「宙、海の匂い。きみに届くかな、距離なんてないのかな。どんな時もきっとどこかで、見守っているからさ。ほら、くしゃくしゃになって笑う日を集めて紡いで、未来へ踏み出す先もきみと心震わせて」
会場はまるで海の中のようにライティングされ、観客席のみんなのペンライトが海の中の星のように輝いている。
これはライブでしか見れない景色だろう。
「「叶うさ、今。物語を、巡ろう」」
わああああああああああああああああ。
歓声のほかにも多くの感謝の言葉がステージに投げ込まれている。
歌うと見せかけて歌わないと見せかけて歌う。
これがニンジャだーと騒いでいた姫もどこか照れくさそうに観客に手を振っている。
「『星降る海』でしたー!歌わないと思ったみんな、驚いたー?」
わああああああああああああああああ。
「感動したー?」
わああああああああああああああああ。
「まだまだいけるー?」
わああああああああああああああああ。
「ところがどっこい。あと1曲です」
ええええええええええええええええ!
「遊ばないの」
「でもあと1曲なのは本当だし」
ええええええええええええええええ!
「私もずっと続けていたいほど楽しいけど、残念ながら本当にあと1曲です」
「明日の朝までだってできるのに」
「会場の時間があるからね」
「だってさ?だからみんな、最高に盛り上がって欲しいな!あ、違った最高一歩手前まで盛り上がってね!」
わああああああああああああああああ!!!
とんでもないネタバレもあったものだ。
言外にアンコールがあるとばらしていいんだろうか。
まぁさすがにアンコールのコールが無いと寂しいから、グレイさんとかにも協力を依頼して呼び水のようなものは仕込んでいるが。
おっと、とりあえずはこの最後の曲を走り切ることに集中しなければ。
「最後はあたしとあーちゃんにとって思い出深い曲です。詳しくは言えないけど、大事な曲だから、みんなにも楽しんでほしいな」
「それじゃあ、ライブ『First step』最後の曲、聞いてください」
「「『BUMP OF CHICKEN』さんで『ray』」」
言葉ともにステージが暗くなり、それと同時にキーボードが軽やかなリズムを刻みだし、それに姫が合わせるように飛び跳ね客席に手を振っている。
観客もまた姫と同じように手を振り返してくれるから会場全体が一つの生き物のように左右にゆれていて見ていてとても神秘的だ。
「お別れしたのはもっと前のことだったような。悲しい光を封じ込めて、踵すり減らしたんだ」
「wow」
「君といた時は見えた今は見えなくなった。透明な水星をぼんやりとでもそれだけ探している」
姫が私にこの歌を歌ってくれてからずいぶん経った気がする。
あの時と比べてずいぶんと遠いところまで来てしまったが、結局のところ私たちの原点は変わらない。
歌って、笑って、そうやって生きてきたし、これからも私たちは生きていくんだろう。
「いつまでどこまでなんて、正常か異常かなんて、考える暇もないほど歩くのは大変だ。楽しい方がずっといいよ。ごまかして笑っていくよ」
「「大丈夫だ。あの痛みは、忘れたって消えやしない」」
姫だけじゃなく、私も、肇さんもほかのバンドメンバーもリズムとともに横に揺れながら観客を煽っていく。
会場を照らす白いライトは星のように瞬いて観客の顔を照らす。
その一人一人の目の輝きが不思議なほどに力を与えてくれる。
「晴天とはほど遠い、終わらない暗闇にも星を思い浮かべたならすぐ銀河の中だ。あまり泣かなくなっても、靴を新しくしても、大丈夫だあの痛みは忘れたって消えやしない」
曲ももう終わりがちかい。
それを意識したせいかはわからないが汗とは違うものが目元を濡らしている感覚がする。
あの時、あの姫が歌ってくれた時と同じ涙という現象だが、その理由は全く別のもの。
「〇×△どれかなんて、みんなと比べてどうかなんて、確かめる間もないほど生きるのは最高だ」
「「あまり泣かなくなっても、ごまかして笑っていくよ。大丈夫だあの痛みは忘れたって消えやしない」」
ラスト、姫と一瞬、二人で目を合わせて、そして観客一人一人と目を合わせるつもりで観客席を見つめる。
「大丈夫だ、この光の始まりには君がいる」
……わああああああああああああああああ!!!!
「ありがとー!!!!姫とー!」
「本当にありがとう!アネモネの!」
「「ライブ『First step』でした!!!」」
二人で手を繋ぎ、もう一度大きく頭を下げると私たちの姿は桜が散るように消えていく。
会場からは大きな拍手とともにすでにアンコールのコールが聞こえてきている。
まぁもう意味はないかもしれないがせっかく録ったから使わせてもらおう。
そんなことを考えているといつの間にかトラッキングスーツの上からスカートがはかされて今回のライブのグッズTシャツ着せられる。
ん?
「あーちゃん、行こう!」
「行くってどこへ!?」
「ステージ!はいこれ、仮面つけて!」
「ちょっ!?」
走り出す姫を追いかけるように仮面をつけて、私もギターを片手に走り出す。
正直に言う。
こんなことだろうと思ったよ。
「ほらもっと声出して!アンコール!アンコール!」
おぉ、収録したグレイさんのアンコールのコールが会場に流れているのが聞こえてきた。
思ったよりでっかく流してるな。
もっと呼び水みたいに小さく使うものだと。
「サプライズ、いいよね?」
「ま、ここまで来たならしょうがない。最後まで付き合うよ」
「そうこなくっちゃ!」
そうこうしていると舞台袖に到着する。
ステージ上は暗闇に包まれているが、バンドメンバーの視線は私たちに注がれている。
「準備オッケー!」
わああああああああああああああああ!!!!
姫がマイクに声を乗せるとアンコールのコール代わりに歓声が会場から爆発する。
アンコールの曲は配信での一歩目。
最期の盛り上がりにも申し分ない一曲。
そしてここでもスペシャルサンクスでグレイさんにも協力をもらっている。
「いくぞ、ラスト!」
「最後まで突っ走っていくよ!」
わああああああああああああああああ!!!!!
「Hello!This is Himejuuuuuu music hour love-up station.Stay tuned!!!!!」
グレイさんの妙に流暢な英語から始まる陽気なメロディー。
それと同時に姫と二人でステージのセンターへと駆けだす。
ライトが乱舞するステージの上から見えた景色は想像以上に綺麗で、そして狂乱していた。
スポットライトが私たちをとらえた瞬間、すべてを理解した観客の歓声で一瞬音楽が聞こえなくなる。
「ラスト一曲!全部出し切っていくぞー!」
その言葉とともに姫がメロディーに合わせて飛び跳ねると、会場全体もそれに合わせて飛び始める。
恐ろしいまでの熱狂を受け、それを姫は完全に乗りこなしていた。
「この番組ではみんなの、リクエストをお待ちしています。素敵な恋のエピソードといっしょにダイヤルをして」
とりあえずサビにはあの踊りが来るはずだが、妙なことにもう姫は変な動きをしている。
もはや何かの電波を受信しているのではないかとも思うが、まぁ楽しそうだからよしとするか。
「それは心が君の事、急かして蹴とばしているからで」
「シンプルな頭で聞けばいいのさ!Let's get to your「変な踊りいくぞぉ!!!!!!」 love!!」
「「キミが胸を焦がすから夏が熱を帯びてく!そして僕は渚へと誘うナンバーを届けてあげる。淡い恋の端っこを消して離さなければこの夏は例年より騒々しい日が続くはずさー!!!!」」
わああああああああああああああああ!!!!
……ちょっと想像以上にみんな変な踊りやってるな。
っていうかバンドメンバーも楽器を振り回してやるもんでもない気がするが。
え?私もやらなきゃだめ?そうですか。
まぁ踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損か。
「強い人には、慣れそうにもない。揺れてる君でいいよー!」
私もなるべく変な踊りをすると会場のボルテージもさらに1段上がる。
もうラストのサビになるが、このままラストまでてっぺんキープで走り抜けますか!
「みんなラストいくぞー!!!!ついてこーい!」
わああああああああああああああああ!!!!!
「「「「「「「「「Let's get to your love!!!!!!」」」」」」」」」
「キミが夢を願うからミュージシャンも張り切って!また今年の渚には新しいナンバー溢れていくよ!淡い恋の端っこを決して離さなければ!」
「「この夏は例年より騒々しい日が続くはずさーーーーーーー!!!!」」
わああああああああああああああああ!!!!!
「Thank you for your letter!Loving rabbit!」
跳ぶ。
あとは曲が、このライブが終わるまでひたすらに跳ぶ。
逆に言えば姫が限界を迎えたらそこでライブは終わりだ。
「Thank you for UNISON!Loving rabbit!」
っとラストか。
姫が高く掲げた右手に合わせてバンドメンバー全員で曲を最後に盛り上げながらお客さんを煽って全員でてっぺんまで昇っていく。
最高潮、そう全員が感じた瞬間、姫が最後に大きく飛び跳ねて落下と同時に右手を振り下ろす。
曲の終わりを告げる最後の音は恐ろしいほどに同時だった。
「終わり!!!!」
とりあえずこれで終わりの予定です。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。