ふわぁ、と欠伸を漏らしたテツに対し、シズクが肘うちする。
「ちょっと……。あたしの初陣だって言うのに、欠伸なんてしないでよ」
「だってさぁ……。昨日はほとんど眠れなかったんだ。シズクちゃんの初試合がナンジャモだって言うんだろ?」
「……何よ。あたしが負けると思ってるの?」
「そうじゃなくって。……おれらだって、それなりにナンジャモのリスナーだって言うか……。ちょっと複雑なんだよ」
その物言いにシズクは腰に手をやってふんぞり返る。
「呆れた! これだから、男って言うのは!」
「シズク。……今回は特別戦だ。普段ならばZORA内でもジムリーダーに立ち向かうのにはそれなりにジムトレーナーを倒す必要があるが……エキシビジョンとしての役割がある。何よりも――」
レイジの重々しい声音にシズクも唾を飲み下す。
「……うん。だって、相手は……」
『おはこんころチャロ~! 何者ナンジャ? ナンジャモです! 今日は皆の者にぃ~特別な試合をお届けするよ~! コラボ相手はニューキンセツのジムリーダーのテッセン氏! コメントをどうぞ!』
『いやぁー、ここまで観客に囲まれるとわしも勘違いしてしまいそうじゃわい! だが、若い感性と言うのは常に必須になってくる! わしとジムバッジを競うだけでは華も何もないからのう! ナンジャモちゃんに勝てれば、わしに勝ったのと同等の資格を与えよう!』
『と、言うわけで~チャレンジャー! どうぞ!』
歓声が上がり、シズクは緊張感で乾いた喉がひりつくのを感じつつ、一歩ずつ階段を上がる。
バトルフィールドはテニスコート大にすれば二面分ほど。しかし、それでもポケモン同士のバトルの場ではいささか狭いほどだ。元々、現実のキンセツシティは改造を施されているがニューキンセツの戦場では豪奢な仕掛けが施されており、それぞれのトレーナーはお立ち台と呼べる一階層高い場所に導かれる。
メインバトルフィールドは電気のワイヤーによって宙に浮いている。そのため、断崖絶壁が存在していたが、落下による敗退が存在しないように電気の柵に四方を囲まれている。
モニターに表示されたナンジャモと自分の容貌に、観客達のムードが明らかに下がったのを感じ取る。恐らく、こんな小娘が挑戦者かという落胆があったのだろう。
『皆の者~! テンションブチ上げてこぉ~! さぁーて! じゃあ配信スタート! 同時接続数もシビルドンのぼり! いけいけ、いっちゃぇ~っ! チャレンジャー! お名乗りカモン!』
ナンジャモもさすがはパルデア地方の人気配信者。観客や視聴層の事を第一に考えており、ムードを捉える事にかけては一朝一夕では成り立たないパフォーマンスを誇る。
「……“ミニスカート”のシズク……」
『ほほんっ! じゃあ、シズク氏! ボクに勝てるかなぁ? ルールはこのエキシビションの特別方式! ボクは一体のみ! チャレンジャーは六体フルも可能! さぁ、おいで!』
ナンジャモがバトルコートに解き放ったのは魔女の帽子を想起させる形状のポケモンであった。紫色の薄靄を纏い、その姿は常に揺らめいている。
「……レイジの情報通り。ナンジャモの切り札はムウマージ……。なら……行って! プリン!」