ちるでもわかるさるののさんすうきょうしつ   作:夕立氏

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無知

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「だ、大ちゃんどうしたの?」

 

「早く教えてよチルノちゃん」

 

「えっ、あ、その」

 

「私はチルノちゃんのことが好きだよ。でもずっと頑張って我慢してきたんだよ」

 

「あ、あたいも…大ちゃんのこと好きだけど…うーん…」

 

「『恋じゃない』、でしょ?」

 

「…今日の大ちゃんおかしいよ!?もう家に帰ろうよ!!!」

 

 

 

「チルノちゃんの嘘つき」

 

「何ですって!!?あたいのことを嘘つきって言うなんて今日の大ちゃんほんとどうかしてる!!!大ちゃんのばーか!!」

 

 

 

 

「あはは」

 

「!!?」

 

 

 

 

「馬鹿はチルノちゃんだよ」

 

「はぁ!?あたいは馬鹿じゃないわ!!天才チルノ様に馬鹿って言った方が馬鹿なのよ!!!」

 

「何にも分かってないくせに」

 

「ぜ、全然そんなことないし!!!」

 

「でもチルノちゃんは私がチルノちゃんのことを好きなの知らなかったじゃん」

 

「むぐぐ…とにかくあたいは馬鹿でも嘘つきでもないわ!!!」

 

「あっそう、じゃあ天才チルノちゃんにもう一回聞くね」

 

 

 

「私がチルノちゃんのことを好きな気持ちはどうすれば収まるの?ぶつけていいの?ねぇ」

 

 

 

「あーーー!!!もう訳分かんないよ大ちゃん!!!そんな女の子同士で"コイ"なんて気持ち悪い!!!大ちゃんの馬鹿!!変態!!!死んじゃえ!!!!!」

 

 

 

 

「チルノちゃん」

 

「な、なによ」

 

 

 

「ごめんね」

 

「!?」

 

 

 

「今日はもう帰るね、バイバイ」

 

「えっ、あっ、ちょっと待って…」

 

 

 

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「大ちゃ…」

 

 

どういうことだか足がすくんでちっとも追い掛けられる気がしない。

 

 

 

「今日の大ちゃん変だよ、全然分かんない」

 

 

 

零れた言葉は地面に当たり緩やかに風と流れて行く。

 

 

 

「そこの妖精さん」

 

 

「だっ、誰!?」

 

 

ふと前を向くと全身にもやが掛かってよく見えないが、人のような姿をしたモノが佇んでいた。

 

 

今にも儚く消えてしまいそうだが、その反面強い存在感を放っている不思議な人物である。

 

 

「あ、あたいに何の用?」

 

「これ、欲しい?」

 

 

そう言って、妖しく光る紫色の液体で満たされた、小さくて透明な小瓶が差し出された。

 

 

「な、なによこれ」

 

 

 

「これはね、全知全能の薬だよ」

 

 

「ぜんちぜんのう?」

 

「…何でも分かるようになるってこと」

 

 

 

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「何も分かってないくせに」

 

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脳内を先程言われた言葉がこだまする。

 

 

「…さっさと寄越しなさい」

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

いつの間にか手の中に、小瓶が収まっていた。

 

 

 

「あ、」

 

 

 

ふと顔を上げると、先程の人物は跡形もなく消え、爽やかな風が草原の緑を揺らしている。

 

 

 

 

 

 

 

「これ、貰っちゃった」

 

 

突然の出来事に、手のひらの小瓶を見て思わず呟く。

 

 

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「チルノちゃん、知らない人から物貰っちゃダメだよ?」

 

 

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かつて言われた戒めの言葉が脳裏をよぎるが、振り払うように頭をぶんぶんと振る。

 

 

 

 

 

 

「…じゃあ、飲むよ」

 

 

 

 

氷精は、瓶の蓋に手を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

その後どうなるかも知らずに。


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