彩葉の弟は様子がおかしい   作:真球猫

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幕間5

 

 

 

 平日の夕暮れ時。

 いつもなら配信をしているか、KASSENのランクマッチに潜って新しい戦略でも試している時間帯。

 

 でも、今日はそういうわけにもいかなかった。

 

『ごめんねぇ。僕のせいでツクヨミじゃなくて通話になっちゃって』

『別に〜?どっちでもおんなじじゃない?』

『問題ない。朝日から指定があった時点で俺はそれに従うだけだ』

「おい、俺が日頃から命令してるみたいな言い方はやめろよ」

 

 聞き方によっては勘違いされそうになる発言をする雷にツッコミを入れる。

 

 薄暗い自室で、いつものようにパソコンの前で固定されたようにゲーミングチェアに腰掛ける。

 モニターにはシェア率が著しく下がって久しいビデオ通話アプリが開かれており、そこには三人の男の顔が映し出されていた。

 

 内二人はチームメンバーの乃依と雷。

 そしてもう一人は、何とも言えない表情を浮かべる俺の弟──朝葉だ。

 

『……兄さん、他人様の趣味にケチはつけたくないけどさ。せめて僕のいないところでやってくれない?』

「ないんだよ最初からそんな趣味は!」

『うわっ……朝日サイテー……』

『すまん、次からは二人きりの時にする』

「お前らが乗っかっちゃったら俺の有罪が確定するんだがっ!?」

 

 まずい、こいつらのペースに乗せられると果てしなく面倒だ。

 

 朝葉か乃依が火種を作って雷が油を注ぎ込むこのフォーメーションに穴はない。

 こいつらにかかれば、俺の風評は数時間で消し炭になってしまうだろう。

 

 あと、なんか乃依だけ声色がガチじゃないか?

 俺今までそんなそぶり見せたことないよな?

 

 これは、早めに軌道修正した方が身の為かもしれない……。

 

「ンン゛ッ!さて、気を取り直していこうか」

『てかさぁ、俺今日集まった理由聞いてないんだけど?何か大事な勝負があるから準備しておけって言ったの朝日だよね?』

「それに関しては悪かった。けど、お前らと一緒に朝葉に確認したいことがあってな」

 

 乃依の言葉の通り、今日の集会を計画したのは俺だった。

 

 ……実を言うと、別に本題の確認をするだけなら俺と朝葉だけでいい。

 それでも乃依と雷を呼んだのは、そっちの方が面白くなると思ったから。

 朝葉なら、俺達の欲しい言葉をくれると思ったから。

 

 何かを察したのか苦笑いをする弟に目を向ける。

 

「単刀直入に聞くぞ?かぐやちゃんと一緒にいるのって、彩葉だろ。……なぁ、あさママ?」

 

 半ば確信を持ってモニターに映る朝葉に強い視線を向けて問いかける。

 すると、首筋の傷に軽く触れながら薄く不適な笑みを浮かべて口を開いた。

 

『いやぁ、僕からは何とも──』

『(ガチャッ)ねえ朝葉ーっ!次のサムネのイラストさぁ!かぐやの目をメッッッチャキラキラにしたら──』

 

ブツッ

 

『『「……」』』

 

 朝葉がグループ通話から退出した。

 

 朝葉の後ろから聞こえてきたのは、俺にとっては最近になって急速に聞き馴染んできた声だ。

 

 一緒に活動してるのは予想してたが、もしかして同棲してるのか?

 ……いや、してるとしても彩葉とか。

 

 色々とツッコミどころはあるが、俺の一つ目の質問の答えは確定した。

 

 ピコン♪

 

『ハァ……ハァ……。い、いや、僕からは何とも──』

『えっ!?誰と話してるのかのじょカノジョでしょもしかして芦──』

 

 ブツッ!

 

『『「……………………」』』

 

 ピコン♪

 

『ゴホッゲホッ!スゥ───ッ……ハァ〜〜〜……。いや、本当に僕からは何とも──』

「さすがに無理あるぞ?」

 

 なんでここから入れる保険があると思ったんだよ無理に決まってんだろ。

 

 あとお兄ちゃんその彼女の話知らないんだが?

 そういう話ってまず最初に男兄弟に話すのが筋じゃないのか?

 普通に拗ねるぞ?

 

『あの子は本当に……どうしてこうタイミングが絶妙なんだ……』

「ああ、うん。なんか……ご愁傷様」

 

 配信で見ている分には面白い破天荒な性格も、共同生活を送るとなれば話は変わってくる。

 彩葉にも言えることだが、朝葉も色々巻き込まれているのだろう。

 

 まあそういうところも含めて可愛いんだが。

 

『でも、さすがは重度のかぐやオタクであらせられる帝様だ。配信をかなりちゃんと追ってないと僕の存在に目はいかないはずなんだけど』

「待て。なんで俺がかぐやちゃん推しだと……乃依か」

『別にいいでしょ?全然隠せてないし』

「まあ、それはそうだけど……」

 

 なんかこいつらやたらと仲良いんだよな……。

 この前も二人きりで長時間通話してたみたいだし。

 ……子供っぽい自覚はあるが、なんとなく面白くないな。

 

 あと、朝葉と知り合ってから乃依の俺に対する距離感が何故かアホみたいに近い。

 普通に心臓に悪いからやめてほしい。

 せめて雷のいないところでしてくれ、メチャクチャ気まずい。

 

 っと、いかんいかん。話が脱線し過ぎた。

 本当に聞きたいのはむしろここからなんだ。

 

 気を取り直して再度真剣な表情を作る。

 

「ヤチヨカップ結果発表の日、俺達とかぐやちゃん達がKASSENで戦うのは知ってるよな?」

『小耳に挟んだ程度にはね』

「お前、どっちを応援する?」

 

 その言葉に反応を示したのは、朝葉ではなかった。

 乃依は我関せずだった表情が困惑に変わり、雷は閉じていた目を薄く開く。

 

 そう、俺達ブラックオニキスにとって朝葉は絶対のファンだ。

 

 俺の最古参ファンである朝葉は、当然ブラックオニキスとして見ても最古参。

 大会で負けた時も、謂れのないボヤが起きた時も、当然優勝した時も。

 朝葉はいつも俺達に真っ直ぐなエールをくれた。

 

 いつしかファンである朝葉に俺達が夢で返さなくてはいけないと考えるようになった。

 そして、それは何も朝葉だけに限った話じゃない。

 ファンに支えられているという当たり前だが大切なことを朝葉は俺達に再認識させてくれた。

 

 そんな言ってしまえば相思相愛の俺達と、どっちを応援するか?

 それを問うこと自体が異常だということに二人は気づいたのだろう。

 

 つまり、朝葉はかぐやいろPをそれだけ推しているのか、と。

 

 これが友人や恋人であるならそこまで執着しなかっただろう。

 雷と乃依の二人と朝葉の関係は友人、少し大袈裟に言えば親友だ。

 それでも交友関係に口出しするほど子供でもなければ、距離が近いわけでもない。

 

 しかし、それが推しとファンの関係性であるなら話は別だ。

 

 朝葉の最推しは俺達だ。

 その揺らぐことのない絶対の自信は、自分達のゲームの腕に対するそれと何ら変わらない。

 そのはずだった。

 

『別に彩葉とは関係ないけど、かぐやいろPを応援しようと思ってるよ』

 

 何気なく放たれた言葉に、二人の表情に驚きの色が広がる。

 ……かくいう俺も、予想していたとはいえくるものがあるな。

 

『へぇ〜?俺達が最推しとか抜かしてた割に、別の気になる人が出てきたらソッコー鞍替えしちゃうんだ?』

『朝葉。浮気癖があるのなら今のうちに直しておいた方がいい。将来苦労するぞ』

『え、なに?何で応援する相手を表明しただけで浮気男扱いされてんの、僕?』

 

 二人の様子に目を白黒させて焦る朝葉に呆れてため息を吐いた。

 こいつはホント、人から自分がどう思われてるのかまったくわかってない。

 丁度いいからさっき揶揄われた仕返しでもしておこう。

 

「まさか、俺のファン第一号であるお前に裏切られる日が来るとはなぁ」

『兄さんまでそんなことを……。第一、僕は三人を裏切ってなんかないよ。僕の最推しはいつだってブラックオニキスだ。だって──』

 

 一度言葉を切って、朝葉は煽るような溌剌とした笑顔を浮かべた。

 

『三人だったら、どんな状況でも夢を見せてくれるでしょ?』

 

 落ち着いた声色で紡がれた言葉は、今まで触れたどんなものよりも熱かった。

 

 これだ。俺はこれが欲しかった。

 彩葉と向き合う為に、この熱が俺には必要だった。

 

 心に炎が灯ったように身体が身震いをする。

 乃依と雷も同じようで、勝負の日までまだ時間はあるというのに今すぐにでもスマコンを着ける勢いだった。

 

 ──これは、譲れないな。

 

『ま、ほどほどにね』

『当然だ』

 

 落ち着いた風を装ってお上品な答えをする二人に思わず笑みが溢れる。

 

 かぐやちゃん達との勝負は、プロシーンでもヤチヨカップの結果を決定づけるものでもない。

 勝利を譲ってやるつもりはないものの、個人的な事情も加味してある程度の手心は加えるつもりだった。

 それは今も変わらない。

 

 でも、こいつに夢を見せる権利だけは俺達のものだ。

 

「朝葉」

 

 お兄ちゃんが最強だってことを証明してやる。

 

「俺達を見てろ」

 

 お前に、底なしの夢を見せてやるよ。

 

 

 

 

 

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