彩葉の弟は様子がおかしい   作:真球猫

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第四話

 

 

 

「えー!やだやだやだ!一緒いてっ!」

 

 朝の爽やかな風が吹き抜ける住宅街にエイリアンのクソデカ大声が響き渡る。

 

 さっきまで引き出しに隠れたりヤチヨの配信を見て面白がっていたとは思えないほどに切実そうな顔で私に縋りつくる少女。

 

 昨日よりもさらに成長していて、すでに私と同年代くらいの見た目になっていた。

 

「無理。学校休めない。家から出ないで。ご飯はそこね。パンケーキ」

 

 一つ一つ言い聞かせるように伝えた後、パンケーキを指さした。

 数日前に作りそこなった私のスペシャリテ『粉と水のパンケーキ』だ。

 

 心の中でボナペティと呟くと、少女はそれを聞き取ったかのように瞳を輝かせながらパンケーキを一枚口に含んだ。

 そしてだんだんと顔色を悪くしていき、無性に腹の立つ顔に落ち着いたと思ったら「くそまじぃ……」と言い放った。

 貴様はお客様ではないんだから普通に許さんぞ?

 

「じゃあ、行って来ます」

「待ってやだやだ!学校ってそんなに大事なわけ?」

「命より大事!」

 

 扉を開こうとする私を何とか引き止めようとする少女にはっきりと告げた。

 学校には私が積み上げてきたものが沢山ある。

 こんなイレギュラーにそれらが壊されるのは我慢ならない。

 

「あんたと関わったのは私の責任だけど、もう全部元に戻すから。だから月への帰り方を思い出して、今日一日で!わかった?」

 

 無理やり頷かせるように言葉を押しつけてドアノブに手をかける。

 

「行ってきます」

 

 今度こそ扉を開こうと力を入れると──

 

 ゴンッ!

 

 と、何かにぶつかるような音がしたと思ったら、扉がひとりでに開き出す。

 

 そこには、額を微かに赤く腫らした朝葉が立っていた。

 

「二人とも、おはよう。今日も絶好調みたいで何より」

「朝葉っ!おはよう!」

 

 昨夜仕事の連絡から戻った朝葉に教えてもらった名前を覚えていたのか少女が嬉しそうに挨拶を返した。

 

「ご、ごめん朝葉!……て、え?」

 

 私が開いた扉に頭をぶつけたのだとわかりすぐに謝るが、それよりも不可解なことがあった。

 

「あの、なんで制服着てないの?」

 

 いつもだったら家を出ている時間だというのに制服ではなくラフな部屋着を着ている朝葉に問いかける。

 すると、何てことないように答えた。

 

「ああ、僕今日学校休むから」

「はあ!?」

 

 当然のことを言ったような顔をしながら続ける。

 

「昨日もらった仕事片づけたいし、この子を見とく人もいた方がいいでしょ?」

 

 少女を優しく見つつそんなことを抜かす。

 絶対に二つ目が理由の大半を占めるだろうことは想像に難くない。

 

「あんたね、出席日数とか成績とかっ!」

「そんな心配するほどどっちも危なくないよ。それより、このままじゃ遅刻しちゃうんじゃない?」

 

 左手首を指で叩く朝葉を歯軋りしながら睨みつける。

 しかし時間に関しては正論なので、全力の不満を込めて声を張り上げた。

 

「〜〜っ!行ってきますっ!!」

 

 二つの声が重なって応えてくれるのを背中で受け止めながらようやく外に出る。

 

 ……朝葉はあの少女にとことん甘い。

 それが少しだけ面白くなくて、そんなことを考えている自分に呆れてしまった。

 

 

 

 

 ◇◇

「映えないつまんなーいっ」

「激しく同意だけど、住めば都だよ」

 

 彩葉が薄情にも学校へ行ってしまったあと「ここなら冷房つけてもいいよ」と朝葉が自分の部屋に入れてくれた。

 

 でも、細かい家具以外は彩葉の部屋と変わらなくてつまらない。そう言ったら苦笑いしながらノートPCを差し出してきた。

 

「しばらくこれで遊んでて。いい子にできたらあとでお出かけに連れていってあげるから」

 

「ホントッ!?よっしゃー!」

 

 雄叫びを上げる私を見て微笑むと朝葉はタブレットに向き直ってしまった。

 何をしてるのか気になったけど、いい子にしていないとお出かけができないかもしれないのでノートPCに相手をしてもらうことにした。

 

 彩葉のPCは少し触ったが、朝葉のだったら何か別の面白いものが出てくるかもしれない。

 そう期待したけど、特に彩葉と違いはなかった。

 

 強いて言えば彩葉の配信視聴履歴はヤチヨばかりだったけど、朝葉はヤチヨと黒鬼?が半々くらいだった。

 

 そんな風に適当に暇を潰していると、とあるサイトが目についた。

 

「ねえ朝葉〜」

「ん?どうしたの?」

 

 わざわざタブレットから目を離して私を見てくれる朝葉に画面を見せる。

 

「コレ欲しいっ!」

「……」

 

 見つけたのは通販サイト。

 即日配達もしているそのサイトには『スマコン』が売られていた。

 

 ヤチヨがスマコンを紹介している動画をチラ見したが、これがあればツクヨミに行ったり楽しそうなゲームをすることができるらしい。

 

 配信で少しだけ見たあの戦うやつもできるかもしれない。

 あれは楽しそうだ。私の楽しそうなものセンサーであるアホ毛もそれを肯定するようにしきりに伸び縮みしている。

 

 しばらく沈黙を貫いていた朝葉は、神妙な顔つきで私を見つめながら口を開いた。

 

「あのね、この地球においてお金ってのはすご〜く大事なんだよ?あまり良くないことだけど、お金の為に命を賭ける人もいるって社会的に少しは有名なんだ。それに、君が使うお金を稼ぎ出した僕や彩葉の苦労は計り知れない」

「スマコンを買う!」

「だから気に入った」

 

 「黒と白どっちがいい〜?」とノリノリでPCを操作し始める朝葉。

 何でわざわざ一回断る雰囲気出したの?と聞いたら「お金が大事なのは本当のことだから」と言われた。

 まだ私は地球のことを理解しきれていないみたいだ。

 

 黒のスマコンを注文して届くまであと数時間待つだけとなる。

 

 「彩葉にはあんまりおねだりしちゃダメだよ?()()()()、ね?」と朝葉に言われたので全力で頷いておいた。

 私、彩葉には()()()()ねだらないようにするよ!

 

 そんな話をしながら、何となく昨日の彩葉との会話を思い出した。

 昨日彩葉は自分で料理すればまた美味しい物が食べられると言った。(言ってない)

 自分が食べたいのもそうだけど、常に張り詰めた様子の彩葉に私が作った美味しい物を食べさせてあげたかった。

 

「私が美味しいご飯作ったら、彩葉喜ぶかな?」

 

 何気なくそう口に出したら、朝葉の動きがピタリと止まった。

 こういうのなんて言うんだっけ?……そうそう、鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしてる。

 部屋の中が一気に静かになってしまった。

 

 その時間はあんまり長く続かなくて、朝葉は段々と顔を綻ばせながら私の前にしゃがんで目線を合わせてきた。

 

「きっと喜ぶよ。僕が保証する」

 

 その顔がすごく綺麗で、本当に彩葉と双子なんだなぁって思った。

 まあ?彩葉の方がやや?若干?そこそこの僅差で美人だけどね?

 

 思い立ったが──何だっけ?まあいいや──とばかりに通販で食材を購入する。

 スマコンと大体同じ時間くらいに届いて、動画やレシピサイトを見ながら料理を作った。

 

 朝葉に「もう僕の腕越してるよ。月の人は料理が得意なのねぇ」と褒められてしまった。それほどでもあるけどねっ!

 

 ゼリーの在庫を処理しないといけないから朝葉の分はいらないらしい、

 ゼリーなんていくら予備があっても良いと思うんだけど……もしかして、朝葉ってゼリーが大好物なのかな?あんなに美味しければ納得だ。

 

 作りたいものが大体完成したあと、洗い物をしないとスマコンを没収すると言われてしまったので渋々一緒にお皿や調理器具を洗った。

 でも、狭い流しで鼻歌を歌いながら二人でする洗い物は少しだけ楽しかった。

 

 そして、ようやく待ちわびた時がやってきた!

 

「どお?似合ってる?」

「天才っ!大正解!」

 

 彩葉の服に身を包んだ私を朝葉が目一杯褒めてくれる。

 そんなに褒めても決めポーズしか出してあげないよ〜?

 

 約束のお出かけタイムに逸る気持ちが抑えきれない。

 なにやら『オシャレで美味しいお店』に連れて行ってくれるらしい。楽しみで仕方がなかった。

 

 部屋着から緩めではあるものの外行きの服装に着替えた朝葉に「似合ってるからずっとそれ着てなよ」と言ったら「みんな彩葉しか見ないから僕は何着ててもいーの」と言われた。

 そうなんだ〜という納得と、いやそんなわけなくね?という疑念がほぼ同時に出てきて不思議な気分になった。

 

 お店に行く途中、体が大きい男の人二人がニヤつきながら私に声を掛けてきたけど、朝葉と三人で話し出したと思ったら急に爆笑して爽やかに笑いながら去っていった。

 もしかしたら朝葉の友達だったのかも?(クソボケの系譜)

 

「ごめん、少しお手洗い行ってくるね」

「りょ〜!」

 

 チラチラとスマホの時計を確認していた朝葉が私の元を離れていく。

 周りは比較的賑やかなのに、一気に静かになってしまったような気がした──そんな時だった。

 

「そんな才能ないよ〜」

 

 私の好きな声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 ◇◇

「そういえば朝葉って進路とか考えてるのかな?」

「えっ?あー、どうだろ。話したことない……かも」

 

 進路の話の矛先が私から今日ズル休みをしやがった奴に向かった。

 

 芦花と真実の二人には体調的な問題じゃないから心配しないでとだけ伝えておいた。

 本当に心配しなくていい、あんな奴。今頃あの少女とよろしくやっているのだから放っておけばいいのだ。

 

 しかし、真実に言われて初めて気づいた。

 私の未来についての話はたくさんしてきたのに、朝葉の未来の話をしたことは数えるほどしかない。

 進学はすると思うが、どんな道に進むのかは割と謎だ。

 

 そんなことを頭の片隅で考えていたら、いつの間にか入ったこともないようなオシャレなカフェを訪れていた。

 

「彩葉のノートで赤点回避記念〜」

「お礼の品で〜す」

「「ご査収下さ〜い」」

「あ、ありがとう」

 

 二人の調和の取れた声が重なって美しいハーモニーを奏でている。

 そして、私の目の前にも美しく調和の取れた三段重ねのパンケーキが置かれていた。

 

 経緯と台詞から考えるに、これは奢りだ。

 現金な考えに嫌気が差すが、それは目の前の天使の褒美を払い除ける理由にはならない。正当な報酬だというのならば受け取らない方が二人に失礼だ。

 

 久しぶりのまともな甘味に胸をときめかせながらフワフワのパンケーキにフォークを刺そうとすると、達磨落としのように真ん中の段が横から攫われていった。それはもう、王道ファンタジーの姫君が如く。

 

 そして姫を攫った魔王は、一口で丸々一枚を食べ切るとキラキラと瞳を輝かせながら言った。

 

「うんまあああああ!」

 

 ……そりゃ、よかったね。

 勝手に思考放棄を始める脳に鞭を入れつつ、この場をどうにか無難に収めようと思考を巡らせる。

 

「よっ、彩葉!」

「えー、可愛い。誰この子」

「彩葉の服着てる。彩葉の友達?」

「そ、そう!いや、友達っていうか、その……」

 

 でも、現場はそんな悠長な対応を許してはくれない。

 芦花が少女にパンケーキを分けてあげる中、とうとうその時が訪れてしまった。

 

「月から来たの!」

 

 静寂。

 そうとしか言いようのない空間だった。

 しかし、逆にそれが私の思考の巡りを早めてくれた。

 何とかなれぇ〜〜〜っ!

 

「ジ!築地だよね!築地から来たの!私のいとこ!」

「わぁ〜、美味しいお鮨屋さん教えて〜?」

 

 よしっ!何とかなった!

 

「お名前は?」

 

 さらにもう一発!とばかりに芦花から撃ち出された二発目の弾丸。

 それでもなんとか喰らいつく。

 

「か、かぐや!」

「かぐや〜、かわよ〜」

「えー、ぴったりだね」

 

 古くはあるが、一周回って現代的な名前だ。

 由来は安直だけど我ながら咄嗟にしては悪くない名前だと思う。

 

「かぐや?かぐや……かぐやかぁ!えへへ〜」

 

 何やらやたらと嬉しそうにしているかぐや。

 しかし、コッチはそんな場合ではない。一刻も早くコイツを二人から遠ざけなければ。

 そう考えていた時だ。

 

「かぐや、勝手にどっか行っちゃダメでしょ?」

 

 聞き馴染んだ声。

 ……そうだよね。あんたがこの子を一人でほっぽり出すわけないよね。

 

「朝葉っ!ごめんごめん〜」

「まったく、三人に迷惑かけてない?」

「彩葉のパンケーキ食べた!あと、この人からも一枚もらったの!」

「おっと、それはそれは」

 

 芦花に「ごめんね」と小声で謝罪を入れる朝葉。

 代金を払おうとしていたが、やんわりと断られていた。

 本当に細かいところまで気の届く弟である。

 これが普段から出来ていれば彼女の一人くらいすぐできるだろうに。(チクチク言葉)

 

「朝葉君、今日お休みだったんじゃ……?」

 

 ここで余計なことを言われたらマズイ!

 ただでさえ芦花には赤ちゃん時代のかぐやを見られて修羅場ったことがあるのだ。これ以上余計な疑念は与えられない。

 どうにか意思が伝わるように眼光を飛ばす。

 

 私の願いが通じたのか、朝葉は視線だけを合わせてくると小さくウインクをして口を開いた。

 

「そうそう、この子こっち来たばっかりでさ。しかも世間知らずなとこあるから危なっかしくて。今日の僕はかぐやのお目付役ってわけ」

「え〜?朝葉にそんな器用なことできるの?」

「まさにさっき失敗したところだよ。実際向いてないね」

「……そういえば、この前の赤ちゃんと似てるね」

「まあ、似たような経緯だと思ってもらえれば」

 

 困ったように苦笑する朝葉に、一応の納得を見せる芦花と話についていけてないながらも受け入れる真実。

 ……こいつ、本当にペラを回すのが上手いな。

 将来は詐欺師養成学校とかに進学するんじゃないか?

 

 すると、何やらスマホを操作し始めた朝葉に呼応するように私のスマホにも通知が届く。

 そこには、パンケーキ一皿分の金額がピッタリ送金されていた。

 

「えっ、ちょ、何これっ!?」

「パンケーキ代。かぐやが食べちゃったんでしょ?それでもう一つ頼みなよ」

「いいよそんなのっ!朝葉が気にすることじゃないし……」

「なら僕からの日頃のお礼ってことで。……せっかくご馳走してもらってるんだから、しっかり楽しみなよ」

 

 話を強引に打ち切ると、当たり前のようにかぐやの隣に身を置いた。

 

「ほらかぐや。あっちの席行くよ」

「ええーっ!彩葉と一緒がい〜い〜っ!」

「おやおや、僕と二人はお嫌かな?」

「むぅ……そうじゃ、ないケド」

 

 朝葉は言い淀むかぐやに柔らかく微笑むと、私達に視線を向けた。

 

「彩葉は今お友達との時間だからね。邪魔しちゃダメだよ。それに、今なら僕がパンケーキをご馳走してあげよう」

 

 途中まではありがたかったのに、途端に雲行きが怪しくなる。

 

「ホントッ!?」

「もちろん。トッピングもあるぞ!」

「やったー!」

 

 やったーじゃないが?

 今日朝葉はどれだけお金を使ったんだ?いくらバイトとイラストのダブルワークで私以上に稼いでいるとはいえ当然限度はある。

 

 しかし、引き留めて不利になるのはこちらだ。

 これ以上このイレギュラーエイリアンによって私の風評被害を広められるわけにはいかない。

 

 結局そのまま二人を見送り、新しく頼んだパンケーキに舌鼓を打ちながら色々な懸念を一時的に忘れることにした。

 そうするしかなかったともいう。

 

 

 

 

「で?申し開きは?」

「ごめんごめん。まさか彩葉達もあそこに来てるとは思わなくてさ」

 

 芦花と真実に感謝を伝えて解散した後、人気のない道でやらかし組の二人を問い詰める。

 

 首筋に手を添えながら話す朝葉の表情は曖昧だ。

 とはいえ、私も約束を忘れていたし芦花や真実が伝えていた様子もなかったので、かぐやを部屋から連れ出したことを除けば今回の件は不運な事故としか言いようがない。

 

 しかし──

 

「かぐや?それはなに?」

「スマコン!朝葉に買ってもらった!」

 

 これである。

 正直今日起きた何よりも頭が痛い。

 

「あんた……十二万払ったの?」

「ああ、僕が買った。これは嘘でも否定でもない」

「かぐや、そいつ抑えてて。私の本気を見せるから」

 

 純粋な筋力にはあまり自信のない私だが、今なら本当に人一人を月までぶっ飛ばせそうだ。

 そしてその対象にかぐやではなく朝葉を選ぶくらいには、私のヘイトはこいつに向かっていた。

 

「十二万だよ十二万!家賃食費光熱費水道代その他諸々、一体どれだけ払えると思ってんの!?」

「いいじゃん、可愛い妹の為なら十二万くらいさ」

「何で勝手に妹認定してんの!?」

「なるほど、娘の線もあるか。新解釈の登場だ」

「他人!宇宙から飛来した一切合切関係ないた・に・んっ!!」

 

 まともに取り合われていないことに焦りが増していく。

 

 かぐやを拾ったのは私の責任だ。

 それなのに、今のところ朝葉にばかり負担を掛けている。

 自分の不始末を押し付けているようで、すごく心がざわついた。

 

 そんな私の内心を見透かしたように、朝葉は呆れの色を浮かべながら小さく笑う。

 

「本当に大丈夫だよ。これは『彩葉貯金』から出したお金だから」

「……なにそれ」

「『彩葉ってやっぱり顔がいいな……って思った時にする貯金』略して彩葉貯金。使用用途は彩葉を甘やかすこと」

「私に使ってないじゃん!」

「だって彩葉全然甘えてくれないんだも〜ん」

 

 「彩葉の顔がいいのわかるわぁ」などとかぐやがほざいている。

 あんたらいつの間にそんな仲良くなったんだ?

 ……わかってる。私がいなかった間だろうことは。

 

「まあ、これからは『彩葉&かぐや貯金』ってことで。彩葉も何でも言ってね〜奮発しちゃうよ〜」

「結構ですっ!」

 

 それに自分でも不思議なくらい心がモヤモヤして、私の方が助けられている自覚があるくせについ反抗的な態度を取ってしまう。

 

 違う、こんなことが言いたいわけじゃないのに……。

 

「まあ、つまりさ」

 

 優しい声色だ。

 きっとわざとそうしていることはわかってるのに、この声を聞くと勝手に安心してしまう。

 

「使ったお金は彩葉のおかげで貯まったようなものなんだから。難しいとは思うけど、あんまり気にしないで?」

「……私にも少しは払わせてよ」

「……わかった。三分の一、出してもらうね。残りの三分の一はかぐやの出世払いってことで」

「いいよ〜!任しときっ!」

 

 どこからそんな自信が出てくるのか、上機嫌に返事をするかぐや。

 何だか、気を張っているのが馬鹿らしくなってくる。

 

「ねえ、朝葉」

「ん?」

「その……色々、ありがと」

 

 ……なんか、やけに恥ずかしい。

 別にお礼くらい普段から言っているのに。かぐやがいるからか?

 

 二人は顔を見合わせたあと、何がそんなに嬉しいのか花が咲いたような笑顔を浮かべた。

 

「どういたしまして」

「しまして!」

「あ、かぐやはお説教ね。あんたには地球の経済概念を一から叩き込むから」

「え〜!ヤダッピ〜〜!」

 

 その場に身を投げ出す勢いでジタバタするかぐやに、朝葉と小さく微笑み合う。

 

 胸の中は、家を出た時よりもずっと晴れやかだった。

 

 

 

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