「来場の皆様にお伝えします。間もなく開演よ。言うまでも無いとは思うけど一応注意事項を伝えておくわね」
ライブ当日。
間もなく開演といったところで会場に前説が流れ始める。
といってもこれは前もって録音したもので、喋っていた当の本人は関係者席にいるはずだ。
本来はこんなことをお願いできる人ではないはずなのだが、本人が是非にと言い、姫も乗ってしまったため実現したプチコラボに会場のボルテージも上がっていくのをスタジオからでも感じる。
「ってことだからしっかり守って、全力で楽しむように。それじゃあ、ここまではstarted所属、グレイ・シンフィアでした。あとは任せます、姫様、アネモネさん」
「オープニング入ります!」
グレイの前説が終わるとスタッフの声とともに姫謹製の紹介ムービーが流れ始め、また一段とボルテージが上がる。
その盛り上がる会場、ステージ中央で私たちの分身であるボールが静かに位置につく。
ついに、始まる。
「始まるね、あーちゃん」
「……うん」
お互いにどちらともなく手を差し出し、軽やかにハイタッチを交わす。
「映像明けまーす。3、2、」
1と指だけで知らされたそのタイミングで視界が会場に切り替わる。
暗い。
ステージ上がまだ暗闇に包まれているからか、目につくのは会場に設置された非常灯の灯だった。
そして、静かにざわめく会場に始まりを告げる音を一つ一つと落としていく。
気が付けばスポットライトは私を照らし、それとともに会場の歓声が耳に聞こえてくる。
「透明よりも綺麗なあの輝きを確かめにいこう。そうやって始まったんだよ、たまに忘れるほど強い理由」
演奏に歌声が乗る。
気づけば姫が隣に立ってマイクを持っている。
昔から姫はこの歌が好きで、何度も私にこの歌をせがんでいたことを思い出す。
だからこそ、新しい一歩はこの曲で始めようと私たちで話し合うまでもなく、ライブの一曲目は決まっていた。
「いつか君を見つけた時に、君に僕も見つけてもらったんだな。今、目が合えば笑うだけさ、言葉の外側で」
「「ゴールはきっとまだだけど、もう死ぬまでいたい場所にいる」」
「隣で(隣で)君のそばで、魂がここだよって叫ぶ」
「「泣いたり笑ったりするとき、君の命が揺れる時」」
「誰より(近くで)特等席で、僕も同じように息をしていたい」
・おおおおおお
・姫たちの後ろに俺たちのコメントがああああああ
・まじかああああ
・ってかスタート新曲まじか
・いやでもこれって
・てぇてぇええええええええ
今日のライブでは配信も行っている。
その配信でされたコメントの中でモデレーターがピックアップしたコメントは私たちの後ろにあるモニターにポップアップしている。
グレイのマネージャーの小鳥遊女史からの提案でstartedではよくやる方式ということでそちらにも力添えをいただいたが会場も配信もどちらも盛り上がっているようだ。
「「どんな最後が待っていようと、もう離せない手を繋いだよ。」」
「隣で(隣で)君の側で、魂がここが良いと叫ぶ」
「「そして理由が光る時、僕らを理由が抱きしめる時」」
「誰より(近くで)特等席で、僕の見た君を君に伝えたい」
「君がいる事を、君に伝えたい。そうやって始まったんだよ」
「そうやって始まったんだよ。oh yeah,yeah,ah-huh」
・88888888888
・888888888
・88888888888
・888888888888
「姫でーすっ!」
「アネモネです」
「「ライブ『First step』へようこそ」」
二人で声を合わせた瞬間、歓声が爆発する。
今までは聞いたことのなかった自分たちに対する生の歓声に驚くと同時に自然と口角が上がっていくのを感じる。
ふと姫の方を見てみると、姫も同じようだ。
「「ついに来たぞ!ユニゾンホール!」」
・おおおおおおおおおおおおお
・いえええええええええええ!
・おめでとーーーーーーー!!!!!!
・きたあああああああ!
「というわけでひめじゅー初ライブ、『First step』!記念すべき第一曲目は『BUMP OF CHICKEN』さんで『アカシア』でしたー!」
「これって初お披露目だっけ?」
小さいころから姫のお気に入りで、さんざん歌ってたからあんまりまだ配信では歌ってなかったかという感覚しかないが。
「そうだよ、もう!あーちゃんは肝心なことを覚えてないんだから」
「え?なんかあったっけ?」
「あーちゃんが私に初めて歌った曲、これでしょ!」
「えー?そうだっけ?なんかずっと小さいころから一緒だからどれが最初とか覚えてないよ」
・てぇてぇ
・てぇてぇ
・てぇてぇ
「もーあーちゃんはこれだからっ!変なところが雑っていうか!」
「まぁまぁ。その話はあとでいいでしょ。一応初ライブなんだからもうちょっと緊張感をもってさ」
「ま、それもそっか!ってわけでどうみんな!あたし、今ステージに立ってるよ!見える?」
・見えるぞー!!!!!!!
・『ボール』すげぇ!
・マジでそこに姫様たちがいるよっ!!!!
「私たちも見えるよみんなの顔!いつもは配信の向こう側でコメントしか見えないけど今ははっきり見える!」
「わーっ!姫様LOVEだって!うちわありがとーっ!」
「グッズのTシャツ着てくれてる人も見えるよ!ありがとう!」
・グッズいいなぁー
・早く通販してくれー
・でも現地勢のSNSでは結構早い段階でほぼ全滅してるって出てたわ
・まぁわかる
・全部書き下ろしなのにこんなに安いからそれはそうよ
「グッズみんな買ってくれた?」
「おぉ凄い歓声!実際どうなのあーちゃん?」
「えーっとさっき聞いた情報だと、だいぶ早い段階で売り切れになっちゃったみたいだね」
「えぇー!?あんなに段ボールあったのに?」
グッズ販売ブース開場前に少しだけだがグッズの陳列を手伝った時には山のように見えた段ボールもだいぶ早い段階で売り切れてしまったようでSNS上には買えなかった人たちの怨嗟の声があふれていた。
まさかあの量がはけるとは。
余ったらネット販売でさばこうとは思っていたが、これでは早めにネット販売の段取りを組まないと。
「あーちゃん、だいぶビビってたからね。もし余ったらスタジオが段ボールで埋まるって」
「いやあれは、そうなるでしょ」
「あたしの身長と同じくらい高かったよね!すごかったー!」
・そんなにあっても一瞬だったとは
・見誤ったのはひめじゅーの人気か、ファンの購買力か
・まぁあんまりひめじゅーにお布施する機会ってないしな。いつもスパ茶はオフだし
「まぁせっかくのライブだし喋ってばっかじゃもったいないよね、あーちゃん」
「じゃあ次の曲、行こうか」
「おっけい!じゃあ次の曲、なんだけど……みんなに協力してもらいたいと思いまーす!」
・ん?
・おー
・まかせろーバリバリィ!
・ヤメテー
「協力って言ってもそんなに難しい事じゃないですよ」
「最初は、こうっ」
そう言いながら姫は右、左と足を踏み鳴らす。
「みんなも一緒にせーのっ!」
ドンッドンっ。
会場に重い音が木霊する。
ステージから離れたスタジオにも届くような音に姫が大きく手で丸を作り、満足げに頷く。
「おっけー!いい感じ!次は?あーちゃん」
「うん。次は両手を一つ打ち鳴らして。足踏み、足踏み、拍手って感じで」
「じゃあいくよ!」
ドンッドンッパンッ。
ドンッドンッパンッ。
「そのままっ続けてっ!」
ドンッドンッパンッ。
ドンッドンッパンッ。
「もっといけるよね!」
ドンッドンッパンッ。
ドンッドンッパンッ。
盛り上がる会場のボルテージと比例するように私たちの後ろのモニターに曲名が映し出される。
『We Will Rock You』
正直、今まで出したことのない洋楽はどうかとも思ったが、これからはグローバルだよという姫の一言でセットリスト入りが決まった一曲。
ドンッドンッパンッ。
ドンッドンッパンッ。
「Buddy, you're a boy, make a big noise Playing in the street, gonna be a big man someday.You've got mud on your face, you big disgrace.Kicking your can all over the place, 歌って!」
「「We will, we will rock you!いいよっ!We will, we will rock you!」」
歌詞は日本語訳とともにモニターに映してある。
一度目のサビでは小さかった声も途中からは追いついてどんどん大きくなっていく。
会場が一つになっていく。
「Buddy, you're a young man, hard man.Shouting in the street, gonna take on the world someday.You got blood on your face, you big disgrace.Waving your banner all over the place.いえーっ!」
『We will, we will rock you!もっともっと!We will, we will rock you!』
「Buddy, you're an old man, poor man.Pleading with your eyes gonna make you some peace someday.You got mud on your face, big disgrace.Somebody better put you back into your place.聞こえなーいっ!」
『We will, we will rock you!かもーんっ!We will, we will rock you!まだいけるよ!』
『We will, we will rock you!らすとぉっ!We will, we will rock you!完璧!』
姫の最後の言葉にかぶせるようにギターをかき鳴らしていく。
揺れる会場を引き裂くようなギターソロ。
その最後は指揮者でもいるかのように、最後の弦をはじいた瞬間会場に静寂が訪れた。
そして次の瞬間には爆発したかのような歓声が押し寄せてくる。
私の横には手を高々と上げて歓声を全身に受け止める姫の姿があった。
「良い指揮者っぷりで」
「ぶいっ!」