夜空が割れた。
亀裂から黒い靄が漂う。割れ目は徐々に大きくなっていき、バスケットボールほどのサイズになった。
その穴から生気の感じられない真っ白な手が生えた。穴から這い出ようと動き、肩が露出した。ギギギと不快な音を発っして亀裂が広がっていく。
遂にソレが顔を出した。
「……………デカグラマトンが敗北した世界線か」
酷く疲れたような声だ。血に汚れた白髪は風に揺れている。
「だとしたら…………そうか。居るのか」
誰に対して語りかけているのか、ソレは泣きそうな表情のまま穴から身を乗り出した。
空中に浮かんだまま、ソレは世界を見渡す。
至るところにビル群が立ち並び、夜中にも関わらずデスクに座って仕事をしている会社員が見える。
視線を下ろすと歩道の脇で不良生徒が銃声を響かせて周りの市民に威嚇している姿が目に入った。
長い溜息を吐いて、すぐ近くのビルに降りる。どの世界線でも何も知らない奴等は呑気なものだ。
無人の屋上を歩く。夜風がとても気持ちいい。もうこのまま消えてなくなりたい。そう思った瞬間、鋭い痛みが脳みそを駆け巡った。
思わずこめかみを押さえる。
『驕るな────この期に及んで迷う愚か者め』
「黙れ」
『口を慎め臆病者。父と母を殺すなど、今の貴様にとっては眠るよりも簡単なことだろう?』
「失せろ塵共」
『まあいい。貴様の使命を忘れぬことだな。我々は常に観ているぞ、偽りの魔王よ』
忌々しい声はもう聞こえない。二度目の長い溜息をついた後、ソレは移動を開始した。
空を銃弾並みの速度で飛びながらこれから始めなければいけないことの整理を始める。
やることはいつもと変わらない。世界の破滅。キヴォトスを火の海に変え、生きとし生きるものを全て殺し尽くす。
命を灰に変え、その灰のうえに降り立つ。
ソレ────いや彼の名は天童アスカ。別次元の世界線より現れた「偽りの魔王」。
アスカが向かう場所はミレニアムサイエンススクールにあるゲーム開発部が借りている部室。
「まずはモモイ姉────才羽姉妹を殺す」
この世界に現れた異物。なのに誰も気づいていない。シャーレにて書類作業に追われている先生すら気づかない。
呻き声をあげながら書類の山を片付けている先生に、コーヒーを差し出す少女の姿があった。
「もうっ!どうしてこんなになるまで放置していたんですか!」
「うぅ………そう言われても…………」
先生に対して怒る少女は天童ケイ。彼女は腰に手を当ててプリプリしていた。そんな姿も凄く可愛いと思いながら先生はコーヒーを一口啜った。
コーヒーの苦味はいつもよりしつこく感じた。
【突如現れた謎の少年、天童アスカを軽くご紹介】
身長は120センチ前後で、肉体年齢は7歳です。先生が持つことを許されるタブレットを所持しているがもう使い物にならない模様。
左腕と左目を失っており、目を背けたくなるくらいの裂傷痕が顔にある。
アスカにはもう理性がほぼ残っていません。
以上!