姫と従者のRadio Duo   作:びーびー

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準備中

 

 

 時は流れて私と姫は高校生になった。

 

 と言ってももう入学してから半年は過ぎている。

 

 前世の記憶といっても義務教育も途中までの記憶までしかない私は苦戦しながらも姫に助けてもらい何とか高校生活を送っていた。

 

 姫はというと持ち前の明るさと人当たりの良さ、そして圧倒的な能力値の高さで周りから本当に姫扱いされつつあった。

 

 私が音楽チートを持っているとするならば、彼女はまさに最強系とでも言うべきか。

 

 なんでもできるし、覚えるのも早い。

 

 そして容姿もよく、人当たりもよければ人気者になるのも頷ける。

 

 その一方で私はあまりおしゃれに気を遣わず、暇な時間があれば音楽に没頭しており、勉強も姫の助けがなければ赤点に落ちるだろう。

 

 そんな二人がいつも一緒にいるとなれば自然とやっかみも押し寄せてくる。

 

「ですので椎名さんにはもっとふさわしい人がいると思いますわ」

「はぁ……」

 

 先程から私の前で高説を垂れ流している自称姫の親衛隊さん。

 

 こういうのが姫がいない隙を見計らって月に1回ほど押し寄せてくる。

 

 言ってる内容は全部似たり寄ったりで、どいつも自分に酔って姫のためにと騒ぎ立てていた。

 

 まぁ姫から直接離れろと言われたら考えなくもないが、無関係な他人に言われても一考にも値しない。

 

「そういうわけですので」

「はは」

 

 とはいえことを目立つつもりも、ことを荒立てるつもりもない私としてはあいまいな笑みを浮かべて右から左へと言葉を流していく。

 

 そうすればこの人もいずれ満足して立ち去るだろう。

 

「お疲れー」

「姫?ほんとあんたの人気はすごいね。こりもせず毎回毎回、よく来るよ」

 

 文句お嬢様が立ち去った後ひょっこりと姫が姿を現す。

 

「やっぱりあたしがガツンと言ってあげるよ?あーいうのは放っておくから勘違いするんだから。あーちゃんがいいって言うからほっといてるけどあたしだっていい気はしないし!」

「いーよ、別に。かわいいもんじゃない。それにそれだけ姫が人気と思えば私も満更でもないし」

「なんか歪んでるんだよねぇ、あーちゃんは」

 

 そう言いながら私の頭の上に顎を乗せる姫のなすがままにされる。

 

 かこかこと顎を鳴らしながら何かを考えている姫の様子を頭に感じながら、今日のスタジオの予定を確認する。

 

 まぁスタジオと言っても姫の家にある肇さんのスタジオを使っていないときに貸してもらえるというだけなので、基本日中は使いたい放題であるが。

 

「やっぱりさ、あーちゃんが音楽できることをみんなにアピールすればあんなこと言われなくなると思うんだよね!どうよ、一緒に軽音部に入ってこの学校を塗り替えちゃおうよ!」

 

「塗り替えませーん。私は別に目立ちたくて音楽やってるわけじゃないし。それにそれで人が寄って来ても、ねぇ?」

 

「むぅ」

 

 やはり姫としては友達が悪く言われるのは嫌なのか。

 

 まぁ姫はそもそも人の悪口が好きじゃないから彼女の周りの人間も自然とそういう価値観の人間が多い。

 

 じゃあ私に凸ってくる連中はっていうと、姫に近しい人というより、彼女を神格化している人間がほとんどだった。

 

 そんなことをつらつらと考えているといつの間にか頭の上から重さがなくなり、姫が私の向かいに移動し姿勢を正す。

 

 

「あーちゃんさ、この間パパがVライバーの機器をテストしたの覚えてる?」

「ん?あー、肇さんのレーベルもネット上での配信活動をバックアップしていくみたいな」

「そうそう!それでこの間、パパがテスターをしたトラッキング機器の製品版をもらったらしくてさ」

 

 その姫の言葉に当時の驚きがよみがえる。

 

 今までのトラッキング技術は大まかな動きはトラッキングできても、それこそ楽器を弾くなどといった複雑な動きは取り込んでも破綻することが多かったらしい。

 

 しかしここ数年のブレイクスルーによりトラッキング技術はプロのミュージシャンの緻密な指の動きまで完全に3Dに落とし込むことを可能にしていた。

 

 そしてこの間肇さんが所属レーベルのVORTEXのテスターとしてテストした機器は、今までのような大規模なトラッキングスーツなどを必要とせず、着け爪とブレスレットのような簡易な機器でそれに匹敵する精度を出しているらしい。

 

 私も肇さんがVORTEXの人に許可をとったうえで試させてもらったが現実の私の指の動きと遜色ないような速さで動く画面の向こうの指にずいぶんと驚いたものだった。

 

「だからそれ使ってさ、あたしたちもやろうよ、Vライバー!」

「えっ?レーベルとかVライバーの事務所に所属するってこと?」

「いやいや、そんなにがっつりとやるのも大変だろうし、俗にいう個人勢として気軽にさ!」

「なんでそんな突然」

 

 

 いぶかし気に見つめる私の視線から逃げるようにしていた姫だが、ついに観念したように私にもたれかかってくる。

 

「だって、あーちゃん本当にすごいのに目立ちたがらないしさー」

「そりゃ、まあ、めんどくさいし。私は姫たちにわかってもらえればいいよ」

「あたしは自慢したいの!あーちゃんはこんなにすごいって。Vライバーなら顔を出さずに済むし、めんどくさいのも減るかなってさ」

 

 高校生になって少し大人になったかと思っていたが結局小さいころからこういうところは変わっていない。

 

 たまに私や春さんたちの前でだけ甘えるようなわがままを発揮する。

 

 今回の原因は学校で私があまり評価されないことに対するフラストレーションだろう。

 

「つまり姫は、学校だと私がめんどくさがるから、私に直接結びつかないネットの世界で私を認めさせたいってこと?」

「あーちゃんとそれとあたしも!」

 

 見事なまでの自己顕示欲というか、なんというか。

 

 まぁ彼女のそれは基本的に自己研鑽につながっているから問題はない。

 

 が、しかし彼女の顕示欲は自分だけでなく身内にも及んでいた。

 

 春さんの料理。

 

 肇さんの仕事。

 

 私のお母さんの裁縫。

 

 私のお父さんのコネ。

 

 身内認定した人のありとあらゆるものを周りに自慢し、認められることに全力を費やす妙な少女になっていた。

 

 そんな中で周りに隠れ、全力を出さない私という存在にはだいぶヤキモキしたようだ。

 

 

「お姫さまはわがままなことで」

「……おねがーい」

 

 その声色と顔はずるい。

 

 今までの人生で何度も姫の『お願い』に直面してきたが、毎回この言葉に流されてきていた。

 

「はぁ……」

「やたー!二人で天下取るぞー!」

 

 そして今回も例外ではないようだ。

 

 正直Vライバーとはいえ、個人でやる分には箸にも棒にも掛からずに消えていくものだと思うが彼女の中にその選択肢は1ミリも存在していないらしい。

 

 はしゃぎながらスマートフォンをいじりだす姫の姿に騒がしくなる未来を創造し、苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 

 しかし妙に段取りがいいような。

 

 

 

 

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