「さて、チルタイムは終わりだー!みんな騒げるかー!?」
わああああああああああああああ。
「だいぶ復活したみたいだね」
「もちろん!姫、完全復活!」
「じゃあ元気になった姫が忘れないうちに、お楽しみのあれ、やっとく?」
「やるー!」
チルタイムを経て、だいぶ体力が戻ったらしい姫は私の提案に一も二もなく食いついてくる。
姫が楽しみにしていた、ライブでやってみたいリストの何番目か。
そんなことをつらつらと考えながら私たち以外のバンドメンバーに視線を送るとそれぞれのメンバーがサムズアップで返してくる。
「みんな!今日のバンドメンバーをみんなに紹介したいんだけど、いいかな!」
わああああああああああああああ。
「答えは聞いてなーい!行くぞー!」
姫の声とともにバンドメンバーがそれぞれ了解を示すように楽器をかき鳴らす。
「キーボード!今日は5歳の娘さんも見に来ているらしい!パパ頑張ってます。ユーヤ、ウスイー!」
姫の紹介にキーボードの臼井さんは胸元から下げているロケットにキスを落とし、軽やかにこの世界の女児アニメの一番有名なオープニングの一節を弾いている。
娘さんはいつもこれを弾くと大喜びらしい。
観客席も異色のメロディに大爆笑といったところだ。
「ドラムス!演奏部隊の長老!見かけによらず甘いものが好き、ソラーオ、ミカーゲ!」
重々しく頷いた後に、厳つい顔から繰り出されるサウンドは人が元来持っているリズムを刺激する。
最近甘いものを食べすぎて奥さんに怒られたらしいが、姫の情報源もこの奥さんだったはずだ。
「ベース!ギターとベースを買いすぎて家族にめっちゃ怒られたらしい。どこにそんなに楽器を置くんだ!ハジーメ、シーナー!」
若干会場に流れた失笑を押し流すように肇さんはその超絶技巧を見せつける。
会場は一瞬で熱狂に包まれてしまった。
というか肇さんにギターとベースを買うようにそそのかしていたのは姫だったような。
「ギター&ボーカル!この後なんとあの曲を披露!?あーちゃーん!」
「ちょっ!?」
わああああああああああああああ。
は・な・し・が・ち・が・う!
「ちょっと姫!それはまだ検討中だったでしょ!」
「ご紹介にあずかりました、ひめじゅーの姫でーす!」
姫の挨拶とともにバンドメンバーが一斉に楽器をかき鳴らし、それに歓声が答える。
「検討中!」
「えーでも検討中といいながらもみんなの投票結果だよ?えーあーちゃん、みんなに投票を依頼しておいて都合が悪くなったらそれを無視ー?」
「……ぐぬぬ」
「というわけで終盤スタートは新コーナー!歌ってあーちゃん!」
「歌って姫様ー……」
わああああああああああああああ。
「このコーナーは読んで字のごとく!みんなにSNSで募集した私たちに歌ってほしい曲をそれぞれ歌っていくよー!」
「まずは私から。リクエスト上位3曲を発表するけど、歌うのは1位だけね」
「ということでモニターにちゅうもーく!」
姫の言葉で私たちの後ろのモニターが高らかに3と数字を点灯させる。
「あーちゃんに歌ってほしい曲、第3位はー!これ!」
姫に嵌められた私主体の配信でも歌ったが、やはり一番記憶に残っているのはグレイさんの記念配信で歌った一幕。
あまり姫以外の人と歌を歌うことは少なかったからいい経験でもあったと思う。
「グレイさんとの記念配信も記憶に新しいのではないでしょうか。『拝啓、少年よ』でした!」
「グレイちゃんは今日のライブにもいろいろ協力してくれてるからね。前説とかみんなめっちゃよかったよね!」
「またコラボしましょうね。ということで第2位!第2位は、まさかのー!」
私のコールで第2位の曲のイントロが流れ始める。
観客の声の中には悲鳴と歓声が半々といったところか。
悲鳴は自分が推していた曲が2位だったから。
歓声は、不本意ながらあの曲が1位になってしまったからだろう。
「まさかのー『星降る海』ー!結構僅差だったけどみんな大好きなあの曲がまさかの2位でしたー!ってことで第1位はもうみんなわかったかなー?」
「私的には星降る海でいいと思うけど」
「企画的にはのーせんきゅー!あーちゃんもーあきらめて」
「この曲は動画も出してなくてアーカイブしかないから歌って、みたいな要望が今回の企画以外にもいっぱい来てたんだけどね」
とはいえ企画は企画。
心を鬼にして第1位に、行きたくないなぁ。
「じゃあみんな行くよ!あーちゃんの第1位!みんなお待ちかねのあの曲!」
「待ってなーい……」
「ほらあたしがちゃんとあーちゃんの分も踊ってあげるから!」
「んー」
「もう、ダメだ!とりあえず曲行こう!それでは第1位!『めにしゅき♡ラッシュっしゅ!』」
あぁ、曲が、始まってしまう……
「……私の全力、受け止めて」
無だ。
私は歌うための機械。
Don't think,Sing.
歌え!歌え!歌え!
あぁ、私が歌っているのが見える。
まるで三人称視点だ。
わぁ姫のダンスはかわいいなぁ。
あ、なぜか私もマイクを持ったまま小さく踊ってる。
まぁ悪くはないのか?
あぁ曲ももう終わる。
よかった。
「ずーっとよろしくね」
わああああああああああああああ!!!!!
「よろしく、あーちゃん!」
「っは。私は今何を」
「記憶飛んでて草」
「いや覚えてるけど、覚えてないような」
「よかったよー!あーちゃん結構ノリノリだったし。ね、みんな?」
わああああああああああああああ。
おぉう。
喜んでもらってよかったのか、黒歴史が増えたとみるべきか。
こういう時はさっさと話題を流すべきか。
「みんな、ありがとう!これで私の分は終わり。次はお待ちかねの姫の番だよ!」
「あーちゃん、流そうとしてるー」
「いいから!ほら会場さんも画面切り替えて!」
大きく手を振るとモニターがいったん消え、どこからか聞いたことのあるBGMが。
許諾リストになぜかあったBGMに首をかしげていたが、こんなところで使うとは。
「私のターン!ドロー!」
何処のデュエリストだろうか。
なぜか姫の手には3と大きく書かれたカードが握られている。
「第3位のカードを発動!『シカ色デーイズ』!」
姫のコールで会場になんとも言えない空気とともにシカ色デイズがBGMとして流れ始める。
さっきのBGMとの温度差よ。
「根強い人気だよね……」
「感染者多数というか」
「みんなこれでいいのかー!もっとあたしに良いのがあるだろー!」
「まぁ確かにこれを聞くとしばらく姫の声で頭の中にたんたんたんたん言ってるよね。ってことで姫の第3位でした!続けて第2位に行きたいんだけどえーっと……姫、またドローするの?」
「もちろん!あたしのターン!」
姫の掛け声とともにお決まりのBGMが一瞬流れ、すぐに2位の曲に切り替わる。
姫にしては珍しく落ち着いた曲調の1曲だ。
「というわけで第2位は『First Love』でしたー。正統派バラードって感じの名曲だよね」
「SNSのコメントでは姫の新しい一面とかいろいろ言われてたよね。確かに姫はプライベートでもあんまりバラードは歌ってないかもね」
「あーちゃんはよく歌ってるよね。あたしも別に嫌いじゃないんだけど、バラードはあーちゃんのを聞く方が好きだからなぁ」
「そいつはどーも」
「照れてるー!」
照れてないが。
「もういいから1位発表して」
「よーし、みんな準備はいいか!飛んでもいいけど、その場で!絶対に怪我はしないように注意してね!」
「いくぞあたしのターン!ドロー!第1位、みんなー明日は、何曜日ー!」
日曜日!!!!!!!
姫の1位は彼女によく似合う1曲。
ライブとの相性もまた抜群だ。
「「Don’t worry!」」
be happy!!!!
「「It’s my life!」」
歌の中でのコール&レスポンス。
想像以上にみんな反応してくれている。
それならこちらもそれ以上を返すのみだ。
「晴れた日の日曜日、短く長い1日の始まり。決められたすることもなく、ブラブラ町を歩く」
「はっはっはっは」
ぶーららー!!!!
「僕とあなたと」
二人だけで!!!!
「素敵な星空が!」
くるまで!!!!
「幸せなー時をー」
wow-ohー、過ごすこと!!!!
「(wow-oh)Don’t worry!(wow-oh)be happy!(wow-oh)Happy Sunday.(wow-oh)「It’s my life」!!!!」
やばい。
想像以上に盛り上がりすぎて姫が壁にぶつかりそうだわ。
リアルの映像もHMDに映っているはずだけど、あれは飛んでるなぁ。
とりあえず襟首をつかんで引きずり戻しておこう。
「もう、明日はーあー「あー!!!!」」
日曜日!!!!
「(wow-oh)Don’t worry!(wow-oh)be happy!(wow-oh)Happy Sunday.(wow-oh)「It’s my life」!!!!」
「(wow-oh)Don’t worry!(wow-oh)be happy!(wow-oh)Happy Sunday.(wow-oh)「It’s my life」With one more time!!!」
姫のもう一回の声に会場の歓声はさらに高まっていく。
バンド隊も私も、それに姫も別の場所にいても心は会場にあるかのように際限なくテンションが上がっていく。
こんな楽しい時間も始まればあっという間に終わってしまう。
気づけばあと数曲でこのライブも終わってしまう。
……早いなぁ。
「(wow-oh)Don’t worry!(wow-oh)be happy!(wow-oh)Happy Sunday.(wow-oh)「It’s my life」!!!!」
「「ありがとー!」」