眾禍祓除 SHU-KA-FUTSU-JO   作:タカノ/髙野

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第十一話『霆ける刃』

 昼休み。

 天平と純礼はいつも通り中庭のベンチで昼食をとっている。

 

「あの後、ほんとうに大丈夫だったの」

 

「うん。電話でも言ったけど、ちょっと傷負ったくらいだよ。それも村崎さんに治してもらったし」

 

 純礼の手作り弁当を食べながら、昨日の報告を行う天平。

 昨日帰宅した後も電話で簡単な報告はしていたが、伝えていないこともある。

 

「とどめは俺じゃなくて帶刀がさしたんだけどね。なんか雷落としてた。刀も持ってたよ」

 

「彼は……」

 

「なんや俺の話かいな」

 

 純礼の言葉を遮り、夏鳴太が現れた。

 

「ふたり付き合うとるんやって?」

 

「いや、偽装カップルだよ。禍対の仕事で一緒に行動すること多くなるから」

 

「ああ、なるほど。それで弁当作ってもろうてるんか。役得やなぁ」

 

 夏鳴太は天平と純礼のお揃いの弁当を見て、そう言いながらベンチに座り、購買で買ってきたコロッケパンを食べだす。

 

「そっちには自己紹介まだやったな。帶刀 夏鳴太や。どうぞよろしく」

 

「早蕨純礼よ。こちらこそよろしく」

 

「俺のことは夏鳴太って呼んでくれや。こっちも天平、純礼でええか?」

 

「うん」

 

「構わないわ」

 

 天平を真ん中にしてベンチに座り三人で黙々と食事を続ける。

 不意に天平が口を開く。

 

「そういや夏鳴太はなんで東京に来たんだ? 禍対に入るため?」

 

 なんの気無しの純粋な疑問だったが、空気がわずかに張り詰める。

 

「天平くん。それは……」

 

「ああ、ええよ。気遣わんといてや」

 

「え? なんかマズかった?」

 

 二人の反応を見て慌てる天平に夏鳴太は首を振る。

 

「別にマズいことあらへん。せやな、まず一から説明すると俺の家は江戸時代ぐらいから続いとる霊能者の一族やねん」

 

 夏鳴太の言葉に天平がふんふんと頷く。

 

「明治時代からは大阪に移って、実質的な拝揖院大阪支部みたいな感じで活動しててん。それがな、去年の今ぐらいに壊滅してん」

 

「壊滅!?」

 

「せや。しかもやったんは俺の兄貴。俺以外の家族含め皆殺しで出奔しよった。そんで天涯孤独の身になったんやけど、高嶺隊長が禍対に入るのを条件に後見人になってくれはった。せやから東京に来たってわけや」

 

 夏鳴太の話を聞き終わり、天平は押し黙る。

 まさかこんな事情があるとは考えもしていなかったのだ。

 

「な、なんかごめん……」

 

「せやからええって。気遣われるほうがじゃまくさいわ」

 

 夏鳴太は天平に対して手をひらひらさせる。

 

「それにな、事件のことあんま覚えてへんねん。渦中におったんやけどな」

 

「覚えてない?」

 

「せやねん。事件があったこと自体は覚えてんねんけど、細かいところが思い出されへん。医者が言うには……なんやったか。なんとか健忘言うてたな」

 

「解離性健忘ね。心的外傷によって引き起こされる記憶障害よ」

 

「それやそれ! まぁそういうわけやから変な気遣わんでええ。これからよろしく頼むわ」

 

 夏鳴太はそう言って、次はメロンパンを食べだした。

 

 

           ☆

 

 

 放課後。

 天平たち三人は一緒に下校。

 

「今日はこれから入隊試験をするそうよ」

 

 純礼がスマホを見ながら二人に告げる。

 

「どこでやるの?」

 

「さあ。とりあえず事務所に来いとのことよ」

 

「事務所ってどこあるん」

 

「新宿よ」

 

 三人は荻窪駅へ行き、ホームで電車を待つ。

 そこに、

 

「ミミミミミミ」

 

 禍霊が現れた。

 蛇のようにも東洋の竜のようにも見えるそれは、天平たちの視線に気づき近づいてくる。

 

「禍仕分手」

 

 純礼が禍仕分手を発動。 

 三人と一体は間世に移動。

 すると、夏鳴太が一歩前に出る。

 

「俺にやらせてや。最近ちゃんと戦うてへんから腕鈍ってまいそうや」

 

「俺は別に良いけど……」

 

 天平はそう言って純礼をチラッと見る。

 

「私も構わないわ。お手並み拝見ね」

 

 夏鳴太はニヤッと笑い、肩に掛けていた竹刀袋から刀を取り出す。

 黄色の柄と鞘、鍔には稲妻の意匠が施された派手な日本刀だ。

 

「いくで」

 

 夏鳴太は素早く抜刀し、禍霊に斬りかかる。

 禍霊はそれを身体をひねって回避すると、口から水の砲弾を吐き出す。

 

「おっと」

 

 落ち着いて回避し、再び斬りかかる夏鳴太。

 しかし同じように回避される。

 

「中々ええ動きするやん。しゃーない、能力使わせてもらうで」

 

 夏鳴太はそう言うと、刀を水平に構える。

 

「"(りゅう)()霹靂(へきれき)"」

 

 夏鳴太がそう言うと、刀身から電撃が発生する。

 そのまま刀を振るい、電撃を禍霊に飛ばす。

 

「ヒギャアアアアアッ!!!」

 

 電撃をもろに喰らい絶叫する禍霊。

 浮遊したまま空中でのたうち回る。

 

「なにアレ? 夏鳴太って寄処禍じゃないのか?」

 

「"蠱業物(まじわざもの)十三振(じゅうさんふり)"。そう呼ばれる特殊な刀があるわ」

 

 夏鳴太の見せた力に疑問を発する天平に、純礼が答える。

 

「禍霊を素材に作られたとされる、担い手として選ばれた者だけが振るえる刀。帶刀家は代々二振りの蠱業物を所有しているの。文字通りの伝家の宝刀ね」

 

「へぇ〜。それがあれってわけか」

 

 天平と純礼が会話をしている間にも、夏鳴太は禍霊に電撃を浴びせ続けている。

 青い鱗は至るところが黒く焦げ、確実にダメージが蓄積している。

 しかし動きのキレは落ちず、水の砲弾を飛ばしたり、尻尾を叩きつけたりといった攻撃を繰り出す。

 

「タフやなぁ。ほんならこれや」

 

 夏鳴太が霳霞霹靂の鋒を空に向ける。

 次の瞬間、

 

「ヒギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 空から雷が落ちた。

 駅のホームの天井を容易く突き破ったソレは禍霊に直撃し、甚大なダメージを与えた。

 しかしまだ、祓除には至らない。

 

「ミ゙ミ゙ミ゙ミ゙ミ゙ミ゙ミ゙ミ゙ッ」

 

 禍霊が唸ると、口から大量の水が溢れだす。

 その水は渦巻き立ち上がると、禍霊の姿を形どる。

 それが七本。

 

「なんやヤマタノオロチみたいやな」

 

 それを見て呑気に呟く夏鳴太。

 

「ミ゙ッ!」

 

 八つの頭が一気に夏鳴太へ迫る。

 夏鳴太が回避すると、頭部は地面に直撃。

 その際に水で出来た頭部は崩れ、まるで津波のようになって夏鳴太に迫る。

 

「ちっ!」

 

 夏鳴太はそれを跳躍して回避。

 そこに本体の頭部が迫る。

 

「夏鳴太!」

 

 天平が叫ぶのと同時に、禍霊が夏鳴太に噛みつき、身体をバラバラにした。

 

「なっ!」

 

 その光景を見て唖然とする天平。

 死んでしまった、天平がそう思った次の瞬間、バラバラになった夏鳴太の身体が雷のように繋がり合って元に戻った。

 

「は!?」

 

 再び唖然とする天平。

 一方の夏鳴太は何事もなかったかのように平然としている。

 

「お、おい。大丈夫なのか?」

 

「ん? 見ての通り平気やで」

 

 天平の問いに、あっけらかんと答える夏鳴太。

 

「いや平気って……。さっきバラバラに」

 

「霳霞霹靂には俺の身体を雷にする能力があんねん。噛み砕かれる寸前にそれ発動したから平気や。逆に向こうさんは雷噛んでビリビリや」

 

 夏鳴太が言う通り、禍霊はさっきから身体を痙攣させ動かない。

 

「ええ力やろ? ただ持続時間は五分ちょいで、一回使うたらインターバルもいる。春休み中にずっと修行してこれや。やり過ぎてしばらく戻れへんようになったりして大変やったわ」

 

「それで入学遅れてたのか」

 

「ミ゙ミ゙ミ゙ミ゙ミ゙ミ゙ミ゙ッ!」

 

 天平と夏鳴太の会話に割り込むように禍霊が叫ぶ。

 

「雷相手に出来ることないやろ。往生しいや」

 

 まだ立ち向かおうとしてくる禍霊に冷たく言い放ち、夏鳴太は再び霳霞霹靂の鋒を空に向ける。

 そして先ほどよりも大きな雷が禍霊に落ち、今度こそ完全に消滅させ祓除に成功した。

 

「ま、こんなもんやな」

 

 夏鳴太は霳霞霹靂を鞘に戻し、天平と純礼のもとへ戻る。

 

「どやった? 試験受かりそうか?」

 

 腕を組んで戦いを見ていた純礼に声をかける。

 

「さあ。試験次第ね」

 

「なんや冷たいわ。いつもこんな感じなん?」

 

「いやいや。そんなことないよ」

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