今日も綾小路清隆に頭を下げる   作:りゅえんさんかっけー

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今日も綾小路清隆に頭を下げる

 

―――真っ白な空間だった。

 

上も下も右も左も分からない。

ただ、どこまでも白い。

 

「……は?」

 

俺が最初に発した言葉は、それだった。

さっきまで確かに仕事帰りだったはずだ。残業を終えてコンビニで弁当を買ってアパートに帰える途中、そして――――。

 

「死んだのか?」

 

「正解」

 

突然、声がした。

 

振り向く。そこには一人の男がいた。

いや、男と言っていいのか分からない。

 

年齢不詳、性別不詳。

 

妙に整った顔立ち。

何より、その場にいるだけで『格が違う』と本能が理解してしまう。

 

「誰だ?」

 

「神様」

 

「は?」

 

「だから神様」

 

「いやいやいや」

 

俺は思わずツッコんだ。

 

神様?

こんな軽いノリで?

もっとこう、神秘的な感じじゃないのか。

 

雲の上とか、後光とか。

ラッパ吹いてる天使とか。

 

「偏見だね」

 

「…心読んでる?」

 

「神様だから」

 

「…便利だなおい」

 

神は楽しそうに笑った。

俺は頭を抱えた。夢か?

いや、妙にリアルだ。現実感がありすぎる。

 

「で、俺死んだの?」

 

「死んだよ」

 

「マジか……」

 

意外とショックはない。どうせ大した人生じゃなかった。

底辺の高校卒業…大学に行かず就職してから毎日が仕事、休日は仕事の疲れを寝て癒やす。

彼女なし…趣味なし…目標なし。

 

気付けば二十数年。振り返れば何もない人生だった。

 

「そんな君に朗報」

 

神が指を鳴らす。

 

すると一冊の本が現れた。

その表紙を見て俺は目を見開く。

 

『ようこそ実力至上主義の教室へ』

 

「え?」

 

「転生してもらう」

 

「は?」

 

「高度育成高等学校」

 

「は?」

 

「楽しそうだから」

 

「理由軽っ!」

 

神は悪びれもなく笑う。

 

待て待て待て。確かによう実は知ってる。

アニメも見た。原作も少し読んだ。

 

でもだからこそ分かる。無理だ。

…絶対無理だ。

 

「いやいやいやいや!」

 

「何?」

 

「俺だぞ!?」

 

「うん」

 

「勉強できない!」

 

「うん」

 

「運動も普通!」

 

「うん」

 

「コミュ力も普通!なんなら顔も普通!」

 

「うん」

 

「何の取り柄もない!」

 

「知ってる」

 

終わった。神のお墨付きだった。

 

「無理だろ!」

 

俺は叫んだ。

 

主人公兼ラスボスの綾小路を筆頭に暴力至上主義で後半はなんか主人公みたいな龍園。ドSサドロリの坂柳。聖女の一之瀬。

…化け物しかいない学校だ。

俺なんか一週間で消し飛ぶだろう。

 

「大丈夫大丈夫」

 

「何が!?」

 

「条件は一つだけだから」

 

神は人差し指を立てた。

嫌な予感しかしない。

 

「Aクラス卒業」

 

「……」

 

「簡単でしょ?」

 

「どこがだよ!!」

 

思わず絶叫した。簡単なわけがない。

むしろ地獄だ。

 

俺の知っているよう実ならAクラス卒業なんて綾小路がいるクラスしか達成できない。クソゲーだぞ!?

 

「失敗したら?」

 

俺は恐る恐る聞いた。神は笑顔で答える。

 

「消滅」

 

「……へ?」

 

「退学確定した瞬間」

 

「……」

 

「魂ごと」

 

「……」

 

「消滅」

 

数秒沈黙した。

そして。

 

「終わったああああああああ!!」

 

俺は頭を抱えた。無理だ。

本当に無理だ。原作知識があっても勉強が出来なきゃ終わる。

 

テストで赤点。補習なんてないから

…退学。

はい消滅。

 

未来が見えた。あまりにも鮮明に。

 

「じゃあ頑張ってね」

 

「待て!」

 

「転生!」

 

「待――――」

 

視界が暗転した。

 

 

ガタン。

 

ガタン。

 

規則的な振動。

遠くから聞こえるエンジン音。

 

俺はゆっくり目を開けた。

 

「……え?」

 

目の前にはバスの座席。

窓の外には見慣れない景色。制服。鞄。

 

そして――――。

 

「マジで転生しやがった……」

 

終わった。いや始まったのか?

どっちでもいい。とにかく終わった。

 

俺は必死に周囲を見回した。幸い原作キャラはいない、少なくとも見覚えのある顔はいない…筈だ。…なら今のうちだ。

 

考えろ。生き残る方法を。

 

Aクラス卒業。退学=消滅。

勉強できない。才能なし。運動普通。コミュ力普通。

原作知識だけじゃ限界がある。

 

つまり――――。

 

「努力するしかない」

 

ボソリと呟く。

 

でもただの凡人が努力しただけで卒業時にAクラスにいれるか?

 

綾小路に?

 

坂柳に?

 

龍園に?

無理だ。そもそも卒業まで居れるかどうかすら危ういんだぞ?

 

死にたくない。

 

消えたくない。

 

考えろ。

 

考えろ。

 

考えろ。

…そして俺は一つの結論に辿り着いた。

 

数日後。

 

Dクラス教室

目の前には綾小路清隆

原作主人公。化け物。ホワイトルーム最高傑作…

 

俺は机に頭を擦り付ける勢いで叫んだ。

 

「なぁ、綾小路……だったか」

 

「ん?」

 

「会って数日でこんなこと言うのもあれなんだけどさ……」

 

綾小路が怪訝そうな顔をする。

 

だが知ったことか。

 

俺の命がかかっている。

プライドなど犬にでも食わせておけ。

 

「一生のお願いです!!」

 

俺は全力で頭を下げた。

そして叫ぶ。

 

「勉強を教えてください!!!!!」

 

「…………は?」

 

綾小路清隆が。

 

生まれて初めて理解不能なものを見る顔をした。

 

 





綾小路
「こいつ、何か裏があるのか……?」

主人公
「数学分からん!!助けて!!」

綾小路
「……?」

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