姫と従者のRadio Duo   作:びーびー

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星降る海

 

 

【姫と従者のLiveDuo~私の歌を聴け!~】

 

・待機

・待機

・待機

・おっ!

・キター!

・キター!

 

 待機画面が解除され、配信画面に切り替わる。

 

 いつものスタジオ。

 

 いつもの装備の私たち。

 

 ただ今日はいつもとは違う点がいくつかある。

 

・暗っ!

・画面暗転しとる!

 

 一つ。

 

 配信用のパソコンの前にはお父さんが座っており、今日の配信の演出面を買って出てくれている。

 

・おっ明るくなって!?

・三人いる!?

・新メンバー!?

 

 二つ。

 

 今日の演奏は肇さんと姫のダブルギターだ。

 

 もちろんドラムなどは録音したものを使うが、私も姫も歌って演奏しての両方では体力が持たない可能性がある。

 

 いつもは休み休みで数曲だが、今日は違う。

 

 今日のためにライブの名の通り、5曲のミニライブ編成を用意してきた。

だからこそ肇さんに協力をお願いした。

 

 まぁ娘に甘い二人の父親は交渉のために用意していた手札の一枚も出さずに承諾して肩透かしだったのは今は置いておく。

 

 閑話休題。

 

 明るくなった配信画面上ではセンターにスタンドマイクを構えた私、左側にギターを持ったコーラスの姫、右側には黒子姿の肇さんが映し出されている。

 

 そして、コメント欄の疑問を置き去りに肇さんがギターをかき鳴らす。

 

・ちょWWWWW

・うますぎ

・っていうか新曲スタート!

・え、ってかこのギターって……

 

 ワンフレーズを繰り返すギターソロから始まったその曲はドラム、姫のギターを加えてイントロを創り上げていく。

 

 視界の片隅に姫が映り、お互いに笑みがこぼれる。

 

 イントロが中盤に差し掛かったのを機にマイクを両手でつかみ、そして叫ぶ。

 

「コバルトブルー!!!!」

 

・うおぉぉぉ!

・アネさーん!

・あちぃ!!!

・おおおおおおおお!

 

「この夜が、明ける頃!俺達は風になる!勿忘の、花びらを!舞い上げて吹き抜ける!」

 

・イケボっ!

・ハスキーボイスはあかん!

・アネさん、あんた何んちゅうもんを……!

 

 コメント欄の盛り上がりは上々。

 

 サビに向かうにつれて同接も上がっていく。

 

 1000前後で始まった同接も今は2000が見えてきた。

 

「ただひたすらに!生きた証を刻むよー!」

「「今ー!」」

 

 サビに入るとともにスタンドからマイクを外し、両手でつかむ。

 

 一節、一節に魂を込めるように歌をマイクに叩きつけていく。

 

「俺たちは!風の中で!砕け散り一つになる!辿り着く場所も知らぬままー!燃え尽きる!」

 

 一番を歌い切ったが思った以上に消耗している。

 

 やはりライブ。

 

 これがライブ。

 

 いつもメインを張ってけろりとしている姫のすごさを改めて痛感するが、それは後でいい。

 

・すげええええええ!

・この熱量で歌いきれんの!?

・叩きつけられたわ……

・アネさーん!

・いやでもこれギターもえぐい!

・リードもえぐいし、それに合わせて弾きながらコーラスやっとる姫もえぐい!

 

 一つこの曲を歌っていて痛感した。

 

 ……これは一曲目ではなかったかもしれない。

 

「俺たちはぁ!あぁぁあぁーっ風の中ぁ!」

 

・うおおおおおお!

・きゃああああああ!

・アネさーん!

・姫ー!

・黒子さーん!

 

 

「ひゅー!」

「あっつぃ」

 

 普段と特に変わらない環境のはずだが、思った以上に力が入っていたらしい。

 

 額から流れる汗を手で拭い、マイクをいったんスタンドに戻す。

 

「というわけで始まりました姫と従者の”Live”Duo。なぜか今日のメインを張らされているアネモネです」

「そして!あーちゃんの姿に感無量、姫です!」

 

・88888888

・最初からとばすなー!

・少し休んでもろて

 

「いやー思ったよりきついね。なんでだろ」

「やっぱり普段と違ってライブだからじゃない?」

「多分力が入ってるんだろうなぁ」

 

 手の平を軽く握ったり、開いたりすると軽く震えていることを自覚する。

 

 ふと視線を感じるとやや心配そうな姫の顔が思ったより近くにあり驚きながら、手を軽く振り問題ないとアピールする。

 

「大丈夫。今日はマイクしか持ってないから普段より身軽だよ」

「あーちゃん、すぐ大丈夫っていうからなー。ダメそうなときはちゃんと言ってね」

「うん。今日は燃え尽きるまで走っちゃおう」

 

・無理せんでなー

・けがとかしても困るし、無理しないで

・ゆっくりでええんやで

 

「大丈夫。こうやって喋ってれば元気になるから。っていうかライブが楽しすぎて自分を抑えられなかったみたい」

「わかる!二人で歌ってるのももちろん楽しいけど、みんなのコメントとか反応があるといつもとはまた違う楽しさがあるよね」

 

 そうやって顔を見合わせて笑いあう私たちの姿にコメント欄も先ほどまでの心配そうな流れからほんわかした流れに切り替わる。

 

 ほっと胸をなでおろしているとお父さんからカンペが一つ入る。

 

「あ、そうだ。今日は特別ゲストに来てもらってます」

「黒子君でーす」

 

 実の父親だからか姫の気の抜けた紹介に肇さんはギターをかき鳴らす。

 

 無言。

 

 だが圧倒的なギターの演奏技術が何よりも雄弁な自己紹介だろう。

 

・ふぁー!

・ウマスギィ!

・アネさんの演奏もすごいし、姫の演奏もうまいって思ったけど、黒子君は別ベクトルですげえなぁ。

・余裕の音だ。馬力が違いますよ

・え、男?

・男かぁ

 

 大多数は肇さんの技術に対して賞賛を送っているが一部に暗雲が漂う。

 

 男の影が見えるだけですぐにうがった方向に考えるユニコーンと呼ばれる連中がいることは知っていたが、こんなところにも湧いて出るとは。

 

 まぁただこの問題に関してはすでに姫と話して無視するという方針で決定済みだ。

 

 好きなことをやるためにVライバー事務所などに所属せず個人勢をやっているのだからいちいちそんな連中を相手にする必要はない。

 

 過激なコメントを撃ちこんでくるユニコーンは今もお父さんの手でブロックされていく。

 

「今日はあーちゃんの負担を減らすために黒子君に来てもらいましたー!」

「ありがとうございます」

 

 軽く頭を下げる私たちに肇さんはジェスチャーだけで気にしないでと答える。

 

 まぁコメントにはまだ微妙な連中もいるが、それも時間の問題だろう。

 

「さて、いつもならふつおたを一通と言いたいところですが、今日はライブ!」

「いやー少しは休ませてよー」

「あーちゃんならできるできる!」

 

 そんなやり取りをして少し息を整えた私は姫にアイコンタクトを送る。

 

 予想以上に消耗しているが、このペースなら何とかなる、といいなぁ。

 

「まぁせっかくの記念ライブだからずっと喋っててもしょうがないってことで次行きますか?」

「おっけ!さすがあーちゃん!黒子君も行ける?」

 

・おぉ!

・がんばれー!

 

 姫の問いにはかき鳴らされたギターが答え代わりになる。

 

「じゃあ次の曲聞いてください。ASIAN KUNG-FU GENERATIONさんで『リライト』」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「っというわけで今のが最後の曲、日食なつこさんで『水流のロック』でした」

「いやー、あーちゃんの歌を聞いてたら4曲なんてあっという間だったね!」

「いやいや、あんたも歌って演奏してやってたでしょ」

 

・それはそう

・姫、お前記憶が……!?

・しかし4曲全部新曲とは!このリハクの目をもってしても

・リハクさん毎度節穴でワロタ

 

「さて、今回のliveduoもそろそろお別れのお時間が近づいてまいりました」

「えー!まだ聞き足りなーい!アンコール!アンコール!」

 

・アンコール!アンコール!

・アンコール!アンコール!

・あんこ売る!あんこ売る!

・こしあんか粒あんか、それが重要だ!

 

「私はこしあん派です」

「あたしもこしあん!ってそうじゃなくて!まだ終わりたくないよー」

 

 だだをこねる姫の姿にお父さんと肇さんとで視線をかわす。

 

「?」

 

 打ち合わせにない行動に姫が疑問符を頭上に浮かべている間にそれぞれが準備を進める。

 

 ここからは姫に言っていないアンコールだ。

 

「わっ!?何?」

 

 お父さんの操作で配信画面が暗転し、私と姫にスポットライトが当たる。

 

 それと同時に肇さんが用意したアコースティックギターが私に手渡され、同時にマイクスタンドの位置も調整された。

 

 いくつか弦を揺らし、チューニングがずれていないかを確認。

 

 問題は、ない。

 

「えー、突然ですが少し時間をいただきます」

「あーちゃん?」

 

 姫の戸惑いをよそにポケットから用意していた原稿を取り出す。

 

 本来ならカンペはない方がいいのかもしれないが、生放送でのぐだりを回避するためにはまぁ仕方ない。

 

「姫、今日は姫にお礼を言いたいと思います」

「え?なに?どーしたの突然」

 

 少し気恥しいが、こういった機会でもないと改まって言うことも難しい。

 

 それは彼女への、感謝だ。

 

「姫、誘ってくれてありがとう。最初はかなり強引に誘われたこのRadioDuoだけど、今はとっても楽しんでいます。まぁ誘われなかったとしてもそれはそれで姫と二人で楽しんでいただろうけど、今は演奏を聴いてもらって、反応をもらってとそんな日々がとても楽しいです」

 

・アネさん……

・がちどっきりか

・強引にアネさんを誘う姫、解釈一致です

 

「姫、笑ってくれてありがとう。疲れたなって感じるときも、いろいろあって落ち込むときもどんな時も、姫が隣で笑ってくれるから頑張れます。負けらんないって踏ん張れてます」

「……」

 

・わかる

・姫の笑い声は癌に効くようになる

・もう効いてる

 

「姫、出会ってくれてありがとう。あの日から、あなたに出会った日から私はいつも幸せです。たくさんのものをもらいすぎて、全然返せてない」

「そんなこと……」

「だから、今日。少しでももらったものを返すために歌を歌います。私が、姫に歌いたい」

 

・え?これってプロポーズ?

・いつからか結婚式場に迷い込んでいた?

・姫だけじゃない、アネさんにもありがとうと言わせてほしい

・ホントそう。ありがとうひめじゅう!

 

「……聞いてください」

 

 完全な、衣擦れさえも聞こえない静寂の中、吸い込んだ空気の音が妙に大きく聞こえる。

 

 特に打ち合わせ等もなかったが自然と姫と向かい合う形で、準備を終える。

 

 原曲とは違うアコースティックギターアレンジだが、問題はない。

 

 いつしか配信画面は海の中に沈んでいた。

 

「……幾千の時を巡って今、僕ら出会えたの。ほら、見失わないように手を離さないで」

 

 始めのイントロを歌いあげると、一気に海の彩度が増していく。

 

 そしてもうひとつ、姫の瞳もまた輝きを増していく。

 

 あぁ、私はずっとこの輝きに導かれていたんだ。

 

「ねぇ耳を澄ませて。星の降る音が聞こえるでしょう?もっと近くに来て。誰も知らない世界が待ってるの」

 

・これって姫が語りかけてるんか

・こうやってアネさんを引っ張る姿が目に浮かぶよ

・ほんとうに姫に捧げる曲じゃん

 

「宙、海の向こう。きみのもとまで、響くように歌えるかな。どんな時もここで待ってるよ、祈っているからさ。ほら、きらきら輝く星は、色褪せず太古から照らし続けてる

きみと辿り着けるさ」

 

 サビが終わると同時に姫の瞳から涙がこぼれる。

 

 泣いてほしいわけじゃないんだけど。

 

 たとえそれがうれし涙だとしても、やっぱり姫には笑っていてほしい。

 

「宙、海の匂い。きみに届くかな、距離なんてないのかな。どんな時もきっとどこかで、見守っているからさ。ほら、くしゃくしゃになって笑う日を集めて紡いで、未来へ踏み出す先もきみと心震わせて」

 

・こんなん泣く

・いやもう泣いてる

・いかん、雨だ

・画面壊れた

 

「叶うさ今、物語を巡ろう」

 

・88888888

・8888888

・888888888

 

「あーちゃん!」

「うわっと!?」

 

 歌が終わると同時に抱き着いてきた姫に驚きながら、なんとかギターを守りながらなんとか片手で受け止め、私の肩口に額を押し当て震えているお姫様をっくりと撫で、落ち着かせる。

 ふと配信画面に目をやればお父さんが気を利かせてくれたのか、すでに配信は切れており、画面には「thank you for watching」と拍手のコメントが乱舞していた。

 

「姫、大丈夫?」

「何度も何度も言ってるでしょ!私の方がありがとうだって!」

「これにかんしちゃ私たちはずっと平行線だね」

 

 泣きながら笑い、そして怒るという奇妙なことをやっている姫の文句を受け流しながら、改めて喜びを感じる。

 

 この世界に。

 

 家族に。

 

 そして姫に数えきれないほどの感謝を込めて。

 

「姫、本当にありがとう」

「……私はあーちゃんの倍、ありがとうだから!」

 

 

 




これで一区切り。
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