「まさかの洋楽2連続でしたっ!」
「まさかのね」
「一曲目が『QUEEN』さんの『We Will Rock You』。そんで二曲目が『Bon Jovi』さんの『Livin' On A Prayer』。二曲続けて聞いてもらいました!」
・まじでまさか過ぎる
・洋楽もイケんのかwwww
・We will, we will rock you!
・字幕マジでありがたかった
「いやーやっぱりあたしたちもグローバルに行かないとでしょ」
「まずは日本での知名度を上げるもの大事だと思うけど」
「あまーい!そんなことじゃ生き馬の目を抜くこの配信業界で生き残ってはいけないよ!目標は常にでっかく!」
まぁ言わんとしているとこはわからなくないが。
「だからこれからはどんどん洋楽も歌っていこう!みんなもわかってくれるはず。いいよね!」
「……おー結構な歓声で。ま、別にいいけどね。歌いたい曲もあるし」
「やった!嬉しいかみんなー!」
姫の呼びかけに歓声が答える。
文字だけでなくリアルで歓声が返ってくるのはライブの醍醐味ではあるのだろう。
「一階席ー!」
わああああああああああああ。
「おーすごいね。二階席ぃ?」
わああああああああああああ。
「三階席ー!」
「いや三階はないから」
それとも姫には何か見えているのだろうか。
「じゃあ配信の向こうのみんなー!」
・おおおおおおおお
・いえええええええ
・コーレスだー!
「女子ー!」
きゃああああああああああ。
「男子ー!」
おおおおおおおおおおおお。
「すごいすごい!ライブでよく見るやつだねあーちゃん」
「なんか感慨深いね。ここまで来たというか」
「すっごく楽しい!すっごくうれしい!夢みたい!」
「でも夢じゃない。今ここでみんなの前に立ってる私たちは夢じゃ、ないよね」
互いに目を合わせ、微笑む。
会場に向き直り、満面の笑みを見せる。
会場のボルテージは上限が無いんじゃないのかってくらい上がり続けている。
「じゃあ次行きたい人ー!」
わあああああああああああ。
「どう、姫?」
「声が小さーい!次、行きたい人ー!!」
わああああああああああああああああ。
「まだまだ行ける!次行きたい人ー!!!」
わあああああああああああああああああああああ。
会場の歓声が跳ね上がった瞬間、姫は片手を高々と上げる。
さっきの似非指揮者に味をしめたのかもしれない。
そんなことを考えながらギターを抱えなおすと、会場の歓声がふっと消える。
音までが暗闇に飲まれたような空間でスポットライトが姫を照らす。
「数えきれないほどの想いを、今ならきっとあなたに届くように叫ぶよ」
姫が祈るように歌い上げたサビのフレーズに観客席から爆発したように声援が届く。
それを真っ向から受けて立つように姫はマイクを握りしめ、観客席を見据える。
「いくぞ、ユニゾンホール!」
・いえええええええええええ!
・きたあああああああああ!
・現地に負けてられるかあああああ!
配信のコメントも私たちの後ろで濁流のように流れる中、歓声を裂いて歌声を届け続ける姫に負けじと私も、そして他のバンドメンバーも追いすがっていく。
「悲しみに怯え逃げ出しそうになった時、あなたがくれた言葉に救われたんだよ。鏡に映る自分が徐々に徐々に魔法がかかったように変わっていくけど、相変わらず無邪気な笑顔のあなたを見ていたいから」
リハーサルの時も姫のテンションは上がっていたけど観客を前にすると普段の何倍ものポテンシャルを発揮している。
正直、着いていく方が大変ではあるが、それゆえにやりがいがあるとも思う。
「数え切れないほどの想いをいつまでも贈り続けてくんだずっとずっと先も。繰り返し心に誓うよ手を握りずっとそばにいるんだ、そして決して離さないよ」
間奏。
額を汗で輝かせる姫と目が合う。
目は口ほどにものを言うというがまさに今の姫はその状態だった。
楽しい。
もっと。
いちいち姫に聞かなくてもわかる。
そんな彼女に苦笑しながらも、私も引っ張られるように間奏を経て演奏のテンションが上がっていく。
「輝く星のような君となら、数え切れないほどの願いをいくらでも叶えて行けるはずさ。何度だってずっと We can do it!」
・88888888888
・『Novelbright』さんの『Walking with you』、ですか
・恐ろしいほどまっすぐな歌詞にそれを伝える伸びやかなメロディ、いいね!
・俺はわかってる。これもアネさんから見た姫のことなんだろ。
・てぇてぇ
・てぇてぇ
とはいえこのままでは遠からず私も姫もパンクしてしまうだろう。
だからセットリストも肇さんのアドバイスでここからはチルい曲を取り揃えている。
最初にテンションをあげる曲を並べ、中盤はチルい曲で落ち着かせ、最後に向けてまたテンションが上がる曲で盛り上げる。
ライブの基本のようなものだと肇さんは言っていたっけ。
「よーしこのままどんどんいくぞー!!!」
「はい、すとーっぷ。そんなに焦らないで、姫。ここからはチルタイム、でしょ」
「ふひー。そうだったー。そう思ったらどっと疲れがぁ」
そう言いながら用意されていた椅子に二人して倒れこむように体重を預ける。
「疲れたぁ。あ、みんなも座ってねー。立ちっぱなしじゃ疲れるし」
「無理して立ってなくても大丈夫だからね。ってことでここからはチルタイムです」
「チルタイムとはチルイ歌を歌う時間だよ」
「そのまますぎる。と言っても少し息をつくために、何か話そうか?」
思ったより姫の息も上がってるように見えるし、少し歌の前にトークで場を繋ぐ方向でいこう。
まぁタイムスケジュールは余裕をもって作っているから大丈夫でしょ。
「どう姫、初ライブ。緊張してる?」
「全然っ!楽しすぎてブレーキ壊れてる!いつもの5倍疲れた!」
だからトークタイムをしてるんだが、この子はそれをわかっているのかハイテンションのまま話続けようとしている。
「落・ち・着・い・て。チルタイムって言葉わかる?」
「えー。でもあーちゃんもテンション上がってるでしょー」
「そりゃそうだけど、姫は上げすぎ。最後まで持たないよ」
「そしたらあーちゃんが歌えばいいじゃーん!」
わああああああああああああああ。
「いや私が歌うのもあるでしょ」
「あーっネタバレ禁止ぃ!」
「はいはい。でも姫が全く休もうとしないんで、ここで私のターン。セトリ順番交換ね」
「おっ!やっぱりあーちゃんもやるきじゃーん」
「だってさ、3000人って聞くのと実際に見るのじゃ全然違うでしょ。こんなに大勢の人たちが私たちを見に来てくれてるんだからやる気が出ないと嘘じゃん」
わああああああああああああああ。
「じゃあそんなあーちゃんに早速歌ってもらおうかな。あたしは、じゃーん!アコギー!」
「ひみつ道具じゃないんだから」
私の突っ込みをよそに姫は鼻歌を歌いながらアコースティックギターの弦をつま弾いている。
「おっけぃ、いつでもいいよあーちゃん」
「ん。じゃあ聞いてください。『菅原圭』さんで『シャワールームランデブー』」
私の音が消えると同時に姫の右手が一つ一つと音を紡ぎ始める。
あえて出しているであろう弦のかすれる音が広い会場に溶けるように響いていく。
「夢の中であの子に何度もなっていた。それでも満たされない事、分からされるだけ。罪の無い夜、止めたシャワーが何故か落ちる雫に戸惑っていた」
会場の中はさっきまでとは打って変わっていた。
言ってしまえばライブというよりもコンサートに近いのかもしれない。
暗闇の客席だが、ステージからのライトが照らすたびに、観客一人一人の目の輝きを心に焼き付けていく。
それはきっと忘れちゃならないものだと思うから。
「今夜はシャワールームランデブー。泡になった彼女が寂しくないように、恋を語ろう。何もかも捨てて遠くに行けたら、砂漠に浮かぶ月を見に行こう」
「「~♪」」
間奏で一緒にハミングをする姫に目をやると目を閉じたまま気持ちよさそうにギターを弾いていた。
どうやらだいぶ落ち着いたようで何よりだ。
さてライブも序盤から中盤に差し掛かるところでまだ先は長い。
こんな楽しいことをまだ楽しめるなんてなんて幸せなんだろう。
「シャワールームランデブー。泡になった彼女に、何度も何度も恋をしたの」
「泡になるほどの恋をしたの」
「泡を割るほどの恋をしたの」