プロローグ
最後に白鳥を見たのは、そんな遠い過去ではない。
その頃にはボクの頭はおかしくなっていて、いろいろと思い出せなくなったボクはそれでも改札を抜けて駅を出たらバス停があってそこにあるバスに乗り五つ目で降りると小さな湖のある公園に白鳥がいたことをなぜか覚えていた。ほかのことはもうほとんど忘れてしまったのに。
ボクには父がいたのだろうか。母はいたのだろうか。
白鳥はよく見に行った。なにもせずにただ眺めた。ボクの両隣には白い顔のない人形が立っている。
「もしかして、ボクのお父さんとお母さんですか?」
顔のない人形はなにも言わぬ人形だった。
世界の人口が百億人を超えた年、人は食物と水を求めて争った。人は死に往き、国は滅びた。ゆっくりと時間をかけて。 過去の、あの時代を求め、人を殺し、皆が振り上げた拳の下ろし場所をなくしていた。
ある日、世界を渦巻いていた殺気が一息に消えた時があった。
人口が一億を切った。
「目ェいたい!」
初めて見るベンチに寝転がってそこにいた。
「あのらんらんに光っているのは……太陽だ!」
どのくらいぶりかわからない陽の光をうまく目が開けられないまま見つめた。手首には白い輪っかをつけていて、それはたしかボクが逃げないようにつけられた手枷だったと思う。そんなようなことを誰かに言われたのを覚えている。ボクは寝転がっていたベンチから起き上がるとどうも目の前が見にくく感じるけどすぐに気にならなくなった。
ボクは、自分が知らない場所にいることはまだわかっていない。
彼女たちは自然と4人が似合う友達だった。二人はブレザー、二人はセーラー服、そこから4人が同じ中学校ではないことが窺える。彼女たちはいつものクレープ屋さんでクレープを食べていた。一人の茶髪の少女はクレープを片手に、もう片方の手にはカエルのキャラクターのストラップを持ち、幸せそうに微笑んでいた。となりにいるツインテールの少女が茶髪の少女になにやら話しかける。恥ずかしそうに頬を染めてそれをポケットにしまう。しかし、慌てていたせいでポケットからカエルのキーホルダーが滑り落ちてしまったのを彼女たちは誰も気づかず、茶髪の子は誤魔化したかのようにクレープを食べた。
爆発音がしたのはその後だった。頭に花飾りをつけた少女が長い黒髪の子の肩をポカポカと叩いていた時、渦巻く炎といっしょに爆発音が起きた。破片と熱気が飛び散り、そこに周囲にいた人たちの悲鳴と叫びが混ざっている。
逃げ惑う人たちの流れを割くように彼女たちは駆け出した。 彼女たちの顔には、クレープを食べていた時の少女の面影が消えていた。