彩葉の弟は様子がおかしい   作:真球猫

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幕間1

 

 

 

 私はとある女の子に恋をしている。

 

 その子は優しくて、綺麗で、可愛くて、すごく頑張り屋な女の子。

 頑張り過ぎて、いつか目を離した隙に消えてしまいそうな儚さを纏う女の子。

 

 すぐに友達になったのとは裏腹に、ジワジワと自分の気持ちに気づかされていったのを覚えてる。

 ああ、私この子のこと好きなんだな、って。

 

 この気持ちに気づいてから一年くらいしか経っていないはずなのに、もうずっと想い続けている気がする。

 

 世間的に見れば、女の私がその子を好きになるのは普通のことじゃない。

 その子に拒絶されたくなくて、負担になりたくなくて。

 自分の気持ちに蓋をすることを選んだのは間違いじゃなかったと思ってる。

 

 でも、そんな簡単に割り切れるほど恋は軽いものじゃなかった。

 

 一番精神が不安定な時期だった。

 膨れ上がる恋慕と、それを発散できないストレス。

 何度も自分の心を抑えつけようとして、それでも好きっていう気持ちを諦めたくなくて。

 自分でもこの気持ちをどう処理すればいいのかまったくわからなくて。

 

 こんなに辛いならいっそ……なんて、変なことを考え始めた──そんな時だった。

 

 君の灰色の瞳が、泣いてる私を見つけてくれたの。

 

 

 

 

「それで彩葉ったらね、私のおでこに自分のおでこくっつけてきたんだよ?」

「かぁーっ!卑しか女ばいっ!我が姉ながら信じられないね!」

 

 木曜日の放課後。

 昼休みに約束した通り、私達はいつもの場所──学校から少し離れた位置にあるファミレスに来ていた。

 

 話が長引いて夜になってしまったからかほどよく混んでいて、そのおかげで多少大きな声を出しても特別目立つことはない。

 

「すごい動揺しちゃって……あの目で間近から見られると平常心じゃいられなくなるっていうか」

「わかるなぁ。宝石みたいな目してるもんね」

 

 ……それは君もだけどね、という言葉を飲み込む。

 

 こういう相談会──朝葉君曰く『クソボケ対策会議』は、いつもここか家から通話で行う。

 

 通話でする時は、片手間で絵を描きながら話す。

 その時によってお題を出したり出さなかったりして、決めたものを緩く描く。

 

 名目上はイラスト上達の為の相談会なのだから、このくらいはするべきだと思ってる。

 

 そのおかげかいつの間にか色んな絵が描けるようになってしまった。

 ……まあ、その代償として絵を描いていると彩葉のことを思い浮かべる悪癖もついちゃったんだけど。

 私のイラストフォルダは彩葉だらけだ。

 

 

 

 一年生の夏頃。

 

 彩葉の顔を見るだけで涙ぐんでしまうくらい心が追い詰められてて、心配を掛けたくなくて彩葉や真実と距離を取ってた。

 

 誰にも相談できない。

 解決方法はこの気持ちを終わらせることだけ。

 それをわかっているのに、みっともなくしがみついて余計苦しんでを繰り返す。

 

 そんなことをしてたら、ある日朝葉君に呼び出された。

 

 当時から友達ではあったけど、今ほど距離は近くなかった。

 首の傷にちょっと警戒してたくらいだし。

 

 シチュエーション的にまさか告白でもされるのかなって思って、正直行きたくなかった。

 色々と限界で、自分のことで手一杯だったから。

 

 でもその時、朝葉君は自分のことを一切話さなかった。

 

『芦花ちゃんはさ、彩葉が好き……なんだよね?』

 

 そう問いかけてきた時の君の顔をよく覚えてる。

 いつもみたいなヘラヘラした顔でも、時折見せる真剣な顔でもない。

 優しくて柔らかい、慈愛すら感じる微笑み。

 

 初めて見たわけじゃなかった。むしろ、定期的に見られる表情。

 でも、その日は一段と優しさが色濃くて。

 どこか吹っ切れたような顔にも見えた。

 

 何故私の気持ちを知っているのかとか、それを指摘して何が目的なのかとか。

 そんなの考える余裕もなくて、知られてしまったのならもうどうでもいいやと思った。

 

 そして、私は朝葉君に自分の気持ちを全て曝け出した。

 

 彩葉のことが好き。でも拒絶されたくない。

 意気地無しな自分が嫌い。でもどこかでそれを正しいとも思ってる。

 辛くて、苦しくて、どうしたらいいかわからない。

 

 そんなことを、順番も内容もグチャグチャにぶち撒けた。

 今思えば、聞いてる方は何のことを話しているのかわかりにくい内容だったと思う。

 

 でも、君は理解してくれた。

 その上で、安易な解答を示したり根拠のない肯定をしたりはしなかった。

 

 ただ私の話に相槌を打ちながら全部聞いてくれた。

 ゆっくり答えを探して行こうと言ってくれた。

 

 

 どんな結論を出しても、自分は味方だと言ってくれた。

 

 

 結局、朝葉君は私の相談に乗る為に声を掛けてくれたようで、図らずも目的を達成できたと笑ってた。

 

 それからは、気持ちが溢れそうになったら朝葉君に吐き出すようになった。

 

 最初はさすがに申し訳なさとか恥ずかしさで一杯だった。

 けど、朝葉君があまりにも楽しそうに話を聞いてくれるから。

 その内私も話すのが楽しくなっていて、色んな事が気にならなくなった。

 

『話す内容はどんなに下らないことでもいいよ。好きな彩葉発表芦花ちゃんになろう!』

 

 そう言われた時は少し意味がわからなかったけど……。

 とにかく私の心の中身を全部吐き出す勢いでたくさん喋った。

 彩葉と話したこと、彩葉がしてくれたこと、彩葉にドキドキさせられたこと。

 

 そんな話を、君はずっと私に合わせて聞いてくれる。

 時に笑って、時におどけて、時に真剣に。

 一切の見返りを求めずに、まるでそうすることが当然みたいな顔をして。

 

 他人の為にそんなことできる人、ほとんどいないってわかってるのかな?

 わかってないよね、だからそんな顔ができるんだもんね。

 

 君がすごく優しい人なのはとっくにわかってる。

 だからこそ、少しだけ心配だ。

 世の中には人の優しさにつけ込むような人もいる。

 

 

 ……そんなに優しいと、いつか悪い女の子に利用されちゃうよ?

 

 

 

「スケコマシ寄クソボケ葉だね〜」と本人が聞いたら激怒じゃ済まないあだ名を発明してる朝葉君を見つめる。

 

 そして、何気なくその白磁のような頬に右手を添えた。

 

 一瞬ビクッ!と身体を跳ねさせた朝葉君と視線が合わさる。

 やっぱり、君も宝石みたいな目をしてる。

 

「あ、あの……芦花ちゃん?」

「朝葉君ってさ、やっぱり彩葉に似てるよね」

「えーっと?彩葉の方がだいぶ美人だと思うけど……」

「似てるよね?」

「ハ、ハイ。ニテマス」

 

 そうだよね、似てるよね。

 

 優しく垂れた目尻とか、瞳の色とか、意外と男の子らしい身体つきとか、違うところもたくさんあるけど。

 

 嫉妬しそうになるほど小さい顔とか、艶のある紫紺の髪とか……誰かの為に自分を削っちゃうところとかは、本当にそっくりだ。

 

 隠しきれてない薄く浮き出た隈を親指で優しくなぞる。

 お仕事忙しいんだね。それなのに何も言わずに私に付き合ってくれてる。

 

 君の優しさは、君自身に向いていないような気がするの。

 

 彩葉と朝葉君はよく似ている。

 でも、その儚さだけは似てほしくなかったな。

 

「ねえ、朝葉君」

「アノッロカサン……スゴクミラレテマス……」

「また……相談に乗ってくれる?」

 

 私の問いに、朝葉君が目を瞬かせる。

 

 ずるい言い方なのはわかってる。

 けど、こう言えば君がずっといてくれる気がして。

 どこかに消えてしまわないように祈りを込めた。

 

「もちろん、いつでも頼ってね」

 

 そう言って笑う君の顔は、やっぱり彩葉に似て綺麗だった。

 

 

 

 

 私は彩葉のことが好き。

 これは、私の中で何よりも大きな気持ち。

 

 でもね、君に対するこの気持ちも負けないくらい大きくなっちゃったんだよ?

 君はきっと気づいてないんだろうね。

 そういうところも彩葉とそっくりだから。

 

 いつかこの気持ちを君に伝えられる日が来るのかな。

 今の臆病な私じゃ、逆立ちしても無理だろうけど。

 

 そんな日が来たらいいな。

 そんな日に辿り着けるように頑張ろう。

 

 だって、君が私に前に進む勇気をくれたから。

 君がくれた勇気を、裏切りたくはないから。

 

 

 

 

 それにしても、朝葉君の顔が少し赤くなってたけど大丈夫かな?

 やっばり寝不足なのに無理させちゃったのかも……。

 今度からは誘う頻度を減らすようにしないと……自信ないなぁ。

 

 

 

 




幕間は湿度マシマシでお送りします。


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