朝葉の記憶を見た理由は、今にして思えばかなり下らないものだった。
地球に残ると決めて以降朝葉が私とあまり話してくれなくなって……いや、話してくれないというと語弊があるかもしれない。
できるだけ手短に話を終わらせて、その分彩葉と二人きりになれる時間を作ろうとしてくれる。
きっとあの子なりの気遣いなんだろう。
それが嫌なわけじゃないけど、寂しくはあった。
彩葉と同じくらい、朝葉のことも大切だから。
それに加えて、私の身体を造るために無理をさせてしまっていることもわかってた。
そんな負担を背負わせておいて、私だけが辛いことを知らないままでいることが次第に耐えられなくなった。
彩葉と朝葉だけに背負わせたくない。
ただの自己満足だとしても、私もあの子の全部を知りたい。
そう思って、FUSHIの目を盗んで朝葉の月人としてのデータにアクセスして──
「で、僕の記憶を見たと」
「……うん」
彩葉と再会した場所である管理者ルームには、今は私と朝葉の二人きりだった。
ひょっとしたらFUSHIはどこかにいるのかもしれないけど、私に気を遣ってか姿は見えない。
「まずは現状の整理から」と話を聞いていた朝葉は、私の頭上で真剣な表情を浮かべながら眉を寄せている。
……そう、頭上で。
今の私たちの体勢を解説すると、正座している朝葉の太ももに私が頭を乗せている所謂膝枕状態だった……なんで?
それに加えて、まるで当たり前かのように私の頭を朝葉が撫で続けている。本当になんで?
目覚めた瞬間からこんな感じだったからいまだに状況が掴めていないのもまた恐ろしい。
推測だけど、朝葉は記憶を見て眠っている私をずっと膝枕し続けてくれていたんだと思う。
その温度や感触はわからなくても、親しい相手を近くに感じられるのは言い表しようのない安心感があった。
「え、えっと……朝葉?なんでヤッチョは膝枕されてるの?」
「精神安定と逃亡防止の為に膝枕して頭撫で続けろって彩葉からのお達しがあってね」
「精神安定と逃亡防止の二つが合わさることってあるんだね……」
対極とまでは言わないけど中々並ぶことない字面に困惑せざを得ない。
私の反応に同意するように朝葉も苦笑いを浮かべていた。
「今は彩葉にお願いして僕らだけにしてもらってるんだ。その方が話しやすいこともあるでしょ?」
「……っ!」
そうだ、この状況も含めて全てこの子の気遣い。
私はまた背負わせてしまっている。
この子に、苦痛を与え続けている。
「……ごめんね」
自然と言葉が口から漏れた。
碌に謝意も籠っていないその咄嗟の言葉が酷く気持ち悪いものに聞こえて、すぐに次の言葉を用意する。
「謝って済むようなことじゃないのはわかってる。でも……ごめんなさい」
私の謝罪に、朝葉は答えなかった。
ここ数千年では珍しい無表情で私の顔を見つめているのに、その瞳だけは何故だかやけに優しくて。
そんな目で見ないでほしい。
その目を向けられる価値なんて私にはないんだから。
「あの……それで……」
勝手に声が震える。
次の言葉はもう決まっているのに、それを紡ぐことを口が拒否しているようだった。
言いたくない。でも、言わなければいけない。
たとえそれが私の身を引き裂くような言葉であったとしても、それ以上の苦痛をこの子に与えたのだから。
必要もないのに息を整えて、目だけは絶対に逸らさないように朝葉の瞳に固定する。
そして、これ以上なく重い口を開いた。
「……あんなこと、教えなければよかったね」
そう、教えなければよかった。
他者への気遣いも、家族との繋がりも、物事をやり抜く決意も、君にとっては枷でしかなかったんだから。
「君の人生を縛って苦しめただけなら、君を幸せにしてあげられないなら……私は、君と家族になんてならなければ──」
「やめて」
言い切る前に、手のひらで口を塞がれた。
息が必要ないことなんてわかってるはずなのに、軽くあてる程度の力加減で。
まるで、耐え切れなかったとでもいうように。
「それだけは……言わないで」
小さくて掠れた声だった。
口元に当てられた手が少し震えて、それからゆっくりと外される。
「縛られてたんじゃない。あの教えから、僕の人生は始まったんだよ」
朝葉は小さい息を一つ吐くと、もう声は元の状態に戻っていた。
私の前髪を指で少しだけ掻き分けてから、再び頭を撫で始める。
「ヤチヨ、覚えてる?色んなことがあったよね」
「……うん。本当に、色々あった」
感覚はないのに撫でられている頭がやけに心地良く感じて、ついその温もりに全てを委ねたくなる。
でも、それは許されない。
色々あった。夢で見たように辛く苦しいことが、たくさんあった。
そんな君を救ってあげられなかった私は、やっぱり君の側にいる資格なんて──
「ヤチヨが興味本位で狐の巣穴に突撃して狐たちの怒りを買ったり、ヤチヨが地主様に初対面でタメ口利いて打首にされかけたり、ヤチヨが僕のパソコン勝手に使いながら掲示板サイトでとんでもなく口が悪い書き込みとかレスバを繰り返したり」
「ちょっ……とまって?な、なんで?どうして急に私の黒歴史陳列し始めるの……?」
唐突に過去の傷を抉られて羞恥に悶えそうになる。
加えてさっきまでとの温度差があまりにも酷すぎて、頭が一瞬にして混乱状態に陥った。
あれ、おかしいな?
確かに罰を受けたいとは思っていたけど、思ってた方向性と違う上に火力が高くない?
目を白黒させる私を眺めていた朝葉は、小さく吹き出してから悪戯を成功させた子供のように微笑んだ。
「ふふっ、ごめんね?……でも、そんなやんちゃなことしてたって、僕は君が家族じゃないなんて思ったことは一度もないんだ」
子守唄のように優しい声で、朝葉はそう言い切った。
そこには私を責める色は一切含まれてなくて、ただ優しさと愛おしさだけが詰まってた。
「君は僕の一番最初の家族で、一番最初の名付け親で、芽吹くかもわからない感情の種に水をやって育ててくれた──僕の大切な人だよ」
「……」
この子は本当に、いつも私が欲しい言葉をくれる。
でも、今だけはその言葉に甘えるわけにはいかない。
「だけど、結局君は私のせいで身を削ってる。私の身体を造る為に寝る間も惜しんで勉強して……」
「それこそヤチヨのせいじゃなくて僕の自己責任の範疇だよ。それに、今勉強してるのはヤチヨの為だけってわけでもなくてね、僕の為でもあるんだ」
「朝葉の……?」
自分の為という言葉は、ひょっとしたからこの子から初めて聞いたかもしれない。
いつでも誰かの為が当たり前で、自分という存在を顧みているところをもうしばらく見てなかったから。
そんな私の心情を読み取ったのか、朝葉は少し照れくさそうに頬を描いてから常夜の空を見上げた。
「楽しいんだよ。今までの人生で、一番楽しんで生きれている気がする」
下から見上げる朝葉の瞳は、まるで夜空に浮かぶ星々をそのまま写したかのように煌めいていた。
「もちろんヤチヨが最優先だけど、アバターボディの技術を確立させればそれを流用して苦しんでる人を大勢救える。この地球で懸命に生きている人たちの役に立つことができる」
目を輝かせながら朝葉が語った内容に、納得以外の感情が湧かなかった。
アバタボディーの技術は、軽く思いつくだけでも数多の活用方法がある。
もし本当に技術の流用なんてことが可能になれば、零れ落ちそうな人にギリギリで手を差し伸べるのではなく、あらかじめ受け皿を作っておくことができるだろう。
八千年の中で零れ落ちた人を大勢見てきた朝葉からすれば、それは喉から手が出るほどほしいもののはずだ。
「僕みたいなちっぽけな存在じゃ無理だと思ってた。でも、彩葉となら……みんなに協力してもらえば不可能じゃない」
朝葉はそこで言葉を一度止めて、まるで喋りすぎたとでも言うように一度小さく咳払いを挟んでからまた私に目を合わせた。
「まあ、こんな感じでさ。僕はちゃんと僕の人生を生きているよ。誰のものでもない、僕の為の人生をね」
嘘や誤魔化しのない、ある種の自身に満ちた顔。
この子がこんな表情をできるようになるなんて、昔は想像もできなかった。
朝葉の太ももから頭を離して座り直し、正面から向き合う。
前から見ると、余計に朝葉の顔が昔よりも晴れやかに感じた。
この子は自分の人生を見つけられたんだ。
そしてその道を楽しんで進んでいる。
嬉しい、何よりも望んでいたことだから。
だからといって、私がこの子を傷つけた事実はどこまでいっても変わることはない。
「それでも、私は……」
「……やっぱり、自分を許せない?」
「……うん」
面倒な性格になってしまったと自分でも思う。
それでも、自分の罪から目を背けてなかったことにするような真似だけはしたくない。
そんな私の内心を読み取ったのか、朝葉は少しだけ苦笑しながらも「す〜ごいわかっちゃうんだよねぇ、その気持ち」と苦笑を浮かべた。
そして、座り直した時に少しだけ空けた距離をゆっくりと詰めて──私を抱きしめた。
「なら、僕のお願いを一つ聞いて」
「お、お願い……?」
耳元で囁かれた言葉は一聞するとなんてことないものだけど、なんとなくシチュエーションと体勢的に危険な香りがしないでもない。
いやでも、こんな八千歳のおばあちゃん相手に……そういえば朝葉も実質八千歳だった……。
そんなとんちきな考えばかりしている私に、朝葉は少しだけ声を震わせながら小さく囁いた。
「また、昔みたいに一緒に歌ってほしい」
「……え?」
一瞬聞き間違いかとすら思った。
だって、この子は数千年単位で歌から距離を取っていたのだから。
「い、いいの?だって君は……」
「大丈夫だよ。……僕も下手なりに、少しずつ自分を許せるようになってきたから」
抱きしめられた状態のまま、朝葉は私の耳元で昔を思い出すように小さく笑った。
そして私の了承を待つこともなくゆっくりと深く息を吸って。
次の瞬間、数千年ぶりの歌声が響き渡った。
「幾千の時を巡って今僕ら出会えたの♪ほら見失わないように手を離さないで♪」
遥か昔に聴いてから疎遠になっていた歌声は、時を超えてもどこまでも優しかった。
あの拙い歌を聞いた時から思ってた。
この子は歌うことが本当に大好きなんだって。
そしてそれは、歌から永く離れていた今でも決して変わってはいなかった。
朝葉は私の背中をあやすように摩りながら、ゆったりと左右に揺れて歌っている。
たまに目線をこちらにやると、急かすでもなくただ楽しげに目を細めた。
このままこの子の歌を静かに聴いていたいという気持ちに流されそうになって、その欲求を飲み下す。
この子が望んでいたのは、もっと別のことだから。
「すぅ……宙、海の向こうきみのもとまで♪響くように歌えるかな♪」
私が歌い始めると、朝葉は一段と笑みを深めた。
八千年一緒にいても、十七年分の記憶を見ても、私はこの子のことを何もわかっていなかった。
だって、この子がこんなに無邪気に笑えることを今日初めて知ったから。
まだ私の知らないこの子がいる。
きっと、これからもっと増えていくんだろう。
その全部を知るまで……ううん、知ってからも。
この子から離れることなんてやっぱりできないんだろうな、というどこか諦めのような確信があった。
「本当にこんなのでよかったの?」
「"こんなの"なんて言っちゃダメでしょ?我らが麗しの電子の歌姫様と二人で歌えるなんて、ファンの人たちから祟られても文句は言えないんだよ?」
「……もう、相変わらず大袈裟だねぇ」
一通り歌い終わってから不安になって確認すると、朝葉はいつものようにヘラヘラと笑った。
お願いなんて言いながら、これも結局は私の為にしてくれてること。
さっきまではその優しさすら辛かったのに、今はただこの子とまた歌えたことが嬉しいという感情しか湧かなかった。
朝葉はさっきまで歌っていた曲を小さく口ずさんでから、何かを思い出したように口を開いた。
「ヤチヨが歌う曲は全部好きだけど、この曲は特に思い入れがあってね。実は一番好きなんだ」
「そうなの?」
そんな話は初めて聞いた。
デビューした時に出した曲ほどではないけど、この曲も彩葉のことを考えて作ったもの。
その頃にはもう朝葉は生まれていたから一緒に作ったわけでもないし、好きだと言ってくれるのは嬉しいけど理由は思い当たらない。
私の疑問を読み取ったのか、朝葉は穏やかな表情のままサラリと言った。
「歌詞がね、僕が君に思っていることとすごく似ていたから」
「…………へ?」
鼻歌のような気軽さで放たれた言葉に、身体が一瞬にして固まった。
まだ感じ取れないはずの熱が全身を巡っていくように錯覚する。
この曲は彩葉のことを考えて作った。
当然、歌詞に込めた想いも私なりに特別な相手を意識したものなわけで。
ラブソングでこそないものの、愛情激重ソングである自覚は正直あった。
それと、すごく似ている。
彩葉レベルの鈍感系主人公でもなければ、色々勘繰ってしまう言い回しでしかない。
……いや、きっと勘違いだ。
朝葉も彩葉と同レベルの鈍感さだし、言葉の奥行きを考慮してないだけ。
同じような経緯で脳を焼かれた哀れな人々を八千年の中で何度も見てきた。
この電子の歌姫がそんな言葉に惑わされるほどチョロい女だとは思わないことだ。
「八千年間、ずっと君のことばかり考えてた」
「ひうっ……!」
予期してないド直球な言葉に思わず変な声が出る。
身体を支えられている体勢的に目線を逸らすことは許されず、真剣さを帯びる灰色の瞳が私を捉えて離さない。
(か、顔が近い……!)
アバターとはいえ、彩葉と瓜二つの顔はあまりにも私に特効すぎる。
しかも甘い囁き付き、多分値札を付けたらちゃんと売れるタイプだ。
止めてくれ朝葉。その顔は私に効く、止めてくれ……。
「転生して離れ離れになる度に早く逢いたいと思った。わからないことだらけの地球で、君だけが生きる道標だったんだ」
「あの、その……あう」
どうしよう、びっくりするぐらい言葉が出てこない。
私はチョロチョロのヤチョロだった。
「本当に……君と君の教えに、僕がどれだけ救われてきたか」
『FUSHI……!助けて……!』と心の中でヘルプを送っていると、朝葉の声色がまた変わった。
マイナスな感情は含んでいないのに、どこか泣き出してしまいそうな掠れた声。
「あれがなければ今の僕はいないんだよ。こうしてみんなと同じ場所にもいられなかった」
それは、きっとその通りだと思った。
月に帰るにしろもっと前の段階にしろ、あの教えがなければこの子はより苦しんでいたかもしれない。
「あの日教えを与えられたことは、僕にとって大切な思い出なんだ。……できれば、ヤチヨにとってもそうであってほしい」
その言葉を聞いて、夢で見た時のことを思い出す。
月では当たり前だった価値観と地球での価値観のギャップに困惑する君を見て、なんとかしてあげたいと思った。
彩葉が私にしてくれたように、地球は辛いこともあるけど楽しい場所だって教えてあげたかった。
人と関わる楽しさ、家族の温もり、何かを成し遂げる達成感と充実感。
それがわかれば、君だって私と同じように地球を好きになれるはずだと思って。
「まだ途中だけど、僕ももう一度地球を好きになれるように頑張るから」
その想いは、ちゃんと届いてたんだ。
この子は苦しみながらも、また地球で幸せになれるように頑張っている。
それは、どれだけすごいことなんだろう。
「だから自分を責めないで。僕は笑っているヤチヨが一番綺麗で好きだよ」
「ちょっとだけ静かにできる?今そんなこと言われたら感情迷子になっちゃうから」
某兎のマスコットのように口をバッテンにする朝葉を尻目に、今日何度目かもわからない深呼吸を繰り返す。
火が噴き出そうなほど顔が熱い、まだ温度感覚実装してないのに。
真面目な話をしてたところにそんな言葉を放るのは何かしらの罪に問われて然るべきだと思う。
あんな口説き文句一体誰から教わったのか……そういえば私が教えたんだった。
いや、確かに人の良いところは褒めるべきだって教えたけど、それがこんな誑しモンスターを生んでしまうとは夢にも思わなかったのだ。
その内絶対刺されるだろうから防刃ベストとか買ってあげた方がいいかもしれない。
そんなところまで彩葉に似なくても……いや、時系列的に言えばこの子の方が誑し歴は長い。
誑し版卵が先か鶏が先か論争が起こってしまう。
そんな下らないことを考えていたら、次第に気持ちが落ち着いてきた。
最後に一つ大きく深呼吸して、朝葉に向き直る。
「私を、許してくれる?」
「元から怒っても恨んでもいないよ」
「たくさん苦しんだのに?」
「それは僕が悪……いや、その、運とかも色々悪かったかもしれないからね?」
「ふふっ、そっか……ありがとう」
自分を責めるなと言っておいてすぐ自責するのは流石にブーメランだと思ったのか、ぎこちないながらも他責に似た何かをする朝葉。
それがなんだかおかしくて、一度小さく吹き出したら心が一気に軽くなった。
この子は自分のことで誰かが傷つくことを何よりも恐れてる。
そんな子の前でいつまでも暗い顔をしている方が困らせてしまう。
だから、この子が一番好きでいてくれる私でいよう。
「もしかしたら、また昔みたいに迷惑かけちゃうかもよ〜?」
「全然いいよ、僕にも彩葉にもどんどん甘えてほしい。迷惑だなんて絶対思わないから」
「そこは嗜めてほしかったなぁ……」
いつもの笑顔を浮かべて冗談を言うと、何の躊躇いもなく受け入れられてしまった。
この子は昔から気前が良すぎて見てるこっちが心配になる。
「たまには自分の為の時間も作ってね?」
「それはもちろん!……けど、僕にとってはみんなの為に何かしてる時間が一番幸せだからなぁ」
「かぐやとのちゅーとか?」
「そうそう、かぐやとのちゅ…………どうすれば姉さんに黙ってていただけますか?」
何気なく持っていた手札を切ってみると、それはもうわかりやすく動揺した朝葉が数千年ぶりの敬語を使いながら深々と頭を下げた。
そもそもかぐやが隠し事なんてできないことは知ってるはずなのに、なんで淡い期待を抱いてしまうのか。
昔からこういうところは詰めが甘い。
「彩葉も既に知ってましてよ?」
「ど、どうして……まさか」
「うん、かぐやの自供」
「あれだけ言ったのに……!」
床に四つん這いになって項垂れる朝葉に少しだけ同情の気持ちが湧いてくる。
三人で寝る前に女子トークをしていたら、いきなりかぐやからの爆撃を受けた時は流石に部屋が凍りついた。
彩葉に関しては八千年と十七年の情報に耐え切った脳が完全に破壊されてしばらく放心してたし。
「……ちなみに、かぐやはなんて言ってたの?」
「『あの日は朝葉と一日中手を繋ぎながらデートしてぇ、夜には雰囲気のいい公園で熱〜いキスをしてもらったんだぁ!どう?大人?かぐやちゃん大人のレディーっしょ!?彩葉もおんなじことしてくれていいんだよ〜?』と、供述しておりました⭐︎」
「言葉選びに悪意しかないっ……!!」
「終わった……風評も、信頼も、命すらも……」と俯いてしまった朝葉は、顔を上げてから儚げに微笑むとウィンドウを操作し始めた。
「自首、か……最後に兄さんと母さんの顔を一目見れなかったことが悔やまれるよ」
「現代でそんなこと通報しても怒られるだけだからやめようね〜?」
当然操作権限を制限しながら、馬鹿なことをしようとしている朝葉の頭を指で軽く小突いた。
「あ〜、月帰りたなってきたかも……」
「ダメで〜す⭐︎帰らせませ〜ん⭐︎」
すっかり馴染んだ京都弁が漏れ出した朝葉に自然と笑いが溢れる。
「君にはずっと、ず〜っと側にいてもらうからね?」
甘えていいと言われたのを良いことに、少しだけ欲を出すことにした。
どうせ離れられないのなら、今度こそ最期までとことん一緒に生きてみよう。
たとえ辛いことや苦しいことがあっても、目を背けずに支えてあげよう。
私は、この子の一番最初の家族なんだから。