暴れウンピョウから始まる異世界生活   作:ネイムレス

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第六話

 前回のあらすじ。安宿に泊まったらいびきでも自動反撃が発動する事と直立猫が謎回復技能を持つ事を発見。美味いけど顎が疲れる食事や井戸の使用料から世知辛さを感じる。装備を整えようとしたら初期装備が高級品だと判明し、高級な武具の意匠は微妙にダサい。木こりは二度来る。仲間との絆を感じつつ購入した杖が出入り口に引っかかってすっ転ぶ。猫科二匹に大笑いされながら青年は悔しさを噛み締めた。

 なんだこの世界、理不尽の塊かな。でも、それが世界の愛ならしょうがない。

 

「フッ、貴様が噂の大物ルーキーって奴だな!! 初めまして!! そしてお前は今日から私のライバルだ!!」

「開幕いきなり意味不明な事口走ってんじゃねぇよ!! 意味わかんねぇよ!! 何がライバルだよ!! 初対面だよ!! ……はじめまして」

 

 異世界、冒険者、順調な出だし、と来れば次に現れるのは、そうだね好敵手だね。そんな訳で、異世界転生を果たした青年は今、冒険者の集う施設でなんか変なのに絡まれていた。気を付けないと出入り口に突っかかる杖を手に入れてから一週間ほど、狩りに採集にと順調に過ごして行けたなと思えばこれだ。無論その間も割と尋常じゃない理不尽と恐怖には晒されたが、そろそろ慣れてきたかなと思えばこれである。

 依頼で懐は温まったはずなのに、なんだ胸に隙間風が吹いている様な気分で青年は内心やさぐれていた。

 

「フフン、貴様はどうやら新人だと言うのに結構な稼ぎをしているそうではないか。最初から徒党を組む仲間が居たからだろう、羨ま――恵まれた境遇に甘えている様子が気に入らない!! だから、貴様の成績をこの私が抜き去ってやろうと言うのだよ」

「いや、うちの仲間も新人だからそんな大差ないでしょ。それに片方はゲッスい思考の畜生猫だし、もう片方は人の事を獲物を見る狩人みたいな目で見て来るし……。実力はともかく、そんな良いもんじゃないっすよ? ほんと……、マジで……」

 

 青年としては代わってくれるなら押し付けたい様な、でも今更一人にされるのも心細いなと言った微妙な所で宙ぶらりん。だが、一週間一緒にやって来た義理はあるので、穏便に済ませるためにやんわりと自己弁護をしてみた。

 だが、お相手の自称好敵手さんはそんな事では納得しない様だ。

 

「フフフ、何を言うか実際に三人でしっかりと稼いでいるではないか。だと言うのに、貴様は鎧もまともに買えない上に武器が木の棒で体つきも鍛えている様には見えない。そんな奴が活躍できるとも思えんし、それでも稼いでいるなら仲間が優秀以外に考えられん!!」

「んんー!! はた目から見たら、ぐうの音も出ない正論!! 見た目については否定しきれない所が、本当に悔しいっ!!」

 

 さもありなん。平和な時代でぬくぬくと育った青年だ。暴れウンピョウに襲われても無抵抗にやられてしまった様な青年には、こと身体能力については反論が出来なかった。そして、自分の強さはこの世界の住人には無い特殊な技能ですと、自分から言うのも何となく負けた気がする。なにより三人で稼いでいるのは本当の事なのでさらに何も言えねぇ。青年の心にモニョモニョした何かが纏わり付いて離れない。

 言葉も出ない青年に対して何やら思う所があったのか、自称好敵手さんは何やら急に上機嫌になって騙り始めた。語り始めたではない。

 

「フッフフフ、そうだろうとも我がライバルよ。この私は生まれながらにして恵まれた魔法剣士であり、この通り全身眩い装備で身を固めている。もちろん、装備に見劣りしないだけの訓練も欠かしていないと宣言しておこう」

「そうなんだー、すごいねー……。そろそろ行ってもいいっすか?」

「フフッ、フッフッフッ。なに、そう落胆する事は無い。この近隣に生息するモンスターの中には狩り易く、しかしなかなかタフで経験を積める物も多く居る。鍛錬を欠かさなければ貴様でも直ぐに、仲間達に頼りきりにならずとも良くなるだろうさ。このライバルの私が特別に、詳しい場所を教えてやろうではないか!!」

「えっ、何急に怖いんですけど!? 何で急に優しくなったの!? もしかしてめちゃくちゃ哀れまれてます!? 実はこの人スゴイシツレイ!?」

 

 実際すごい失礼。しかし、その親切心は本物であった。なんせ目が言っている。苦労しているのだろうなと、上から目線の性善説が目白押しだ。同情されるのはあれだが親切な事は確かだし、事情を説明しなかったのも青年である。ここはもう、実は強いんだと言ってしまおうか、いや言おう。青年は即断即決した。

 そして、実は結構強いんですーと言ってみて、それを猫科の二匹がこくこくと頷いて見せると自称ライバルの人は驚愕した。そして、何故かぶわっと目の幅の涙を流し始める。青年も驚愕した。

 

「フフフフフフ……。なんと、なんとそうであったか……。申し訳ない我がライバルよ、貴様を見くびってしまった様だ。その体躯とその装備で実力者とは、さぞ苦労して強くなったのだろうな……。見誤った事を許してくれ」

「…………う、うん、まあ、ほら、そんなに気にしないでください。ほんとに。つーか、某俺はこいつと旅に出るゲームのライバル並みに親切になったな……」

 

 言えなかった。まさか、全ての敵を楽々自動反撃で倒していますとは今更言えない。だから心の中で青年は代わりに謝った。すいませんすいません、特殊技能で楽して強くなってすいません。同情される程の苦労は戦闘面ではしてないんです本当にすみませんと、何度も声無く泣きながら謝った。全部、この世界の理不尽が悪いんです。そう、強く、強く。

 

「青年、異世界人とお見受けした。ならば、先ほど教えられた狩場には是非とも行くべきです。戦いの経験も積めて、稼ぎもしっかりと出る事でしょう。それではさようなら」

「ここで!? やや強引に抉り込むようなこのタイミングで!? 理不尽の権化かあんたは!?」

 

 忘れる所だった。危ない危ない。青年が心の土下座中だと言うのに唐突に表れた木こりさんは、言うだけ言ってまさかりを担いでえっちらおっちらと施設から出て行った。きっと彼も冒険者登録を済ませてあるので、依頼の為に森へ向かうのだろう。自動扉をくぐる姿が頼もしい。ありがとう、親切な木こりさん。

 

「フッ、迷惑を掛けたな我がライバルよ。フフッ、今は暫し、互いに切磋琢磨し合おうではないか。それでは、また会おう!! フフフ、フハハハハ!!」

「あっ、はい……。お気をつけて……。えっ、木こりさんはスルー……?」

 

 そして、お別れの時。来た時と同じように唐突に別れを告げて、自称好敵手の人は青年の前から立ち去って行った。恐らくは、これから受付で依頼を受けて討伐にでも行くのだろう。一人なのか仲間と共になのかは判らないが、なんとなく気になってその背中を青年は見送ってしまった。あれだけ色々言って来たのだから、負けず劣らずに頼もしい仲間たちが居るのかもしれないと気になったから。

 そして、青年は見てしまった。自称好敵手さんが新人登録用の一番受付に並ぶのを。

 

「あれだけ言っといて未登録だったんかい!! 返せ!! 返せよ、俺の心の涙を!! この世界に来ていっちばん理不尽な目に遭ったぞコンチクショウーーーーーーー!!!!」

「こほん、失礼。ギルド職員の者ですがお時間よろしいですか? 流石に騒ぎ過ぎだと他のご利用者様方からクレームが来ていまして……」

 

 青年、何時ぞやに見かけた男性職員と再会し怒られる。初めて訪れた時にも口頭注意を受けたが、再びのお説教開始であった。ちなみに、猫科の二匹は遠く離れた所で青年を見守りながらニヤニヤしている。あいつらほんと、爪の甘皮剥けちゃえば良いのに。青年は怒られつつも呪った。

 そして、自分の事を真剣に注意してくれる男性職員さんに、やっぱりこの世界でまともに相手してくれるのはこの施設の人達だけなんだなと青年は再びトゥンクとときめくのであった。

 

 また一人、青年を理不尽に叩き込む存在が現れたが、次の出番があるとは限らない。それでも、青年の異世界での生活は続くし、猫科二匹はまだまだ着いて回るのだろう。それが定めと言うのであれば、まんじりともせず受け止めるのが物語の常に違いない。

 そろそろ挫けそうかもしれない? 大丈夫だ青年、挫けても理不尽は止まらないから安心だ。

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