眾禍祓除 SHU-KA-FUTSU-JO   作:タカノ/髙野

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第五話『初実戦』

 放課後。

 天平と純礼は並んで校門を出る。

 これから禍霊対策局第二部隊の隊員としての仕事が始まる。

 

「これからどうするの?」

 

「任務の通達は来てないから、見回りを行うわ」

 

「その前にさ、マック寄って良い? 昼あれだけだったからさ、お腹へっちゃって」

 

「……しかたないわね」 

 

 二人はそのまま学校からしばらく歩いた先の商業エリアにあるマクドナルドに入る。

 

「どうかした?」

 

 レジに並んでいるあいだ妙にそわそわしている純礼に天平が声をかける。

 

「こういうお店に来るの初めてなのよ」

 

「え? マジ?」

 

「なによ? 悪い?」

 

「いや悪いことはないよ。うん」

 

 二人は商品を注文し、テーブルに着く。

 

「言葉遣いとかでも思ってたけどさ、さわら……純礼ちゃんってお嬢様なの?」

 

 何の変哲もないチーズバーガーセットをスマホで写真に撮る純礼を見て天平が言う。

 

「お嬢様ではないわ。ただ古くから続く寄処禍の家だから、普通と家とは色々違うのは確かね」

 

「え? 一族みんな代々寄処禍ってこと?」

 

「そうよ。寄処禍どうしで子どもを作れば、子どもも必ず寄処禍になるわ。寄処禍と普通の人間でなら半々の確率。普通の人間どうしでも低確率で産まれるわ」

 

「へぇ〜」

 

「だから寄処禍どうしで結婚して寄処禍を産んで、その子もまた別の寄処禍と結婚させ寄処禍を産ませる。そうやって古くから続く寄処禍の家系というのがいくつかあって、私の家もその一つ。隊長の家もそうよ」

 

「じゃあ、ご両親も拝揖院に?」

 

「以前はね」

 

 含みのある言い方に、あまり触れないほうがいいと察した天平は話題を変える。

 

「純礼ちゃんは、いつから禍隊に?」

 

「中学入学と同時によ」

 

「え!? そんな頃から?」

 

「そう。だから、放課後に友達と買い食いするのってちょっと憧れてたわ」

 

 別の高校の制服を着た女子のグループを見ながら純礼が言う。

 

「じゃあ俺とこれから来ようよ」

 

「貴方と? 私と貴方は友達ってわけじゃないけど」

 

「ぎ、偽装カップルではあるじゃん!」

 

 妙に必死に主張する天平に、純礼はふっと笑う。

 

「そうね。ま、たまになら付き合ってあげる」

 

 

            ☆

 

 

 店を出て商業エリアを見回る二人。

 この時間帯は学校帰りの学生が多い。

 

「禍霊ってどんな場所に出るの?」

 

「どこにでもいるけど、人の多い場所に特に多いわね。人間の恐怖を食料にするわけだから」

 

「じゃあ、まさにここら辺に……あっ!」

 

 天平が何かに気づいたように指を差す。

 そこにいたのは黒いワンピースを着た痩せ細った女。

 地面に着くほど長い髪をしており顔は見えないが、行き交う人々に声をかけている。

 しかし、誰も反応しない。

 無視しているのではなく、そもそも認識できていない。

 禍霊である。

 

「純礼ちゃん!」

 

「ええ」

 

 臨戦態勢に入る二人。

 禍霊はまだ二人の存在に気づいていない。

 

「……天平くん。貴方がやってみる?」

 

「俺が?」

 

「初めての実戦には丁度いいレベルだと思うわ」

 

「わ、分かった」

 

「まず人目につかない場所に移動しましょう。こっちへ来て」

 

 純礼に連れられ、路地に入る。

 

「禍仕分手を発動すると、私たちは現世から消えるわけだけど、その瞬間を不特定多数の人間に見られると騒ぎになることもあるわ」

 

「ああ、なるほど」

 

「それじゃあ禍仕分手を発動して。禍霊に聞こえるように強く叩いて」

 

 天平は頷き、構えを取る。

 そして力強く手を合わせた。

 

「禍仕分手」

 

 拍手の音を聞いた天平と純礼、そして禍霊が瞬時に間世に転移される。

 禍霊は突然のことに、周囲をキョロキョロと見回す。

 そこに、路地から天平と純礼が現れた。

 

「ミ……ミミミミミミエテルゥゥゥゥ!?」

 

 禍霊は長い髪を無数に枝分かれさせ、鞭のようにしならせながら、天平に突進する。

 

「"明星"!」

 

 天平は憑霊術を発動。

 光り輝く球体で禍霊を迎撃する。

 

「ヴッ!?」

 

 五つの球体のうち四つは髪に弾かれるが、最後の一つが腹部に命中。

 さらに、その球体と位置を入れ替え、

 

「おらっ!」

 

「ヴォエッ!」

 

 蹴りを見舞う。

 球体と天平が身体に纏う光は四百六十度という高熱を纏っており、今しがた蹴りを受けた禍霊の腹部と球体を弾いた髪が音を立てながら焼け焦げている。

 

──なんか良い感じじゃないか!? 俺って本番に強いタイプなのかも!

 

 一連の攻撃が上手くいったことで自身をつける天平。

 再び五つの球体を禍霊に向け飛ばす。

 

「アアアアアアッ!」

 

 禍霊はそれらを髪で振り払おうとするが、球体はそれをスルスルと避けて進み、

 

「ギャアアアアアアアアアッ!」

 

 五つすべて命中。

 衝撃と熱で禍霊は絶叫し、のたうち回る。

 

──いける! 

 

 絶叫しながら悶えて転げ回る禍霊に、球体をけしかけ追い打ちをかける。

 しかし、

 

「アアアイッ!」

 

「うおっ!?」

 

 枝分かれしていた髪を一束にする禍霊。

 首を振り回し、薙ぐようにして球体を弾き飛ばす。

 髪の強度が上がっているのか、熱によるダメージもない。

 禍霊は立ち上がり、仁王立ちになる。

 一束になった髪は逆立ち、顔が露わになる。

 

「うっ!」

 

 鬼の形相と形容する他ない醜く恐ろしい顔面。

 逆立った髪と合わせて、まさに怒髪衝天といった感じだ。

 

「恐れては駄目よ! その恐れを喰らって奴はさらに力を増すわ!」

 

 恐ろしい姿になった禍霊にたじろぐ天平に純礼が活を入れる。

 

「分かってる!」

 

 純礼にそう返し、天平は攻撃を仕掛ける。

 球体を飛ばし、再び衝撃と熱によるダメージを狙うが、

 

「アアアイッ!」

 

 太い鞭のようにしなる髪にすべて弾かれる。

 

──くそっ! さっきより数は減ってるのになんで防がれるんだ!

 

 無数に枝分かれしていた状態から一束になり手数は減ったのにも関わらず、攻撃が当たらなくなったことに苛立つ天平。

 

──なら直接殴り込む。

 

 球体と細かな位置交換を繰り返しながら、少しずつ着実に距離を詰める。

 しかし禍霊も素早い動きを見せ、天平が詰めた分だけ離れる。

 さらに同時に髪での攻撃も行ってくる。

 

──さっきまで上手くいってたのに!

 

 あっという間に形勢を逆転された天平。

 さらに状況は悪化する。

 

「なんだ?」

 

 一束になり逆立っている髪の毛先が、凄まじいスピードで編み込まれていく。

 

「顔?」

 

 天平の言う通り、編み込みは人間の顔をかたどっている。

 禍霊は髪を振り回し、編み込みの顔の部分が、天平に迫る。。

 

「うおっ!?」

 

 編み込みの顔は学ランの襟に噛みつくと、そのまま天平を振り回す。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ぶんぶんと高速で振り回される天平。

 球体との位置交換で抜け出そうとするが、その前にビルに叩きつけられた。

 

「ぐっ! あっ……!」

 

 ビルに叩きつけられ、そのまま地面への自由落下でも叩きつけられる。

 覚醒した寄処禍は身体も相応に頑丈になっているため、さほど大きなダメージになならなかったが、常人ならば死んでいてもおかしくない。

 

「ぐっ……くそっ!」

 

 再び噛みつこうと迫る編み込みの顔の突進を、禍霊の後方にあった球体との位置交換でかわす。

 

「調子に……乗るなよ!」

 

「アウッ!」

 

 そのまま背後から飛び蹴りを喰らわせる。

 禍霊は身体をくの字に曲げて吹き飛ぶ。

 天平はそこに球体での追撃を行うが、編み込みの顔がまるで突風のような息を吐き出し、球体を押し返す。

 禍霊は体勢を立て直し、天平から距離を取る。

 

「ん?」

 

 再び仁王立ちになった禍霊の身体がぶるぶると震える。

 すると毛根に炎が発生。

 それは逆立つ髪を昇って行き、編み込みの顔の口から火炎放射のように放たれた。

 

「はあっ!?」

 

 まさかの攻撃に天平は叫びながら慌てて回避。

 直撃は避けたが、地面から波状に広がる炎を浴びてしまった。

 

「あっちぃ!」

 

 右腕に炎を浴び、火傷を負う。

 そこで気づいたが、身体に纏っていた黄金の光が弱まっている。

 

──限界が近いな。

 

 それを見て、天平は昼休みの特訓で純礼に聞いた話を思い出す。

 憑霊は力を連続して使用し続けると疲労が溜まっていき、一定のラインに達すると休息のため眠りにつくということ。

 今の明星はさながら、うとうとしている状況だ。

 

──時間がない。次で決める! 

 

「アアアアイッ!」

 

「隙だらけなんだよ!」

 

 再び火炎放射を放とうとする禍霊。

 天平はその瞬間を狙い、編み込みの顔の口の部分に球体をすべて侵入させる。

 毛根から昇ってくる炎を一例になって上から降りてくる球体たちが押し返す。

 そのまま毛根部分まで押し返し、

 

「ギイヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッ!」

 

 凄まじい大爆発を起こした。

 大気が震え、周囲のビルの窓ガラスが割れる。

 

「や、やったぜ……」

 

 熱気を浴びながら座り込む天平。

 そこに純礼が近づいてくる。

 

「初祓除おめでとう。一時はどうなることかと思ったけど」

 

「俺もだよ。あれ本当に初実戦に丁度いいレベルだったの?」

 

「………………ええ」

 

「今の間は?」

 

「さ、次に行きましょう。と言いたいところだけど、まずは怪我を治してもらいに行きましょうか」

 

「ねえ。なんで無視するの? 本当に初実戦に丁度いいレベルだったの? あいつ」

 

「本部に行くわよ」

 

「ねえねえねえ!」

 

「うるさいわね! そうよ! ちょっと見誤ったわよ! ごめんなさい! だって炎吐いたりするなんて思わないでしょ! あの見た目で! 貴方が一人で祓除できたことにも驚いてるわ! 才能あるんじゃない!?」

 

「えっ、そんな照れる。へへっ」

 

「………………」

 

 こうして天平の初めての実戦は終わった。

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