「あれはくも、白いなー。あれはくるま、はやいのりものだ。あれは…」
一つ一つ指をさしながらボクはなぜこんなにも懐かしいと思っているのか不思議でいて謎であったが、けれどもそれよりも楽しい気持ちがいっぱいだった。
気づけば知らないところにいたボクがそのことに気がつかないまま辺りを歩いているとボクは裸足だったみたいでときどきチクチクと足のうらがしたけれど歩くことはやめなかった。
ふと、遠くで「どおーん!」と大きな音が聞こえた。すぐ後に悲鳴や叫び声が聞こえた。
「きみはなんだい?」
ボクの前に見たことのないものがいる。後ろから聞こえた爆発したような音よりも、ボクの前に現れた太い筒のような形をしたそれに気がいった。
でたらめに動いたりくるくる回ったりしている。触れてみると少しだけ冷たくて固かった。「きみはなにをしているの?」 ボクはそれを撫でながら聞いてみた。
小さい丸い光がチカチカと点滅してまばたきした人間の目みたいだった。ボクは楽しくなった。
それは常に動いていて、ボクはその後ろについていった。
「ねえねえ、どこに行くの? なにしてるの?」
それは何も答えず「うぃーん」となにか回転している音だけが聞こえるだけ。近くに空き缶が落ちていた。ボクがそのことに気がつくと、それは小さくて丸い光を赤くさせた。それは空き缶に近づくと体の下についているもじゃもじゃのモップのようなところから空き缶を吸い込んだ。
「たべた! すごい!」
そうかこれは缶を食べる生き物なんだと思った。
ボクはもう一度食べるところが見たくてまだ落ちていないか周りを見た。
視界の端で稲妻が一直線に伸びてている。
「あっ! あった!」
大きなカゴに空き缶がいっぱい入っていた。ボクは走ってカゴのところへ行き空き缶を2つ取り出し、また走って戻るとそれはくるくる回っていた。
「はい。どーぞ」
空き缶を地面に置くとそれは目を赤くチカチカさせて同じように吸い込んだ。
「あはは!」
ボクは楽しくなり、そのあともカゴから空き缶を取り出しては何度もそれが食べるところを眺めた。
それが食べなくなったので頭を撫でながら「おなかいっぱい?」と聞くと、目をチカチカさせてどこかへ行ってしまった。「あっ、待って!」
さっきまでウロウロしていたのに、それは目的をもって動いているみたいだった。
ボクは急いで後を追いかけた。スルスルと人の間を抜けていくそれは、動きは速くないものの膝上あたりくらいの大きさだから人ごみで見失わないように目が離せなかった。
「どこ見てんだガキィ!」
ボクはそれを追うのに夢中だったので前に男がいたことに気がつかなかった。
ボクのことを「ガキィ」と言ったのは体の大きい男だった。なんだか恐い顔で大きな声でなにか言っているけどよく聞き取れなかった。なので「聞いてんのかぁ!」と男に言われたときに「なにを言っているのかわからない」と答えた。それよりも男に隠れてしまったさっきまでいっしょにいたそれをボクはまだ目で追いかけることに集中していた。遠くのそれは人の間に紛れてとうとう見えなくなった。ボクはがっかりした気持ちになって、でもまだ走って追いかければ間に合うかもしれないと思い。
「なめてんのかガキィ!」
殴られた。
頭の中でガツンと音がした。熱い衝撃が頬を巡って、そのままの勢いで尻もちをつくように倒れた。
男は胸ぐらを掴んで喚いている。
ボクの耳にはなにか詰まってるのかな。男の声が二重、三重に塗りつぶしたように聞こえる。男が胸ぐらを掴んだままボクを力ずくで立たせる。鼻息が顔にかかる。
「っつ! …てめぇ、なに笑ってやがる!」
どうやらボクは笑っていたみたいだ。
よくよく周りを見てみると人がたくさんいた。どうしてかな、ボクと男を見ている。
ボクはとりあえず目があった女の子に手をふってみた。
「ひぃっ!」
手から赤い雫が飛んだ。
その女の子やそのとなりにいる女の子、奥にいる男の子、男、女、男、男男女男女女女女男………。
たくさんの男と女、人間が、ボクを変な目で見ていた。
「もしかしたらみんなボクのことがこわいのかもしれない」 ボクは小さな声でささやくように言ったのはノドが渇いていたからだ。
指先からドロリと赤い水滴が落ちる。仕方ないので赤く濡れた手をなめた。
おいしくなかった。