「じゃあ、また後でね」
『おう』
スマホのボタンをタップして、お兄ちゃんとの通話を終了させる。
この後の待ち合わせについての確認とついでの近況報告も軽くしたけど、変わりないようで安心した。
『な〜にニヤニヤしてるの?』
「やっほー彩葉!」
久しぶりにみんなで集まれることに嬉しさを感じていると、聞き慣れた二つの声が同じタイミングで部屋に響いた。
勝手に起動したタブレットの画面にヤチヨの顔が大きく映し出され、それと同時に扉からかぐやが飛び込んでくる。
「あれ?もう来たんだ?」
「待ちきれないから早めに配信終わらせて来ちゃった!」
『ヤッチョも配信終わったから来ました〜⭐︎』
「ふふっ、二人ともいらっしゃい」
飛びついてきたかぐやを抱き止めつつ、ヤチヨに笑顔を向ける。
かぐやはあれから少しの時間を置いてライバーに復帰した。
かぐやがやりたいことを自由にさせてあげたかったし、暇になると学校に忍び込んできたのでその対抗策でもある。
今でもかぐやはたくさんの人から愛されるライバーとして、破天荒に活動を続けていた。
私はヤチヨの身体を造るために研究者になった。
なんやかんやあって今は所長なんて肩書きまでついちゃったけど、当初の目的を忘れたことはない。
その念願叶って、今日は記念すべき初のヤチヨのアバターボディ起動実験の日だ。
初めてなんだから、ある程度の失敗は大前提。
それでもヤチヨが身体を得るお祝いをしたくて、みんなの予定を合わせてもらった。
かぐやが地球に来てから約八年。
それだけの期間でここまで漕ぎ着けることができたのは、当然私だけの力ではなかった。
「朝葉は?」
「早くから一人で確認作業してたから、今は仮眠取らせてる」
『徹夜しなくなっただけ進歩だけど、相変わらずだねぇ』
我が研究所が誇る副所長、酒寄朝葉。
当初は副所長なんて肩書きはなかったけど、私が強制的に作り出して朝葉に与えた。
身内贔屓ではなく、ちゃんと職員の人達からの同意を得た上でのことだ。
朝葉は私が所長なんだから副所長なんて必要ないとかほざいていたけど、そんな訳がない。
朝葉が副所長として支えてくれなければ、色んな意味でもっと苦戦していたことは容易に想像できる。
それに、肩書きの意味はそれだけじゃなかった。
朝葉が簡単に消えれない理由を作る。
仕事での立場を与えることは、その内の一環でもあった。
もう朝葉の中にそんな考えがないことはわかっているから、こっちの理由は私の自己満足みたいなものだけど。
「おはよ〜!」
噂をすれば、寝起きにしてはやけに溌剌とした顔で朝葉が扉から入ってきた。
「よっ、朝葉!」
『おはよ〜朝葉』
「二人とも来てたんだ。早かったね」
「ちゃんと寝れた?」
「うん、お陰で絶好調って感じだよ」
おどけて力こぶを作る姿は、側から見る分には確かに調子が良さそうに見える。
「二人とも、今日も可愛いね」
朝葉は目の前のかぐやとタブレットの中のヤチヨに目を細めながら、いつもと同じ柔らかい笑顔を向けた。
まだまだ若々しい見た目だけど、最近は顔立ちにお父さんの面影が出始めて大人の色気を感じるようになってきた。
この笑顔が無制限に周囲に振り撒かれたら兵器になってしまうので、高校生の頃から相手を選ぶように矯正している。
その判断を下したあの時の私は本当に偉い。
「二人が可愛いのは当たり前でしょ?」
「それはそうだけどね?今日はより一層可愛く見えるな〜と思って」
「えへへ〜、ドヤァ!」
『あの……あんまり褒められるとヤッチョは照れてしまうのです……』
素直に喜びながらドヤ顔をするかぐやと、顔を赤くして言葉が尻すぼみになるヤチヨ。
そんな二人の正反対な反応を見て、朝葉が小さく笑った。
その楽しげな顔を見て、疑念が確信に変わる。
それを指摘しようしたところで、インターホンの音が部屋の中に響いた。
「……二人とも、悪いけど対応お願いできる?」
「りょ〜!」
『かしこまり〜⭐︎』
アイコンタクトを送ると、かぐやとヤチヨはその意図を正確に読み取ってくれたみたいだ。
かぐやはパタパタと足音を立てて扉から出ていき、ヤチヨは画面からスルリと消える。
役割は逆でもよかったんだけど、今回は私の方が都合が良さそうだと判断した。
「朝葉、こっち来て」
「ん?どうかした?」
「いいから」
「えっ、ちょっ!」
有無を言わさず近づいて、慣れた手つきで背中に腕を回す。
そのまま優しく抱きしめた。
何度も繰り返して手慣れた分、多少抵抗されたところで意味をなさない。
予想通り朝葉の身体は少し震えていて、伝わってくる鼓動も不規則。
精神的に不安定な時の症状だ。
二人も気づいていたけど、朝葉はいつもより不自然なほど元気だった。
それも、テンションが高いとかじゃなくて取り繕ったような元気さ。
自分が不調な時ほど空元気を出して隠そうとする。
だいぶマシになったとはいえ、今も根深く残っている朝葉の悪癖だった。
付き合いの浅い相手ならまだしも、今更私達を騙そうとするなんて舐められたものだ。
「なにかあったら正直に話してって言ったよね?」
「うっ……ごめん」
言葉に詰まりながらも素直に認められるようになったのは成長だと思う。
幸せにすると約束してから、私は朝葉のメンタルケアに手を抜いたことはない。
当然専門家も頼ったけど、朝葉の場合特殊な事情もあったから身内でのサポートも欠かさなかった。
寄り添って、たくさん話して、お互いの想いを正直にぶつけ合う。
それが私にできることだった。
根気強く続けてきた甲斐もあって、朝葉の精神状態も昔と比べるとかなり安定していた。
「彩葉、職員のみんなに見られたら……」
「さっきお昼食べに行ったから大丈夫。それに、今更このくらいじゃ誰も驚かないって」
私式のメンタルケアは時も場所も選ばないので、職員のみんなは各々数回は遭遇している。
なので見られても「ああ、いつものね」という反応に収まってくれるだろう。
人とは慣れる生き物である。
とはいえ、理解があってありがたい職場だ。
最近は朝葉も落ち着いていたはずだけど、今日このタイミングでまた不安定になった。
考えられる理由はそう多くない。
「嫌な夢でも見た?」
「……少しだけ」
逃れることを諦めた朝葉は、小さく頷く。
内容には察しがついた。
今回は生死こそかかっていないけど、大切な人の人生の大きな分岐点。
その結果を左右する責任と重圧。
それは、朝葉のトラウマそのものだ。
「大丈夫。何回失敗してもいいんだよ」
だからこそ、それを一人でなんて抱えさせない。
私も一緒に背負うって決めたから。
「……でも、もし失敗してこのままヤチヨを待たせ続けることになったら──」
「私たちは絶対ハッピーエンドに辿り着く。たとえどれだけ時間がかかっても……そうでしょ?」
「……うん」
抱きしめてるから表情は見えないけど、声色が少し柔らかくなって鼓動も落ち着きを取り戻してきた。
「ありがとう彩葉。いつも手間をかけさせてごめんね」
「そんなこと気にしなくていいの。私がやりたくてやってるんだから」
「そっか……それで、もう離してもらっても大丈夫なんだけど……」
「まだ充電が足りない」
「この流れで本当に私欲なことあるんだ……」
朝葉のメンタルケアではあるけど、私の充電も兼ねてはいけない道理はない。
私に恋人ができてからというもの、朝葉には何かと距離を取られるようになってしまった。
そのせいで、私の必須栄養素の一つであるアサハニウムが足りていない。
今の内に大量に補給しておかなければ。
「僕、間男になりたくないよ……」
「このくらい三人とも許してくれるって」
「許しを乞うようなことをしたくないって話をしててね?」
困ったように笑いつつも最終的には好きにさせてくれるのだから、朝葉は相変わらず私に甘い。
さっきの会話の通り、私には人生を共にすると決めた相手が三人がいる。
かぐや、ヤチヨ、そして──芦花。
……うん、本当に色々あった。
色々あった上で、こんな冗談みたいな形にまとまったのは今でも奇跡だと思ってる。
芦花から告白された時はびっくりしたなぁ……。
私はてっきり朝葉とくっついているものだとばかり思っていた。
さすがにこれはクソボケ呼びも甘んじて受け入れざるを得ない。
もう何年も前からの関係だし、指輪も贈っていた。
私は三つの指輪を日ごとに着け替えて、残りの二つはネックレスのリングホルダーに通している。
それぞれデザインに細かい違いを出したことは、私の密かなこだわりだった。
法律の関係上正式な籍は入れられないけど、私達は家族として暮らしている。
もちろん、朝葉も一緒に。
芦花も一緒に暮らすことになった時、朝葉が家から出ていこうとしたけど私と芦花本人が許さなかった。
『倫理観が……』とか言ってたけど今更だ。
私は嫁が三人いる女だぞ。
逃げられると思うな。
最終的に朝葉が出ていくくらいなら同棲を諦めると芦花が言ったことで、ようやく納得させた。
仕事が煮詰まるとすぐ研究所に篭って三食ゼリー生活になる奴に、一人暮らしなんてさせられる訳がない。
「彩葉ー、みんなを連れてきたよ……あーっ!朝葉が彩葉と浮気してるっ!」
「違うよ!?」
『おやおや〜?それは見過ごせないねぇ?』
タイミング良く戻って来た二人が、ニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら朝葉を壁際に追い詰めていく。
ちなみに絵面としては、かぐやがヤチヨの映るタブレットを盾のように構えている。
なんか立て篭もり犯の確保みたいだ。
「本当に違うんだ、あれは彩葉が僕を……」
「あんなに乗り気だったのにそんな嘘つくなんていけない子だね、正直になりなよ」
「彩葉、今冗談言える空気じゃないから……!」
半泣きになりながらかぐやとヤチヨに詰められている朝葉を揶揄いながら眺める。
よく見ればわかるけど、二人とも本気で怒ったりはしていない。
共鳴した
「なにやってんだお前ら……」
「だから浮気癖は直せとあれほど言ったんだけどな」
「朝葉が浮気した訳じゃないでしょ。面倒そうな状況に変わりはないけど」
その光景に呆れながら入ってきた三人の男性。
さっき連絡していたお兄ちゃんと、そのチームメイトの二人。
ブラックオニキスだ。
三人は八年経った今でもプロゲーマーとして人気実力共にトップを譲らず、多くの人を虜にし続けていた。
お兄ちゃんと乃依君は一緒に暮らしている。
何やら朝葉が随分前から色々と気を回していたようで、二人がくっついた時は誰よりも祝福していた。
雷さんは活動がオフの期間は基本的にずっと海外旅行に行っているから、何気に予定を合わせるのが難しい。
今日来れることになった時の朝葉の喜びようはすごかった。
相変わらず、朝葉は黒鬼が最推しらしい。
三人の後ろから芦花と真実の二人も顔を出している。
二人とも、高校時代より大人びて綺麗になっていた。
「みんな、いらっしゃい」
「兄さんとは久しぶりに会えたね!嬉しいよ!」
やっとかぐやとヤチヨの包囲網を抜けた朝葉が、砂漠でオアシスを発見したような顔でお兄ちゃんに抱きついた。
「ははっ、ツクヨミではしょっちゅう会ってるだろ?」
「愛する家族とは直接会いたいのが人情ってもんだよ」
「……お前が人情を語れる日が来るとはな」
お兄ちゃんは朝葉の頭に手を置きながら、感慨深そうに呟いた。
気持ちはわかる。
朝葉は地球で生きる決心をした後も、しばらくは自己認識が定まらなかった。
人間でも月人でもない。
そんな前提が朝葉の心の奥底にこびりついていた。
色々と折り合いをつける為にお兄ちゃんも協力してくれたから、感じ入るものがあって当たり前だと思う。
「ちょっとくっつきすぎじゃない?」と乃依君に詰められて顔を青くする二人を見ながら、ふと疑念が湧いた。
……朝葉はお兄ちゃんにはあっさりと抱きつくんだよな。
私の時は遠慮するくせに。
なんだ?やっぱり歳上がいいのか?
私じゃ包容力が足りてないってか?
「帝様が目の前にいる……尊い……」
「真実、怖いから泣きながら祈らないで……」
若干のジェラシーを感じていると、静かに涙を流しながらお兄ちゃんに祈りを捧げる真実に芦花がツッコミを入れていた。
二児の母になったというのにそれでいいのだろうか。
まあ、私もヤチヨに祈ってたしあんまり強くは言えないけど。
「朝葉君、大丈夫そう?」
芦花が不安そうな顔で聞いてきた。
多分ヤチヨあたりからさっきまでの朝葉の様子を聞いていたんだろう。
「うん、もう大丈夫。心配してくれてありがとう」
「これでも朝葉君のお義姉ちゃんだからね」
薬指の指輪を撫でながら微笑む芦花は、昔から優れていた容姿に一層磨きがかかっていた。
それも当然だ。
ブランドのアンバサダーも務める大人気インフルエンサー様なのだから。
街中の広告でもよく見かけるし、実際すごい人気だ。
「手の届かない人になっちゃったね」と言ったら「彩葉だけはそれ言っちゃダメだよ?」と今まで見たこともないような真顔で言われて、震えながら謝罪した。
もうお気づきかもしれないけど、私はかぐやとヤチヨに続いて芦花の尻にも敷かれている。
朝葉なんかみんなの尻に敷かれすぎてもはや座布団みたいになっていた。
可哀想だなぁ……(他人事)
しかし、芦花の言葉で気づいたけど、朝葉は私を含めて四人の姉がいることになるのか。
……まずいな。
かぐやは過去の妹発言があるからまあいいとして、ヤチヨと芦花は私よりお姉ちゃん力が高い。
このままだと二人に姉の座を奪われてしまう。
……まあいっか。
そしたらまたSETSUNAで誰が本当の姉かわからせてやればいい。
あれから朝葉とは何度かSETSUNAをやったけど、全部私の圧勝だった。
歯を見せると露骨に警戒して弱体化するから、負けようがない。
「みんなで集まるのは久しぶりだね」
「それぞれ忙しいからねぇ」
そんなことを考えてつつ私が何気なく発した言葉に、朝葉が頷いて視線を巡らせた。
「雷と乃依は少し前にも遊んだけど、真実ちゃんは……年明けにお邪魔した時以来?」
「そだね、うちの子たちに大量のお年玉渡してあの人と一緒にお説教した時以来だね」
「正直生き甲斐になりつつあるんだ、あの子たちに貢ぐの」
「申し訳ないし教育にも悪いから他の貢ぎ先探してよ……例えば、恋人とかさ」
真実の一言を皮切りに、みんなの目が一斉に朝葉に向いた。
「そういえば朝葉のそういう話聞かないな」
「ねー、お義母さんからもなんか色々言われてたし……実は隠れて付き合ってる人がいたり?」
かぐやがお兄ちゃんの言葉を肯定しながら揶揄うように朝葉を見つめる。
かぐやが言っているのは、お正月にお祖父ちゃん達のところに集まった時の話だろう。
『朝日と彩葉はダメそうやし、あんたが孫の顔見せてくれんと困るよ?』なんてお母さんから言われていた。
孫の顔が見たいのはわかるけど、長男と長女をダメそう呼ばわりは失礼だと思う。
自分はかぐや達と乃依君にお義母さん呼びされて満更でもない顔してたくせに。
「残念ながらいないよ。ありがたいことに毎日充実してるから、そんな時間もないし……それに」
かぐやの問いに苦笑しながら朝葉は一度言葉を止めた。
そのまま少しだけ間を空けたあと、やがて指で頬を掻きながら口を開いた。
「僕のことは彩葉が幸せにしてくれるらしいからね」
朝葉は照れ臭そうにはにかんで、灰色の瞳が私を見つめながら細められた。
「つ、ついに朝葉がデレた───ッ!」
『はい、今の録音しました⭐︎もう逃げられないね〜』
「二人ともそういう意味じゃないってわかってるでしょ……?」
「ヤチヨ、その音声あとでもらうことってできるかな?」
「芦花ちゃんはそんなの欲しがらないで?」
三人に冗談とも本気ともつかないようなことを言われて振り回されている朝葉。
そんな姿を見て、胸が一杯になった。
あの時私がした約束は、一方的なものだと思ってたから。
朝葉も私との約束を心から受け入れてくれていた。
その事実が、何よりも嬉しかった。
「じゃあ、起動するよ」
積もる話もそこそこに、定刻となったことで予定通り機動実験は行われることになった。
みんなに見守られる中、朝葉が真剣な表情で起動の準備を完了させる。
独特の起動音と共に、ヤチヨの瞼が開かれた。
そのまま実験用のベッドから身体を起こすと、ヤチヨは周りを一周見渡してポツリと呟いた。
「身体……重い……」
まだまだレパートリーの少ない表情でもわかるほど顔がしおしおになっている。
そんなヤチヨの言葉で、緊張に張り詰めていた室内の空気が一気に緩んだ。
「八千年ぶりの身体で、しかも半分くらい金属の塊なんだから当然でしょ?」
「どこか不自然なところはない?痛みとかは?」
「それは大丈夫。重い以外には特に変な感じはしないかな?」
朝葉は気を張り直して実験の情報をメモに書き込んでいる。
私も同じようにしようとして──ヤチヨに抱きしめられた。
「彩葉……あったかいねぇ」
その一言で、必死に堪えていたものが一気に決壊してしまった。
涙が溢れて、自分の意思じゃ止められない。
ボディに不具合が起きないように、優しくヤチヨを抱きしめ返す。
「待たせてごめんね、ヤチヨ」
「ううん、全然待たなかったよ。本当にありがとう、彩葉。……大好き」
「私も、愛してる」
心からの想いを伝えて、ヤチヨを離した。
次にヤチヨがしたいことはわかっていたから。
「朝葉っ!」
「っと!大丈夫!?」
ベッドから降りたヤチヨは、朝葉に向かって駆け出す。
アバターボディの調整はやはり完璧とはいかないようで、躓いてしまったヤチヨを朝葉が慌てて抱き止める。
でもヤチヨはそんなの気にもしないで、朝葉を抱きしめながら涙を流していた。
「ずっとこうしてあげたかった」
「ヤチヨ……」
「たくさん無理させてごめんね。私の為に頑張ってくれてありがとう」
「……僕の方こそ、君のおかげで感情を得られた。みんなと出会うことができた……本当にありがとう」
泣きながら想いを伝え合う二人を見て、ふと思った。
ヤチヨは、私にとって母親のような存在だ。
お母さんに求めていたものを、私は全部ヤチヨに与えてもらっていた。
包み込むような優しさに、前を向かせてくれる歌と言葉。
それがあったから、私は生きてこられた。
そして、多分それは朝葉も同じ。
感情の種をもらって、それを永い時の中で一緒に育ててきた。
朝葉として生まれる前から、ヤチヨとお互いを支え合ってきた。
そういう意味でも、私と朝葉は姉弟なんだと思う。
「もう一人にしないから。これからはずっと一緒にいるからね」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。僕もみんなのお陰で人間として生きる決心ができた。僕のことは気にせず、ヤチヨは彩葉達のことを考えていいんだよ」
「ずっと、いっしょに、いるからね?」
「う、うん!すごく嬉しい!ありがとう!」
気を遣う方向性を致命的に間違えた朝葉がヤチヨの圧に速攻で屈している。
横で見ていたかぐやが珍しく呆れ果てた目で朝葉を見ていて、思わず吹き出してしまった。
そのまま、みんなに笑顔が広がっていく。
まだまだやりたいことはたくさんある。
ここで終わりじゃないし、もっとみんなを幸せにしてみせる。
これは絶対だ。
でも、ここも一つのハッピーエンド。
みんなが側にいて、私を見て笑ってくれる。
あの頃は想像することもできなかった、私が手に入れたハッピーエンドだ。
これにて完結になります。
お付き合いいただき、まことにありがとうございました。
たくさんの感想、評価、お気に入り、ここすき、非常に励みになりました。
これ以降は、本編で回収できなかったエピソードや後日談などを不定期で更新していこうと思っております。
改めまして、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。