

 

 施設の外に出ると同時にすれ違うようにして木こりのおじさんが現れ、親切にも薬草採集に適した森を教えてくれた。ありがとう、親切な木こりさん。告げ終わった木こりさんはえっちらおっちらと、今しがた青年が出て来た建物に入って行く。木こりさんも登録かな?

 

 さても、からくも冒険者となれた青年一行達。果たして無事に森までたどり着けるのか。それは次回を見てのお楽しみ。無論、無事には済みはすまい。

 

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