眾禍祓除 SHU-KA-FUTSU-JO   作:タカノ/髙野

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第十話『遅れて来た男』

 六月に入り暑さの増した渋谷。

 平日よりもさらに人の多い街に天平はいた。

 今日は菅原と約束したダブルデートの日。

 天平と純礼、菅原と相川の四人は人混みの中を固まって歩く。

 

「来てくれてサンキューな帚木! 早蕨さんも!」

 

「私、早蕨さんとずっとお話してみたかったんだぁ〜。今日はよろしくね!」

 

「ええ」

 

 菅原の先導でやって来たのは複合アミューズメント施設のボウリング場。

 

「ボーリング好きなのか?」

 

「紗季がな。かっこいいとこ見せようと思って」

 

「得意なんだ?」

 

「いやめちゃくちゃ下手。どうしよう……?」

 

「お前さ……」

 

 後先を考えない菅原に引きつつシューズを借りボールを選ぶ。

 

「よっしゃ、いくぜ!」

 

 早速、菅原が一投目を投じる。

 しかし、ボールはガター一直線。

 

「明星」

 

 天平が小声で憑霊術を発動。

 球体がボールにコツンと当たり、軌道を変える。

 そしてそのまま進み、数本のピンを倒した。

 

「えっ!?」

 

「なに今のー! 菅原すごーい!」

 

 目を見開いて驚く菅原と、はしゃぐ相川。

 二人には明星の球体は見えていないので、ボールがガターへ落ちる寸前で曲がったように見えている。

 

「ちょっと」

 

 当然見えていた純礼は、小声でたしなめるように天平を小突く。

 

「いや、かっこいいとこ見せたいらしいからさ。こんくらい良いじゃん」

 

 苦笑いしながら弁明する天平に純礼はため息をつく。

 その後も天平のサポートによって菅原は超絶変化球を放ち続けた。

 一方の天平はボウリングが得意ではなくガターを連発。

 

「おーい帚木ぃ! またガターかよー! 下手だなー!」

 

「ドンマイ! 帚木くん!」

 

「はは。ボウリング苦手なんだよね」

 

──自分にはアレ(・・)やらないわけ?

知らないとは言え、散々助けてあげてる相手に下手なんて言われてなんとも思わないのかしら。

 

 そう思いながら天平を見る純礼だが、彼はまったく気にした様子もなく菅原や相川と笑い合っている。

 

──本当にお人好しね。

 

 心の中で呆れたように呟く純礼だが、口元は無意識に緩んでいた。

 ボウリングの後は昼食をとり、ゲームセンターや雑貨屋などで時間を過ごす。

 

「そろそろ帰るか?」

 

「そうだね」

 

 時刻は六時過ぎ。

 高校生ならまだまだ遊ぶ時間だが、根が真面目な菅原や天平たちにとってはお開きの時間だ。

 

「今日はマジでサンキューな。今度は俺が協力するから、なんかあったら言えよ」

 

「はは。分かった」

 

 菅原と話している最中、天平の目に異様な姿の男が目に入った。

 ボロボロの衣服にひどくうなだれた姿勢の男。

 明らかに不審な出で立ちだが、周囲の人々はまるで気にしていない。

 

──禍霊だ。

 

 天平は、相川と話していた純礼に視線を送る。

 彼女も今、禍霊の存在に気づいたようだ。

 

「悪い。俺、急用思い出した。三人は先に帰って」

 

「え?」

 

「純礼ちゃん。アレは俺がやるよ」

 

「一人で大丈夫?」

 

「大丈夫。この間みたいなヘマはしないよ」

 

 小声で純礼にそう言うと、天平は三人のもとを離れ、禍霊に迫る。

 

「禍仕分手」

 

 人混みに紛れ、禍霊に聞こえるギリギリの音量で禍仕分手を発動。

 禍霊とともに間世に移動する。

 

「"明星"」

 

 天平は憑霊術を発動。

 五つの球体で禍霊を攻撃する。

 

「ヴッ!」

 

 球体による攻撃を受け、うずくまる禍霊。

 

「ル……ルルルルイゾン!」

 

 禍霊が叫ぶとギロチンが出現。

 天平は警戒しながらも再び球体で禍霊に攻撃を加える。

 しかし先ほどとは打って変わって素早い動きで回避する。

 そのまま自分に迫ってくる禍霊を、球体との位置交換でかわす。

 そこからパンチを放つが、踏み込んだ瞬間、首に傷を負った。

 

「なんだ?」

 

 不意のダメージに立ち止まる天平。

 首に手を当て離すと、血がついている。

 

──あいつの能力か? なにされたんだ?

 

 ほんのかすり傷程度だが、能力の正体が分からず警戒を強める天平。

 そこに再び禍霊が迫る。

 球体との位置交換で回避し、先ほどと同じようにカウンターの攻撃を繰り出す。

 しかしまたもや一歩踏み込んだ瞬間に首に傷を負う。

 

─また!? なんなんだよ!

 

 手で首を押さえながら苛立つ天平。

 傷は浅いが、決して無視できるものではない。

 

──攻撃をしようとしたら発動する? いや、それだったら球体で攻撃した時点で発動するだろ。

 

 天平は禍霊の能力について思考しながら、距離をとるために後ずさる。

 しかし足がもつれ、よろける。

 

「おっと、がっ!?」

 

 すぐさまバランスを取って転倒は回避したが、よろけた瞬間に再び首に傷を負った。

 先ほどの二回より深く、出血も多い。

 天平はその瞬間、禍霊の出したギロチンの刃が一瞬落下し、すぐに戻ったのを見た。

 

──まさか……。

 

 それを見た天平は、禍霊の能力について推測を立て、それを実証するための行動をする。

 

─ゆっくり。ゆっくりだ。

 

 天平は心の中の呟きと合わせるようにゆっくりと、ほんの僅か姿勢を低くする。

 その間も視線はギロチンに向けたまま。

 すると次の瞬間、ギロチンが一瞬だけ落下し、再び首に傷を負った。

 

──やっぱりそうだ。

 

 天平はすぐに姿勢を正す。

 

──アイツの能力はギロチンらしく斬首。首を直立している際の最も高い位置より少しでも低い位置に動かすとその分だけ首を斬る能力だ。

 最初に二回は踏み込んだ際に、少しだけ首の位置が低くなったからだな。

 

 禍霊の能力を見破った天平は球体を一つ、自分のもとへ引き寄せる。

 そして手を銃の形にする。

 

「能力が分かれば対処は簡単だ。ベストな対処方は遠距離攻撃」

 

 言いながら狙いを定め、

 

「"明星・射光"」

 

 抖擻発動によるレーザービームを放つ。

 それは見事、禍霊の脳天を撃ち抜く。

 

「ヴァアアアッ!」

 

 禍霊は絶叫し崩れ落ちるが、次の瞬間、ギロチンと融合した。

 

「ボワッボワッボワァァァァァァッ!」

 

「えええ!」

 

 まさかの展開に顔をしかめる天平。

 ギロチンと一体化した禍霊は、天平へと迫る。

 

「はぁ……。まぁ、良い。対処方は同じだ」

 

 天平はため息をつきながら、再び手を銃の形に構える。

 

「あけぼ……」

 

 そして攻撃を放とうした次の瞬間、

 

「うおっ!?」

 

 突如、空から雷が禍霊に落ちる。

 禍霊は断末魔の叫びをあげる暇すらなく消え去った。

 

「なんだ!?」

 

 天平は空を見上げるが、間世の夕暮れの空には雲一つない。

 

「空見上げてもなんもあらへんで。普通の雷とちゃうし」

 

 そこに一人の少年が現れた。

 Tシャツにジーンズというラフな格好をした金髪の少年。

 一見すると多少やんちゃそうに見えるだけの普通の少年だが、ここが間世である以上、普通の少年ではあり得ない。

 それを裏づけるように彼の左手には黄色の鞘、右手にはそれから抜かれたのであろう刀が握られている。

 

「もしかしていらんことした? 助けたつもりやってんけど」

 

「え? あぁ、いや。そんなことないよ」

 

 天平は構えを解くが、目の前の少年への警戒心は隠さない。

 それを察した少年は、刀を鞘に納める。

 

「そんな警戒せんといてや。これから仲間になるんやし。あ、一応試験あるんやっけ」

 

「仲間? あ、もしかして……」

 

 少年の言葉を聞いて、天平はもう一人の新人りの存在を思い出す。

 

「せや。禍対の新入りや。君もやろ。帚木天平くん」

 

「俺のこと知ってるの」

 

「高嶺隊長から聞いてるで。そっちは俺のこと知らんみたいやけど」

 

「……ごめん」

 

「別にええよ。ほな自己紹介させてもらうわ。俺は──」

 

 

            ☆

 

 

帶刀(たてわき) 夏鳴太(かなた)言います。大阪の箕面 (みのお)っちゅうとこから来ました。春休みにごっつい事故におうて入院してて、入学遅れてしもたけど仲良うしたってください」

 

 月曜日の教室。

 遅れてやって来た同級生に、クラスメイトから拍手が送られる。

 そのまま夏鳴太は自分の席に着く。

 

「席前後ろやん。よろしく頼むわ」

 

「ん。ああ」

 

「てか一番前やん」

 

「五月入ってすぐの席替えで先生が代わりにくじ引いてそこになった」

 

「そうなん。まぁええわ」

 

 自身の前の席に座る夏鳴太と親しげに話す天平。

 そんな彼の背を菅原がつんつんと突く。

 

「知り合いか?」

 

「ああ〜。昨日、あの後に会ったんだよ」

 

「へぇ〜」

 

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