彩葉の弟は様子がおかしい   作:真球猫

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 緊張感が漂う中、ヤチヨとかぐやちゃんに連絡を取ってファミレスまで来てもらった。

 

 私から家に伺った方がいいかとも思ったんだけど『今の時間は彩葉もいるから話が拗れるかもしれない』という朝葉君からアドバイスもあってこの形となった。

 

「二人とも、急に呼んだのに来てくれてありがとう」

「いいのいいの!メッチャ暇してたから!」

『芦花の誘いならいつでも大歓迎だよ〜!』

 

 私の正面に座ったかぐやちゃんとスタンドで立てられたタブレットに映るヤチヨは、やけにご機嫌な様子で私と隣に座る朝葉君を見ながら顔を緩めている。

 

 普段から笑顔が素敵な二人だけど、何故か今日はいつもより三割増しでニコニコしていた。

 

 ……なんだか居心地が悪い。

 

「僕は席を外そうか?」

「あっ、そうだよね……ごめんね?ここまで付き合わせちゃって」

「気にしないで」

 

 朝葉君は私を心配して残ってくれていたけど、ここからは私が二人に向き合わなきゃいけない時間。

 これは私たちの共通認識だったから、気を利かせて席を外そうとする朝葉君に謝りつつ見送ろうとした。

 

 ……はずだったんだけど。

 

「えっ?なんで朝葉がどっか行くの?」

『芦花を一人にするなんて感心しないなぁ〜?』

 

 何故か二人から朝葉君への引き止めが入った。

 

 二人からすれば四人での集まりなのに急に朝葉君が帰ることに違和感があるのかもしれない。

 なら、まずそこの説明をしないと。

 

「ごめんね二人とも、今日は私が二人に話があって呼び出したの。だから朝葉君には席を外してもらおうと──」

「いやいやいや!だったら尚のこと朝葉もいたほうがいいじゃん!」

『せっかくなら二人から色々話を聞きたいな?』

 

 腰を浮かせたまま困惑の表情を浮かべる朝葉君と目を見合わせた。

 なんだか色々食い違ってる予感はするけど、下手に掘り下げれば話が脱線するような気がする。

 

「……まあ、二人がその方がいいって言うなら」

「う、うん。そうだね……」

 

 朝葉君も同じことを思ったのか、疑問符を浮かべながらも再び私の隣に腰を下ろした。

 

 私の話に巻き込んでしまうことを謝ってから、目を瞑って大きく深呼吸をする。

 

「……それでね、呼び出した要件なんだけど」

 

 ここからが本題。

 今から私は、二人に最低なことを言わなきゃいけない。

 

『貴女たちの好きな人に告白させてください』なんて馬鹿げたことを、真正面から伝える。

 

 怒り、軽蔑、嫌悪。

 どんな悪感情を向けられても文句は言えない。

 

「あ、あのね?二人に……言わなきゃ、いけないことが……」

 

 そんなことをいざ本当に伝えるとなると、緊張とか不安とかが迫り上がってきて言葉が上手く出てこない。

 

 私も二人のことは好き。

 かぐやちゃんもヤチヨも、一緒に濃密な時間を共有した仲なんだから。

 

 当然嫌われたくないし、その光景を想像するだけで決意が揺らぎそうになる。

 

 全身の強張りを感じながらなんとか口を動かそうと四苦八苦していると、固く握り締めていた右手が何か温かいものに包まれた。

 

 突然のことに驚いて目をやると、私の右手に朝葉の手が優しく重ねられていた。

 

「大丈夫だよ、芦花ちゃん。ちゃんと伝わるから」

「朝葉君……うん、ありがとう」

 

 灰の瞳が背中を押すように私の目を力強く捉えていて、右手に感じる温度も相まって身体から強張りがゆっくりと抜けていった。

 

 また、朝葉君に勇気をもらっちゃったな。

 

 少し声をかけてもらっただけで安心してしまう単純な自分に呆れつつ、息を整えてからかぐやちゃんとヤチヨに向き直る。

 

 すると、今度は何だかものすごく生暖かい目線を二人から向けられてしまった。

 

「えっと、どうしたの?」

「いやいや!なんでもございませんよぉへへへ……」

『あっ、ヤッチョ達はお邪魔かもしれないし、あとはお若いお二人の時間にします?』

「いや、私が二人に用があるんだけど……」

 

 なんだろう、食い違いが致命的なまでに大きくなったような気がする。

 

 嫌な予感を抱えつつ、それでも伝えなければ前に進めないと気持ちを入れ直した。

 

 ゆっくりと大きく息を吸って、この言葉に嘘偽りがないと示すように気持ちをありったけ込めて言葉を紡いだ。

 

「私……彩葉のことが好きなの」

『「……え?」』

 

 綺麗にハモった二人の疑問符の声。

 そうだよね、こんな特大の爆弾をいきなり放られてもすぐには飲み込めないよね。

 

 そう思っていたんだけど、どうやら二人が気に掛かっているのは違う部分みたいだった。

 

「も、もう〜芦花ったらぁ!いくら緊張してるからってそこ言い間違えたらダメだよ〜!」

『大丈夫だよ〜芦花。ゆっくりでいいからね〜』

「え?いや、あの……え?」

『「うん?」』

 

 二人の反応は、私が予想していたいくつかのパターンのどれにも当てはまらなかった。

 なにより、かぐやちゃんの言う『言い間違え』という単語が引っ掛かる。

 

 それでも、二人に対して言葉を尽くさなきゃいけないことは変わらない。

 

「あのね、言い間違いとかじゃないんだ……私は彩葉のことが好きなの」

『「……」』

 

 私の言葉を聞いた二人は口を半開きにしたまま目をパチパチと瞬かせて、やがて先に復帰したヤチヨが恐る恐る聞いてきた。

 

『えっと、その好きっていうのは……友達として?』

「ううん、異性……じゃないけど恋愛対象としての好き。今日は、彩葉に告白する許可をもらいたくて二人を呼んだの」

 

 告白という単語を出した時点で、二人は意識が宇宙に旅立ってしまったかのように放心している。

 そして、ほぼ同じタイミングで復帰したかと思ったら揃って大きく口を開いた。

 

『「ええぇ〜〜〜っ!?」』

「すみませんすみません!お気になさらないで大丈夫なんで、はい!」

 

 二人の驚愕の声があたりに響いて、朝葉君が必死に周りの席の人に謝っている。

 バイト先での苦労が垣間見えた気がした。

 

 さっきから引き続き迷惑を掛けてしまっているお店には申し訳ない気持ちしかない。

 

「ちょっと待って!彩葉のことは一旦……いや置いとけないけど!」

『とりあえずね?無理やり置いとくとしてね?』

「お、置いといちゃうの……?」

 

 二人は想定と違うとでもいうような様子で、私が放った一番の爆弾を置いてしまった。

 そこを置いてしまうなら、今の話にそれ以上の広がりなんてないはずだけど……。

 

「色々聞きたいことはあるけどさ……」

『まず、芦花と朝葉が付き合うっていう話じゃなかったの?』

「え、僕?」

 

 謝罪回りから戻って来たら急に話題の中心に引き上げられてしまった朝葉君が、ポカンとした表情で自分を指差した。

 

「なんで私と朝葉君が?」

『なんでって言われても……』

「むしろなんで付き合ってないのかこっちが聞きたいんだけど……」

 

 困惑の顔を浮かべる私たちに、かぐやちゃんが信じられないとでもいうような顔をして、ヤチヨは控えめながら困ったような笑みを浮かべた。

 

 そのままかぐやちゃんが一つ咳払いをした後、ヤチヨと顔を見合わせてから妙に真剣なで口を開いた。

 

「二人ってさ……ほぼ毎晩通話してたよね?」

「「うん」」

『お出かけも行ってたよね?』

「「うん」」

「ド深夜に会ったりもしてたよね?」

「「うん」」

『付き合っては?』

「「ない」」

「おかしいよっ!!」

 

 魂の叫びを上げつつ机を叩きながら勢いよく立ち上がるかぐやちゃん。

 ヤチヨの方も苦笑いを隠せていなかった。

 

 どうやら、二人には私と朝葉君が付き合っているように見えていたみたいだ。

 

「色々と交流があったのは認めるけど、二人が思っているようなことはないよ」

「嘘でしょ!?こっちは交際報告だと思ってウッキウキで来たんですが!?」

『ヨヨヨ……ヤッチョの嬉し涙を返して……』

「これ、僕らが悪いのかな……?」

「さ、さあ……?」

 

 場の雰囲気だけ見ればまるで私達が悪いことをしているみたいだ。

 今回二人に対して悪いことをしているのは私だけなのに。

 

 本筋からこれ以上話が逸れること嫌がるように、朝葉君は少しわざとらしく咳払いをした。

 

「勘違いさせちゃったのは悪かったよ、ごめんね。でも今日の本題はそっちじゃないんだ」

 

 真剣な声色に引っ張られるように、場に緊張感が戻ってくる。

 

「……ちなみに、いつから?」

「去年の夏前くらい、かな?」

「一年以上も前じゃん……」

『読めなかった……このヤッチョの目を持ってしても……』

 

 二人は思い悩むようにぐったりと脱力してしまった。

 でも、見ている分には怒ったり拒絶したりする様子は感じられない。

 

 ……なんだか、思ってたよりすんなり受け入れられちゃった気がする。

 もっとこう、修羅場っぽくなる覚悟もしてたんだけど。

 

 それだけ二人の中で私と朝葉君がそういう関係なのは大前提だったんだろう。

 さっき列挙されたことを改めて考えると、そう思われても一切文句は言えない。

 

「えぇ……?二人がやっとくっついたと思ったらまさかの恋敵になって帰って来た?どんな昼ドラ?」

『その言い方だと朝葉も恋敵みたいだねぇ……ちなみにそこのところは?』

「わかってて聞いてるよね?姉弟だよ僕ら」

『そっか〜、残念』

 

 『朝葉もおんなじなら楽しそうなのにね〜』と冗談っぽく流したヤチヨだけど、私にはわかる。

 あれはガチで聞いていた。

 

 横で聞いていたかぐやちゃんもアホ毛がピコピコ動いてたし、なんなら私も聴覚に全神経集中してた。

 

 本人達にはあんまり自覚がないのかもしれないけど、彩葉と朝葉君の距離感は世間一般的な姉弟とはちょっと違いすぎる。

 

 正直、二人がお互いを異性として見ていたとしても多分そんなに驚かない。

 

 ……朝葉君が彩葉のことを異性として好きだったら、私はどう思うんだろう。

 なんとなくだけど、対抗心とかなくサラッと受け入れてしまう気がする。

 

 そんなことを考えていたら、腕を組んで唸っていたかぐやちゃんがアホ毛をピンッ!と立たせながら私に目を向けた。

 

「芦花はさ、彩葉のどんなところが好きなの?」

『あ!それヤッチョも聞きた〜い!』

「ええっ!?ど、どこって言われても……」

 

 どうして急にそんな話に?

 あれかな、その程度の気持ちで私の女に手を出そうなんて……みたいなやつかな?

 

「難しく考えない!ちょっとした恋バナだよ〜」

『乙女の嗜みでございましょう〜?』

 

 顔に思考が出ていたのか、二人はあくまでも柔らかい雰囲気を保ったままだった。

 ……それはそれでちょっと恐い。

 

「なら、僕は席を外そうか?」

『前の前くらいは乙女だったからセーフ!』

「……左様で」

 

 そこそこ無理やりな論法で逃げ場を失った朝葉君は、諦めたように席に再び座り直した。

 

 ……朝葉君って前の前は女の子だったんだ。

 そんな場違いな考えを何とか頭から追い出した。

 

 そして、羞恥に焼かれながらも期待の籠った二人からの視線を正面から受け止める。

 

「彩葉の好きなところは……誰かの為に自分を削っちゃうところ」

 

 誰かの息を呑むような音がやけに鮮明に聞こえた。

 

 仲良くなったきっかけは単純だった。

 美人だからすぐに目についたし、話してみれば社交的で気も合ったからそれこそ秒で友達になった。

 

 問題は、友達として関わり始めてから。

 

 少し付き合いを持てば、余裕のないギリギリの生活をしていることはすぐにわかる。

 それでも困ってる人を放っておけなくて、つい助けてしまうようなその在り方を見て。

 

 人生で初めて、強く心を惹かれた。

 

 でも──

 

「それでね……彩葉の嫌いなところも、同じなんだ」

 

 距離が近づけば近づくほど、心を惹かれれば惹かれるほど、その彩葉の在り方を見ていられなくなった。

 

 自分を大事にしてほしいのに、助けてあげたいのに。

 他ならぬ彩葉自身がそれを望んでくれなかった。

 

「彩葉の力になりたかった。友達だって言ってくれるなら、もっと頼ってほしかった」

 

 もしかしたら、彩葉と一番距離の近かった朝葉君なら何とかできたのかもしれない。

 でも、朝葉君も彩葉と同じかそれ以上に抱えているものがあった。

 

 結局私は二人に何もしてあげられていない。

 

「そういうところも含めて放っておけないの……できれば、今よりもっと近くで支えてあげたい」

 

 朝葉君以外に初めて打ち明けた本音を、私はそう締め括った。

 

 二人を見ると何やら目を瞑って黙りこくっており、何故か隣にいる朝葉君まで腕を組み始めてしまう。

 

 気まずい沈黙が数秒続いた後、三人は示し合わせたかのように全く同タイミングで目を開いた。

 

『「「わかるっ!!」」』

 

 これ以上ないほどの共感。

 三人の声は、驚くほど綺麗に重なっていた。

 

 ほぼ同一人物と八千年来の付き合いともなれば、そのくらいは当然なのかもしれない。

 

「いや、ホントにマジで全部わかるっ!彩葉って前までは全然人頼らなかったし!」

『最近マシになってはきたけど、無理しがちなところは変わらないもんねぇ。ヤッチョは心配すぎて更に老け込んじゃったよ……』

「本人に自覚が薄い分、周りは余計心配になるよね」

『「「……」」』

「え、みんなどうしたの……?」

 

 特大ブーメラン職人の朝葉君に、三人で冷ややかな目線を送る。

 

 なんで朝葉君はこっち側みたいな顔ができるんだろう。

 さっき言ったことをもう忘れてしまったのだろうか。

 

 可哀想だからやめておこうと思ってたけど、やっぱりお兄さんにも伝えといた方がいいのかもしれない。

 

「そっかぁ、芦花はかぐや達の知らない彩葉も知ってるんだもんね」

「一年ちょっとだけどね……」

『その一年ちょっと、かぐやよりも長く彩葉のことを想い続けてきたんでしょ?』

「ヤチヨの八千年には負けちゃうよ」

 

 揶揄うような言葉につい自虐的な反応をしてしまった。

 そんな私に柔らかい笑みを向けながら、二人は静かに口を開いた。

 

「……うん、いいよ。芦花が告白するなら、私達は邪魔しない」

『彩葉が出した結論に従うよ』

「その上でだけどっ!」

 

 途端に騒がしさを取り戻したかぐやちゃんに両手を取られる。

 

「芦花、よく勇気出したね!」

『偉いよ〜!花丸を贈呈して進ぜよう〜』

「え……?」

 

 こちらを見つめるかぐやちゃんの緋色の瞳が、星が瞬くように煌めいていた。

 ヤチヨはタブレットの中から花丸のエフェクトを出して、いつものように柔らかく微笑んでいる。

 

 二人の予想外の言動に、脳の処理が思ったように働いてくれない。

 

「そりゃあね?思うところがないわけじゃないよ?でも、彩葉のこと話す芦花の話聞いてたらさ……なんか、ちょっと『あり』かなって」

『まあ、彩葉が無自覚に女の子を誑すのは今に始まったことじゃからねぇ。それだけ強く想っていたなら、報われてほしいって思っちゃうよ』

 

 二人はそれぞれの言い方で、私の気持ちを肯定してくれた。

 その温かさが、胸の内にじんわりと染み込んでくる。

 

「そして何より!かぐや達も芦花のことが大好きですから!」

『どんな結果になっても受け入れるから、芦花も遠慮しないで自分の気持ちを伝えてね』

 

 そこで限界がきた。

 元々緩み始めていた涙腺が完全に崩壊して、止めどなく涙が溢れてくる。

 

「ろ、芦花大丈夫……?」

『あ〜あ、かぐやが泣かせた〜』

「泣かせちゃったね」

「え!?これかぐやが悪いの!?」

 

 子供じみたやり取りをする三人は、きっと私を気遣ってくれてる。

 それが何だか恥ずかしくて、泣き腫らした顔を隠そうとしたけど上手くできなかった。

 

 すると、目の前に質のいいハンカチが差し出された。

 位置的にその相手は一人しかいない。

 

「はい、よかったら使って?」

「……朝葉君」

 

 私の想いを、ずっと肯定してくれた人。

 何度となく優しい言葉をくれて、私と私の想いを大切にしてくれた人。

 

 涙腺だけでなく心のタガも壊れてしまったのか、様々な感情が一気に噴き出してくる。

 

 そんな感極まった状態のまま、勢いに任せて朝葉君の胸元に自分の頭を押しつけた。

 

「ゔうぅ……あさは君っ……」

「おっと……ふふ、よかったね」

 

 涙で服を濡らしてしまっているのに、気にする様子もないまま朝葉君は小さく笑った。

 

 そのまま私の頭を優しく撫でてくれる。

 いつだったか、彩葉にしていたみたいに。

 

 まだ彩葉に想いを伝えられたわけじゃない。

 それでも、朝葉君にはこの感動を共有してほしかった。

 

 君以外にも、私の想いを受け入れてくれる人がいたことへの感動を。

 

「……ねえ、本当に二人ってそういう関係じゃないの?」

「もしこの流れでそういう関係だったら、僕も芦花ちゃんも処刑されちゃうよ」

『朝葉、今の時代は浮気しただけじゃ処刑はされないんだよ?』

「あ、そうだったね……だとしても、芦花ちゃんがそんなことする子じゃないのは知ってるでしょ?」

 

 何やら物騒な話が間に挟まった気がしたけど、結果的にかぐやちゃんは納得してくれたみたいだ。

 

 でも、これ以上疑われるのも朝葉君に申し訳ない。

 

「朝葉君は私にとって大切な人だよ」

 

 顔を胸元から離して気休めにハンカチで拭いてから、かぐやちゃん達に向き直った。

 

「沢山お世話になったし、これからもっと仲良くなりたい。……こんな事言ったら彩葉にやきもち焼かれちゃうかもだけど」

 

 締まらない形にはなっちゃったけど、これだけはずっと君に伝えたいと思っていたことだった。

 

「私は朝葉君のこと、本当の家族みたいに思ってるの」

 

 あくまで、家族『みたい』。

 当然実際の家族ではないし、友達の延長みたいなものかもしれない。

 

 それでも、秘密を共有して沢山の言葉を交わした朝葉君をただの友達とは言いたくなかった。

 

 本来なら親友とでも呼ぶべきなんだろうけど、それも私の中ではしっくりこなくて。

 

 彩葉と朝葉君の気兼ねない会話を側でずっと聞き続けてたから、いつの間にか自分もその輪に入れていると勘違いしちゃったのかもしれない。

 

「家族……家族か……」

『あっ……』

 

 私の言葉を聞いてから少し様子が変わった朝葉君を見て、ヤチヨが何かを思い出したかのように声を漏らした。

 何かを考え込むように顎に手を添える朝葉君とチラリと目が合う。

 

 すると、いつもと同じように瞼が細められていき……完全に閉じられてから子供のような満面の笑みを浮かべた。

 

「そっか、家族か」

「──っ!?」

 

 それは、今まで向けてもらってきたどんなものよりも朝葉君()()()と思える笑顔で。

 想い人と瓜二つの顔から放たれた嬉しそうな笑みに、危うく両目を焼かれかけた。

 

『朝葉はね、昔ヤッチョが与えた教えのせいで一度家族だと認識した相手のことは無条件で大好きになっちゃうし、とんでもなく対応が甘くなっちゃうんだよ』

「カ、カルガモ……?」

 

 でも言われてみれば、朝葉君は彩葉相手にはとてつもなく甘いし、お兄さんの話をする時も毎回嬉しそうにしている。

 あまり良い話を聞かないお母さんのことですら、悪口を一切言わずにこれでもかと褒めていた。

 

 そのことを踏まえると、ヤチヨの言うこともあながち嘘とは言い切れない。

 

「私、今までも結構甘くしてもらってたような……」

『かなり少なく見積もったとしても、そこからざっと三倍は見た方がいいね』

「さんっ……!?」

 

 そんなの人としてダメになってしまう糖度だ。

 多分煮溶かしたらカラメルとかになるくらい。

 

 彩葉やお兄さんのように、朝葉君からの厚意を自制できる自信は私には微塵もなかった。

 

「ありがとう、芦花ちゃん。そんな風に思ってもらえるのはすごく嬉しいよ。これからは僕も芦花ちゃんを家族だと思って接するからね」

「いや、あの、えっと……」

 

 灰の瞳は両目で私だけをしっかりと捉え、まるで全幅の信頼でも置いているかのようにキラキラと輝いていた。

 何となく、さっきのかぐやちゃんと似ている。

 

 そんな目で見られてしまってる上に自分から言った手前もあるので、今更後戻りはできない。

 それに、ちょっと朝葉君に極限まで甘やかされてみたいなぁ……と思う邪悪な私がいることも事実だった。

 

「そうだよね、接する頻度から考えれば前々から芦花ちゃんは家族みたいなものだったし……あ、そうなると真実ちゃんもほぼ家族みたいなものか」

 

 朝葉君が何かとんでもない理論を持ち出して、被害を拡大させようとしていた。

 

「朝葉ステイ!それはマジでステイ!彼氏持ちの真実は本当にマズイよ!」

「大丈夫、彼氏君も家族みたいなものだからね。仲間外れになんてしないよ」

『真実と彼氏君逃げて!超逃げて!』

 

 月人ならではの感性なのかとも思ったけど、かぐやちゃんとヤチヨの反応を見る限り朝葉君が特殊なだけらしい。

 

 前々から家族への愛情が深いとは思っていたけど、朝葉君は私が考えているよりも別方向の危険性も持ち合わせているのかもしれない。

 

 

 

 

 後日真実から『最近朝葉がいつも以上に優しくて逆に恐いんだけど……彼氏もおんなじ感じだって言ってたし、芦花は何か知らない?』と聞かれたけど、黙秘権を行使しておいた。

 

 人間知らない方が幸せなことはきっとあると思ったから。

 

 

 


 

 芦花→朝葉への印象

・異性の中で最も深い付き合いをしている友人

・一番辛かった時に側で支えてくれた恩人

・良くも悪くもあらゆる意味で想い人と瓜二つな男子

・自分のことを人間がダメになるレベルで甘やかしてくる実質家族←NEW

 

 

 




 
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