コンサル・D・ルフィ~我が社は海賊王になる。海賊王という状態のKPIについて~   作:デバッグ担当大臣

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おきのどくですが

こんさるてぃんぐがいしゃに

のうをやかれてしまいました



上場廃止(デリスティング)

 

 

スループ船が停泊する港の、ひんやりとした石造りの倉庫。

奪った品々が、無秩序に積み上げられている。

 

「ひぃ、ふぅ……早く整理しないと、また殴られる……」

 

怯えながら箱を運ぶのは、雑用係の少年コビー。

震える手でラム酒の樽を引きずろうとした、その時。

バキンッ!と、樽の蓋が内側から弾け飛んだ。

 

「ふぁ……よく寝た。目的地に着いたか。」

 

中から現れたのは、赤いベストに麦わら帽子の少年だった。

麦わら帽子を目深に被り、その奥の瞳がどんな色をしているのか、コビーの位置からはよく見えない。

 

「ひゃあああっ!? に、人間!? な、なんで樽から……!」

 

「我が社が別の町へ移動する手段を検討した結果、この樽が最も投資対効果(ROI)が高かった。それに、樽の中にいたおかげで、質の高いフィールドワークができた。」

 

「ろ、ろい……? ふ、普通はまず船を作るか、買うかするものです!」

 

「それは悪手だ。タイム・トゥ・マーケットの問題だ。船の建造も購入も、市場参入を遅らせる重い資産(アセット)でしかない。まずは生存可能な最小規模で始める。スモールスタートだ。」

 

コビーは指を折って数えた。知らない言葉が、この短時間で四つ。

 

「さっきから、ボクの知らない単語で喋るのはやめてくださいっ!」

 

しかし少年は取り合わず、万年筆の尻で、トン、トン、と掌を叩き始めた。

そして、その先端が、ぴたりとコビーを指す。

 

「……お前、さっき『また殴られる』と言っていたな。その労働環境と衣服の摩耗具合。お前は一次情報を握っている。我が社の市場調査に協力しろ。組織の経営方針はどうなっている。」

 

言葉の半分は分からない。

それなのに、聞かれていることだけは、なぜか正確に分かる。

コビーは、矢継ぎ早の質問に答えるうちに、堰を切ったように吐露していた。

 

ここが残虐な女海賊「レディー・アルビダ」のアジトであること。

アルビダは自分を「この海で一番美しい」と言い張り、手下を恐怖で支配し、奪った財宝のほとんどを自分の美容費と酒代に使い込んでいること。

自分は二年前に攫われて以来、命惜しさに航海術を提供しながら、最底辺の雑用係としてこき使われていること。

そして、海軍基地の町シェルズタウンに、賞金稼ぎをしている恐ろしい男がいること――。

 

「ボクには逆らう勇気なんてないんです。怖くて、毎日ビクビク生きるしかなくて……」

 

涙を流すコビーを、少年は慰めもせず、笑いもせず、ただ見つめていた。

 

「恐怖によるトップダウン経営か。従業員のエンゲージメントは最低、持続可能性(サステナビリティ)も皆無。我が社にとっては完全な不良債権だな。」

 

「え……? さっきから『我が社』って……あなたは一体、何のために海へ出たんですか?」

 

ルフィは麦わら帽子の位置を直すと、倉庫の天井を――あるいはその先にある何かを――見上げた。

 

「我が社は、海賊王になる。」

 

「えええっ!? か、海賊王って……この大航海時代の頂点、富と名声のすべてを手に入れるという意味ですか!?」

 

「違う。そんな抽象的な定性目標ではない。海賊王を重要業績評価指標(KPI)で定義するなら、世界政府がその脅威をいくらと値付けしたかを示す『懸賞金(クレジット)』、看板の下に集う『傘下組織の数(トラックレコード)』、コア業務を内製化する『仲間の数(ガバナンス)』。この3つの積を最大化し、最終的にひとつなぎの大秘宝を手にする。」

 

「いやいや、無理です無理です! 死ぬに決まってます!」

 

「我が社がなるって決めたんだから、そのために戦って死ぬなら、それでいい。」

 

「死ぬなら、それでいい……?」

 

コビーは息を呑んだ。

強がりでも、やけっぱちでもない。

この人は、自分が死ぬ場合のことまで、もう考え終わっているのだ。

 

「それに比べて、お前はどうだ。」

 

掌を叩く音が、ふつりと止んだ。

 

「お前は『今死なない』という目先のリターンのために、時間という最大の有限資産をアルビダに投資し続けている。10年後のお前に蓄積されるスキルは何だ? アルビダの顔色をうかがうスキルだけだ。」

 

ルフィは万年筆の先で、コビーの胸元をトン、と叩いた。

 

「最悪を恐れて何にも投資しないこと自体が、一番の損失だ。――お前が本当にやりたい夢は何なんだ。」

 

「う、うあ……」

 

コビーの目から、大粒の涙が溢れた。

誰一人考えたことのない「コビーの10年後」を、考えてくれた。

ガタガタと震えていた膝が、止まる。

コビーは涙を拳で拭い、生まれて初めて、自分の意志で顔を上げた。

 

「ボクも……! ボクも死ぬ気で海軍に入ってみせます! 海軍将校になって、悪い奴らを取り締まるんだ!」

 

「海軍か。いいキャリアプランだ。お前の航海術なら市場価値は十分に――」

 

ドゴォン!!

 

倉庫の頑丈な扉が、跡形もなく吹き飛んだ。

砂煙の中、鉄の金棒を担いだ巨漢の女――レディー・アルビダが立ちはだかる。後ろには抜刀した手下たち。

 

「誰を捕まえるってぇ!? コビー!! ――この海で一番美しいものは、何だい?」

 

いつもの、あの質問。コビーの身体が条件反射で震え出す。

その時、ルフィが二人の間に平然と割り込んだ。

 

「コビー。そんな市場価値の低い経営者の承認欲求を満たすために、貴重な労働力を搾取させるな。海軍に入るんだろう。早く損切りしろ。」

 

「な、何をわけのわからないことを……!?」

 

アルビダは金棒を振り上げたまま、少年の顔をまじまじと覗き込んだ。

悲鳴もない。命乞いもない。青ざめもしなければ、見惚れもしない。

 

「あんた……アタシの、この眩いばかりの『美しさ』に対して、一言もないのかい……!?」

 

「お前の容姿が、我が社の事業計画に及ぼす影響はゼロだ。無駄な会話は時間の浪費だ。」

 

「む、無駄……ッ!! この……誰でも分かる当たり前のことを、わざわざ難しく並べ立てて偉そうに講釈垂れてんじゃねェーーーッ!! 死に晒せ!!」

 

屈辱に目尻を濡らしたアルビダが、全体重を乗せて金棒を振り下ろした。

コビーが目を瞑った瞬間、凄まじい破壊音が倉庫に轟く。

 

――だが、肉が潰れる音はしなかった。

 

「想定以下の出力(パフォーマンス)だな。」

 

ルフィは平然と立っていた。脳天を直撃した金棒は、ゴムのように沈み込んだ頭部に受け止められ、血の一滴も流せていない。

沈んだ頭部が、凄まじい勢いで金棒を弾き返す。反動でアルビダの巨体が数歩後退した。

 

「ば、化け物か!?」

「今ので、我が社の競合優位性(コア・コンピタンス)は理解できただろう。」

 

ルフィがアルビダへと視線を戻すと、屈辱に震える彼女の目に、憎悪の炎が燃え上がった。

 

「よくも、この美しいアタシの顔に泥を塗ってくれたな……ッ!! 死に晒せッ!!」

 

アルビダの全力の一撃が、ルフィの側頭部へ横一線に奔る。

ルフィは避けなかった。あらかじめ後方へ極限まで伸ばしていた右腕を、一気に解放する。

 

「『ゴムゴムの』――」

 

金棒が触れる寸前、音速を超えた拳が、アルビダの顔面へ突き刺さった。

 

「――『追放(デリスティング)』」

 

ドゴォン!!!

 

アルビダの巨躯は金棒もろとも石壁を粉砕し、遙か彼方の洋上へと吹き飛んでいった。

崩れた壁から朝の光が差し込み、逃げ惑う手下たちの背中を照らしていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

数十分後。

ルフィとコビーは、一味の小型帆船で出航の準備をしていた。

 

「まずは我が社の実績作りだ。コビー、海軍基地の町へ向かう。ついでに、そこにいる最高執行責任者(COO)候補を引き抜く(ヘッドハンティング)。」

 

「へっどはんてぃんぐ……えっと、首を狩る……? ひぃっ、物騒すぎます!」

 

「違う。人材のスカウトだ。」

 

「だったら最初からそう言ってくださいよ!!」

 

コビーの叫びは、朝の海風にさらわれて、青い水平線の彼方へと消えていった。




KPI(現在値/ 目標値)
懸賞金(クレジット):(0 / 3000万ベリー)
傘下組織の構成員数(トラックレコード):(1 / 56人)
仲間の数(ガバナンス):(0 / 4人)
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