姫と従者のRadio Duo   作:びーびー

9 / 9
beat hit!

 

 

「えーそれでは次のお便り。『最近おすすめのアニメは?』」

「アニメねぇ?姫は最近何か見てる?」

「むーここ最近は見てないけど、ARIAっていうアニメはめっちゃ好きだよ。あたしあんまり血とか出るのとか悲しいのはノーサンキューだけどこれはそういうんじゃないから」

 

・ARIAいいよ

・知らんかった

・まじおすすめ

 

「ARIAは、火星をテラフォーミングしたアクアっていう星にある水上都市ネオヴェネツィアを舞台にした少女たちのヒーリングアニメとも言える名作だよ」

「姫はあれ、好きだよね。原作の漫画、完全版も集めてたし」

「ARIAは人生だから」

 

・Fateは文学

・AIRは芸術

・CLANNADは人生

・人生二回あるが

・古すぎて二人にはわからんのでは

 

 実際古すぎてよくわからない。

 

 調べれば古いネットミームだと出るが、私たちが生まれる前の話をされても。

 

「あーちゃんは最近あれじゃん、デジモン見てるじゃん」

「あーあれは最近デジモンの曲聞いてさ。前の世界と同じであれ凄いのがデジモンが進化するときの曲がただのBGMじゃなくてちゃんと歌になってるんだよ」

「あのデッデッデッデッデデデデデデデデダンダンダンダンってやつ?」

「そうそう」

 

・わからんww

・わかるけどwwww

・デジモン良いよ!

・向こうの世界のデジモンソングも聞きたい!

 

「よくわかんないけど、デジモンの曲はこっちと同じだよ。和田さんが神ということもまた同じ」

「ふつうシリーズを重ねると変更があったりするけど、すごい人だったんだね」

「まぁさっき姫が口ずさんだのは違う人の歌だけどね」

「えー!?」

 

・そんなに言われたら聞きたくなっちゃうよなぁ!

・それはそう

 

 そんなたわいないやり取りをしているうちに姫の瞳に怪しい輝きが灯る。

 この輝きは姫があまりよくないことを考えているときのそれだ。

 

「じゃあ次はデジモン特集やろう!」

「いやいや。次ってクリスマスでしょ?さすがにデジモンは……」

 

・クリスマスも配信やってくれるんか

・ありがてぇ、ありがてぇ

・くりぼっちの強い味方や

 

 妙なコメント欄の雰囲気に頭を抱えたくなるが、それは置いておく。

 

 いまはこの暴走しかけプリンセスの相手が重要だ。

 

「っていうかクリスマスはこっちとあっちのクリスマスソングで季節感出そうって話だったよね」

「うん。そこにクリスマスエピを募集して甘ーい!ってやる予定だった」

 

 そんなクリスマス感満載のラジオで、もはやメッセージまで募集しているところなのだ。

 

 曲選びだって終わって練習もしていたはずなのに、それなのにこのお姫様は……

 

「でもさ、そんな定番なことをやっていてリスナーは喜ぶのかな!?」

「えぇ……」

 

・喜ぶで

・二人が楽しそうなら全然おk

・まぁもうメッセージ募集もしてたし、さすがに急か?

 

「ほら、コメント欄も「甘い!甘すぎる!」」

「そんなんじゃ生き馬の目を抜く配信者業界でトップを取るなんて夢のまた夢だよ!」

「少し、落ち着きなって。それに今から変更じゃ大変なのは姫だよ?」

 

 そう脅しつけても姫は一向にひるむ様子を見せない。

 

 それどころか言えば言うほど意固地になっていく。

 

 あまり配信上でグダグダとやってはいられない、か。

 

「じゃあ急な変更の責任をとってもらうから、姫結構大変だけど大丈夫?」

「ま、任せろり!」

 

・アネさん声が結構怒っとるー!

・姫、目が泳ぐとはまさにこのことwww

・アネさん優位パターンもあるとはこのリハクの目をもってしても

・はいはいリハクさん、晩御飯は食べたでしょ

 

「か、かかってこいやー!」

 

 レッサーパンダの威嚇のようなポーズをとる姫をあやしながら、計画を修正する。

 

 なんだかんだ言って姫も一緒にデジモンを見ていたから、歌うこと自体は大丈夫なはずだ。

 

 だからここらで隠し味を一つまみするのもいいだろう。

 

 ……楽しくなってきた。

 

「あーちゃんがデスノートのライトみたいな笑顔に!?」

「計画通り……!」

「ぎゃー!」

 

 

 そんなこんなで一週間が過ぎた。

 

 世間はクリスマスムード一色だが私たちは急な方針転換のためにクリスマスをかなぐり 捨てて、肇さんの許可を取りスタジオに入り浸っていた。

 

 そして時は12月24日、クリスマスイブ。

 

 街はカップルたちであふれかえっているはずだが、待機画面にはカップルのカの字もない。

 

 いや、本当はいるのかもしれないが、圧倒的にクリぼっちを回避した彼ら、彼女らの涙であふれていた。

 

 そんな中で蓋が空き配信が開始される。

 

・きたー

・暗転!

・何から来る!?

・おっ!

・これはっ!

 

「エクスブイモン!」

「スティングモン!」

 

「「ジョグレス進化ぁー!」」

 

 流れ出すBGM。

 

 場所の背景はいつものスタジオではなく、荒野の真っただ中。

 

 その中で仁王立ちする一人のシルエット。

 

 どうやったのかは知らないが、普段の私と姫の衣装と姿がうまくフージョンしたかのような姿の人物からは私と姫の二人の声がする。

 

「「パイルドラモン!」」

 

 名乗りとともに連打されるドラムのリズムに重なるように周囲の地面がマシンガンで撃ち抜かれたかのようにはじけ飛ぶ。

 

 これが、やりたかった。

 

・ふぁー!

・フュージョンやんけ!

・俺は姫でもアネさんでもない!俺は貴様を倒すものだ!

・ジョグレス進化ーーーーーー!

 

「「今、未来を賭けて、ふたつのチカラがぶつかる。もう、とまどうヒマは残されてないんだぜ」」

 

 さすがにこの状態では普段のようには動けず、仁王立ちが精一杯らしいがよくこんな短期間にこんなことができるものだとあきれ返る。

 

 成し遂げた本人は勉強の片手間でやっていたようだが、それにしてもこれが規格外だということは私にもわかる。

 

 その本人はザ・アニソンというこの曲を楽しそうに歌っているが。

 

「「standin'by your side!どちらに立つか選ぶんだ、君のその手で。stand up to the fight!ふたつのチカラ。いつの日か、分かり合える、時が来るまでー!」」

 

・あちー!

・パイルドラモン!?02!02じゃないか!

・なつい

・beat hit!か。進化曲はどれも良いけど、これは印象的だったな

 

 

 そのままの勢いで歌い切った後、画面上の私たちは分離し、二人に戻る。

 

 懐かしい曲の登場で視聴者の郷愁をくすぐったのかコメント欄はシリーズを懐かしむようなものが多い。

 

 ならばこの勢いのまま行くしかないか。

 

 姫とアイコンタクトを交わして次の曲のイントロを始める。

 

 その後もカードをスラッシュしたり、ゴミ箱を飛び越えたりしながら配信は進み、コーナーはふつおたデジモン特集まで進行した。

 

「では次のメッセージ。好きなデジモンは?だって。私はトゲモン!あの目と口が好き!」

「姫はああいう埴輪キャラ好きだよね」

「かわいいじゃん!」

 

・草

・まぁかわいいかも

・まぁ好きな人は好きよな

 

 どうも姫は王道からは外れたものを好む気配がある。

 

 ほかにもデジモンではモンザエモンというやや不気味なキャラも好きだったりと姫の好みは不可思議なものばかりだ。

 

 しかしこれを掘り続けると姫に好かれてる私もという疑問がわいてくるからこれ以上はやめておこう。

 

「それであーちゃんは?オメガモン?それともちょい悪系のベルゼブモン?」

 

・トゲモン好き!

・トゲモンの本体は頭のオレンジの草だから

・それリリモンが好きなだけだろwww

・っぱオメガモンでしょ

・……エンジェウーモン

 

 コメント欄では様々なデジモンの名前が流れていく。

 

 というか姫が上げたデジモンはすべて王道といったデジモンばかりだ。

 

 姫が上げた中だとバックストーリ含めてベルゼブモンが好きではあるが、ここではっきりと言っておかなければならない。

 

「私の中ではデジモンってやっぱりモンスターなんだよね」

「ほう?つまり人型は好きではないと」

「いやそこまでじゃないけどやっぱり人型になると洗練されすぎるというか、もっとモンスター感が欲しいんだよね」

 

・わからなくない

・人型は邪道

・四足をすこれ

 

「つまりあーちゃんが好きなのは?」

「メタルグレイモン」

「王道!?」

「いや、まぁそうだけど。やっぱりあの改造感がモンスターっぽいし。そもそもかっこいいし」

 

・っぱメタグレよ!

・ウォーグレではあかんか

・オレンジですか、青ですか?

 

「ちなみにクロスウォーズはまだ見てないから初代のメタルグレイモンね」

「デジモンは亜種が多いよね、x抗体とか、そもそも色が違ったり」

 

 最近知ったがメタルグレイモンも私の知っているもの以外にも違うものが最近の作品で出てきたようだが、そちらはあまり好みではない。

 

 あとはムゲンドラモンとかも好きだ。

 

・そんなもんだよ

・どんどん後付けで追加されるから

・そんなんどのアニメも同じよ

 

 そんな話をしていると時間も過ぎていく。

 

 話題もひと段落して、そろそろ良い時間だから締めに入ろう。

 

「さーてそろそろ締めるよ」

「えー早ーい!」

 

・早ーい

・はやーい

・えー!

 

 最近恒例になりつつあるお決まりのやり取りだ。

 

 姫にタイムキープを任せると無限にしゃべり続けようとするのでいつも私はいいところで切るが姫がそれにじゃれつき、ノリのいいコメント欄も乗っかってくる。

 

「はいはい。じゃあ姫準備よろしく」

「最近あーちゃんの私に対する扱いが雑だよー」

 

・草

・そりゃしゃーない

・姫上、おいたわしや

 

「コメント欄!」

「はいはい。最後のやつやるよー」

 

 コメント欄と戯れ始める姫の頭を小突いて軌道修正する。

 

 私が小突いたところをさすりながらも最後の準備をし始める姫を横目に私もカンペを用意して最後の準備にかかる。

 

 最後にやるのは原点にして頂点。

 

 その曲が最も輝いたと個人的に思った、あの一幕。

 

「姫?」

「いつでも」

「じゃあ、みんな。今日はこれで、次の曲で最後です。……聞いてください」

 

 姫の返答に頷き、一言告げて私もすっと一つ息を吸う。

 

 演劇は姫のナレーションから始まる。

 

『それは一つの旅の終わり』

 

・お?

・なんか始まった。

 

『子供たちはそれぞれのパートナーデジモンたちと別れを告げ、現実世界に戻るために電車に乗り込んだ。それぞれが互いに別れの言葉を交わし、そして電車は走り出す。ただそこには一体、いるべき姿がなかった』

 

・パルモン……

・初代の最終回……

・あああああぁああぁあああ

 

 配信画面は暗転し、私と姫とだけにスポットライトが当たっている。

 

 コメント欄もこれからやることが分かったのかその動きが加速していく。

 

『甲高い笛の音を合図に電車は走り出す。だんだんと遠ざかるデジモンたちの姿。その時、小さく。しかし確かに、彼女の声が聞こえた』

「……パルモン!」

『思わず電車の窓から身を乗り出す少女。その眼には涙を流しながら電車を追いかける親友の姿があった』

「ミミ!ごめんなさい!」

「いいの、パルモン!さよなら!本当にありがとう!」

 

 申し訳ないが物まねが得意なわけではないからあまりパルモンの声に似せることはできないがそれでもあのシーンを再現するために姫に負けじと声を張る。

 

 ちなみにナレーションは頑張ると宣言した姫が、感動の涙を流しながら収録していた。

 

 基本彼女は涙もろく、アニメの感動シーンがカラオケの背景映像になっていると大体泣いて声を震わせている。

 

 閑話休題。

 

 そろそろ演劇も終わる。

 

 ギターの準備は、問題なし。

 

「さよなら、ミミ!あぁ!?」

『親友が足をもつれさせる。その姿に少女は思わず電車の車窓から身を乗り出す。風が彼女の帽子をさらう』

 

 ナレーションの終わりとともに配信画面をホワイトアウトさせる。

 

「無限大な夢のあとの何もない世の中じゃ。そうさ愛しい思いも負けそうになるけど!」

 

 そのイントロに合わせるように姫の歌声にギターを寄り添わせ、コーラスを入れていく。

 

「「stayしがちなイメージだらけの頼りない翼でもきっと飛べるさ。Oh yeah」」

 

・っぱ和田さんよ!

・いつまでも伝説。

・惜しい人をなくしたよなぁ

 

「「無限大な夢のあとのやるせない世の中じゃ。そうさ常識外れも悪くはないかな。stayしそうなイメージを染めた。ぎこちない翼でも、きっと飛べるさ。on my love」」

 

 ワンフレーズだけの初代オープニングテーマ、『Butter-fly』

 

 アウトロをギターで弾きながら配信を切る。

 

 配信終了を確認してコメント欄を見れば、思い出を刺激されたのか感動の声が多く寄せられていた。

 

「お疲れ、姫」

「お疲れーあーちゃん」

「みんなが知らない曲を歌って驚かせるのも良いけど、こういうみんなで共感する曲もやっぱりいいよね」

「わかる!自分が好きなことを好きって言ってくれるとうれしいよね!」

 

 目を輝かせる姫とのおしゃべりは肇さんが様子を見に来るまで続いたとか。

 

 それにしてもクリスマスイブの夜にデジモンの話で盛り上がるとは、何か複雑な気分でもある。

 

 ブランディングとでも言おうか。

 

「姫ー、もっとブランディングとかさー」

「ブランディングって言ってもこの配信ってどこまでも私たちが好きなことをして結果的にあーちゃんが有名になる配信だし」

「……ま、確かに一部を除いてそうかもね」

 

 結局個人勢としてのんびりやっていくためにはあまりブランディングとか考えず、やっていくことがベストなのかもしれない。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。