「俺じゃない。俺はあくまでもバックアップだ。ギルドに入りたいのはこいつだよ」
「とは言ったって、てめぇも一時的とは言えギルドに加入するんだろ? リスク背負ってまで、死神のご機嫌窺いなんざ、笑わせるぜ」
集会所のそこいらかしこで笑い声が上がる。自分の悪評は思ったよりも深刻らしい、と他人事のように考えながら、レイジは交渉を続ける。
「……こいつだけでいい。俺は窓口に過ぎない。何なら報酬も後払いで結構だ」
「ほぉ? 泣かせるねぇ。そこまでして、仕事を請け負いたいって言うのも。だがな、死神。こっちが知らねぇとでも思ってるのか? てめぇと契約したギルドメンバーは全員……一度の例外もなく全滅してるって事をよぉ!」
「……本当なの? レイジ」
シズクの質問にレイジはほとんど感情を差し挟まずに応じる。
「ああ、その通りだ。しかし、今はそれとは話は別のはず。俺がどう思われようが結構だが、仕事はこなす。それだけだ」
「お優しいねぇ! ……じゃあ、そこの貧乏ギルドにでも入るんだな!」
集会所の中で明らかに一組だけ、どう考えても壊滅寸前の状態から帰って来たであろう、ボロボロの三人組が居た。レイジは歩み寄って尋ねる。
「……そこ、空いてるか?」
その問いかけに三人組は面を上げる。全員が憔悴し切った面持ちであったが、それでもこちらの言葉が聞き取れないほど落ちぶれているわけではない。
「……何だよ」
「ギルドを組みたい。あんたら三人と俺らとで、ちょうど五人組だ。どうだ? 悪い話じゃないだろ」
レイジの物言いにはシズクも息を呑んだようであったが、三人組はやがて喉の奥からくっくっと笑い始める。
「……これは、お笑い種だな。おれらがまともに見えるってのか?」
「見えないな。大方、ZORA内で一攫千金か、あるいは一発逆転を狙ったビギナーってところだろう。ニューキンセツのギルド集会所に戻ってきたところを見るに、ジムバッジ三つ程度で諦めた新参か」
明らかに見え透いた挑発であったが三人組は黙っていられなかったのだろう。ガタっと立ち上がるなり、顎をしゃくる。
「……来いよ。ここだと邪魔になる」
一触即発の空気にシズクはちょっと、とレイジの袖を引っ張る。
「……ギルド組むんじゃないのかよ!」
「組むさ。ただ、組むのに値する連中かどうかの見極めはこっちの領分だ。ただただ負けてニューキンセツに帰ってきた、負け犬共なのか、それともってところだな」
「……表ぇ出ろ」
喧嘩を売っているのだと言う自覚はあったが、レイジは気圧されない。三人組の眼差しから逃げず、一つ頷いてギルド集会所の玄関先で対峙する。
「……いいか! 一発限りだ! 手持ちが負けりゃ、てめぇの言う事なら何でも聞いてやるよ! ……ギルドもう一回組めでも、何でもな! だがそっちが負けりゃ……分かってんだろうなぁ!」
「ああ。流儀は分かっているさ。1対1の実力勝負。ポケモンの体力がレッドゾーンに入ったらそこまで」
「おい! ……何やってんだよ! あたしのギルドは……!」
「だから、組むって言ってるんだ。ただ腰抜け相手に妥協するんじゃ、つまらないからな」
「けっ……! 言ってくれるぜ。なら、流儀は分かってるんだろうな? やり直しは利かねぇぞ!」
「……言っていろ」
「行け! ルカリオ!」
相手のリーダー格が繰り出したのはファイティングポーズを取る、二足歩行の蒼きポケモン――猛々しいその眼差しが射る光を灯すルカリオだ。
「……ルカリオ……! あたしでも知ってる、近接格闘に秀でたポケモンじゃんか……。勝てっこないよ! ルカリオって、メガシンカだとか出来るオールラウンダーだって……!」
「実力者のルカリオならば、の話だがな。見たところ、メガシンカを搭載しているとは思えないが」
「はん! 大きく出たな! だが、見立ては合ってるぜ! ……メガシンカなしとは言え、ルカリオは遠距離近距離共に秀でた鋼・格闘の複合! どうだよ、勝てると思ってるのか?」
「ああ、思ってるな。……行け」
レイジが掴んだモンスターボールが怨霊の色調を帯びてめらめらと黒く燃え上がり、やがて投擲された瞬間には解き放たれる。
「……それは……何だよ、それ……」
リーダー格が絶句する。ルカリオと対峙する形で屹立したのは燃え盛る怨霊の焔を宿らせた痩躯のポケモンであった。全体としてはしなびていながらも、それでも肉体の滾りを掻き消せてはいない。鍛え上げられた身体を最大まで絞ったその立ち姿、振る舞いにルカリオが僅かに気圧される。
「――コノヨザル。俺のポケモンだ」
幽世の存在としか思えないのだろう。ルカリオが震え出している。それに対して、レイジもコノヨザルも仕掛けなかった。見え見えの隙をわざと突かなかった事にリーダー格が改めて挑発する。
「……おい! いいのかよ! ……今の……一死だろ」
「俺もコノヨザルも、最初の一撃は譲ってやる。来い」
「……後悔するぜぇ……っ! ルカリオ! 波導弾!」
全身から迸らせた蒼い波導エネルギーを全開に設定する。当然、コノヨザルの力量をはかれないほどの弱者でもない。せっかくのチャンスを逃すような相手でもないのだ。
だからこそ、全霊の波導攻撃。
ルカリオが大地を蹴り、直後には波導を纏わせた拳を振るい上げる。
「危ない!」
「いや、そこは俺の距離だ」
コノヨザルの行った事は少ない。
軽くその腕を振るい、今に完遂されかけた「はどうだん」の充填された鉄拳を、僅かに逸らせた。一撃は重く地面に食い込み、ZORAのネットワークでクラフトされた床に軋みを走らせる。
「……外した……? いや、違う。外させられた……?」
「それが分からないほど、トレーナーとしての力量が低くもないだろうに」
コノヨザルが構えようとするのを、ルカリオのトレーナーは声を張り上げる。
「相手が構え直す前に、波導弾を纏わせて一気に決めろ!」
至近距離での波導攻撃はポケモンの生態を狂わせる。殊に「はどうだん」ほどの威力を保証するのならば、放出された拡散波導だけで通常のポケモンならばひるみ状態になりかねない。
しかし、コノヨザルも自分もそんなやわな鍛え方をしていない。
拡散波導が脅威であるのならば、それらの流れを全て見透かし、看破し、そして流れを自分の側に引き寄せる。
コノヨザルが大きく腕を引くと、膨張の一途を辿っていたルカリオの波導が引っ張り込まれる。
「ルカリオが……パワー負けだと……!」
「いい事を教えてやる。波導をメインにするポケモンは、自らの体内で循環させている波導以外にも、余剰のものがある。その余剰の範囲を完全に支配出来るのが、俗に言う波導使い、と呼ばれる人種だが……どうやらお前はそうではないらしい。ルカリオを選んだのはどんなポケモンを出したところで対応出来ると踏んでの事だろうが、それも腰が引けているやり方だ」
「……何だと……!」
ルカリオが余剰波導を自らの側に引き寄せて綱引き状態に持ち込もうとする。当然、波導操作ならばルカリオのほうが上だが、コノヨザルはエネルギーを全身から常に放出している。それは波導測定では計測出来ない、別の摂理の力場であった。
「……コノヨザル、シャドーパンチ」
邪悪なる失意の鉄拳がルカリオの腹腔に叩き込まれる。それだけで勝負は決していた。
「……ルカリオが……一撃……?」
体力がレッドゾーンに達したのを認識し、リーダー格のトレーナーはルカリオをすぐさま戻す。
「……あんた、一体……」
シズクの震撼したような問いかけに、レイジはそうだな、とだらんと拳を下げたままのコノヨザル越しに三人組に言い放つ。
「名乗りが遅れた。俺の名前はレイジ。肩書きは――“エリートトレーナー”のレイジだ」