ヴェルグンデの嘲り   作:ほいれんで・くー

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6. 給餌

「ええ、ええ。そういうふうに思っていただいて構いません。実際そのとおりなのですから。目指していた道を中途で諦めなければならなかった者たち、夢破れた者たち、理想が潰えた者たち、そういう者たちがせめて生存という最低限の目的を果たすための、いわば一時的な腰かけとする。そういうためにこの仕事を選ぶということは非常によくあるのです。ただし、生存というものが最低限の目的であるかどうかは分かりません。むしろ、生存こそが人生における最大限の目的であるという、そのことに気づいた者が他の目的をもすべて果たすことができるのではないかと、私は思うのですが」

 

「ただ、勘違いしていただきたくないのは、やはりこの仕事を腰かけとしてではなくて、最初から腰を据えて人生の本道とする者たちも大勢いるということですよ。ええ、そういう人たちにとっては腰かけなどと見なされるのはまさに屈辱でしょうね。事実として、私のような腰かけを求めている人間と、本道と見なしている人間、その間には何か言いようのないわだかまりのようなものがあります」

 

「この仕事に私が就いたのは今から二十五年前……今は五十五歳ですから、三十歳の時ですね。まさに夢破れた者が腰かけを求めるように、私も腰かけを欲していたのです。そして、案外すぐにそれを見つけることができました。なにしろ人手不足だったものですから、犯罪者でもない限り職歴も学歴もいっさい不問ということが多かったのです。お高く留まっているところはああだこうだといろいろなことを要件としていましたが、そんなことに合理的な理由があったものか私には疑わしい。おそらく組織文化としてそういうものを欲していただけでしょうね」

 

「いや、それにしてもあの当時と比べて、今ではなんとこの仕事が減ったものか。今ではまばらにしかこの仕事は見られない。まったく、この社会も衰退しました。いや、衰退というよりは、衰弱という感じですね。私たちの仕事だけじゃない、他の仕事もどんどん減っている。そして、仕事が減っていても、求人だけは途切れない。今では選り好みさえしなければ就職に困ることはない。つまり、人そのものが減ってるんですね。仕事は幽霊のように残っているのに、墓穴を掘る人間が足りないわけで……結果として、社会全体に死臭が漂っている。その社会に活力があるのかないのかを判断するのは簡単です。死臭があるかないか。これだけですよ。これが簡単で確実です」

 

「退屈させると悪いので、仕事の内容からお話をしましょうか。事前にお聞き及びでしょうし、あなたも知っているでしょうが、私の仕事は給餌(きゅうじ)です。ええ、餌をやる。それだけですよ。給餌をする。ああ、おっしゃらないで。確かに給料は安い。社会的地位も高くない。でも、世間一般で言われているように、それは仕事が簡単だからではないんです。むしろ、仕事そのものは非常に難しい。ここが誤解を招きやすいところです。餌をやるだけ。ええ、表面的にはそうです。しかしこれがなんとも難しい……ことさらにこの仕事の難しさを強調して、自分の優秀性をアピールしようなどという、そういう意図からではないですよ。それはこれから私がお話することを話せばお分かりになるはずです」

 

「餌をやる。私たちの言語は厄介なことに間接目的語と直接目的語の両方を必要とする時でも、あえて間接目的語を省略することで、それなりの含意を示すことができます。そうですよ、餌をやると言った場合は、必ず間接目的語が必要なんです。何に対して? 餌を受け取るのは何? 私はあえて間接目的語を省略しました。理由はお分かりでしょうか? 私は実は省略したのではありません。それをそれと言うことができないのです。犬は犬ということができます。ライオンはライオンと言うことができる。様々な種類がいたとしても、それはそれと呼ぶことができる。しかし、私たちが餌をやる対象は、それと呼ぶことができないのです。これが、私たちの仕事の難しさの主要な原因であり、ほとんどそのすべてと言っても良いでしょう」

 

「年によって、それはまったく異なります。また、同じ年においても、季節や時期によってまったく異なります。たとえば、私が今年餌を与えているのは、こういうものです。ワニのような鱗が生えた長くて頑丈な胴体、それに不釣り合いなほど貧弱な人間の手足、背中には蝶の羽が生えていて、尾の先にはカタツムリの目が二つ。頭部には孔雀の冠羽のようなものが生えていて、しかし顔つきはハクビシンのそれです。ええ、これでもこれはかなり分かりやすくて手がかからない部類です。実際、私は今年物足りなさを感じているのですよ、贅沢なことですが。しかし今はまだ四月ですからね。六月になったらまた変わるかもしれません」

 

「初めて担当した時のそれは、姿がまったく異なりました。見た目はまるで猿そのものでしたね。顔だけが鹿でしたが、その他はすべて猿そっくりなんです。こう見えて生真面目なものでして、餌をやり始めた頃は何かの参考になるかと思って、動物園で猿山の飼育員が猿に餌をやる動画ですね、そればかり何度も見て研究を重ねたものです。ですがこれも一ヶ月、二ヶ月、半年と時間が経つと、もう猿ではまったくない。半年後にはバッタですね。バッタになっていました。しかしそれも全体の形をおおざっぱに掴んだらまあバッタと言えなくもないという感じで……なにしろ、胴体はミミズのような環形動物のそれでしたからね。長く伸びている脚がバッタっぽいからバッタ。そういう感じです」

 

「これだけ違うのだから、それはいつもまったく異なるのではないか。そのようにお思いでしょうが、いえいえ、そんなことはありません。それはやはりまったく同じなのですよ。年ごと、季節ごと、月ごとに姿は変わる。変わるのですが、やはりそれはそれです。なぜ同じと呼ぶことができるのか。それはやはり、餌のせいですね。それはいつも私たちの餌を食べています。同じ餌を食べて、同じように成長していく。餌の面から、私たちはそれをそれだと認めることができるわけです。奇妙な考え方だと思いますか? しかし考えてみてください。姿形がまったく同じ生き物がいたとして、一方は肉だけを食し、もう一方は植物だけを食する。仮に食べ物を交換した場合、その生き物はすぐに死んでしまうとしたら……やはり人々は、その生物は見かけこそ同じではあるが、別の種の生き物として分類するのではありませんか。いえ、生物学的な話ではありません。これはどちらかといえば心性の話、あるいは文学の話ですよ」

 

「ともあれ、同じ餌、何十年にもわたって同じ餌を食べて、それで一向に死んだりとか体を壊したりだとか、そういうことはない。それならば、いくら見た目が異なっていたとしても、それはやはり同じ生き物です。そして、それが同じ生き物であるのならば……あえてそれに名前をつける必要はないわけです。なぜなら、その生き物を同定するのには名前は必要ではなく、単に同じ餌をやるという行為があれば良いのですから。言うなれば、彼らの存在をこの世に固定しているのは、我々自身なのかもしれませんね。餌をやる我々によって、彼らのことをそれという単なる代名詞で呼ぶことができるのですから」

 

「それではやはり重要になってくるのは、どのような餌か。これですね。餌。単純なものですよ。まさに餌という感じの餌です。形は粒状で、色はくすんだオレンジ色、大きさは人差し指の先ほどですかね。重くはないですが、存在感はあります。匂いは……ちょっと言い表しにくいです。あまりにも複雑なので、良いとも悪いとも言えない感じです。その日のこちらの体調によって匂いは異なります。いえ、体調というよりは、精神状態と言った方が良いでしょうか。たとえばその日が姪っ子の誕生日だったりしますね。そうすると餌はかなり良い香りです。甘くて爽やかな香りがするんですね。しかしその日に誰かと喧嘩をしてから職場に来ると、餌は悪臭を放っています。使い古した歯ブラシのような……最悪です」

 

「なにでその餌ができているか、ですって? 実は私もよく分からないのです。いえ、説明しようと思えば説明できます。どこかの企業や勉強会にパネリストとして呼ばれて、この餌について説明してくださいと言われれば、それなりに説明することができるでしょう。ただし、それで説明しきれるかというと……まあ無理でしょうね。あなたも図書館に行ってみてください。この餌の本だけでも、ゆうに一つの書棚を埋め尽くすことができるのですから」

 

「で、この餌は大きな袋に入っています。そうですね、まあだいたい十五リットルとか、二十リットルとか。これを一日三回に分けてすべて使い切らねばなりません。これがまた、その日の精神状態によって重さが変わる。厄介なのは、良いことがあって心が弾んでいる時には袋はものすごく重くて、嫌なことがあって気分が沈んでいる時には、至極袋が軽い。いったい、匂いをとるべきか、それとも軽さをとるべきか。そのようにお考えになるかもしれませんが、実際のところ我々がそれを決めることはできません。というのは、人間というものは自分で自分の精神状態を客観的に把握することなどほとんどできないからです。職場に行って、タイムカードに打刻をして、着替えて、倉庫に行って餌の袋を持ち出す。あるいは袋の封を切って、餌の匂いを嗅ぐ。その時に重いとか良い匂いとかが分かって、ああ今日の俺は精神状態が良くないなとか、そういうことが分かる。これは逆説的に言えば、餌の方が私たちの精神状態を決定していると、まあそう言えるかもしれませんね」

 

「餌のやり方ですか。まず、どこで餌をやるのかということですね。飼育室は大抵円形になっていて、部屋の中央はすり鉢状に窪んでいます。餌をやる我々は床が窪み始める縁のところに設けられた高い壇に立つわけですね。そこから、すり鉢の底にいる彼らに餌をやるわけです。ええ、袋に手を入れて、餌を手のひらで掬って、それをばら撒くという感じですね。口で説明するとそんな感じです。しかし、これは実際に見てもらった方が良い。というのは、これだけ一連の流れにも、厳密な手順というものが決まっているからです」

 

「この一連の手順というものは、実に単純です。しかし、単純な動作が無数に組み合わされている。ゆえに難しいのです。この仕事は離職率が高い。腰かけとしてこの仕事を選ぶ者が多いゆえ、腰かけが必要なくなったら辞めてしまうという人も多いのですが、私が思うにそのようなことを言っている人の半分以上は、実はこの仕事の難しさに面食らって、自分にはとても続けられそうにないと感じたから、要するに自尊心というか自己有能感を失ったから去っていくんでしょうね。辞めていく人間の顔を見ればそれは分かりますよ。打ちひしがれた顔をしているのに、本当にやりたいことが見つかったなど、そんなことがあるわけがないですからね」

 

「まず、ドアの開け方から決まっている。ドアは必ず左手でダイヤル錠を持ち、右手でダイヤルを回さなければならない。ただし、両手の小指はいつも伸ばしていなければなりません。ダイヤル錠が開いたら、右手でノブを回しますが、閉める時は必ず振り向いて、左手でそっとドアを押さえるようにして、音を立てずに閉めなければならない。これを守らないだけでも人事考課にとってはマイナスです。理由? ドアの音のせいで彼らが死ぬからとか、悪影響があるからとか、そんなことらしいですね。しかし私が見聞きした範囲では、音のせいで死んだものはいませんでした。今後も死ぬことはないでしょうね」

 

「それで、餌の袋を壇の近くまで持ってきますよね。この時、入口から壇上まではきっかり二十四歩で歩かねばなりません。数字に意味などありませんよ。他の職場では三十五歩とか、九十七歩とか、まちまちです。部屋の大きさにもよりますが、これも言ってみれば社風とか組織文化というものでしょうね。それで、壇上に登ったら、今度は餌の袋を右手側に置く。ただし置く距離が問題です。腕一本よりもさらに人差し指一本分離して置け、というのが私の職場のルールです。これにも合理的な理由はないですね。その距離に置いたら遠すぎるんです。しかし、先輩などはその遠さが重要なのだと言います。私も最初の頃はああだこうだと文句を言ってみたり、自分なりに理由を考えたりしましたが、最近では同じ考えです」

 

「袋を置いてからきっかり五分後にチャイムが鳴ります。それで餌やりが開始されます。ブザーが鳴るまではそれはもう元気なものです、彼らは。飛び跳ねたり、はしゃぎ合ったり、脚を絡ませ合ったりして……愚かだなぁと思いますよ。はしゃぎすぎてケガをしたり、触角が折れたり、脚が千切れたりするものもいますからね。しかし、醜いとか、気持ち悪いとか、そういうことを感じたことはありません。この仕事に就くにあたって最も重要な資質は、もしかしたらこれかもしれませんね」

 

「餌やりですが、これはまあ単調なものです。顔はまっすぐに、背筋を伸ばして、丹田に力を込める。目線は彼らに向けておいて、しかし口は閉じておく。顎を引く。右足は半歩だけ前に出す。左足の踵はちょうどハガキ一枚が入るほどに低く上げておく。右手を水平に伸ばし、ゆっくりゆっくり、野良猫に近づくように袋の上へ手を持っていきます。そして袋に右手をショベルのように勢いよく突っ込み、掬い取り、それから餌の乗った手のひらを上に向けたままそのまま垂直に持ち上げ、それから目の前の蠅を追い払うように右手を振る。これを繰り返します。餌がばら撒かれるわけです。ええ、ずっとこれを繰り返す。ちょうど四十五分間ですね。一回の動作に三十秒かかりますから、全部で九十回です。多少の誤差は許容されていますから、多くても百回といったところですかね」

 

「夏場も冬場も特に重労働となります。なにせ冷暖房はありませんからね。彼らにとって冷暖房は却って有害だということらしいです。職場においては彼らが第一ですからね。我々の労働条件というものは考慮されません。百回も繰り返すと疲労困憊となりますが、この後はまだ中身が残っている袋を持ち上げ、部屋から出ていかねばなりません。もちろんこの動作にも決められた手順がありますし、守らなければなりません。それで別の部屋に行って、また同じことを繰り返します。ええ、七時から七時四十五分にかけて餌を食べるグループと、八時から八時四十五分にかけて餌を食べるグループといったように分かれているのですよ。それで害はないのかといえば……どうなんでしょうね。害はあるのかもしれませんが、だからといってすべてのグループに同時に餌をやるわけにはいかない。人手が足りませんからね」

 

「彼らがどのように餌を食べるか、ですか? 意外に思われるかもしれませんが……ここからが重要なんです。そう、ここからが難しい。この仕事の忙しさについてはけっこう話してきましたが、言うなればここから話すことが本当の難しさです。餌をやれば彼らは食べる。そのように思っていませんか? しかし事実としてはそうではない。その正反対です。先ほど私は、彼らはブザーが鳴るまでは元気だと言いましたね。はしゃぎ合っていたりと……それが、餌を撒かれ始めると、彼らは死んだように元気ではなくなるのです。そう、息を殺して、言うなれば無にでもなろうとするかのように、ひっそりと身を潜めるのです。あるいは身じろぎをしたり、荒々しく手足を動かしたり、鳴き声を上げるものもありますが、まあ大抵は非常に大人しくなる。そして、餌をまったく食べようとしない」

 

「彼らが餌を食べないとどうなるかは、我々もよく知っているわけです。そう、成長しない。言ってみればそれだけです。しかしながら、なぜ彼らは成長しなければならないのか? この点に関してはあまり議論されていませんね。生き物であるからには成長しなければならない、という者もおりますが、考えてみればこれはちょっとおかしい。というのは、生き物は必然的に成長するものでありますが、だからといってそこから成長しなければならないというテーゼが出てくるのは論理的には繋がらないものがある。これはちょうど、人間というものは死ぬものである。だから人間は死ななければならないというようなものです。例えが適切かは分かりませんがね」

 

「もちろん、経済界や産業界からの要請は常にありますよ。彼らが成長しなければならないのは、つまりそういう界隈がそれを望んでいるからです。しかし、彼らの姿形が時々によって異なるのに本質的には一つでしかないのに対して、経済界や産業界の要請は実に雑多、もう分類すら面倒になるほどの乱雑な要求です。それで、その要求というものに合わせて、彼らも成長しなければならないと、まあそのように言うわけです。ところが、こちらとしては彼らが成長を心の底から望んでいないことなど分かっているし、それに成長したところで決して望まれているように育たないことも分かっている。それに、そのように望む連中が、実際に我々が餌をやっているところに来て、その様子をつぶさに見ることもない。だから彼らの要求はいつでもずれています」

 

「我々としてはそれでけっこうなのです。彼らはまったく餌を食べない。食べないからこそ、ここで工夫をすることができる。実際のところ、望まれたとおりに成長させねばならず、そしてその過程を細かく監督されるとしたら、この仕事に就くものは一人残らずいなくなるでしょうね。実態としてはこういうわけですから、我々としては大いに工夫の余地がある。残念ながら我々は声を発することは禁止されています。声のせいで死ぬものが出るかもしれないということですが、まあこれも他のことと同じです。それでも工夫はできる。例えば、餌をばら撒く時にほんのちょっと指先で角度を調整して、餌が撒かれるところを一か所に限定してやる。すると彼らの中でも公平とか不公平とかいう観念があるので、そこでようやく食べ始めるものが出てくる。いやまったく、この仕事に才能がない人間が採るべき手段といったら、専ら競争心や対抗心を鼓舞してやることしかありません。それならば、どれほど才能がなくても確実に成果が上げられますからね」

 

「もう二十五年もこの仕事をしておりますが、私はいまだに給餌が上手くなったとは思っていません。正直なところ、私は呼吸するかのように一連の流れを繰り返すことができます。その点では慣れた、ということができますが、それでも慣れはそのまま熟達を意味しませんからね。熟達というのは、その本質を理解して、自分なりにその本質を具現化することができる。それを熟達というのですからね。私はただ、文句を言っているだけです。これはおかしいとか、あれは不合理だとか、そういうことを言っているだけです」

 

「誇りですか? もちろん。私は自分の仕事を誇りに思っています。いや、どうでしょうね。この仕事はやはり誇れるものではありません。あまりにも馬鹿馬鹿しいことが多いですからね。私はむしろ、誇れるものではない仕事に専念している自分自身を誇っているのでしょうね。転がり落ちる岩を押し上げ続ける神がいるらしいですが、そんな感じですね。その神はきっと、自分自身のことを誇っていると思います」

 

「最近懸念していること、ですか? あります。彼らがますます餌を食べなくなっているということです。明らかに彼らは食べていませんね。私の技術が衰えたというのもあるかもしれませんが、それでも彼らは食べない。気になったので先輩たちにこのことを相談したのですが、先輩たちはみんな笑って俺たちの頃も彼らは食べなかったよと言います。そんなものなのかもしれませんが……なにせ、成長したら成長したで、待っているのは死ですからね。彼らは彼らそのものが望まれているのではないのです。彼らは彼らから採れる素材が望まれているだけですからね。そして彼らはしっかりとそのことを分かっている」

 

「しかし、彼らがささやかな抵抗として餌を食べなかったとしても、待っているのは同じことです。餌を食べなければ食べないでそのまま廃用処分になりますからね。しかし厄介なことに、今では廃用にも費用と人手が要るということで、廃用待ちがどんどん溜まっているとのことで……長いのになると、もう五年は待機室に入れられているなんてケースもあるとのことですが」

 

「ああ、廃用待ちが待機している間に食べている餌ですか? 食べませんよ。そんなものは要りませんからね。要らないものに金を使うこともありません。経済合理性がありませんから」

 

「……だからですね、彼らはそもそも、餌なんて食べなくても死なないんです。ご存じではなかったのですか?」

 

(「給餌」おわり)




※以下、作者による作品メモ

 こういうモノローグ形式の小説は私にとって最も書きやすいものです。実際のところは書きやすいと感じるというだけで、労力としては他の形式とさして変わらないのですが……最初の一文がどうしても思い浮かばない・アイデアは良いのだがどのような形式が良いかピンとこない、という時にはモノローグ形式がおすすめです。

 給餌と「それ」についてはあることを明確に意識して書いたのですが、読み直してみるとけっこういろいろと解釈できることに気づきました。それはそれで良かったと思います。
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