前回のあらすじ。人手不足解消の為に新入りを募集したらやべーのが来た。以上!!
「他にも持ち運んで欲しい荷物などがあれば言ってくださいね。こう見えても力持ちですし、このリュックにも見た目以上に物が入りますから、ご遠慮無く」
「アッハイ……。アリガトウゴザイマス……」
結論から言えば、人手不足解消の為に募集した結果なし崩しで参加した新人さんはとても朗らかな人だった。人当たりも良くて優しく、それでいて気遣いも出来る上に生き物が大好きな優しい人。せっかくだからと徒党を組んだその後に、こうして狩場に向かう道すがらも気遣いを忘れない。端的に言えば良い人だろう。そんな印象を会話から得ていた青年だったが、どうしても強烈過ぎる第一印象が拭えなかった。
どうしても……、どうしても見た目が何人か始末してる系の殺人鬼にしか見えなかったのだ。
「……防疫の為にそんな恰好をしているのは解ったけど、左手のそれは噴霧器か……?」
「ええ、これは薬品噴霧器です。よくご存じでしたね。消毒にも中和にも、それから咄嗟の迎撃にも使える頼もしい器具なんですよ」
真っ赤な防水外套に防毒面。右手にでかい刃物に左手に噴霧器と来て、某血に由来するゲームの狩人みたいと青年は現実逃避していた。未知の啓蒙で脳に何かが開きそうだ。
そんな新入りさんの趣味は、実益を兼ねた解剖らしい。なんでも生き物が大好きなのだそうで、生物学的な好奇心のままに余す所無く調べ尽くすのが楽しいのだそうだ。
ふふっ、怖い。青年だけでなく、猫科二匹もすすすすっと距離を離すぐらいには怖い趣味である。青年だって出来れば隣は歩きたくは無い。
「あはは、こんな見た目と趣味ですから前の徒党でも怖がられてしまいまして。ですが、こうして拾っていただけた以上は、しっかりと貢献させてもらおうと思っていますよ」
「アッハイ……。ソウッスネー……」
どうやら本人にも自覚はある様だ。外套が元々赤黒い革製だからか、何もしてないのに血塗れに見えるのが追放された理由なのだろう。その気持ちは青年にも痛いほど解る。だが、本人の資質と関係ない所で理不尽な目に合う気持ちも同時に分かるので、なんとも無下にはし難いと言うのが青年の現状である。
猫科二匹は分からんが、青年から見ると背が低く見えるのも圧力を緩和させてくれていた。だからなんとか話せていると言っても過言ではない。
「あー……、草走りと鉱人――体の小さめな種族同士のハーフなんだっけ。それなのに俺より力持ちなのは、なんと言うか不思議な気分だな……」
「いやぁ、幸い良い所ばかり受け継げたので重宝していますよ。体が小さい方が解体の仕事もしやすいですからね。こう見えて持久力もそれなりにあるんですよ」
猫科二匹がすっかり大人しくなってしまっているので、必然的に青年が話す係になってしまっている。だが、青年は話せば話す程人は見かけに依らないと、改めてしみじみと思わされていた。この新入りさんは、見た目以外は本当に優良物件だと思えていたのだ。
本当に、見た目以外は、この世界に来て二人目のまともな人かも知れない。一人目はもちろん冒険者の施設の男性職員さん。
「まあ、荷物運びだけでもありがたいのに、解体も出来るだなんて濡れ手に粟って奴だよな。俺としては有難いと思ってるから、こちらこそよろしくお願いします。……って感じかな」
「ふふっ、もちろん。こちらとしても、願っても無い徒党だと思っていますよ。ええ、本当に珍しいですよね。冒険者ギルドの受付さんには感謝しないと」
青年にとってはその受付さんの策謀で今の状況になったとしか思えないのだが、新入りさんは上機嫌に防毒面の下でにこにこしている様だ。青年からは丸い窓腰の目元しか見えないが、心底嬉しそうな事だけは良く分かる。目は口程に物を言うとはまさにこれだろう。
どっかの猫科二匹達も、これぐらい目が清んでいれば苦労が減るのになぁと青年は思った。
よくよく考えれば、今までは見た目は良いのに性格がアレなのとばかり過ごしてきていたのだ。じゃあ逆に、見た目が怖いだけで性格が良いなら大当たりの部類に入るのではないだろうか。声は面のせいでくぐもっていて男か女かははっきりしないが、少なくとも猫科ではないと言うのは確定しているのもまた良い。むしろそれが良い。青年の中に新たな境地が目覚めかけていた。これが啓蒙か。
そんな事を考えた瞬間、狩場へと歩いていた道中だと言うのに正面から木こりさんがやって来た。
「青年、異世界人とお見受けした。ならば、稀有なポーターとの出会いは掛け替えの無い物です。今の考えは何も間違ってはいないでしょう。それではさようなら」
「ほんと唐突だなこの人。突然背後に立たれるのも心臓に悪いけど、ゆっくり前から歩いて来られるのもそれはそれできついもんがあるな。こっちはこっちで胃に悪い」
すれ違いざまに言われた青年は、焦りにも似たむず痒さを感じるままに口にする。その言葉には反応することなく、まさかり担いだ木こりさんはえっちらおっちらと街への道へ進んで行った。おかげで青年の腹も決まった様だ。ありがとう、親切な木こりさん。
今までと違い、怖いのを我慢するだけで良いなんて緩い制限ではなかろうか。あれ、これ割と楽勝じゃね? 青年は自身の前途が明るくなったと一人喜んでいた。
「――と、思っていた時期が俺にもありました……」
「アニキぃ……。やべーでゲすよ……。ぜったいやべー奴でゲすよ……」
「首筋がピリピリする。……にゃ。何時かこっちも解体されそう。にゃ」
狩場に着いて、じゃあ四人で組んで初めての依頼を遂行しますかーなんて相成った訳だが――青年は早くも後悔していた。何時も通りの青年を盾にすると言う連携によって、此度の獲物である小鬼と呼ばれる話の通じない亜人を打ち倒す依頼をこなしていたのだが、問題は狩り終わりに起こったのだ。
ちなみに青年はもう、仲間達に盾にされる事については諦めている。勝手に怪我されるよりは大分ましだろうとの判断と諦観だ。
「ふふふっ、本当に沢山獲物が狩れるんですねぇ。ああ、まだ湯気が立っている、美しいなぁ……。ちゃーんと全員綺麗に脱がせてあげますからねー。うふふふふ」
「えっと、俺達周囲の警戒してるから……。ごゆっくり……」
魔物に分類されると言えど人型をしているのには変わらない。それをこうも楽し気に解体されてしまうと、なんというかまあ、青年も猫科の二匹もどん引きだ。どん引きじゃ足りないかもしれない。がん引きだ。
青年にはすでに猫科の猛獣とそれに類する物への恐怖が技能として植え付けられているが、このままだと新しい心的外傷由来の特殊技能が増えそうである。慣れ親しみかつ愛おし気に、丁寧な手つきで仕事をこなす姿を見せられれば、それもまた致し方なかろう。
喜々として手を動かす様は、どこからどう見ても殺人鬼です。本当にありがとうございました。
「はあああ……、本当に良い徒党に入れたなぁ。仕事はたくさんさせてもらえそうだし、ちゃんとお話も聞いてもらえていますし。なによりも、獣人の方達も異世界人の方も本当に珍しくてそそられます……」
荷物持ち改め、解体屋の新入りさんはそんな三人を傍目に見ながらご機嫌だった。何と言っても珍しい種族と言うのが良い。異世界人なんて知的好奇心が疼いて仕方ないのだ。だからこそ、怖がられている様だがこれから少しずつお近づきになって行きたいと思っている。時間が掛かろうとも、じっくりと。
なぜならこの新入りさんは、生き物が大好きで大好きで、知り尽くしたいほど大好きなのだから。
やあやあ、頼もしい仲間が増えた様で幸先も良く、青年の道にも光明が見えたのではなかろうか。とてもそうは見えやしない? いえいえ、こう見えて青年はとても運が良いのです。なにせ、絶対に退屈しない二度目の生を生きているのですから。
望むと望まぬとに関わらず。合掌。