彩葉の弟は様子がおかしい   作:真球猫

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第十五話

 

 

 

「君に大切なことを教えてあげよう!」

 

 馬鹿みたいに明るい声だ。

 足元の白いモフモフが、聞いてもいないのに意気揚々と声を上げる。

 

「一つ!相手の良いと思ったところは目一杯褒めること!」

 

 そんな必要はないだろう。

 仮に思ったとしても、心の中だけで十分だ。

 

「二つ!家族は大切にすること!」

 

 血の繋がりなどという下らないものがあるだけの他人だ。

 そこまでしてやる必要がどこにある。

 

「三つ!これが一番大切だよ!」

 

 そのモフモフは、まるで自分に言い聞かせるみたいに言葉を発した。

 

「一度やると決めたことは、何があっても貫き通すこと!」

 

 ……かぐや。

 僕は結局、どれも上手にはできなかったよ。

 

 それでも、君と君の教えを大切に想う気持ちだけは本当だったんだ。

 

 それだけは、揺るがないはずだったんだ。

 

 

 

 

「あさ、は。怪我……ないか?痛い、とことか……」

「僕は無傷や!それより止血っ、いや先に救急車を!」

 

 父さんへ駆け寄って叫ぶように声を上げる。

 

 流血は当然続いていた。

 喋ることができているのが不思議なくらいの重症。

 

 応急処置を行いながら、救急車に連絡を入れるためにスマホを取り出した。

 こういう時、周りの人達はあまり当てにはできない。

 

「そう、か……。くくっ、はははっ……!」

「何笑ってるんっ!?」

 

 救急車を手配して止血に移る中、聞こえてきた父さんの笑い声。

 

 意味がわからなかった。

 血が流れ続け死に向かう体で、一体何を笑っているというのか。

 死を繰り返してその恐怖を向き合ってきた僕だからこそ、理解できなかった。

 

「よかった」

「……」

「今度は、ちゃんと守れて……本当によかった」

 

 安堵だ。

 その笑いは安堵から来るものだった。

 

 我が子を守れたことへの安堵。

 父としての責務を果たせたことへの安堵。

 

 父さんらしい。

 何の含みもなく、真っ先に心から出力された言葉だった。

 

 思えば、父さんは一度目の事故以来、僕の首の傷を見て辛そうな顔をすることがあった。

 もしかしたら僕は、父さんに余計な苦痛を与えてしまっていたのかもしれない。

 

 しかし、心でどう思おうと頭は既に冷徹な判断を下している。

 

 父さんはもう助からない。

 僕のせいで消えゆく命だ。

 

「……朝葉。父さんと一個、約束しや」

「なに、言って…… 」

 

 真剣な眼差だった。

 瀕死の状態でもなお力強い視線に、条件反射で背筋が伸びる。

 

 口を開く父さんが、やけにゆっくりに見えて。

 

「これからは、自分の為に生きていくんや」

 

 僕の時が止まった。

 言葉を頭で咀嚼する度、口の中が乾いていく。

 

 一生に感じられるほど長い数瞬の静寂が、父さんによって破られた。

 

「お前が、特別なんは……見てればわかる」

 

 血塗れの顔で器用に苦笑いを作り、目が閉じられる。

 

「他の二人も賢い子やけど、お前は、なんか違うんやな?」

 

 断定するような言い方。

 実際確信していたのだろう。

 

 僕も時々やらかしていたし、父さんも勘が良い人だから。

 何かしらを感じ取っていてもおかしくない。

 

「父さん、僕は……」

「別に、怒ってへん。子供の秘密くらい目を瞑るんが、親の仕事や。……けどな」

 

 一度言葉を切り、再び目線が交差した。

 

「自分を犠牲にするんは、ダメや。それは、みんなへの侮辱になる」

 

 「まあ、今の父さんが、言えることやないけどな」と、まったく笑えない冗談に父さん一人でツボっている。

 こんな時までマイペースにならないでほしい。

 

 犠牲とは、一度目の事故のことを言っているのか、それとも僕の生き方のことを言っているのか。

 どちらにしろ身に覚えしかない。

 

 みんなとは、本当に色々な人が含まれるのだろう。

 これまで関わってきた人達、これから関わっていく人達。

 自分と関わることに時間を使ってくれた全ての人達への侮辱。

 

 納得以外の感情が湧かなかった。

 

「…….実はな。父さんは、お前に救われたんや」

「えっ?」

 

 息はどんどんと苦しげになっていて吐血までしているのに、話す声色は果てしなく穏やかなままだった。

 

「事故のことだけやない。心が疲れてもうた時、お前はいつも、黙って話を聞いてくれたな?」

「……そんなん、誰にでもできる。僕である必要なんて──」

「父さんは、お前に話を聞いてもらえて、嬉しかったんやで?」

「──っ!」

 

 やめてくれ。

 僕はそんな大層なことはやってない。

 そんなにすごい存在であるはずがない。

 現に今、父さんを救えていないじゃないか。

 

 そんな僕の内心を読み取ったように、父さんはゆっくりと呆れたように息を吐いた。

 

「だからこそや。お前に、自分を犠牲にするような生き方は、してほしくない」

 

 父さんの声に、力強さが増していく。

 

「本気で、自分の為に生きて、自分が納得できる道を探すんや。……約束、できるか?」

 

 向けられる眼差しが一段と強くなる。

 逃す気はないとでも言うようだった。

 

 乾いた口をどうにか開く。

 

「約束、する」

 

 できる限りの意思を瞳に込めて答えた。

 

「ちゃんとできるかは、わからへん。でも、精一杯やってみる」

 

 我ながら何とも情けない答え。

 殆ど何も言っていないのと同じだ。

 

 けれど、正直に答えた。

 この問いにだけは、安易な言葉を選びたくなかったから。

 

 父さんは僕の答えを聞き終えると、フッと優しく微笑んだ。

 

「うん、それでええ。やっぱり、お前は良い子や」

 

 子守唄のように優しい声色だった。

 その言葉を最後に父さんの瞼は自然と閉じられていって。

 

 僕が見た限り、二度と開かれることはなかった。

 

 

 

 

 それからの事はあまり覚えていない。

 母さんがすごく頑張っていたことだけは、なんとなく頭に残っている。

 

 事故の原因であるトラックには、昨今絶滅したとすら言われていた車体の不備が観測されたようだ。

 

 定期的な点検も行っており、法的にはどうあれ善悪で言うのならば運転手に過失は認められなかった。

 十人に聞けば全員が不幸な事故だと言うだろう。

 

 葬式が終わり、家族それぞれが心に傷を抱えて。

 でも、それを分かち合うことはできなかった。

 

 悲しみに暮れる彩葉も、何かを覚悟したような兄さんも、無理をして気丈に振る舞う母さんも。

 今だけは、気にかける余裕がなかった。

 

 みんなに合わせる顔がなくて。

 どこにも居たくなくて。

 置き手紙だけを残してあてもなく歩き続けた。

 

 たった一年間。

 それが、僕が伸ばすことができた父さんの時間だった。

 

 かぐやの教えを思い出す。

 

 ──一度やると決めたことは、何があっても貫き通すこと!

 

 僕は、父さんを見殺しにした。

 完璧なハッピーエンドを作ることができなかった。

 

 彼女の教えを汚してしまった。

 

 今度は、父さんとの約束を思い出す。

 

 ──本気で、自分の為に生きて、自分が納得できる道を探すんや。

 

 あれからずっと考えている。

 どうすれば自分の為に生きたことになる?

 どうすれば父さんに贖うことができる?

 

 考えて、考えて、考えて。

 

 お金は持っていたけど、何も食べる気が起きないまま数百年ぶりの餓死が近づいてきた頃。

 ふと疑問が湧いた。

 

 僕にとっての幸せとはなんだろう?

 

 自分の為に生きるというのなら、その前提は必要になってくるはず。

 

 僕にとっての幸せ。

 それは、みんながハッピーエンドに辿り着くことだ。

 

 しかし、もう叶えることはできない。

 僕が愚かなせいで父さんが死んでしまったから。

 

 では、次善はなんだろう?

 当然、今生きているみんなだけでもハッピーエンドを迎えることだ。

 

 ()()()()()()()()()

 いや、()()()()だろうか?

 

 父さんの死を目の当たりにして、僕の前提は変化し始めていた。

 

 ヤチヨの輪廻を壊した。

 父さんを見殺しにした。

 この二つの事実によって、きつく閉めていた罪悪感の蓋が緩んでしまった。

 

 救えなかった命がある。

 

 八千年も人間擬きとして生きているのだ。

 その数も一人や二人じゃない。

 とてもではないが、両手の指では数えきれないほどだ。

 

 ウミウシだったかぐやと違い、人間の身体を持つ僕は多くの人を救うことができた。

 

 でも、誰かを救う度に取りこぼす命も増えていった。

 

 環境が整っていない。

 知識や技術が足りない。

 そして、今回のような下らない油断もあった。

 

 もし、今回のことを見殺しだとするならば。

 彼らも僕が殺したようなものなんじゃないか?

 

 背筋を冷たいものが這っていく。

 どれだけ思考を掘り進めても、自分を責める言葉しか出てくることはなかった。

 

 お前が悪い、お前が悪い、お前が悪い。

 

 そんな怨嗟の声が頭の中を支配して、ようやく自分の望みというものがわかった。

 

「楽になりたい……」

 

 僕の呟きは、人混みに溶けるように消えていった。

 

 もう誰も取りこぼしたくない。

 傷つきたくない。

 

 そうだ、楽になろう。

 簡単だ。また死ぬだけでいい。

 

 人生をリセットすれば、この苦しみから解放される。

 自分でこの命を終わらせれば──

 

「そんなん許されるわけないっ!!」

 

 人目も憚らずに叫んで、近くにあった電柱に頭を打ちつけた。

 皮膚が切れたのか血が流れ出たけど、そのおかげで少しだけ冷静になれた。

 

 結局、転生したところで記憶は引き継がれるのだから意味はない。

 

 何より、自殺はダメだ。

 

 それは、産んでくれた母さん。

 一緒に育った彩葉や兄さん。

 そして、父さんとの約束を裏切る行為だから。

 

 これ以上、家族との繋がりを汚すわけにはいかない。

 

 約束を守りながら僕の望みを叶える。

 そんなことができるのだろうか?

 

 思考を必死に回して──閃いた。

 

 僕は知っている。

 生きているのに死んだように過ごせる場所を。

 

 まるで導かれるみたいに顔を上げる。

 おあつらえ向きに、今は夜だった。

 空には憎らしいほどに輝く月が浮かんでいる。

 

 ──月。

 

 僕達の故郷であり、感情というものが存在しない場所。

 かぐやが退屈と称したその場所が、僕には理想郷に見えた。

 

 頭がおかしくなっていたんだろう。

 体調もメンタルも最悪で、まともな思考ができる状況じゃなかった。

 

 それでも、道を見つけた。

 どれだけ歪んでいても、進みたいと思える道を見つけてしまったのだ。

 他の選択肢は存在しなかった。

 

 月に帰る。

 

 そう決めると、不思議なほどにすんなりと心に収まった。

 きっと同じ決断をしたかぐやとは正反対な反応なんだろうな、と笑みまで浮かんだ。

 

 世界が僕の決意を肯定するように、視界のノイズが弱まっていく。

 例えるなら、何も見えないほど濃いモザイクから古めのブラウン管テレビくらいにはなっただろうか?

 

 何にせよ、これからを考えればありがたい。

 目標を決めたならあとは突き進むだけ。

 

 これを僕のハッピーエンドにしよう。

 

 

 

 

 それからは早かった。

 

 僕の望みを叶えつつ、みんなもハッピーエンドに辿り着く。

 そんな道を模索し始めた。

 

 数日に渡る家出に対する母さんからのご叱責を躱しつつ、家庭の空気を少しでも良くするために明るく陽気に振る舞った。

 

 とはいえ未来が変わってしまうといけないため、ほどほどに調整しながら。

 

 どんどん曇っていく彩葉の顔色を見て、罪悪感で毎晩吐いた。

 

 吐瀉物が細かいノイズの塊に見えた時は、気でも触れたのか一周回って笑ってしまった。

 シリアスな場面で笑ってしまうことに父さんみを感じて、少しだけ嬉しくなった。

 

 この頃から舌にも違和感が出て、味覚を感じなくなってしまった。

 まあ、ヤチヨが味覚を持てていないのに僕だけのうのうと食事をしていることに前々から違和感は感じていたのだ。

 だから、これはむしろ都合が良かった。

 

 視覚と味覚がおかしくなったせいか、少しづつ頭にもガバが出始めている。

 

 それでも止まるという発想はなかった。

 一度取りこぼしたハッピーエンドを再び目指すのだ。

 どんなリスクでも背負う覚悟はあった。 

 

 やがて兄さんが上京して、彩葉と母さんの衝突が増えてきた頃、問題が発生した。

 

 彩葉が一向に家を出ようとしないのだ。

 

 原因が何かを考えたところ、僕にある可能性が出てきた。

 母さんの下に僕一人を置いて家を出ることに、彩葉は後ろめたさを感じているのかもしれない。

 

 ……本当に忌々しいほど邪魔な存在だな、僕は。

 

 必死の説得の甲斐あってか、彩葉は無事家を出る決心をした。

 

 ……なぜか僕を伴って。

 本当になんでだ?

 

 色々話し合った気がするけど、最終的に彩葉に押し切られた形だった気がする。

 

 八千年間磨いてきた話術も形無しだ。

 さすがに未来が変わってしまう可能性がある以上、こちらが下手に出ざるを得なかった。

 

 高校に入ってからは既定路線。

 芦花ちゃんや真実ちゃんと友達になった。

 聞いていた通り二人とも友達思いの優しい子達で、無理しがちな彩葉を一緒にフォローした。

 

 兄さんは実家で暮らしていた時から定期的に会いに行っていたし、上京してからはその頻度も増える。

 気の置けないやり取りができる兄さんとの時間はとても楽しかった。

 

 ブラックオニキスのメンバーである雷や乃衣とも会うことができた。

 彼らの活躍を見ている間だけは、不思議とノイズが静かだった。

 

 ヤチヨのライブにもお忍びで何度か行った。

 毎回感動して、それ以上に申し訳ない気持ちだった。

 

 彼女の願いを、積み上げてきたものを利用する。

 どれだけ恨まれても文句は言えない。

 

 それでも、これが僕とみんなのハッピーエンドに繋がっていると信じるしかなかった。

 

 母さんにも時々顔を見せ、その度に少しだけ心の闇を吐き出した。

 多分、僕なりの母さんへの甘え方だったと思う。

 母さんは、僕が知る中で一番強い人だから。

 

 そして、実家に帰る度に父さんの遺影に経過報告を行った。

 

 ……父さんは、今の僕を見てどう思うだろうか。

 こんなことをさせたかったわけじゃないのは間違いない。

 

 それでも、この道が良いと思ってしまったんだ。

 きっと僕は父さんと同じ場所には行けないだろうけど。

 もしいつか会うことができたなら、全部話して謝ってたくさん叱ってもらおう。

 

 その光景を想像するだけで気力が湧いてきた。

 

 

 そして、あの子がやってきた。

 

 

 愛しい月のお姫様。

 僕とは反対に地球に希望を抱き続けた子。

 みんなをハッピーエンドに連れて行ってくれる優しい子。

 

 君があまりにも無垢だから、血塗られた手で触れる度に汚してしまうんじゃないかと恐怖に震えた。

 そのせいで寂しい思いをさせてしまっていたのは、本当に申し訳ない。

 

 君が彩葉をハッピーエンドに連れて行くと言ってくれた時、心の底から安心した。

 そこに僕が入っていなくて本当に安心したんだ。

 きっと君が望むようなハッピーエンドに、僕は辿り着けないから。

 

 それでも僕が望みを叶えれば、愛する人達みんながハッピーエンドに辿り着ける。

 

 もう二度と失敗しない。

 

 かぐやの卒業ライブの終盤。

 僕は月人としての力を使ってスマコンをハッキングし、ツクヨミに侵入した。

 

 ノイズ越しに事情を説明すると、月人達は不満げな気配を漂わせていた。

 いくら仕事の引き継ぎ方法が完全にわかっていても、僕とかぐやのスペックの差は明らかだ。

 

 それでも最終的には納得してくれた。

 きっと、かぐやのことも考えての判断だと思う。

 本当に、貴方達は昔から何だかんだ柔軟だ。

 僕達のお姫様を返してあげられなくてごめん。

 

 父さんは言った。

 自分を犠牲にすることは、みんなへの侮辱になると。

 

 でも、僕が今やっていることはそれとは違う。

 

 僕は誰かの犠牲になるわけじゃない。

 自分の望みの為に本気で生きた。

 ハッピーエンドを目指して全力で生きたんだ。

 

 それだけは自信を持って言える。

 

 さようなら、愛しい人達。

 願わくば、みんなも素晴らしいハッピーエンドに辿り着けますように。

 

 

 

 

「彩葉!彩葉っ!」

 

 なに、これ?

 

 頭痛がする。

 止めどなく溢れる吐き気を何とか抑え込む。

 

 必死に私の名前を呼ぶヤチヨの声で、少しずつ意識がはっきりとしてきた。

 

 意味不明なことだらけだ。

 月人、転生、お父さんの最期に……朝葉の本心。

 こっちは数日前から限界だっていうのに、こんな量の情報を流し込まないでほしい。

 

 じゃあなに?

 私が知らない間に、朝葉は隠れてずっと苦しんでたってこと?

 

 涙を浮かべながら心配そうに顔を覗き込んできたヤチヨを抱きしめる。

 

 そして、少し落ち着いたところで、ヤチヨの目を見てはっきりと告げた。

 

「ヤチヨ」

「……何かな、彩葉」

「私、多分今人生で一番キレてる」

「えっえっ?」

 

 堪えようのない怒り。

 今まで経験したことのないような、激しい憤怒。

 それが、私の中で煮えたぎっていた。

 

 いや、この怒りが間違っていることはわかってる。

 

 朝葉は心を砕いて、私達のために全てを捧げてくれた。

 それに感謝こそすれ、怒るなんてあり得ない。

 

 それに、想像を絶するほどの苦痛をたくさん抱えていた。

 それに気づいてあげられなかった自分には、本当に嫌気が差す。

 

 朝葉は朝葉で必死に生きていた。

 そう、頭ではわかっているんだけど……。

 

 にしたって今までの言動があまりにもブーメランじゃないか?

 

 幸せの間口は広く持て?

 嘘吐きの悪女?

 人なら対話をするべき?

 

 私の弟はいつから全日本ブーメラン選手権大会殿堂入り選手になったんだろうか。

 

 あと、記憶を見て思い出したけどヤチヨカップのライブ前にした『ずっと見てる』って約束守れてないじゃないか。

 

 なんなんだあいつは。

 やることやりっぱなしで全部を放り出して。

 

 秘密を黙っていたこと。

 隠れて苦しんでいたこと。

 終いにはこんな結末をハッピーエンドなどと呼びやがったこと。

 

 全てが許せなかった。

 

 しかもなんか良い話風に終わってるところが余計許せない!

 こんなのハッピーでもなければエンドになんて誰がしてやるか!

 

 朝葉、あんたの敗因はたった一つ。

 あんたは私を怒らせたっ……!

 

「と、そんなことより。まだ話の途中だったよね?続きしようか」

「ええっ!えっと……朝葉のことはいいの?」

「朝葉は絶対連れ戻す!でも今日はヤチヨと再会できた日だから、今はそっち優先!」

「えぇ……」

 

 「ヤッチョは嬉しいけどさぁ……」と戸惑った様子のヤチヨに再度目を合わせて宣言する。

 

「私は誰も諦めない。みんなで一緒にハッピーエンドに行くの。これはもう、決めたことだから!」

 

 前にあんたが言ってた通り、私のやりたいようにやらせてもらう。

 

 かぐやに言ってたもんね?

 『男に二言は無い』って。

 今更撤回なんてさせないから。

 

 覚悟してよね、朝葉。

 

 

 





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