彩葉の弟は様子がおかしい   作:真球猫

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第六話

 

 

 

 BAMBOOcafeのスタッフルーム。

 一番混む時間帯を過ぎてからもらった休憩中、私達にはやるべきことがあった。

 

「ぜーんぜん大丈夫や。僕はもちろん、彩葉なんか昨日友達と甘いもん食べに行っとったし。それもこれも、おじいちゃんとおばあちゃんのおかげや。ホンマにありがとう」

『子供はそないなこと気にせんでええ。それより、朝葉は学校でいい娘の一人でもおらんのか?』

「おじいちゃんほどの色男にはわからんやろねぇ。普通そない簡単に女の子といい仲にはなれへんのよ」

 

 仕送りをしてくれている祖父母への定期連絡。

 支援してもらっているのだから、こまめに連絡を取るのは当然のことだ。

 

 私も朝葉も仕送りには手をつけていない。

 朝葉には気にしないで使っていいって言ったんだけど、私が使わないなら自分もそうするって譲らなかった。

 

 お金の流れだけを見れば仕送りを無駄にしているともいえるかもしれない。

 でも、本当に追い詰められたときに使えるお金があることと、距離が離れていても気に掛けてくれる人達がいることは、とても恵まれていることなんだと思う。

 

「そしたら彩葉に代わるわ。はい、は〜いまた〜」

 

 話がひと段落したのか、朝葉が自分のスマホを私に差し出してくる。

 

 随分長いこと話していたような気もするが、時間はそんなに経っていない。

 話の密度というやつが高いのだろう。

 

「おじいちゃん?私、彩葉です〜」

 

 スマホから聞こえてくるおじいちゃんの声に、できる限り元気に聞こえるように答える。

 

 おじいちゃん達への定期連絡では簡単な近況報告を行う。

 学校生活の話、進路の話、あとは……お母さんとの話。

 

 私は家を出てからお母さんからの連絡を全て無視しているが、それを知られると心配をかけてしまうのではぐらかす。

 

『最近あれか、あんまり話してないんか?』

「向こうからあんまり連絡してこんくて。これが丁度良い距離感なんかも」

 

 その言葉を聞いた朝葉が苦笑いしながらテーブルの上に置いてある私のスマホに目を向けている。

 そこには、お母さんからの不在着信が五件ほど来ていることを知らせる通知が表示されていた。

 

「じゃあ、おじいちゃんも身体には気をつけてね。は〜いまた〜」

 

 通話を切ってスマホを朝葉に返す。

 

「嘘ついちゃって、悪女やねぇ」

「……仕方ないやん」

「はは、冗談よ冗談。母さんには僕からフォロー入れとくから」

 

 お母さんと何の問題もなく話せる朝葉は、私に関する報告を定期的に入れているらしい。

 それが私達が家を出る条件の一つだったから。

 

 といっても、私が言わないように頼んだことは黙っていてくれるので正直かなり助かっている。

 

「いつも手間かけさせてごめん」

「気にせんといて。僕だって、かぐやのことは彩葉に頼ってばっかりやし」

「いや、かぐやのことは元々私の責任やから!」

 

 こうやって改めて考えると、私って朝葉に頼ってばかりだな。

 誰にも頼れないとか考えていたのはどこのどいつだ?

 

 ……ダメだな。このまま甘え続けるのは人としても姉としてもよくない。

 

「ねえ、朝葉。なんか私にして欲しいこととかない?」

「え?急になに?そない遠回しに言わんでもお金ならいくらでも出すよ?」

「どうしたらそないな話になんのっ!?」

 

 明らかに二、三個思考をすっ飛ばした言葉にツッコミを入れる。

 どんな経路を辿ったか詳しくはわからないけど、失礼なものを経由していることだけは間違いない。

 

「私、いつも朝葉に頼ってばっかりやん?せやからちょっとした恩返しというか何というか……」

 

 尻切れ蜻蛉になる私に、朝葉が呆れと心配を合わせたような表情でため息を吐いた。

 

「姉さん。それ、他の男の子に……いや、女の子にもやね。とにかく信頼できる人以外に言っちゃアカンよ」

「言わんよ……」

 

 こいつ、私のことを幼女かなにかだと思ってないか?

 

 再度なにかして欲しいことはないか問うと「ヤチヨのオススメアーカイブ教えて。作業中に見たい」と言われたので「全部やね」と答えておいた。

 

 いや、ふざけてない。

 本当に全部、余すことなくオススメなのだ。

 

 真剣にそう伝えると、すごく気を遣った苦笑いをされた。

 

 あんたも私と同類(ヤチヨガチ勢)のくせにその態度はなんだ?

 再教育(布教)するぞ?

 

 

 

 

「な、なにこれぇ〜?」

「夏休みの予定表。言っとくけど邪魔禁止ね」

 

 カレンダーにびっしりと書き込まれた予定に闘志が湧いてくる。

 

 今日から夏休み。

 かぐやが来てからというもの狂いっぱなしだった今後の計画を立て直す。

 勉強もバイトも、遊びにだって手は抜けない。

 

「っていうか、かぐや髪染めた?」

「そうなのっ!似合う〜?」

 

 遊べ構えと暴れ出しそうなかぐやの気配を察知した朝葉が良いタイミングで話題を振った。

 

 朝葉には昨日ツクヨミであったことを大体話してある。

 かぐやはライバーになる為にアバターと近い金髪に髪を染めた……うん、まあ、染めたのだ。

 

「うーん。ドンピシャに似合ってて素敵だけど、少しだけチャラついて見えるねぇ。変な人に絡まれないかお兄さん心配」

 

 おい、どの口がチャラついて見えるとか言えるんだ?

 

 普段から軟派な態度を取るブーメランな弟に鋭い視線を送っていると、かぐやがノートPCを持ってきた。

 

「ライバー始めたんだ〜!どう?」

 

 画面に映っていたのは、どこを切り取っても最低品質としか言えない配信アーカイブだった。

 いや、自己紹介だけの十数秒の動画はもはや配信アーカイブとすら言えない。

 

「芸術性を感じるイラスト、心に強く印象が残るジングル。そしてやることが決まらないから配信を終わるという、無知の知にも通じる思想の提唱。……ひょっとしたら、この子は大物かもしれない」

「一周回って馬鹿にしてるでしょ、それ……」

 

 仕舞いには『あれ?これで切れてるのか?』とインカメにしてそのご尊顔を見事に晒していた。

 これにはさすがのかぐや溺愛厨の朝葉でも顔面蒼白で絶句するしかなかった。

 

「このジングルどうやって……。あ!私のキーボード!勝手に出さないでよ……」

「おっ!もしや彩葉弾けるね〜?ぜ〜んぜん上手くいかなくてさぁ。いっちょ、お願いしますよ〜先生っ!」

「……はぁ。そもそも、まずコードってのが、あって……」

 

 キーボードの鍵盤に触れると、まるで鍵が開いたように記憶の扉が開き始める。

 

『彩葉、音楽は自由に楽しむんやで』

 

 お父さんの言葉を皮切りに、色んな記憶か溢れ出してきそうになって──

 

「彩葉、どうしたの?大丈夫?」

「……うん、平気」

 

 ハッとして顔を上げると、心配そうにこちらを見る朝葉と今か今かと期待で一杯のかぐやが目に入る。

 

「……すぅ」

 

 一つ息を吸ってから、鍵盤に指を滑らせる。

 指先に染み込んだ動きをなぞれば、軽やかな旋律が部屋の中に響いた。

 

 弾き終わってから大きく息を吐くと、二つの拍手が重なる。

 

「ヒューッ!」

 

 かぐやが称賛の声を上げてくれる。

 その裏で鼻を啜る音が聞こえた。

 

「な、泣くことないでしょ……」

「ご、ごめんごめん。久しぶりに聞いたもんだからさ」

 

 かぐやではないのだから、ここにいるもう一人は朝葉しかいない。

 

「やっぱり、姉さんはピアノが上手だねぇ」

「……ありがと」

 

 朝葉は昔から頑なに音楽に触れなかった。

 それでも私やお父さんが演奏するとものすごく喜んでたし、いつも過剰なほど褒めてくれた。

 

 今もそうだ。

 お父さんと同じ瞳で優しく見つめながら、目一杯褒めてくれる。

 

「あ!そうだ!彩葉の曲を私が歌えば大バズ確定じゃんっ!」

 

 何やらとんでもなく厄介なことをかぐやが抜かし始めた。

 カバーではなくオリジナルがいいと駄々を捏ねるかぐやに、仕方なく昔作った半黒歴史の曲を聴かせる。

 

「やっばぁ〜っ!フンフンフ〜ン♪」

 

 聴いたばかりの曲だというのに、即興で歌詞を作って鳥肌が立つほど綺麗な声で歌い上げている。

 

 自分の作った曲が、こんな風に楽しんで歌ってもらえていることに喜びを感じてしまう。

 本当に久しぶりに、音楽が楽しいと思った。

 

「彩葉っ!プロデューサーになって!一緒にヤチヨカップ優勝しよっ?このボロアパートから伝説が始まる〜」

「ボロアパート言うな。無理ですっ!」

 

 さっきギチギチの予定表を見せたのを忘れたのだろうか。

 私にはやるべきことが山ほどあるのだ。

 これ以上エイリアンの異常行動に付き合っている暇はない。

 

 ……まあ、作ってある曲をアレンジするくらいなら不可能ではないけど。

 

「このまま終わりたくない……。ハッピーエンドにしたいなぁ……?」

「くぅっ……」

 

 そんな油断を見せてしまった私のミスでした……。

 凶器のような可愛らしい顔面を上目遣いに近づけてくるかぐや。

 

 チラリと目をやって朝葉に助けを求めると、両手を肩口あたりでヒラヒラと振った。

 お手上げ、ということだろう。

 

 なにちょっと笑ってるんだあとで覚えとけよ。

 

「それ、ズルくない……?」

 

 そんな負け惜しみの言葉で、私の敗北が決定した。

 

「ねえねえ!朝葉もピアノ弾けるの?」

 

 腹の底で悔しさに打ち震えていると、丁度よくかぐやの矛先が朝葉に向いた。

 

「僕は音楽系からっきしだからねぇ。そのかわり、こういうのしてるよ」

 

 差し出されたスマホにはイラストフォルダが表示されていて、ほぼヤチヨで構成されたイラスト達が大量に保存されていた。

 

「ヴェ〜かわよ〜っ!……あっ、彩葉!」

「へ?私?」

「あちゃ〜、バレちゃったか」

 

 画面には確かに私のイラストが表示されていた。

 他のイラストのようにデフォルメされたものでなく、現実の光景をそのままくり抜いたような絵だった。

 

「いやぁ、授業中にちょっと魔が刺して」

「コレ欲しいっ!」

「最高画質で持っていきな!」

「やったー!」

「ちょっと!」

 

 さすがに聞き捨てならない。

 自分の絵を描かれているだけでも恥ずかしいのに、それが他に流通するのは見過ごせない。

 

「いいじゃん、ネットに上げるわけでもないし。彩葉も欲しいのあったらいくらでもあげるよ?ただの落書きだから」

「うっ……」

 

琴線に触れたいくつかのヤチヨのイラストが私を見ている。(見てない)

 

 結局十枚ほど保存させてもらい、私の秘蔵フォルダに大切に貯蔵しておいた。

 

「私の絵もある〜!……っていうか漫画?」

「ああ、それは日記みたいなもんだね」

 

 四コマ形式で描かれたマンガはかぐやが来てからの私達の日常が記してあり、確かに日記と称していいものだった。

 

「こんな個人情報の塊、誰かに見せたりしないでよ?」

「大丈夫大丈夫。SNSには上げないから」

 

 何か言葉をすり替えられた気がしたが、はぐらかされる気しかしなかったので放っておくことにした。

 

「いいねいいね〜!じゃ、朝葉はかぐやのイラストレーター担当ねっ!」

「……おっとぉ、そうきましたかぁ」

 

 してやられたという表情をする朝葉に内心ほくそ笑む。

 

 正直途中からこうなることは予想していたけど、私の時は手助けしてくれなかったのだ。

 卑怯とは言うまいな?

 

「朝葉……お願い。かぐや、ヤチヨカップ優勝したいなぁ……?」

「いいんじゃない?やってあげれば。この子が人気になればスマコンの出世払いにも目処が立つかもよ?」

「そこ二人に組まれて僕が勝てるわけないでしょ……」

 

 まるで再放送かのようにさっきの私と同じ表情をしている。

 ……自分で追い込んでおいてなんだけど、少しだけ憐れだ。

 

「……わかった、やるよ。そのかわり、描いたイラストと『あさ』っていう仕事用の名前以外僕の情報は一切出さないこと。もしこれを破ったら……」

「や、破ったら?」

「君を暗くて狭くてつまらない場所に一週間閉じ込める」

「……」

 

 かぐやが絶句している。

 

 それもそうだろう。

 今の朝葉にはやると言ったらやるスゴ味がある。

 

 一週間という期間も絶妙だ。

 現実味があって辛さを想像できるギリギリのライン。

 

 さすがの我儘姫もこれには「ハイ、ワカリマシタ」と、どこぞの○ッパー君みたいな返答しかできなくなっていた。

 

 

 

 

 そんな経緯で始まったかぐやのライバー生活。

 その様相は……形容しようがなかった。

 

 とにかく何でもやってみる。

 楽しい至上主義であるかぐやは、気になったこと全てに手をつけて上手くいこうがいくまいがお構いなしだ。

 

 人気のコンテンツから、旬が過ぎて久しいもの。

 果てには誰も見向きもしなかったような企画を心底楽しそうにやるのだから、かぐやにとってライバーは天職なのかもしれない。

 

 結局私はかぐやに聴かせた曲をアレンジしてオリジナルソングとして投稿した。

 

 ツクヨミでも路上ライブを敢行。

 最初は誰一人としていなかった観客も、回数を重ねていく内に少しずつ数を増していった。

 

 そしてかぐやの活動のサポートとして、絶妙な顔をした狐の着ぐるみを着せられた私が『いろP』として活動を開始した。

 なんでだよ。

 

 アカウント名もいつの間にか『かぐやいろPチャンネル』になっていた。

 しかも配信にも出てるし路上ライブでは紙吹雪を手動で撒いている。

 本当になんでだよ。

 

 答えは単純、私がかぐやに負けたから。

 あの顔面を禁止カードにして欲しい。(マジギレ)

 

 朝葉はイラストレーターとして協力していた。

 立ち絵はツクヨミのアバターを引っ張ってこれたので、サムネイルイラストや細かい素材の担当だ。

 

 それとは別に個人のアカウントの方でもファンアートを引くくらいの量投稿してた。

 

 それが大変好評だったようで、ファンの人達からは『あさママ』の愛称で親しまれるようになっていた。

 

 ちなみに、私の名前はかぐやによって既にバラされたが朝葉はバラされていない。

 私もかぐやを閉じ込めることはできるんだぞ?

 

 

 

 

 ファンも順調に増えて、かぐやもさらに活動に身が入っている。

 そんな側から見たら好循環としか呼べないような状況でも、当然問題はあるわけで。

 

「ぐわーっ!これバットエンドじゃん!くそっ、許せねーっ!!」

 

 これだ。

 かぐやはとにかくリアクションが大きい。

 それが良いものでも悪いものでも、全身で感情を表現するのだ。

 

 そこがライバーとして魅力であることもわかってるけど、一緒に生活している身からするとかなり厄介ではある。

 

 オマケに私の部屋は節約の為に冷房をつけていない。

 暑さとかぐやのクソデカキンキン声に悩まされ、ただでさえ少ない睡眠時間すら零れ落ちていく。

 

 そんな私に、さすがに見かねたような顔で朝葉が声をかけてきた。

 

「僕の部屋で寝なよ。冷房もついとるし、一階のが涼しいよ?」

「いや、大丈夫。これ以上そっちに迷惑かける訳には……」

「おーっと、指が滑って誰かに通話をかけてしまいそうやなぁ。兄さんと母さん、どっちがええ?」

「……はあ。じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 ここまで気を遣ってもらって断るのも失礼だ。

 そう思って朝葉の部屋の予備布団に寝転がると、部屋の主が何やら外へ出て行こうとしている。

 

「ん?どこ行くの?」

「彩葉の部屋。一緒の部屋で寝るわけにもいかへんし、僕多少騒がしくても寝れるから」

「え?なんで?一緒に寝ればよくない?」

 

 小さい頃はお風呂まで一緒に入っていたのだ。

 さすがに今お風呂はまずいが、今更一緒に寝るくらいなら何でもない。

 

 そういえば、一緒にお風呂に入る時朝葉は決まって『修行』と称してずっと目を瞑っていたけど、あれは何だったんだろうか。

 もしかしたら早めの厨二病だったのかもしれない。

 

「え〜っと。そう、やね……。いや、ホンマにええんか?」

 

 最近見た中でもトップクラスに難しそうな表情をして何かを呟いている。

 きっと、また下らないことを気にしているのだろう。

 

 私が言えたことじゃないけど、朝葉は気の遣い過ぎで損をするタイプだと思う。

 

「……ええから、ほら」

 

 ポスポス、と朝葉愛用の柔らかい灰色の寝袋を軽く叩いて促す。

 

 ……何だかすごく恥ずかしい。

 なんでだ?別にやましいことをしているわけでもないのに。

 

「う、うん。……それじゃあ、あの、お邪魔します」

「は、はい。お邪魔されます」

 

 なんだこの会話。

 本当に姉弟の会話なのかこれが。

 ダメだ、朝葉が変に緊張してるせいでこっちまで調子が狂う。

 

 早々に電気を消して「おやすみ!」と押しつけるように言ったあと目を閉じた。

 

 朝葉もそれに返事をして寝袋に包まったようで、小さい呼吸音と衣擦れの音だけしか聞こえない。

 

 ……なんだか、懐かしい感じだ。

 

 昔は、一緒に寝るのなんて当たり前だった。

 昼寝も夜寝も、どこに行くのも何をするのも一緒。

 

 今でも他の家の姉弟に比べたら一緒にいる時間は長いのかもしれないけど、私からしたらそれでも少し物足りなくて。

 

 そんな思考を打ち払うように瞼を強く瞑った。

 

 こんな甘えた考えじゃダメだ。

 私は一人で生きていけるようにならないといけないのだから。

 じゃないと、認めてなんてもらえない。

 

「なんだか、懐かしいね」

 

 夜の闇に頭の中が染まりそうになったその時、朝葉がいるであろう方向から声がした。

 

「昔はよく一緒に寝たっけ。彩葉がホラー映画見ちゃったせいで一人で寝れなくなってさ」

「あれは……仕方ないやん。子供やったんやし」

「ははは、そうやね。お互い、子供やった」

 

 小さく笑う朝葉の様子が、少し変わったような気がした。

 嬉しそうな、それでいて少し寂しそうな気配を感じる。

 

「もう一人で寝れる?」

「馬鹿にせんといて。そのぐらい余裕や」

 

 当たり前だ。

 上京してからはもちろん、実家にいる時から自分の部屋で寝ていたのだ。

 今更一人で寝れないなんてあるはずがない。

 

 ……でも、何となく。

 今日は何となく、その答えだけでは()()()()と思った。

 

「……けど、偶には一緒に寝るんも……ええかもね」

「……そっか」

 

 朝葉は私の言葉を揶揄うでも笑うでもなく、優しく受け入れた。

 

 希望的観測だけど、もしかしたら朝葉も寂しいと思ってくれているのかもしれない。

 もしそうだったら、嬉しいな。

 

「そしたら、きっとかぐやが拗ねるやろうね」

「かぐやも一緒に寝ればええやん」

「あの、彩葉さん?僕って一応生物学上のオスで、あなた達は女性に分類されるんですよ?知ってました?」

「知っとるけど?」

「……そっかぁ。さすが彩葉は博識やねぇ」

 

 どこか諦めたような朝葉の声を最後に、涼しい空気と布団の仄かな暖かさに包まれて私の意識はゆっくりと落ちていった。

 

 

 

 

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