コンサル・D・ルフィ~我が社は海賊王になる。海賊王という状態のKPIについて~   作:デバッグ担当大臣

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構造改革(リオーガニゼーション)

 

巨大な石造りの門がそびえ立つ、海軍支部基地の正面。

ルフィは足を止めると、隣に立つ少年へと向き直った。

旅情や余韻に浸る隙を1ミリも与えない、極めて事務的な声が響く。

 

「コビー。お前との共同事業(ジョイントベンチャー)はここで終了だ。これを受け取ってほしい。」

 

ルフィが懐から取り出し、コビーの手の中に握らせたのは、ずっしりと重い革の袋だった。

 

「えっ!? お、お金……ですか!? でも、僕は何も……」

 

「それは違う。これは正当な対価だ。」

 

ルフィは感情の起伏が一切ない平坦な声で淡々と言い放つ。

 

「お前のスキルがなければ、この島への迅速な市場参入(マーケット・エントリー)は不可能だった。成果に対して、適切な報酬(インセンティブ)を支払うのは義務だ。それに、君は海軍志望だろう。我が社とこれ以上行動を共にすることは、不要な不確実性(リスク)を抱えることになる。ここで別れるのが最善の選択だ。」

 

「ルフィさん……。そこまでボクのことを考えてくれて……ありがとうございます!」

 

アルビダの下で搾取され、否定され続けてきたコビーは涙ぐんだ。

しかし、ルフィはその感傷を一切回収することなく、すでに視線を基地の屋上へと移していた。

そこでは、酷暑の中で海兵たちが駆り出され、悪趣味なほど巨大な「一人の男の石像」の建設を強行させられていた。

ルフィは虚無の瞳でその石像を凝視した。

 

「組織の限られた財産と人材(リソース)を私的流用しているか……。」

 

麦わら帽子を目深に被り直すと、ルフィはコビーをその場に残し、道すがら本庁舎から“ある物”を回収すると、目的の男が囚われている海軍基地の広場へと迷いのない足取りで侵入した。

 

 

◇◇◇

 

 

 

カンカンと照りつける太陽の下、ロロノア・ゾロは十字架に縛り付けられたまま、乾いた唇を噛み締めていた。全身の筋肉が悲鳴を上げ、意識の輪郭がジリジリと熱に溶かされていく。

 

「……ずいぶんと資本効率の悪い投資をしているな。」

 

朦朧とする意識の遮蔽を破り、上から硬質で平坦な声が降ってきた。

ゾロが重いまぶたをうっすらと持ち上げると、そこには、底の知れない目で自分を観察している少年が立っていた。

 

「……誰だ、てめぇは……」

 

「我が社はコンサル・D・ルフィ。近い将来、この海のすべての富と名声を独占し、海賊王になる。現在、組織の立ち上げに伴い、優秀な人材(プロフェッショナル)を探している。ロロノア・ゾロをヘッドハンティングしに来た。」

 

「……海賊王だ……?」

 

ゾロは渇いた喉で低く笑った。海賊の頂点という途方もない野望を、この少年はまるで商人かのように、理路整然とした口調で口にしたからだ。

 

「悪いが、お門違いだ。俺はてめぇの仲間になんざならねぇ。海賊の悪名に手を染めて、あいつとの『約束』を汚せるかってんだよ。それにここで一ヶ月耐え抜けば、海軍から解放される」

 

「それがロロノア・ゾロの判断(ロジック)か。……話にならないな。」

 

ルフィは吐き捨てるように、冷ややかに断言した。

 

「トップであるモーガン大佐の独裁的なワンマン経営。組織としての統治体制(ガバナンス)が完全に崩壊している。法令遵守(コンプライアンス)意識が皆無の人間が提示した口頭約束に、どれほどの拘束力があると思っている。」

 

「うるせぇ……! 奴らは海軍だ。一応はな……。守るに決まってんだろ!」

 

まさにその瞬間だった。

 

広場の頑丈な扉が、バゴォン! と凄まじい音を立てて乱暴に押し開けられた。

現れたのは、右腕に巨大な斧を嵌め込んだ巨漢――モーガン大佐。

その後ろには、銃を構えた大勢の海兵たちが隙間なく控えている。

モーガンはぎらつく斧の刃をルフィへと向け、残虐に言い放った。

 

「敷地内にネズミが紛れ込んだ。侵入者もろとも、その賞金稼ぎを今すぐ処刑しろ! 撃て!」

 

周囲の海兵たちが一斉に引き金に指をかける。ゾロは頭を殴られたような衝撃を受け、歯噛みした。

ルフィは銃口の列に囲まれながらも、腕を組んだまま、モーガンの顔を真っ直ぐに見据えて静かに口を開いた。

 

「実に見事な、契約不履行(デフォルト)の宣言だな。」

 

ルフィの声は、驚くほど低く、そして凍りつくように冷ややかだった。

 

「ロロノア・ゾロ。今ここで俺と雇用契約(サイン)を結べ。ここから連れ出してやる。『約束』があるんだろう。」

 

ゾロは、不条理に対して引きつった笑いを漏らした。

『約束』は守るために今できることは――。

 

「てめぇの言いたいことは分かった。だが、俺を雇うってなら、それ相応の覚悟を支払ってもらうぞ」

 

「条件か。言ってみろ。」

 

「俺の野望は、世界一の剣豪になることだ。もし、てめぇのせいで、俺がその道を諦めなきゃならねぇような事態になったら――その時は、てめぇが俺にハラキリして詫びろ」

 

普通の人間なら、その圧倒的な殺気に気圧されていただろう。

だが、ルフィは眉一つ動かさず、むしろゾロの要求を歓迎するように、冷徹な瞳の奥に、冷ややかな愉悦を灯らせた。

 

「――いいだろう。我が社のメンバーなら、それくらいの市場価値(ブランド)がなければ困る。ロロノア・ゾロが夢を諦めるほどの状況が生じたならば、我が社の命で担保(コラテラル)する。」

 

 

「……なら、仲間になってやるよ。俺の『約束』、てめぇが代表取締役として、責任持って叶えさせてみろ……ルフィ!」

 

契約成立(ディール・ダン)。我が社の右腕(COO)のその約束、自らの責任においてすべてを引き受ける(フルコミットする)。」

 

「早く殺せ!」

 

モーガンの号令とともに、海兵たちの銃口から一斉に火の手が上がった。

磔にされたゾロの目の前で、ルフィは避ける素振りすら見せず、迫り来る銃弾に向かって自らの胸を大きく突き出した。

だが、鉛の弾丸はルフィの肉体を貫かなかった。彼の皮膚は異常な弾力で伸び、強烈な復元力と共にそのままの速度で海兵たちへと弾き返したのだ。

 

「うわあああっ!」

 

自らの放った弾丸に打たれ、海兵たちが悲鳴を上げて吹き飛ぶ。

 

「悪魔の実の能力者だと……!」

 

モーガンが驚愕に目を見開く中、ルフィは首を真後ろにねじる奇妙な動作でゾロを振り返った。

そして、背中に括り付けていた複数本の刀を、ジャラリとゾロの足元へ無造作に放り出した。

和道一文字を含む、三本の愛刀だ。

 

「どれが、右腕(COO)の刀だ。」

 

「全部だ。俺は三刀流だ」

 

ルフィは刀を縄の結び目に突き立て、一気に引き裂いた。

固く結ばれていた縄がバラバラと地面に落ちる。

自由になった両腕で、ゾロは流れるように三本の刀を引き抜いた。

一本を右手に、一本を左手に、そして白い鞘の刀をしっかりと口に咥える。 

 

「よし。邪魔な競合(ライバル)は、排除(サスペンド)せよ。」

 

「――要するに、目の前のクズどもを全員斬り伏せりゃいいんだな。言われなくても、そのつもりだ!」

 

ゾロの身体が広場を駆け抜ける。

まさに一騎当千の制圧力。凄まじい風切り音とともに三本の刃が奔り、押し寄せる海兵たちの武器を次々と破壊していく。

 

部下たちが紙切れのように散らされていく惨状に、モーガンがその巨躯を突進させた。

右腕の巨大な斧が、ルフィの脳天めがけて真っ直ぐに振り下ろされる。

 

ドゴォン!!!

 

モーガンの全力の斧は、ルフィの脳天へと確かに直撃した。

しかし、少年の頭部は異常な弾力で深く深く沈み込んでいるだけで、血の一滴すら流していなかったのだ。

 

「想定通りの出力だな。お前は個人の肥大化した承認欲求を、組織の公的な運営指針と混同している。従業員を恐怖で縛り、生産性のない巨大石像というプロジェクトに従事させる経営判断は無能の極みだ。」

 

「おのれぇえ……! 自分で組織を動かしたこともないガキが、偉そうに経営を語るんじゃねぇ! 自分で汗もかかねぇくせに、正論並べただけで仕事した気になってんじゃねェーーーッ!!」

 

モーガンが必死に斧を引き抜こうとするが、強力なゴムの復元力によってがっちりと噛み合わされ、びくとも動かない。

ルフィは身動きの取れないモーガンを前に、自らの右腕を広場の遥か後方へと、引き千切れんばかりに極限まで伸ばした。

限界まで蓄積され、パツパツに鳴動する超高圧の運動エネルギー。

 

「『ゴムゴムの』――」

 

モーガンが恐怖に顔を引きつらせた瞬間、ルフィは固定していた右腕を爆音と共に一気に解放した。

 

「――『再編(リオーガニゼーション)』!!」

 

「ブガハァッ!!!」

拳がモーガンの顔面の正中線へと容赦なく突き刺さった。

凄まじい衝撃波が走り、モーガンの巨躯は海軍支部の分厚い防壁を派手に粉砕しながら、遥か彼方へと吹き飛んでいった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

数十分後、シェルズタウンの港。

青い空と海に、海兵たちの白い制服が鮮烈に映える。

新体制へと移行した海軍支部の海兵たちが、ずらりと綺麗に整列していた。

その表情には、暴君から解放された晴れやかさと、目の前の救世主に対する深い敬意が満ちている。

海兵の代表が一歩前に出ると、姿勢を正し、ルフィたちに向かってピシッと美しい敬礼を送った。

「ザッ!!」と鋭い音が港に響き渡る。

それに合わせ、背後に並ぶ数百人の海兵たちも、一糸乱れぬ動作で一斉に右手を額へと掲げた。

 

「あなた方がこの街をモーガンの独裁から救ってくれたこと、我々海軍一同、心から感謝いたします!」

 

代表の海兵は敬礼を崩さぬまま、丁寧ながらも毅然とした口調で言葉を続けた。

 

「しかし! 感謝の念は尽きませんが、あなた方が『海賊』を名乗る以上、我々海軍がそのままこの街に滞在することを認めるわけにはいきません。……大変恐縮ではありますが、即刻、当島からのご退去をお願いいたします!」

 

規律を重んじる海軍としての、これが精一杯の、そして誠実な「お引き取り願い」だった。

張り詰めた、しかしどこか温かい感謝の沈黙が港を包み込む。

この美しくも切ない要求に対し、ルフィは甲板の上で腕を組んだまま、無表情に頷いた。

 

「妥当な危機管理(リスクマネジメント)だな。我が社がここに残留し続けることは、お前たちの組織としての信用(レーティング)を著しく低下させる。速やかな関係解消と、互いの事業領域(セグメント)の分離が最も合理的だ。我が社としても、これ以上の滞在は機会損失でしかない。では、移動する。」

 

そう言うと小型帆船はゆっくりと岸壁を離れていく。

海兵たちは、去り行く彼らの背中に向かって、いつまでもいつまでも美しい敬礼を送り続けていた。

ゾロは不敵に笑いながらロープをまとめ、遠ざかる海兵たちの誇り高い列に口元を吊り上げた。

 

「……へっ。てめぇの言うことは相変わらず回りくどくてさっぱり分からねェが……。まあ、これだけ感謝されて、なおかつ丁寧に追い出される海賊ってのも、悪かねェな」

 

波をかき分け、船は静かに水平線へと滑り出していく。青空の下、旅立ちの風が帆を揺らしていた。

ルフィは懐から海図を取り出すと、虚無の目で見つめながら、指先である地点を叩いた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

数時間後、シェルズタウンの港は異様な静寂に包まれていた。

 

先ほどまであんなに綺麗な敬礼をしていた海兵たちが、全員、魂の抜けた顔でフリーズしている。彼らの呆然とした視線の先には――たった今、何事もなかったかのように港へ戻ってきた小型帆船があった。

 

港の物陰から、「僕も頑張らなきゃ……!」と涙を拭いていたコビーも、信じられないものを見る目で絶句している。

すでに彼は、海軍支部の制服へと着替えを済ませ、正式に海軍への加入手続きを終えた状態だった。

船が再び岸壁にガツンと接舷すると同時に、ルフィは甲板の上で腕を組んだまま、何事もなかったかのように平然と言い放った。

 

「一時的な市場の撤退、および人材採用のためのリターンだ。」

 

その姿を見たコビーは、涙も感動も一瞬で消え失せ、港の端から全力で駆け寄ってきて思い切り突っ込んだ。

 

「戻ってくるの早すぎますよ!!!!! 丁寧に見送った皆さんの気持ちを少しは考えてください!!」

 

コビーの必死の形相のツッコミに対しても、ルフィは眉一つ動かさず、万年筆を回しながら淡々と答えた。

 

「コビー、落ち着け。これは計画的な戦略的撤退(ピボット)だ。我が社の右腕(COO)が、まさかの『致命的な方向音痴』という隠れたリスクを抱えていることが発覚した。当初の『自力航海プラン』は破綻したため、即座に方針を切り替えた。」

 

ゾロは船縁に腰掛け、呆れたように笑った。

ルフィは手元にある海図と、見渡す限りの青い海を交互に見つめ、無機質な声で言葉を続ける。

 

「我が社も経営戦略の立案にすべてのリソースを割いたため、航海術(スキル)はゼロだ。このまま進むと漂流による全滅(バンクラプシー)を招く。よって、優秀な人材に、コンサルティングを依頼したい。」

 

「見てくださいよ、僕のこの服! 正式に海軍への加入が決まったばかりなんですよ!」

 

コビーは自分の胸元の海軍の紋章をバシバシと叩きながら、怒声を張り上げた。

 

工程(プロセス)の再設計が必要だな。コビー、海軍の船で我が社の船を曳航するための最適ルートと、根回しを今すぐ開始しろ。これは特急案件だ。」

 

「人の話を1ミリも聞いてない上に、海軍を頼る気だこの人!!」

 

コビーの絶望混じりのツッコミが、昇りきった太陽の下、新体制へと移行したばかりの困惑する海軍支部の港に、虚しく響き渡っていた。




KPI(現在値/ 目標値)
懸賞金(クレジット):(0 / 3000万ベリー)
傘下組織の構成員数(トラックレコード):(0 / 56人)
仲間の数(ガバナンス): (1 / 4人)
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