眾禍祓除 SHU-KA-FUTSU-JO   作:タカノ/髙野

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第十五話『歓迎会』

 試験の翌日。

 学校が終わり、純礼たちと別れた天平は区内にある病院に来ていた。

 この病院には一年ほど前から祖母が入院しており、定期的にお見舞いに来ている。

 今日もそのお見舞いに来たのだが、もう一つ別の目的があった。

 それは、自分の父親について。

 昨日の禍霊との戦いで取り戻した記憶。

 その記憶にある自分の父親らしき人物について、祖母になにか知っていることはないか尋ねに来たのだ。

 しかし結果は空振り。

 祖母は天平の父親にあたる男についてなんの情報も持っていなかった。

 そもそも会ったことすらないらしい。

 

「顔しか分からないんじゃあ探しようもないな」

 

 病院一階の待合スペースにあるソファに座り、天平はひとりごちる。

 飲み干してカラになった缶コーヒーを眺めながら、父親らしき男の顔を思い出す。

 

「まぁ仕方ないか……」

 

 そう言って立ち上がり、病室を後にする。

 今日はもう一つ予定があるのだ。

 

 

            ☆

 

 西新宿一丁目。

 一旦帰宅し着替えた後、西新宿における繁華街にある創作和食居酒屋を天平は訪れていた。

 今日は禍霊対策局第二部隊の新人歓迎会。

 その新人とはもちろん天平と夏鳴太の二人だ。

 

「お疲れ様でーす……」

 

 店員に通された個室に入る。

 六人掛けのテーブルには既に天平以外のメンバーが揃っている。

 

「おう来たか」

 

 喬示が軽く手を挙げる。

 彼は扉から見て右側の真ん中の席に座っている。

 その両隣はどちらも天平にとっては初めて見る人物が座っている。

 

「こっち座りや」

 

 扉から見て左側の手前の席に座る夏鳴太が声をかける。

 

「俺が真ん中?」

 

 夏鳴太の呼びかけに応じて、空いている真ん中の席に座る。

 それから、それぞれ飲み物を注文。

 成人組は生ビール、天平たち未成年組はウーロン茶。

 喬示が乾杯の音頭をとり、第二部隊の新人歓迎会がスタートした。

 

「よし。まずは挨拶だ。元気よくな」

 

「ほな俺から」

 

 喬示の言葉を受け、夏鳴太が立ち上がる。

 

「帶刀夏鳴太です。帶刀家の次男ですが、兄貴が両親殺して家も無うなったんで禍対に入りました」

 

「ギャハハハハ! 悲惨過ぎだろお前!」

 

 夏鳴太の重い挨拶に、喬示の右隣の女性が爆笑する。

 まだ一杯しか飲んでいない筈だか、顔が赤らんでおり、出来上がってしまっているようだ。

 天平はなんてデリカシーの無い人だと驚くが、当の夏鳴太は「そうなんすよー」と笑っている。

 

「次、天平」

 

「あ、はいっ」

 

 夏鳴太の挨拶が終わり、天平の順番が来る。

 素早く立ち上がり、咳払いをする。

 

「えっと、帚木天平です。一般家庭の出身です。寄処禍に覚醒したのはつい最近です。よろしくお願いします」

 

「お前はなんか爆笑エピソードないのか」

 

 先ほどの女性に言われ、家族が殺された話は絶対爆笑エピソードでは無いだろと思いながら、天平は「ありません……」と答える。

 

「純礼もしとくか?」

 

「なんでですか。しませんよ」

 

 喬示の言葉に冷たく返す純礼。

 喬示は笑って、右隣の女性に顔を向ける。

 

「んじゃ次はこっちの番だな」

 

 喬示の言葉でその女性がジョッキをかかげる。

 

「第二部隊副隊長の百々(どうどう) (あきら)だー! 晶さんで良いぜー! よろしくなー!」

 

 セミロングのウルフカットに派手な顔立ちをした女性は元気に挨拶をして、ビールをグイッと飲み干す。

 

「喬示さーん! おかわり頼んで!」

 

「ペース速えって」

 

 晶からジョッキを渡された喬示は、そう言いながら生ビールを追加注文する。

 

「次は僕の番だね〜」

 

 喬示の左隣の男性が口を開く。

 マッシュヘアに柔和な顔立ちの男性だ。

 

「第四部隊隊長の幸富(ゆきとみ) 梓真(あずま)で〜す。よろしくね〜」

 

「え? 第四部隊?」

 

「そうだよ〜」

 

「なぜか来たんだよ」

 

 困惑する天平に喬示が言う。

 

「隊長として他部隊でも新人には挨拶しとかないとね〜」

 

「絶対ただ酒飲みたいだけじゃないすか」

 

「燈悟さんと楚乃香ちゃんも誘ったけど来てくれなかったよ〜」

 

「そりゃそうでしょ。俺だって他隊の飲み会なんて誘われたって行かないっすよ」

 

「てことは、第二部隊って五人だけですか」

 

「そうだ。言ったろ? 人手不足だって」

 

「お前らが入る前は三人だぜー。大変だったなー」

 

 追加注文した生ビールをグビグビ飲む晶。

 

「まぁ、今日は大変だった既存隊員を労う会でもある。好きなだけ飲み食いしろよ」

 

 喬示が言うと、各々好きな料理を食べだす。

 天平が来る前に既に注文されていた料理がテーブルに並ぶ。

 刺身の盛り合わせに牛タンの土手煮、ローストビーフのカルパッチョなど様々な料理が並ぶ。

 天平は酒も飲まないのにフライドポテトや枝豆、冷やしトマトなどつまみ系ばかり口にしている。

 

「この機会になんか聞いときたいこととかあるか?」

 

 喬示に言われ、天平は少し考える。

 

「霊能者って寄処禍以外にもタイプみたいなのがあるんですか?」

 

「明確に名前がついてるのは寄処禍くらいだな。あとは結界術使いだとか、夏鳴太みたいなのは蠱業物持ちとか言ったりするな」

 

「結界術とかは寄処禍には使えないんですか?」

 

「いや、霊力操作の訓練すれば使える」

 

「霊力操作? そもそも霊力ってなんですか?」

 

「え? そこから?」

 

 思わず夏鳴太がツッコむ。

 

「そういや説明してなかったか」

 

「してあげなよ〜。霊力っていうのは謂わば生命エネルギーみたいなもので、人間なら誰でも持ってるんだよ。それを実際にエネルギーとして扱える人を霊能者って呼んでるんだ」

 

「なるほど」

 

「禍霊は霊力の塊で、寄処禍はその力を憑霊術として扱ってるんだよ。結界術とかは自分の霊力で発動するから、その為の訓練が必要になるね〜」

 

「お前も追々やっていかねえとな」

 

「よく分かりました」

 

「そういえば入隊試験はどんな感じだったの〜?」

 

 梓真のその言葉で場の話題は昨日の入隊試験に。

 

「合格なんはええけど、なんか釈然とせえへんのですよ」

 

 夏鳴太が入隊試験での出来事を一通り説明し、相変わらず納得がいっていない様子を見せる。

 

「喬示は結構てきとーなとこあるからね〜」

 

「ぶっちゃけ入隊試験なんて隊長の胸三寸じゃないすか」

 

「まぁね〜。よっぽど向いてないとかならともかく、そんな篩にかけられるほどの余裕もないしね〜」

 

「でも隊長の掛祀禍終見れたのはラッキーでしたわ。いかつかったなー」

 

「喬示のはヤバいよね〜」

 

「幸富隊長も使えるんですか?」

 

「もちろん。隊長は全員使えるよ〜」

 

「純礼ちゃんは?」

 

「使えないわ」

 

「お前と純礼も習得頑張れよ」

 

「アタシわー!?」

 

「お前はもう無理だろ。伸びしろなし!」

 

 完全に酔っ払って絡んでくる晶を、喬示は鬱陶しそうに振り払う。

 

「でも掛祀禍終も無敵ってわけじゃないからね〜。使い終わったら憑霊が休眠状態に入って能力使えなくなるから」

 

「そうなんですか」

 

「あれって目覚めるまでなんぼかかるんすか」

 

「ケースバイケースだな。昨日みたいに一瞬使った程度なら数十分てとこだ」

 

「数十分でも戦闘だと命取りですよね」

 

「まぁな。だから使い所を見極めねえと」

 

「文字通りの奥の手ってことよ」

 

「そもそも掛祀禍終が必要な敵も限られるけどね〜」

 

「同じように掛祀禍終を使える寄処禍か、癲恐(てんきょう)禍霊(かりょう)くらいですね」

 

「癲恐禍霊?」

 

 純礼から放たれた初めて聞く言葉に、天平が反応する。

 

「禍霊の最上位種よ」

 

「もし出くわしたら、迷わず逃げなね〜」

 

「なんか特徴ってあるんですか?」

 

「一番わかり易いのは、会話が通じることだね」

 

「会話ですか? でも禍霊って普通に喋りますよね」

 

 梓真の言葉に、今まで遭遇してきた禍霊を思い出しながら、天平が疑問を投げかける。

 

「会話が成り立ったことあるか?」

 

「……無いですね」

 

「だろ。あいつ等のアレは喋っているってより言葉を発してるだけ。壊れたラジオみたいなもんだ。意思の疎通はできない」

 

「癲恐禍霊は出来るんですか?」

 

「ああ。知能も人間並みだしな」

 

「だから、会話の出来る禍霊と遭遇したら、それは癲恐禍霊だから喬示とかと一緒にいるんでもなければ逃げるべきだね〜」

 

「覚えておきます」

 

「まぁ、癲恐禍霊なんてレア中のレアだからな。そうそう出ねえよ。最後に確認されたのっていつだ?」

 

「確か三年ほど前に東北に。隊長が祓いに行った筈ですよ」

 

「え? そうだっけ。覚えてねえな」

 

 純礼の指摘に、喬示は腕を組んで唸る。

 

「ま、覚えてねえってことは大したことねえ奴だったんだろうな! はっはっはっ!」

 

 しばらく考えても思い出せなかった喬示は、そう言って高笑い。

 それを見た純礼は呆れたようにため息をつく。

 

「隊長の記憶力はともかく、癲恐禍霊がそうそう出現するものでないのは確かね」

 

「そっか」

 

 純礼の言葉を聞き、あまり心配する必要も無さそうだと安心した天平は枝豆をつまむ。

 しかし、この数日後、喬示を除く禍対第二部隊の面々は癲恐禍霊と相対することとなる。

 

 

 

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