「そういえばあーちゃん!どんな人から来てるの?コラボのお誘い!」
「突然どしたの?」
「前に聞こうと思って忘れてた!」
まぁそうなるように話題をそらしたとも言うが。
目を輝かせる姫に仕方なくスマートフォンのロックを解除し、メモ機能を立ち上げる。
「あれからしばらく経ったからそれなりに増えたけど。まぁ私もわからないような個人勢のVライバーや配信者から登録者数十万のVライバー、音楽系の配信者、テレビで見たことがあるような人もちらほらと」
「すごー!あーちゃんとしては何か考えはある?」
「んー」
コラボのメリットと言われると、相手のファン層を取り込める可能性が有る事。
そして交友、まぁ人脈ともいえるかもしれないが、それが広がる事。
他にもいろいろあるかもしれないが主にはそんなものか。
逆にデメリットは、まぁ相手といろいろな意味で合わないとかなのか。
「配信者としてはコラボってやり得だと思うんだよね」
「まぁそうかも。それこそ炎上してる人とかじゃなければ」
「ただ私たちは登録者を伸ばしたくてVライバーやってるわけじゃないからね」
「あーちゃんを有名にするには登録者の数を増やすのは大事だよ」
そんなことを言われると途端にやる気がなくなっていくが。
「つまり私としてはコラボしなくても何も問題ないってこと」
「ということはあたしとしてはぜひともコラボをしないとってことだね!」
「まぁ姫がしたいなら別にいいけどね」
結局私としてはそういうしかない。
すべては姫の仰せのままに。
「じゃあ誰かとコラボする?」
「んーどうせならあたしも見たことがある人がいいなぁ」
「姫の見たことがある人っていうと、この人と、この人と、あとこっちの人もかな」
何人かをリストアップして姫のスマートフォンに共有すると姫もスマートフォンを開きながら私の背中に寄りかかってくる。
「重いんだけど」
「軽いでしょ」
「んーでも最近少し肉付きが」
「ナイスバディになってるってこと?」
なんだこのポジティブ少女は。
「この人は?」
「んーどうせなら歌に力入れてる人の方がいいんじゃない?」
「この人の雑談配信よく聞くんだけどなぁ」
姫の言うライバーは落ち着いた声でラジオなどの雑談配信をメインに活動していてBGM代わりに姫がよく流していたりする。
とはいえやはり記念すべき初コラボでは歌をメインにする人の方がいいか。
「まぁ次の候補には上げとこう」
「じゃあこっち!歌メインの人で2か月後の記念配信にゲストとして出てほしいって!」
「記念配信?それってまさか」
「5周年記念だって!」
姫さん、それは今ある中で一番の大物じゃよ。
Vライバーの会社の中でのツートップのうちの一角startedの中でも歌配信が人気のシンフィア・グレイ。
普段は喫茶店で働いているが、その裏ではバーの歌姫をしているという銀髪碧眼の美女。
ハスキーな歌声から繰り出される歌声と相反して好きなものをとことん語りたがるギャップが人気の彼女は数か月後に5周年を迎えるはずだ。
しかもオファーの内容は事務所を通した正式なオファーでstartedのスタジオを使用しての記念3Dライブへの出演依頼だった。
「コラボっていうかもはやゲストだよこれじゃ」
「ご本人登場!的な?」
「それには私たちの格が足りないんじゃない?」
誰?ってなる可能性が高すぎる。
さすがに登録者60万人のトップVライバーに比べると私たちなんてミジンコみたいなものだと思う。
「まぁそれは向こうが誘ってるんだからあんまり気にしないでいいんじゃにゃい?それよりstartedの新スタジオ見てみたい!」
「何十億円もかかってるっていう話題の?」
「それそれ!」
「ま、いいけどね」
さすがに会社を相手にするなら後々のためにもちゃんと契約を結ぶ必要があるか。
「とりあえずお父さんに話してみるよ。契約とかいろいろあるし」
「ありがとー!どんな歌を歌うの?」
「いや相手に聞いてみてでしょ」
それから一週間後、話がとんとん拍子で進み、私たちは噂の新スタジオに足を踏み入れていた。
姫と付き添いのお母さんと一緒に訪れた都内某所のスタジオは輝きを放っており、自然と私たちの背筋も伸びる。
「はー!すっご!パパのスタジオの何十倍も広い!」
「……そりゃ当たり前でしょ」
訂正。
約一名自然体のままがいた。
「ほら姫、あんまり騒がないで。早く中に入ろう」
「おっけぃ!光さん、行きましょ!あーちゃんも早く!」
「ちょっと担当者の方に連絡するから待ってね、姫ちゃん」
母さんがスマートフォンを操作するのを片目にstartedの新スタジオ前で自撮りする姫に誘われてその隣に顔を出す。
「「Say Cheese!」」
「お待ちしておりました」
「え?」
突然スタジオの方から聞こえた声に反射的に振り向いたからか自撮りの中の私の顔はぶれていた。
そんなぶれてしまった私の視線の先にはスーツをきっちり着こなしたインテリ女子といった女性が手にしたスマートフォンに母さんからのメッセージを表示させながらにこりと微笑んでいた。
「あら、小鳥遊さんかしら?」
「はい。お待ちしておりました水無瀬様。ここではゆっくりと話もできませんのでどうぞ
こちらへ」
「おぉーインテリ女子だ」
「姫、失礼だよ」
漫画に出てくるようなスーツの女性に失礼なことをのたまう姫をたしなめる私に彼女、おそらくシンフィア・グレイのマネージャーである小鳥遊女史はにこりと微笑みを見せる。
「おぉ、できる女って感じだ」
「わかるー」
のんきにそんなことを話す私たちを軽やかに案内して彼女はスタジオ内に歩いていく。
受付を顔パスでスルーして歩き、しばらくした後、私たちはスタジオ内の奥まった場所の応接室でくつろいでいた。
「ソファー柔らかー」
「いくつかある応接室全部でこのクラスの家具を使ってるなら相当お金かけてるわね」
「いやお母さんそんなとこ見ないでいいから」
「ふふふ」
そんなことを言っているとにわかに応接室の外から誰かが話しているような音がしてくる。
よく見ると若干応接室の入り口扉が開いているから音が漏れ聞こえているらしい。
それに気をひかれたのか姫が入り口に近づいていく。
「ちょっと、姫!」
「ちょっとだけ、様子を見るだけだから!」
「あら姫ちゃん、はしたないわよー」
「お母さんも止めるならちゃんと止めてよ」
朗らかに笑うだけで全く止める気配を見せないお母さんに突っ込みを入れている隙に姫が応接室の扉をそっと開けてしまう。
「あーもー」
「んー?」
「無理ですよ!」
「「ん?」」
姫に近づいた私にまで声が届いてくる。
それは最近聞いたような声だった。
具体的に言えば、今日のために事前勉強として聞いた『10分でわかるシンフィア・グレイpart1』(動画時間5時間over)でよく聞いた声。
「ひめじゅーのお二人に合うのにあと30分くらい準備させてくださいよ小鳥遊さーん」
「あなた今日はそれを言い続けてるわよ。いい加減に覚悟を決めなさい」
「だってひめじゅーですよ!?姫とアネさんがその扉の向こうにいるって考えた……ら……」
「あら?」
応接室の廊下には先ほどここまで私たちを案内してくれた小鳥遊女史に見知らぬ女性が縋りついていた。
十中八九彼女がシンフィア・グレイなんだろうが、その彼女は私たちを見て顔を赤くしたり青くしたり。
「失礼しましたー」
「いえ、こちらこそお見苦しいところを。ほら詩」
「……コンニチワ」
フリーズしたグレイさんを小鳥遊女史が応接室に押し込んでからの挨拶だが、配信で見ていたのとは全く別物の少女がそこにいた。
ざっと見た限りでは雑談配信とかでも人見知りみたいなことは言っていなかったはずだが。
「詩、いい加減にしなさい。ひめじゅーのお二人も困ってるわよ」
「だってひめじゅーだよ!あのひめじゅーが私の目の前に!」
「ささやきながら叫ぶなんて器用な真似しないで、ほらしゃんとする」
「んんっ」
コントのようなやり取りを経て仕切りなおすかのように咳ばらいを一つ。
今までのことをなかったかのようにきりっと顔を引き締めるグレイさんに姫と顔を見合わせて静かに頷く。
さすがにそこを突くような鬼ではないし、それをやったら話が進まない。
「改めまして、先ほどはお見苦しいところを失礼しました。シンフィア・グレイの魂、明日葉詩です。今日はわざわざ足を運んでいただきありがとうございます」
「おぉー」
「いや姫、おぉーじゃなくて」
さすがに自己紹介を返さないと。
「こんにちわ、ひめじゅーのじゅーの方アネモネこと水無瀬灯です」
「こんにちわー。姫の方、椎名姫香でっす!」
「ひめじゅーのママ、水無瀬光です」
「きゃーひめじゅー!」
ファンかな?
「いえーい!」
「姫ー!あっチカイぃ」
ノリノリで一緒に自撮りをし始めた姫に顔を赤くしてまた片言になるグレイさん。
なんか思ってた人と違うな。
少なくとも昨日見た切り抜きではハスキーボイスでファンを虜にしちゃうメロイ女だったはずだが。
「どうしたの灯?」
「あ、いや。なんか普通にファンみたいだなって」
「ファンだからコラボ依頼してきたんじゃないの?」
「いやてっきり楽曲の方がメインかと思ってた」
私たちは話題作りとか。
「そんなわけないじゃないですか!いや、楽曲がすごくいいのはそうなんですが、それだけじゃなくて私は姫とアネモネさんを推しているからこそ一緒のステージに立ちたくて!」
「えー、そうなの!?じゃあ姫のどんなところが好き?」
「フリーダムアザトカワイイヤッター!!」
しなだれかかる姫にまたグレイさんが壊れてしまう。
そしてそれを満足そうな表情で見守る小鳥遊女史。
思ったよりだいぶ面白いコンビだな。
「アネモネさんも姫に無茶ぶりされて困ってるところとか、照れてるところとかかわいくて!でも歌になるとプロ顔負けのギターテクニックとか!そんな中で見え隠れする機械音痴で運動音痴なところとか!」
……やはり配信界隈でトップクラスにもなると一筋縄ではいかない人が多い。
そう学んだ冬の午後だった。
感想待ってます。