コンサル・D・ルフィ~我が社は海賊王になる。海賊王という状態のKPIについて~   作:デバッグ担当大臣

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おきのどくですが

こんさるてぃんぐがいしゃに

のうをやかれてしまいました



上場廃止(デリスティング)

スループ船が停泊する港のひんやりとした石造りの倉庫。

そこには、一味が商船から奪ってきた、略奪品が無秩序に積み上げられていた。

 

「ひぃ、ふぅ……早く整理しないと、また殴られる……」

 

怯えた声を漏らしながら箱を運ぶのは、雑用係の少年コビー。

 

恐怖に震える手でラム酒の樽を引きずろうとした、その時。

バキンッ! と、凄まじい音を立てて樽の頭が内側から弾け飛んだ。

 

「ふぁ……よく寝た。目的地に着いたか。」

 

中から現れたのは、赤いベストを着た一人の少年だった。

麦わら帽子を目深に被り、その奥にある瞳にはすべてを見透かすような冷徹な虚無が宿っている。

 

「ひゃあああっ!? に、人間!?」

 

腰を抜かすコビーを、少年は値踏みするようにじっと見つめた。

そして、少年は感情の起伏を感じさせない平坦な声で静かに言った。

 

「ここはどこだ。」

 

「こ、ここはアルビダ様の倉庫ですっ!……さっき襲撃した商船の荷物の中に紛れ込んでたんですか!?」

 

コビーは狂暴な海賊一味に見つかる恐怖に怯えながら、小声で捲し立てた。

なぜこんな手段を、と問うコビーに対し、ルフィは表情を変えずに樽の破片を踏み越えた。

 

「そうだ。我が社が別の町へ移動する手段を探した結果、この樽が最も投資対効果(ROI)が高かったんだ。それに、樽の中にいたおかげで、質の高いフィールドワークができた。」

 

「ふぃ、ふぃーるどわーく……? というか、普通はまず船を作るか、買うかするものです」

 

「それは悪手だ。」

 

ルフィは懐から取り出した万年筆を指先で器用に回し、淡々と言い放つ。

 

「タイム・トゥ・マーケットの問題だ。」

 

「船を造る時間、あるいは購入する資金を調達するコストは、事業の開始を不必要に遅らせる。我が社が優先すべきは、一刻も早く市場へ参入し、事業を軌道に乗せることだ。最初から大きな資産(アセット)を抱えるのはリスクでしかない。まずは生存可能な最小限の規模で始める。スモールスタートだ。」

 

「あ、あせっと……? な、何ですかその横文字は!?」

 

聞き慣れない未知の言語を叩きつけられ、コビーの脳内処理は完全にパンクしかけていた。

 

「さっきから『あーるおーあい』だの『たいむとぅーまーけっと』だの、ボクの知らない単語で喋るのやめてください!」

 

しかし、ルフィはそんなコビーの困惑を完全にスルーし、ふっと視線を斜め下に落とした。自らの思考を整理するように、ぽつりと呟く。

 

「情報が足りない。現状では、我が社の分析にバイアスがあるかもしれない……。」

 

そして、弾かれたように視線をコビーへと戻す。

その瞳が、獲物を定めたように鋭く光った。

 

「……お前、さっき『早く整理しないとまた殴られる』と言っていたな。」

 

「えっ……? は、はい」

 

「その劣悪な労働環境、および衣服の摩耗具合から推測するに、お前は一次情報を握っているリソースだ。我が社の市場調査に協力しろ。最初の質問だ。あのボスの日頃の経営方針はどうなっている。」

 

ルフィの淀みのない、かつ的確なプロファイリングに、コビーは完全に気圧された。そして、矢継ぎ早に投げかけられる質問に答えるうちに、堰を切ったように自身の現状と、アルビダ一味の過酷な実態を白状していた。

 

ここが残虐非道な女海賊「レディー・アルビダ」のアジトであること。

降伏した商船の乗組員を全員海に沈めて船ごと燃やすような、残虐極まりないやり方で略奪を繰り返していること。

アルビダが自分の容姿を「この海で一番美しい」と言い張り、手下たちを恐怖で支配して過酷な労働を強いていること。そのくせ、命がけで奪った財宝のほとんどを自分の美容費や酒代に使い込んでいること。

自分は二年前、釣りに出かけた先で運悪く海賊船に遭遇し、それ以来、命惜しさに航海術の知識を提供しながら、最底辺の雑用係としてこき使われていること。

海軍基地のある町シェルズタウンに、賞金稼ぎをしている恐ろしい男がいること――。

 

「ボクには逆らう勇気なんてないんです。怖くて、毎日ビクビクしながら生きるしかなくて……」

 

涙を流すコビーを、ルフィは同情も軽蔑もしない無機質な目で見つめていた。

その脳内では、アルビダ一味という組織の問題点が完全に弾き出されていた。

 

「今のお前の証言は、樽の中での調査を踏まえると、整合性があり、裏どりがとれたと言える。恐怖によるトップダウン経営か。短期的には統制が利くが、従業員のエンゲージメントは最低で生産性が低い。その上、商船を皆殺しにする略奪は持続可能性(サステナビリティ)が皆無だ。全く合理的ではない。我が社にとっては完全な不良債権だな。」

 

「え……? あの、さっきから我が社とか市場調査とか言ってますけど……ルフィさんは一体、何のために海へ出たんですか? 」

 

コビーの至極真っ当な疑問に対し、ルフィは麦わら帽子の位置を直すと、倉庫の天井を、あるいはその先にある広大な海を見据えるように、淡々と言った。

 

「目的か。我が社の中長期的な経営ビジョンは、すでに策定済みだ。――我が社は海賊王になる。」

 

「えええっ!? か、海賊王って……この大航海時代の頂点、富と名声のすべてを手に入れるという意味ですか!?」

 

コビーの常識的な返しに対し、ルフィは表情一つ変えずに首を振った。

 

「そうだ。だが、富と名声という抽象的な定性目標ではない。」

 

「海賊王という状態を重要業績評価指標(KPI)で定義するなら、世界政府から付与される『懸賞金(クレジット)』、海域における『傘下組織の構成員数(トラックレコード)』、そしてコア業務を内製化するための『仲間の数(ガバナンス)』の3つだ。」

 

「これらを掛け合わせた数値を最大化させ、最終的にひとつなぎの大秘宝を手にする。」

 

「ええええっ!? な、何ですかその難しい計算は!? というか無理です無理です! 絶対に無理です! 死ぬに決まってます!」

 

絶叫し、ガタガタと震えるコビー。

しかし、ルフィの瞳の奥にある「虚無」は微塵も揺らがなかった。

少年は自身の死すらも、すでに事業計画に織り込み済みであるかのように、静かに言い放った。

 

「我が社がなるって決めたんだから、そのために戦って死ぬなら、それでいい。」

 

「死ぬなら、それでいい……?」

 

コビーは息を呑んだ。

目の前の少年は、決して狂気で命を軽んじているわけではない。

最悪の結末すらも完璧に計算し、その上で完全に腹を括っているのだ。

 

「それに比べて、お前の現在の契約(ポジション)はどうだ。」

 

ルフィの無機質な視線が、コビーをまっすぐに見つめる。

 

「命惜しさに選択肢を狭め、不当な労働環境で生き延びることだけを選んできた。だが、リスクヘッジの観点から言えば、その戦略は長期的にはマイナスだ。お前はただ今死なないという目先のリターンのために、時間という最大の有限資産をアルビダに投資し続けている。このままここで雑用を続けたとして、10年後のお前に蓄積されるスキルは何だ?」

 

「え……? ぼ、ボクの、スキル……?」

 

「アルビダの顔色を伺うスキルだけだ。リターンが見込めない投資に、自分の人生という貴重なリソースを割き続ける必要はないはずだ。」

 

ルフィは万年筆の先で、コビーの胸元をトン、と叩いた。

 

「最悪の結末を恐れて何にも投資しないこと自体が、実は一番の損失だ。お前が本当にやりたい夢は何なんだ。」

 

「う、うあ……」

 

コビーの目から、大粒の涙が溢れ出た。

恐怖からではない。ルフィの淡々とした、しかし自分の将来を真剣に計算してくれた上での正論に、胸を突かれたからだ。

命が惜しくて逃げていた。でも、ただ消費されるだけの毎日に、自分自身が一番納得いっていなかったのだ。

ガタガタと震えていた膝が、ピタリと止まる。

コビーは涙を拳で拭うと、生まれて初めて、自分の意志で顔を上げた。

 

「ボクも……! ボクも死ぬ気で海軍に入ってみせます! 雑用なんかじゃなく、海軍将校になって、悪い奴らを取り締まるんだ!」

 

自分の言葉でビジョンを掲げたコビー。

ルフィはその様子を見て、満足そうにわずかに目を細めた。

 

「海軍か。いいキャリアプランだ。お前の持つ航海術というスキルなら、市場価値は十分に――」

 

ドゴォン!!

 

激しい爆音とともに、石造りの倉庫の頑丈な扉が、跡形もなく吹き飛んだ。

爆風とともに砂煙が舞い込み、巨大な影が立ちはだかる。

 

「誰を捕まえるってぇ!!?コビー!!!」

 

地響きのような怒声を上げたのは、巨大な鉄の金棒を肩に担いだ巨漢の女。

一味の最高権力者、レディー・アルビダだった。

その後ろには、抜刀した手下たちがギラついた目を光らせて控えている。

 

アルビダは憤怒に顔を歪めながら、コビーに金棒を突きつけた。

 

「コビー! この海で一番美しいものは何だい?」

 

いつもなら恐怖で命乞いをするように「アルビダ様です」と言っていた。

コビーの身体が、条件反射のようにガタガタと震え出す。

 

その時、ルフィが二人の間に平然と割り込み、アルビダを見つめて淡々と言い放った。

 

「コビー。なぜそんな市場価値の低い経営者の無駄な承認欲求を満たすために、お前の貴重な労働力を搾取させているんだ? 海軍に突き出すと言ったんだろう。早く損切りしろ。」

 

アルビダは金棒を振り上げたまま、一瞬、完全にフリーズした。

怒りよりも先に、あまりにも聞き慣れない冷酷な単語の羅列に脳の処理が追いつかない。

 

「な、何をわけのわからないことを……!?」

 

アルビダの顔が、屈辱と混乱で引きつる。

彼女が求めていたのは、自分の「美」に対する絶対的な服従。

あるいは、その美貌に恐れおののく男たちの悲鳴だった。

だが、目の前の少年が放つ視線には、恐怖も、見惚れる色欲も、欠片ほども存在しない。

 

「あんた……アタシの、この眩いばかりの『美しさ』に対して、一言もないのかい……!?」

 

「お前の容姿が、我が社の事業計画に及ぼす影響はゼロだ。」

 

ルフィは懐から取り出した海図に視線を落としたまま、感情の起伏が一切ない平坦な声で言い切った。

 

「ルックスという不確実な要素は、定量的な評価軸になり得ない。ただの自己満足に過ぎないコストだ。無駄な会話は時間を浪費する。」

 

「む、無駄……ッ!!! アタシの美貌が、ただの無駄だって言うのかい……ッ!?」

 

アルビダのプライドが、音を立てて崩壊していく。

 

「お、おのれぇ……ッ!!」

 

アルビダはガタガタと震え、屈辱のあまり本当に目尻に涙を浮かべながら、怒髪天を突いて鉄の金棒を狂ったように振り回した。

 

「この……ッ! 誰でも分かる当たり前のことを、わざわざ難しく並べ立てて偉そうに講釈垂れてんじゃねェーーーッ!!! 死に晒せ!!」

 

怒髪天を突いたアルビダが、その巨大な質量を乗せて鉄の金棒を容赦なく振り下ろした。

まともに喰らえば骨ごと肉塊に変わる一撃。

コビーが恐怖に目を瞑った瞬間、凄まじい破壊音が倉庫内に轟いた。

 

――だが、肉が潰れる音はしなかった。

 

「想定以下の出力(パフォーマンス)だな。」

 

ルフィは平然と立っていた。

脳天を直撃したはずの金棒は、少年の頭部を深く沈み込ませているだけで、血の一滴すら流させていない。

 

「な……!? 金棒が、めり込んで……!?」

 

アルビダの手下たちが驚愕の声を上げる。

ルフィは自身の悪魔の実によって得たゴムの肉体という既得権益を誇示するように、沈んだ頭部を限界まで引き絞り、凄まじい勢いで弾き返した。

その反動だけで、アルビダの巨体がズシンと数歩後退する。

 

「な、なんだお前は! 化け物か!?」

 

「今ので、我が社の競合優位性 (コア・コンピタンス)が分かっただろう。」

 

ルフィは平然と言い放つと、アルビダを無視し、背後に控える手下たちへと視線を移した。

 

「アルビダ一味の構成員諸君。現在の労働環境に満足しているか。お前たちが命をかけてリスクを負い、略奪した財宝の大部分は、アルビダ個人の美容費と酒代という無駄なコストに消えている。それで満足しているのか。」

 

感情を排したルフィの正論が、手下たちの胸に突き刺さる。

倉庫内に動揺が広がった。

 

「今ここでアルビダを切り、我が社に参画するなら、現行の二倍の報酬で雇ってやる。賛同する者は、武器を床に置け。」

 

海賊たちは顔を見合わせ、じりじりと後ろに下がった。

アルビダを援護する動きを、完全に止めたのだ。

しかし、彼らは武器を落としはしなかった。

海賊たちはなおもぎらついた目でルフィを睨みつけている。

 

「アタシの目の前で手下を寝返らせるなんて真似を……っ!!」

 

屈辱と怒りで顔を真っ赤に染めたアルビダが、再び鉄の金棒を狂ったように振り回した。

 

「そんな戯言を信じる奴がいるかィ!」

 

風を切る凄まじい音が倉庫内に鳴り響き、

アルビダの全力を乗せた金棒が、ルフィの側頭部へ向かって横一線に奔る。

 

だが、ルフィは避ける仕草すら見せなかった。

 

「交渉決裂か。ならば、まずは経営陣の刷新から始める。」

 

ルフィはあらかじめ後方へ極限まで伸ばしていた右腕を、一気に解放した。

 

「『ゴムゴムの』――」

 

アルビダの金棒がルフィの頭部に触れる寸前、音速を超えたルフィの拳が、彼女の顔面の正中線へと容赦なく突き刺さった。

 

「――『追放(デリスティング) 』」

 

ドゴォン!!!

 

凄まじい衝撃波が走り、アルビダの巨躯は鉄の金棒もろとも、倉庫の分厚い石壁を粉砕しながら遙か彼方の洋上へと文字通り吹き飛んでいった。

崩落した壁の隙間から、朝の鋭い光が差し込み、ルフィの冷徹な横顔を照らし出す。

 

ルフィは右腕を引き戻すと、愕然と立ち尽くす手下たちを再び見据えた。

 

「これでお前たちの不良債権は消滅したはずだ。もう一度聞く。我が社に参画するか、選べ。」

 

静寂が倉庫を支配した。

差し込む朝光の中で、手下たちは粉砕された壁と、ルフィの底知れない瞳を交互に見つめた。

そして、一斉に武器を放り出して蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

数十分後。ルフィとコビーは、港に係留されていた一味の小型帆船に乗り込み、出航の準備をしていた。

 

「ルフィさん。結局、誰もついてきませんでしたね……。あんなに良い条件で誘ったのに、みんな逃げちゃいましたよ」

 

操舵を任されたコビーは、未だに緊張の抜けない声で、水平線を見つめながら言った。

対するルフィは、甲板に腰掛け、さも当然かのように首を振った。

 

「それはそうだろう。どこの馬の骨とも知れない人間に『給料を二倍にするからついてこい』と言われて、はいそうですかと命を預けられるか。」

 

「えっ……。分かっていて、あの提案をしたんですか?」

 

驚いて振り返るコビーの前で、ルフィは無機質な瞳のまま淡々と言い放った。

 

「今の我が社にはまだ、KPIである『懸賞金(クレジット)』も『傘下組織の構成員数(トラックレコード)』も、実体としての『仲間の数(ガバナンス)』も全く足りていない。認知度の低いスタートアップ企業が、破格の条件だけで人材を確保しようとしても、警戒されるのが落ちだ。今回のスカウトは、無駄な戦闘を回避するためだけのものだ。」

 

ルフィは万年筆を収めて懐から海図を取り出すと、それを冷徹な目で見つめながら指先である地点を叩いた。

 

「まずは早急に我が社の実績を作る必要がある。コビー、海軍基地のある町へ向かう。そこにいる独裁的な海軍を排除し、我が社の初成果とする。ついでに、そこにいる最高執行責任者(COO)候補の引き抜き(ヘッドハンティング)だ。 」




KPI(現在値/ 目標値)
懸賞金(クレジット):(0 / 3000万ベリー)
傘下組織の構成員数(トラックレコード):(1 / 56人)
仲間の数(ガバナンス)(0 / 4人)
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