Wizard   作:オンドゥル大使

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ACT21「譲れぬもの」

 

 上層部に意見をするのはもちろん、控えられていると言うのに、小田巻がしたのはまさしくその禁忌を犯すような物言いであった。

 

「謎のポケモン……403に無貌の電脳戦士の情報開示をお願いします。円卓騎士団全体で立ち向かわなければならない、窮地でしょう」

 

「ちょ、ちょっと……! 小田巻さん、意見している相手が誰なのか分かって……!」

 

「もちろんよ、蜷川。どうなんです? 円卓騎士団、上層部のお歴々。ここで謎の電脳戦士を放置するのが如何に危険なのか、分からないわけではないはずです」

 

 隣の蜷川が当惑気味にするのを一瞥もせず、小田巻は円卓騎士団を束ねるモノリス姿の対象を睨み据える。こうして、自分達の直接な進言を前にして一度として顔を見せないだけでも、上層部の腐敗が見え隠れすると言うものだ。

 

『……小田巻ミナミ君。君はこの状況がどのような事態なのかを理解しての発言かな? とっくに報告ではなく、これは詰問になっているのだと、分っていないほど愚かでもあるまい』

 

「もちろんです。だからこそ、言わせていただきたい。無貌の電脳戦士、404……いいえ。新たに入手した情報網では、彼の電脳戦士は[ウィズ]、と名付けられたのだと聞きつけました」

 

『……よもや、それが我々円卓騎士団の中の膿だと言うわけではあるまいな?』

 

「それが濃厚であるのならば疑うのも無理からぬ事でしょう」

 

 短く、それでいて簡潔に告げた自分に蜷川が何かしら言い訳の口上を述べようとする。

 

「あ、あのですね……。[ウィズ]、と言う名前も、403も404も、どれもまだ謎が多いですが……やはり円卓騎士団が可及的速やかにこういった異常事態に立ち向かうべきだと……」

 

『蜷川君。君も小田巻君と同じ意見と思っていいのだろうかね?』

 

 その発言だけで蜷川が震え上がる。

 

「ま、まさか……そんな……」

 

 やはり蜷川が当てになる事はないと、小田巻は論調を激しくする。

 

「ですが、我が方の円卓騎士団、序列三位がしてやられたのは事実です。もし……少しでも強制ログアウトが遅れていたら、彼は死んでいたかもしれないんですよ」

 

『[ランスロット]、か。優秀であるとは聞いていたが、少しばかり独断専行が目立つな』

 

『左様。彼が勇猛果敢なのは認めるが、403と言い、[ウィズ]なる電脳戦士との交戦と言い、もっとうまく運用出来ないものかね?』

 

「……それは日神ワタルと言う、優秀な電脳戦士を更迭すると言う意味と取っても問題ないでしょうか?」

 

「小田巻さん! 落ち着いてください! 誰もそんな事……!」

 

「言っているようなものですよね? 勝てないのならば、電脳戦士[ランスロット]は要らない、と」

 

 小田巻自身、ここで[ランスロット]の価値を下げたいわけではない。むしろ、逆だ。ワタルと[ランスロット]でなければもっと手痛い敗北を喫していたであろう事をお歴々に納得させたいのだ。実際、[ランスロット]でなければともすれば403と同じように排除されていた可能性が高い。

 

『……日神ワタルは優秀な戦士だ。それを更迭なんて事は、我々も望んではいない』

 

『しかし、同じ戦法が敵うほど、敵も一筋縄ではいかないと感じている』

 

「……何を仰りたいのですか」

 

『つまりだね。[ランスロット]、序列三位を誇る彼の再選はどうかね? これはあくまでも提案だが』

 

「……日神ワタルを、[ランスロット]から降ろすと言いたいのですか」

 

 売り言葉に買い言葉の勢いで、小田巻は鋭い眼差しをモノリスに向ける。それをまるで感情など感じさせないまま、能面の者達はこちらを見返す。

 

『感情的になってはいけないな、小田巻君。何も、彼が全面的に悪いわけではない。ただ、試すのも悪くはないと思っているだけだ』

 

『試す戦場も、既に用意されている。君達は聞き及んでいるか? “ポッ拳バトルトーナメント”を』

 

「……確か、シンクロを使える猛者達が集う、夢の舞台、でしたか。しかしその実は、違法な賭け試合の温床になっているとも聞いていますが」

 

『今のままでは[ランスロット]の運用には疑問が残る。そこで、だ。ポッ拳バトルトーナメントで勝ち進み、優勝してもらう。それが達成されれば、我々も序列三位の優秀な戦士を失わずに済む』

 

 唐突な条件に小田巻はしかし、戸惑いなど一ミリも浮かべずに応じてみせる。

 

「……それが出来れば、日神ワタルの存続を許可していただけるのですね?」

 

『無論だ。強い電脳戦士ならば大歓迎だよ。ただね、あくまでも非合法、その上、賭け試合とも来ている。[ランスロット]のアバターは一時的に返却してもらおう』

 

 やはり、それが目的か、と小田巻は静かに歯噛みする。

 

「……それは出来かねます。あなた方は、[ランスロット]の代わりをその間に擁立するおつもりでしょう?」

 

『[ランスロット]、イコール日神ワタル、という図式を崩してやろうと言っているんだ。既に治安維持局にはマークされている。ここで一度、それを解くためには完全に無関係を貫くほかない』

 

『左様。どれもこれも、君達の立ち回りを優先しての便宜だよ。何の間違いでもない』

 

 小田巻はその物言いに反吐が出る思いであった。結局のところ、円卓騎士団上層部は、[ランスロット]言う名の優れた電脳戦士の張りぼてが欲しいだけなのだ。

 

「……分かりました。では、日神ワタルにはそう伝えておきます。[ランスロット]が使えずとも、彼は……最強の電脳戦士である事を」

 

『楽しみにしているよ。まさか[ランスロット]の性能だけでここまで成り上がったわけではあるまいに』

 

『……おいおい、これじゃ私達が悪者のようではないか』

 

 不意に割って入った円卓騎士団上層部とは違う声に小田巻は目を見開く。

 

「……あんたも来ていたのね。相変わらず、趣味の悪い事」

 

『そうかな? 案外、日神ワタルよりも私のほうが上手く使えるかもしれないよ?』

 

「その物言い、やめてもらえるかしら? 不愉快過ぎて、今すぐ通信を切ってしまいそう」

 

『残念。久しぶりの再会なのだから、多少は歓迎ムードかと思ったのだが』

 

 モノリスの向こう側でもそのキザな顔と、肩を竦めているのが透けているような相手の声に、小田巻は言い放つ。

 

「……あんたの手は借りない。[ランスロット]の返却には応じますが、まさかこの男がその適合者だと言うんですか?」

 

『いけないかね? 彼は電脳戦士としての適合試験にはトップクラスで合格している。――名前を小田巻ホクト――君の実の兄だろう? 小田巻ミナミ君』

 

「……小田巻さん、お兄さんが居たんですか?」

 

 蜷川の追及を無視して小田巻は言葉を放つ。

 

「……その男を[ランスロット]にするくらいなら、私の意見は一つです。[ランスロット]のサポートは一切、したくありません」

 

『そうはいかないんだよな、我が愛しい妹よ。[ランスロット]運用に際して、ミナミ、お前はもう一意見の領分を出ている。だからこそ、私のために最善の状態で[ランスロット]を運用してもらうよ。もちろん、話にあった404も403も、どっちも倒してみせようじゃないか』

 

 ホクトの声はまるで毛穴に染み込んでくる不愉快な毒針のようでさえあった。その自信に満ちた声音も、まるで子供を諭すようにする癖も、何一つ直っていない。

 

「……今一度、申し上げます。[ランスロット]の適合者は唯一無二。日神ワタルだけです」

 

『そう思っているのは君だけかもしれない。小田巻ホクト君の戦歴は優秀だ。君に拒否権はない。ポッ拳バトルトーナメントで日神ワタルが勝ち上がっている間にも403の事件は起きるだろう。その時に、動けないでは意味がない』

 

「……日神ワタルを非合法のアングラに押し込んでいる間に、そうして聡く立ち振る舞うおつもりですか」

 

『口を慎め! 我々は円卓騎士団を束ねる存在だぞ!』

 

『そうだ! 第一、先ほどから聞いていればいけしゃあしゃあと! 君らのミスがそもそもの原因だろう!』

 

「では逆にお聞きしますが。円卓騎士団、その誉れある電脳戦士にここまでの暴虐に満ちた発言、撤回していただけるのでしょうか? これは私個人だけではなく、日神ワタルと言う優秀な人員と、そしてほとんどの事件を未然に防いでいる円卓騎士団組織そのものへの侮辱に繋がります」

 

『そこまで言うのならば、日神ワタルを買っているのは事実なのだろう。だが、こちらにしても引けない事情もある。もし、無貌の電脳戦士こと[ウィズ]が何者かの作為によってその姿を取っているのだとすれば。円卓騎士団存続の危機だ。よって、今回の処遇にはある程度納得してもらうほかない』

 

 ワタルの身柄一つで手打ちにしてもいいと言外に付け加えられ、小田巻は拳を骨が浮くほど握り締める。ここまでの屈辱、そして侮蔑は自分だけならばいい。それをワタルも被っているのが我慢ならない。

 

「……お言葉ですが、[ランスロット]でなければ勝てない、と言う局面もあり得ます」

 

『そのための小田巻ホクト君だよ。まぁ、君は彼の事をよくは思っていないようだが』

 

『ご関心感謝しますよ、それに気遣いもね。しかし、元々なんです。どうしても、我が妹とのそりは合わない』

 

 どこかで諦めた自分のほうが大人だとでも言うような声音に小田巻は改めてモノリス達を眺める。

 

「……私の進言は一つ。日神ワタル以外での403の迎撃は不可能であるし、404こと[ウィズ]に至ってはもっとでしょう。あなた方は侮っている」

 

『そこまで日神ワタル君に固執する理由が知りたいな、我が妹よ。ともすれば、そいつに惚れているのかな?』

 

「ええ。今までの発言からお分かりになられたかと思いますが」

 

 ノータイムで返答したのでさしものホクトの慇懃無礼な言葉も途切れてしまう。それどころではない。隣の蜷川が絶句している。

 

『……公私混同はよくないな。如何に日神ワタルが強かろうとも』

 

「公私混同だからこそ、ここまでやって来られたのです。最後に言っておきますが、私は日神ワタルの[ランスロット]への復帰を常に進言しておきます。あなた方のここだけの話で彼が更迭されるのは我慢なりませんからね」

 

 僅かな沈黙が流れた後、やがてこの場を取り仕切る代表者が声にしていた。

 

『……よかろう。しかし、条件は変わらない。日神ワタルにはポッ拳バトルトーナメントで優勝してもらい、トーナメントを牛耳る胴元を取り押さえる事が出来たのならば、[ランスロット]への復帰を許可しよう』

 

『その間は私が[ランスロット]。サポート頼むよ。403とやらとの遭遇戦もあるだろうからね』

 

 どこまでも傲慢に成り下がった声音に小田巻はいちいち反応するのも馬鹿馬鹿しくなって無言を返答とする。

 

「……失礼します」

 

 身を翻した自分に対し、蜷川が突っかかる。

 

「小田巻さん! ……何でそんな態度なんですか! ……すみませんでした!」

 

 通話が途切れ、モノリスが掻き消えてから小田巻はトレーラー内を見渡す。ここで下手な意地を張っても仕方ないのに、どうしても上層部のやり口には辟易してしまう。

 

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