Wizard   作:オンドゥル大使

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ACT5「エラー認証、その名は■■■」

 

 騎士勲章が生み出した菱形のバリアがポケモンの攻撃を弾く。ワタルは瞬時に青白く明滅する装甲を纏う。

 

 鎧と電子の鋼を全身に伸長させ、一秒未満で電脳戦士としての姿へと変じていた。

 

「カルボウ!」

 

 掌にボールを構築し、電脳戦士[ランスロット]と化したワタルはカルボウを繰り出す。謎のポケモンは見たところ矮躯だ。ならば、ここで抑え込めるかと考えたが、攻撃の前にそのポケモンの肉体が眩く照り輝く。

 

 その光に眩惑され、カルボウが攻撃をし損なう。

 

「……この光は……!」

 

[ランスロット]にとっては異常な光源の観測であった。如何なる違法行為、あるいはチーターであろうとも見据えるはずのバイザーが一時的に損傷する。

 

 甲高い声を上げて謎のポケモンがヒウンアイスの店舗を吹き飛ばす。

 

「……なんて、力……!」

 

 鋼鉄にしか見えない装甲を晒し、店長を抹殺したポケモンがニューキンセツを駆け抜ける。他の従業員が異常事態なのだと悟る前に、[ランスロット]はカルボウを引き連れて飛び出していた。

 

「円卓騎士団の特別権限です。ここで見た事は他言無用でお願いします」

 

 従業員達に[ランスロット]は肩口に輝く騎士勲章を見せ、謎のポケモンを追う。

 

『日神クン! ……一体何が……!』

 

「小田巻さん! 申し訳ありません、目撃者だった店長がアバターロストしました。損傷の具合から見て、最悪死亡した可能性も……」

 

[ランスロット]はカルボウと自分の速力だけでは足りない、と左手に新たなボールを構築し直す。

 

『何ですって? ……とにかく、円卓騎士団としての非常権限を……』

 

「もう発布しました。……ですが、相手はどうやら異常なポケモンのアバターを纏っていて……」

 

 再認証しようとしたポケモン図鑑がエラーを引き起こす。これはあり得ない事態であった。ポケモン図鑑はトレーナー権限を持つ人間同士ならばオープンソースのはず。それが一時的にせよ、途切れる事は即ち、ポケモン犯罪への介入であった。

 

『日神さん! こっちでもモニターしています。ZORA内で混乱を防ぐために、件のヒウンアイス専門店は封鎖しました! これで混乱は避けられるはず……!』

 

「蜷川さん、助かります! ……ですが、ここで追いつかなければ……恐らく、自分は……!」

 

 カルボウだけでは追従し切れない、そう判断した[ランスロット]が投擲したのはスナッチボールである。

 

「行け! レイスポス!」

 

 解き放たれたのはバドレックスに擬態していたチーターの所有していたレイスポスだ。カルボウを騎乗させ、[ランスロット]は己の機動力を引き上げてニューキンセツの色とりどりの街並みを抜けていく。

 

 アーケード街を超え、周囲に点在している草むら付近で謎のポケモンは立ち止まっていた。

 

「……追いついたぞ。それにしても……」

 

 鋼鉄のポケモンは見た目からして鋼タイプかに思われたが、照合データが存在しない。しかし[ランスロット]は記憶の中にある範囲から、そのポケモンの正体を推察していた。

 

「……あれは……デリバード……か?」

 

 疑問を呈したのはデリバードが光沢を放つ表皮であった記憶にはない事と、そして何よりもその戦闘能力が秀でているためだ。デリバードと呼ばれるポケモンと同一とは思えない凶暴性を秘めている。

 

 ともすれば、内部にチーターが潜んでいるのかもしれない。バドレックスの例もある。油断は禁物だ、と[ランスロット]が構え直す。

 

「カルボウ! 様子見をしながら、攻撃を……」

 

 しかしカルボウに命じる前にデリバードのようにしか映らないポケモンが跳躍し、その首を跳ね上げさせる。意想外であったのは、首が伸長しまるで機械のような脊髄が覗いたところだ。

 

 咄嗟の事に理解が追いつかなかったせいかもしれない。

 

 カルボウが一撃を受け、大きく後退する。

 

「……カルボウ! ……小田巻さん! シンクロシステムを発現させます!」

 

『待ちなさい、日神クン! 四十パーセント以上のシンクロはまだ、実装前で……』

 

「迷っていれば! ここでチーターに逃げ切られますよ! それに……ヒウンアイスの店長だって、死にかねません! やります! 電脳戦士、[ランスロット]の名において告げる! カルボウ、シンクロ進化!」

 

 途端、視界がぶれその処理能力が数十倍に変化する。[ランスロット]としての意識が跳び、直後にはカルボウと過度の同調状態に陥る。

 

 その中で、[ランスロット]としての肉体は維持したままでカルボウと電子的な結びつきを強くしていた。

 

 光に押し包まれ、カルボウの体躯が変化する。小型の人型に過ぎなかったカルボウの手足が伸び、それらの末端は鋭く変貌を遂げていた。

 

 十字に刃の両腕を振るい、[ランスロット]は進化したその躯体を誇る。

 

「(シンクロ進化! ソウブレイズ!)」

 

 自身の声帯だけではない、カルボウから進化を遂げたソウブレイズのポケモンとしての声帯も震わせ、[ランスロット]は吼える。

 

『適合率、六十パーセント超! 危険域まで、残り134セコンド!』

 

「(一気に終わらせる!)」

 

 蜷川の声が耳朶を打つのを感じつつ、ソウブレイズと一心同体となった[ランスロット]が一気に謎のポケモンに距離を詰める。加速した意識と、そして人間では及びもつかないポケモンとしての膂力で謎のポケモンを吹き飛ばし、直下から斬撃を浴びせようと姿勢を沈める。

 

「(サイコカッター!)」

 

 思念を込めた拡散斬撃が謎のポケモンの表皮を引き裂いたかに思われたが、それは遂行される前に放出された大質量水流がソウブレイズの躯体を叩き込む。

 

「ハイドロポンプ」の出力だ、と理解したその時には目と鼻の先にまで肉薄していた謎のポケモンが甲高い声を発しながらソウブレイズへと一撃を叩き込む。

 

「(ぐ……っ!)」

 

 ポケモンと同期する肉体が激震され、[ランスロット]は人間が与えられる以上の激痛を前に意識を閉ざされそうになっていた。ただでさえ、ポケモンとの過度な同調現象は人間の想像力を軽く凌駕する。

 

「(ま、だ……まだぁ……ッ!)」

 

『日神クン! いいえ、電脳戦士[ランスロット]! ソウブレイズは炎・ゴースト複合よ! ダメージは思ったよりも受けていると思ったほうがいいわ!』

 

 小田巻の声が残響する中で、[ランスロット]は何度か立て直そうとしたが、その度に全身が軋み、ソウブレイズとのシンクロ補正が歪む。

 

『[ランスロット]の適合率、さらに低下! シンクロ率は三十パーセントを割ります! このままでは……日神さんは……!』

 

「(ま、だだ……!)」

 

 謎のポケモンがゆっくりと歩み寄ってくる。改めて目の当たりにすれば、異様な点のほうが数多い。デリバードの形状に酷似しているだけで、その眼窩もその表皮もまるで機械仕掛けにさえ映る。

 

 今にトドメの一撃が振るわれるかに思われた。

 

 だが、それは完遂されず謎のポケモンが不意打ち気味に振り返る。

 

「(……あれは、誰、だ……?)」

 

 ニューキンセツの輝かしい街並みを背に、暗がりの中で何者かが近づいてくる。その左胸に滾る真紅の焔を抱き、足取りはどこまでも穏やかなままで。

 

《……Wiz……》

 

 謎のポケモンの合成音声じみた声が放たれた瞬間、その光の像が形を帯びる。滾る心臓の脈動を迸らせ、白く押し包まれた光を帯びた、その姿はまさに――。

 

「(……電脳戦士……?)」

 

 ソウブレイズにシンクロしたまま、[ランスロット]は思わずそうこぼす。光の像が揺らめき、まるで灼熱の蜃気楼のように形状を変異させながら謎のポケモンに向かっていく。

 

「(……いけない! すぐに逃げ――!)」

 

「(――行け)」

 

 冷たい声音が差し込まれ、謎のポケモンを突き飛ばしたのは白亜の巨獣であった。堅牢そうな甲殻に身を包み、一撃で謎のポケモンを吹き飛ばす。

 

「であいがしら」と呼ばれる最初の接触時のみ有効な技が振るわれた事よりも、[ランスロット]を震撼させたのは、その威容である。

 

「(……白い……グソクムシャ、か……?)」

 

 純白に身を包んだ虫・水タイプ複合のグソクムシャは辛うじて同期したポケモン図鑑で走査されるが、そのグソクムシャを操る対象は先刻からまともにモニターすらされない。

 

 白く燃ゆる光の人影として認識され、[ランスロット]はソウブレイズと同調しながらも何一つ出来ないでいた。

 

 謎のポケモンが携えた大砲から氷の光条を発射する。その隙のなさに[ランスロット]が息を呑んでいると、なんとグソクムシャは鋭く弾くと同時に躯体を加速させる。

 

「(……ドリルライナー)」

 

 一撃が謎のポケモンに食い込み、その鋼の肉体を激震していた。[ランスロット]にしてみれば、一撃が通った事も意想外であるのならば、的確に急所を狙ったらしいその一動作でさえも流麗。

 

「ドリルライナー」で貫通させ、謎のポケモンを突き上げると同時にグソクムシャと白い光のアバターが一体化する。

 

 まさか、と[ランスロット]は絶句していた。

 

「(……シンクロ……進化……?)」

 

 光の像とグソクムシャが同一の像を結び、宙に浮いた謎のポケモンへと水圧の鉤爪を溜め込む。

 

「(……アクアブレイク)」

 

 水の鉤爪が倍近く膨れ上がり、その一閃が謎のポケモンを叩き割っていた。謎のポケモンが一瞬にしてその躯体を引き裂かれ、落下すると同時にああ、と悲鳴が漏れる。

 

《ガガガ……ピガ……》

 

 謎のポケモンの位相がぶれ、内側に籠っていたらしいアバターの真の姿が露となる。それは緑色の燐光を帯びた人型をしていた。

 

 瞬時にアバターが両断され、爆発の光が拡散する。謎のポケモンは完全に消失し、倒れ伏していたのは先ほどのヒウンアイスの店長のアバターであった。

 

「(……ヒウンアイスの……? どういう……)」

 

 真相を究明する前にグソクムシャを纏っていた光の影が背を向ける。

 

「(ま、待って……!)」

 

 声を発しようとして、蜷川の声が差し挟まれていた。

 

『日神さん! ……臨界点です。シンクロ、強制解除!』

 

『……日神クン? 日神クン!』

 

 小田巻と蜷川の声が焼き付く中で、ソウブレイズのシンクロ進化が解除され、強制的にカルボウに戻され、自身に鎧として纏っていた青白いアバターが霧散していく。

 

「ま、……って……」

 

 薄れ行く意識の中で、ワタルは離れていく真っ白の背中をいつまでも眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緑色の電光アバター色は、このZORA内部では違法改造である事を示している。構造物の合間から、彼らは今しがた巻き起こった戦場を俯瞰していた。

 

『……まさか、出現するとはな』

 

『しかし、想定内の出来事でもある。彼奴が出てくる事も、そして遂に覚醒者が生まれる事も』

 

 分離したアバターとは別の、鋼鉄のポケモンへとモンスターボールを向ける。すぐさま赤い粒子となって吸収され、現場に証拠は残らないであろう。

 

『……だが、面倒な。円卓騎士団、序列第三位との遭遇とは』

 

『なに、彼奴等はただの自警団。治安維持局からも見放されている存在。どうとでも記録は改ざんできる』

 

 そう、記録ならば問題はない。

 

 懸念事項があるとすれば、ログではないものだ。

 

『……この者、確か電脳戦士[ランスロット]と言ったか』

 

『始末すればそれだけ証拠も残りやすい。泳がせておくのが吉であろう』

 

 緑色のアバター体を持つ者達は、戦場から吸い上げたポケモンをモンスターボール越しに透かす。

 

『現れたとなれば、ここから先は変わってくるであろう。ZORAと言う広大な実験場を使っての使役なのだ。イレギュラーが重なれば……』

 

『構う事はない。どうせ、ただのプレイヤーではこの真相には辿り着けないのだからな。それにしても……如何になさいます? 我らが盟主……』

 

 緑色のアバター体達が振り返る。その先あったのは灼熱の太陽を思わせるどこまでも紅く輝く光体であった。それそのものが恒星のように静かでありながら、絶対的な息吹を伴わせている。

 

《……W……iz……》

 

 漏れ聞こえた声音は怨嗟の論調で、先刻までの戦場に色濃く残るその気配を睥睨しているようであった。

 

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