暴れウンピョウから始まる異世界生活   作:ネイムレス

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第七話

 前回のあらすじ。一週間順調に過ごせたかと思ったらなんか変な奴に絡まれる。好敵手認定されたあげくに仲間の力で順調なんだろうと言われ、否定したら苦労したのだなと同情されてなんだこいつとげんなり。何か急に親切になって狩場を教えてきたりしたが、木こりさんもそれに同調したので嘘では無いらしく困惑する。そして、自称好敵手はあれだけ好き放題言ったのにまだ登録も済ませていない新人未満。猫科二匹はそんな青年を見て嘲笑う。大声で騒ぎすぎて何時ぞやの男性職員さんに怒られる事にときめきながら、青年はやはりこの世界は理不尽であると再認識するのであった。

 そろそろ慣れても良い頃合いだが、やはりこの青年にはまだまだ救いはない様だ。残念だったね。

 

 その日、自称好敵手と木こりさんに教えられた狩場で早速と、何時もの様に狩猟を繰り広げていると一つの事件が起こった。冒険者としての仕事に慣れて来た頃に良くある奴と言えば定番だが、実際にやられると理不尽極まりの無いちょっとした油断からの不意打ち。今回そんな理不尽の被害者に選ばれたのは、なんと転生者の青年ではなく猫耳の獣人少女の方。今回の出だしは一味違う。

 目の前の獲物を倒して喜んだほんの一瞬を狙われた、その事態に気が付いていたのは最悪な事に直立猫だけであった。

 

「あぶねぇ!! 猫の姐さんの方に敵が来てやすぜ、アニキぃ!!」

「っ!? マジだ、前に飛べ!! そのあとは何とかする!!」

 

 声掛けをされた猫耳少女は言われた通りに前方跳躍、からの前転で華麗に着地して見せたが襲い掛かってきた相手は更に追撃の姿勢を見せる。それは、人の身の丈よりも高さのある体躯を持った立派な猪の魔物であった。頑強だが動きが単調なのでこの狩場の主な狩猟目標ではあるが、不意打ちを仕掛けてくる様な性質があるとは聞いていない。言われなかっただけなのかこれが異常事態なのかはわからんが、とにかく青年はとっさに魔物と猫耳少女の間に滑り込む。

 そんな青年に、魔物は高々と前足を振り上げてから体ごと押しつぶさんとのしかかって来た。

 

「な、なんとかなれぇ!! 『リベンジ・アブダクター』ッ!!」

 

 青年に出来る事と言えば特殊技能頼り。某ちいさくて可愛い生き物みたいな事を言いながら庇いだてした青年は、迫り来る巨体を手にした杖で張り倒して見せる。ばちこーんと見事なまでに最適化された動きでもって殴打されて、まるでそうなる事が当然とばかりに巨体が慣性も何もかも無視して横倒しになって飛んで行く。無論、全てが青年の意思とは別に行われた、自動反撃の技能の効果である。

 助けた方も助けられた方も、思わず呆然とするほどの現実味の無い光景であった。はしゃいでいるのは目撃した直立猫ばかりである。

 

「やりやしたねぇ、アニキぃ!! 相変わらずの見事なチート頼りっぷりでゲすね!!」

「やかましいわ!! ある物を頼って何が悪い!! むしろこれ一本で飯食ってんだよ、こっちは!!」

 

 言い得て妙とはこの事か。貰った物でも力は力。有用であれば使う事自体は何も問題は無い。開き直って見せればいっそ清々しいとすら言えるだろう。情けなさに目を瞑れば、だが。

 そんな事は青年自身が一番解っているので誇りはしない。しかして、危ない場面を救えたのは確かに特殊技能あっての事には違いないので、感謝しつつも青年は猫耳少女に手を伸ばした。

 

「大丈夫だったか? 油断するなんて珍しかったな」

「あ……。ありがとう……。今回は流石に助かったよ」

「まあ、これもチートの力ありきの――ん? おい、お前語尾はどうした?」

「……………………にゃ」

 

 青年は訝しんだ。何時もなら猫耳少女は必ず、取ってつけた様にだが猫っぽい語尾を付けていたはず。今回それも無く素直に話していたもんだから、青年は気になって思わず問い掛けてしまった。言われた方は気まずそうに口を抑えてしまっている。何とか絞り出した語尾が、いつもより余計にわざとらしい。

 えっ、なにこれ、もしかして地雷踏んだ? 青年は微妙になった空気に思わず心中が総毛立った。

 

「青年、異世界人とお見受けした。ならば、今の一言は非常に悪手でした。せっかく生えかけた旗がぽっきり折れたことでしょう。それではさようなら」

「木こりさん!? なに、えっ!? 旗!? 旗が折れたって何の事!? って言うか何故狩場に!?」

 

 きっと冒険者登録したからだろう。まさかり担いでえっちらおっちらと、木こりさんは何時もの様に言うだけ言って立ち去って行った。大事な何かが折れる音を聞いて、言わずには居れなかったのかも知れない。ありがとう、親切な木こりさん。不意打ちに気を付けて。

 青年が気を取り直して、更に踏み込むべきか逡巡しているとちょっと待ったとばかりに状況は推移した。いち早く察知した直立猫が叫ぶ。

 

「アニキぃ、やべぇですよ大群が迫ってきてやす!! モンスタートレインってやつでゲすよ!!」

「はぁ!? じゃあ今襲ってきたのもその一部――うん? なんだありゃ、電車みたいに一列に……って、モンスタートレインってそう言うんじゃねぇだろ!?」

 

 この世界ではそう言うのかもしれない。そして、迫ってきている物こそが現実だ。お行儀良く一列で突っ込んでくる猪の大群に対して、青年はあらん限りに声で抗議したがそれで霧散はしなかった。

 であれば何をするべきか。その判断は猫科二人の方が早かった。ささっと二人そろって青年の背後に隠れたのだ。有体に言えば肉盾である。

 

「おっ、お前ら人の心とかないのか!? チックショー!! やってやんよ、この野郎!!」

「ゲヘヘ、頼りにしてますぜアニキぃ。チートパワーで無双してくだせぇよ、ゲェッヘッヘッ!!」

「これは盾にしてる訳じゃない。……にゃ。ここがたまたま一番安全だっただけ。にゃ」

 

 それってつまり盾にしてますよね。青年の心は深く傷ついた。自動反撃と言えども精神までは守り切れない。だって物理現象じゃないから。

 求められるままに次々と襲い掛かって来る猪達を自動的に動く体に任せてぶっ飛ばしながら、青年はもう半場やけくそになって迫り来る恐怖に抗うために声を張り上げていた。もちろんそんな事をしなくても敵は自動的に倒せるが、怖い物は怖いしなによりそうでもしてないとやり切れない。仲間が求めているのは、どう考えても便利な力を持った青年であるのが明白だったから。

 

 仲間って何だっけ? そもそもなんで自分はこいつらと居るのだろう。そんな事を考えつつも青年は自動で無双し続けていた。

 そして、場面は唐突に数刻後に転換する。

 

「あー……、なんか今日はいろんな意味で疲れたなぁ……。盾にされるとか仲間の扱いじゃないだろ、いや、無事だったけどさ……」

 

 敵が来なくなるまで暴れっぱなしだった青年は、今は拠点にしている街まで戻ってきていた。無双の結果沢山の獲物を狩る事が出来たのは良いが、後に待っていたのは地味で過酷で大量な解体作業である。電子遊戯の様にパッと素材に早変わりなどと言う訳にも行かない。只管に地味ーな手作業で売ったら高い部分を剥ぎ取ったり、大量の荷物を運んだりとで重労働だったのだ。

 青年は周囲の警戒をしつつ見ていただけだったが、匂いやらなんやら生々しさで見ているだけで吐きそうになっていた。こればかりは何時まで経っても慣れない様だ。

 

「あいつらはほんと元気だよな……。畜生の方は肝やら肉やら牙やらが高く売れるって喜んでたし。猫娘の方はあの見た目でめっちゃ大荷物運んでたし。正直付いて行けないよ……」

 

 そんな精神的に疲労した青年は、今はとぼとぼと待ち合わせ場所の行きつけの酒場に向かっていた。解体作業の後に適当に水だけ浴びて依頼の報告と納品を済ませた後に、皆一緒に公衆浴場へと赴き汚れを落としていたのだ。烏の行水だった直立猫と違い、風呂が長い青年は何時も最後になるので一人で向かうのが当たり前だった。だからこそ、一人で居るといろいろな考えが浮かんで来る。

 それでも、どうしてあいつ等を仲間にしているのか、などと言う事が今の悩みだ。

 

「ま、一人であの量を剥ぎ取りしなくて良いのは正直助かる。あれのおかげでこうして風呂にも入れるわけだし、本当にありがたいのは確かだよな」

 

 わざわざ一人ごとにするのは自分に言い聞かせる為かもしれない。それでも、青年はあえて口にする事で考えをまとめる為の導線にしていた。出会いは確かに最悪だったし、性格はゲス畜生と頭狩人なのもいただけない。それでもあえて一緒に居る理由が何かと言えば、青年には一つしか思いつかなかった。

 

「ああ、孤独じゃないってのが、一番有難いんだろうな……」

 

 つまりは、それだけの話なのだろう。仲間と言うのはそれだけで良いのかもしれない。少なくともその一点だけは感謝しても良いと、青年は風呂上がりの火照った体に夜風を感じながらしみじみと思っていた。

 そう結論付けた青年は、仲間達が待っているだろう待ち合わせ場所に急いだ。今日は疲れたから二人ともお腹を空かせているだろう。待たせていたら申し訳ないと思って。

 

「ゲエッハッハッハッ!! 酒だ酒だぁ、ジャンジャン持ってこーい!! 金ならアニキが幾らでも稼いでくださるからなぁ!! 転生者さまさまだぜぇ!! ゲヒャハハハハハ!!」

「今日は危なかった。……にゃ。これからは、もっと気を引き締めないと――あ、これ美味しい。にゃ」

「うん、まあ、待ってる訳ねぇよなこいつらが……」

 

 知ってた。待ち合わせ場所に着いた青年が見た光景は、有り余る財力でお大臣する直立猫畜生と山盛りの飯を次から次に注文している猫耳少女の姿であった。酒場の入口からそれを見せつけられて、ここに入って行くの嫌だなぁと思った青年は思わず扉の陰に隠れてしまう。

 確かに報酬は山分けにしたし、借りてたお金も返したけれど。それをどう使おうが個人の自由だけれども、大変だった分たがが外れるのも良くわかる。でも、少しくらい待っててくれても良いんじゃないかなぁ? 青年は騒がしい酒場の中の様子を見ながらげんなりしていた。

 そして青年はしみじみと思う。こいつらで本当に良いのだろうかと。

 

 行くも地獄、戻るも地獄。立ち止まっても地獄の最中で益体も無し。青年の異世界生活は憧れていた物とは程遠く、しかして退屈と孤独だけとは無縁なのだろう。それが幸せなのかは、御覧の有様である。

 きっとこれからも、青年の異世界生活は理不尽と共に。くじけるにはまだ早い。




とりあえず目標のUA三桁には到達したので、後はのんびり不定期に更新していきます
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