「はー、ひっろい!」
「本当に3000人も入るのかな?」
「まだ言ってるー」
姫はそんなことを言うが私としてはまだ現実感が無い。
発表から数か月、セットリスト決め、ダンス決め、練習と忙しい日々を過ごしてきたが、気が付けばもうライブは明日。
すぐそこまで迫っていた。
そんな私たちは今ライブ会場であるユニゾンホールのステージの上に立っている。
「抽選は外れた人の方が多いって結構前の配信でも言ってたでしょ!」
「まぁ、そうだよね。なんかまだ現実感がないっていうか」
「でももう明日、だよ。みんな来てくれる」
「……はぁ。ま、明日ここからみんなを見ることは、ないんだけどね」
明日は基本的にはサブスタジオをトラッキングルームとして使い、そこからライブを行うことになる。
Vライバーだから仕方ないとはいえ、直接ライブをできないのは少し残念にも思ってしまう。
「ま、それはしょうがないよね。でもVライバーもいろんな人がいるから。顔出ししてる人もいるし。あーちゃんも顔出し、する?」
「それはいいかな。ネット配信も決定したし、そんな中で顔出ししたら生活に支障が出そうだし」
「それはそう」
そんな話をしているとリハーサルの時間になってしまう。
スタッフの補助を借りて普段のトラッキング機器ではなく専用のトラッキングスーツを身に着けて準備を整える。
「おぉーこんな感じなんだ」
「今までのVライバーのライブとかなり違うね」
私たちが驚いているのは最新の投映機器、スタッフさん曰く『ボール』。
今までのスクリーンに映し出すのではなく4つのボール型のタイヤが地面を転がり、そのボール上に100センチくらいの位置に投映デバイスを展開し、映像を投映している。
まさにSFといった技術だがなぜかこの世界では少し前に実用化されているらしく『started』『Hundreds Numbers』の両箱が大々的に発表ライブを行っていたのも記憶に新しい。
「何度見ても本当に姫がそこにいるみたいだね」
「おーセンサーで接触もしないし、指定区域外にも出ないようになってるんだー。で、初期地点リセットがこのボタンか。でも基本的には技術さんでその都度地点リセットしてくれると」
「姫が技術者みたいなこと言ってる」
「ま、あたしもこういう技術には興味深々、元気溌剌、勇気凛凛、意気揚々ってわけ!」
「なにそれ」
そう言いながらHMDを操作するとステージを正面から移すカメラにはステージ上で私と姫が興味深そうにあたりを見回す姿が映されている。
もう一つHMDのスイッチを操作すると今度は投映デバイスからの主観視点へと変わる。
「ちょっと低いけど十分だね。どういう理由で投映できてるのかは全然わかんないけど」
「あーちゃんに詳しい技術を説明しようとすると3日くらいかかるけど聞きたい?」
「遠慮する」
「使えれば、詳しい理論は知らなくても大丈夫ですよ。実際私はそうでしたから」
「「グレイさん?」」
聞こえてきた声に視線を向けると今回『ボール』の指導役として来てもらったグレイさんの姿があった。
最初は今までの投映スクリーンを使用する予定だったが、startedがノウハウ込みで技術提供を申し出てくださって、そのアクター指導役として彼女が派遣されてきた。
配信等で忙しい中で時間をとってもらって申し訳ない気持ちだ。
「さすが初『ボール』ライブの一人。体験談はありがたいよー!」
「そう言ってもらえると私も来たかいがあります。あ、HMD設定はリアル映像も入れておいた方がいいですよ。下手するとスタジオの壁にぶつかりますから」
「あー確かに」
「あーちゃんもさっき危なかったよー」
「いやそれを言うなら姫はぶつかってたし」
私は楽器もあるからそんなに大きくは走り回らないが、姫は縦横無尽にスタジオ内を走り回って壁にぶつかっていた。
そんな私たちをグレイさんは楽しそうに見ていたが何かを思い出したかのようにポンと一つ手を打つ。
「そういえば、そろそろ前日配信の時間だと光さんが言ってましたよ?それを伝えに来たんでした」
「おっ!もうそんな時間かー。じゃあ準備しますか」
「そうだね。グレイさんは大丈夫?」
「はい。と言っても本当に私が入ってもいいんですか?」
「ま、どうせ明日の前説で分かる話だしいいっしょ?」
「むしろすいません。アクターの指導として来ていただいたのに前説ばかりか前日配信のゲストまでお呼びしてしまって」
「いえ、それはむしろ本望というか。バッチ恋っていうか」
「じゃあ準備、しよっか!あーちゃん」
「あいよー」
【姫と従者のRadioDuo~前日特番!ついに明日だ!~】
「というわけでライブ直前特番始めてくよー!姫だー!」
「どういうわけかは知らないけど、いつもより短いけどよろしくね、みんな。アネモネです」
・きたー
・バッチコーイ
・待ってたー
・明日がんばってー!
「ってわけで今日はついに明日に迫った私たちのライブ。『First step』について今言える範囲で話していくよー!」
「なんかまだ私が知らない何かがありそうで怖いんだけど」
「っふっふっふー!」
・草
・これは何かありまっせ
・おいたわしやアネ上
「何かあるなら早いうちに言っといて欲しいんだけど……」
「『A secret makes a woman woman』ってね!」
「姫はそのセリフ好きだよね……」
・明日現地組ですが俄然楽しみになってきました!
・ネット配信組だけどこれは何かありますぜ
・まぁ実際姫がサプライズを仕組んでないってことはないか
「話を戻して明日のことを伝えていくよ!まず第一!」
「え、明日あるのにそのテンションでやってくの?」
「第一ぃ!」
これは、テンション高すぎておかしなことになってるな。
まぁよくある事ではあるが、こういうときは早く進行して配信自体を早く終わらせるか。
「えー、今回のライブは『started』『Hundreds Numbers』の協賛を得て、最新技術『ボール』を用いて行うことになりました」
「両社ともありがとー!」
・おおおおおおお
・まじか、よく許可が下りたな!
・まぁVファン以外からも注目度が高いこのライブで技術を広報できるなら十分プラスか
・マジのマジで最新技術だけど、姫様たちは動かせんのかね?
「もちろん私たちには最新技術は動かせないので両社から技術協力を得て、最高のライブにしていくから心配しないでね」
「本っ当にすごいよ!そこにあーちゃんがいるの!いやー人間の技術も来るとこまで来たよね!」
「いや何目線?宇宙人?」
・俺、グレイのお披露目ライブ現地で見たけど本当にすごかったよ
・グレイ?まさかっ!?
・ボールライブを経験したことがあるライバーはまだほとんどいない。startedのグレイとHNのプロトだ。そしてプロトが男ということを考えれば……
「おっ、コメント欄も気づいた?ご名答!」
「今回技術的な面だけでなく、出演者側も普段と感覚が違うということで経験者の方も初期からゲネプロにも来てもらって指導をしてもらいました」
「というわけで緊急ゲストどーん!グレイちゃーん!」
「どうも皆さん。私はグレイ、夢の中の灰かぶり。started所属、グレイ・シンフィアです」
・きたー
・やっぱりお前かあああwwww
・【龍崎龍樹:started】ふざけんなー!!!!!
・龍崎もおるやんけwwwww
・草wwwwww
「いやーほんとにありがとねグレイちゃん」
「忙しいところわざわざ現地まで来てもらった。スケジュール大丈夫でした?」
「全然ですよ。むしろこっちがもらいすぎというか」
・ってかゲネプロってことは一通りライブ聞いたってことか?
・そうなのかグレイ?
・【龍崎龍樹:started】ふざけんなー!!!!!
・龍崎がふざけんなbotになってて草
「あ、龍崎?イヤーお・さ・き!あ。でも龍崎はネット配信かー?」
「煽ってて草」
「なんか申し訳ないですね。関係者席があればstartedさんにも用意しようともおもったんだけど逆になんか自意識過剰かなとも思っちゃって」
「いやいや。あれはほっとけば良いんですよ。むしろ抽選も乗り越えられない自分が悪いんです」
・扱いが雑wwww
・まぁ龍崎ゲネプロに呼んでも仕方ないし、関係者でもないしな
・実際当てた人もいるしな
「いやー。私もあんまりしゃべっちゃうとネタバレになるから言えないけど、一つだけ。覚悟した方がいいよ」
「「覚悟って何!?」」
「飛ぶぞ」
「やめてよ人を怪しい薬みたいに!」
「でもみんなぶっ飛ぶくらいに盛り上げる気ではいるから」
「あーちゃん、さっきまでが嘘みたいにやる気満々!」
「ライブ前って緊張しますけど、いつの間にかそれを超えてやる気がみなぎりますよね」
・盛り上がってまいりました!
・うあーなんで現地当たんなかったんだー!
・月まで飛ばしてくれー!
「よーしっ!燃えてきたー!あーちゃんには負けないぞー!」
「いや勝ち負けじゃないし」
「いーの!もー明日に向けて寝るかー!」
「もう?まぁこの配信もライブ前にみんなとちょっと話したかっただけだし、別にいいけど」
「ライブ前はなかなか寝付けないかもしれないから早めに布団に入って目だけでもつぶっておいた方がいいですよ」
「「まぁグレイほどの人がそう言うなら」」
「息ぴったりじゃないですかwww」
・はやく寝た方がいい
・第二以降が気になるっちゃ気になるけど、明日の方が優先なのはそれはそう
・第二はなんだったんだ?
「あー第二ね、あーちゃんなんかある?」
「いや姫が言い出したことだからね。ちなみに配信前の打ち合わせでは第二はなかったから」
「ですよね?私が聞き逃したと思ってドキドキしました」
「じゃあ第二ぃ!明日に備えてもう休むのでみんなもちゃんと寝るように!」
・wwwww
・お休みwwww
・明日楽しみにしてるねwwwww
「それでは緊急ゲスト、グレイちゃんでした!ありがとー、グレイちゃん!」
「すいません騒がしくて」
「いえ、とっても楽しかったです。それでは皆さんまた明日会場で。まぁその時には私も皆さんの側ですが」
「お休みー!ばいばい!」
「おやすみなさい」
「それでは皆さん。また夢の中で」