眾禍祓除 SHU-KA-FUTSU-JO   作:タカノ/髙野

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第八話『ビギナーズラックは続かない』

 放課後になり、天平と純礼は今日も二人で下校。

 

「今日も見回り?」

 

「いえ。今日は任務が来てるわ」

 

 純礼がスマホを取り出す。

 

「昨日、原宿で傷害事件が三件発生したわ。容疑者はいずれも、身体が勝手に動いたと供述してる」

 

「それは、普通じゃないね。一人ならともかく三人は」

 

「十中八九、禍霊か寄処禍の仕業ね」

 

「禍霊だったら、なんでこんなことするんだろうね。人間の恐怖を食べるのがあいつらの目的でしょ?」

 

「なんにでも例外はあるものよ。ただただ人間に危害を与えたいだけの愉快犯みたいな禍霊もいるわ」

 

 二人は話しながら、荻窪駅を向かう。

 そして電車に乗り、原宿駅へ。

 竹下口から駅を出れば、すぐ目の前に竹下通りだ。

 

「事件が発生したのは、この竹下通りよ」

 

「禍霊だとして、同じ場所にいるもの?」

 

「大抵の禍霊は成功パターンを繰り返すから、おそらくいるはずよ」

 

「なるほど。しっかし人多いね」

 

 大勢の人でごった返す竹下通りを眺め、天平が言う。

 

「昨日三件も傷害事件が起きたっていうのに」

 

「自分には関係ないことと思っているんでしょう。そんなものよ」

 

 純礼はそう言って人波に入ってゆき、天平も続く。

 

「これだけ人が多いと、人型だと見つけるの大変だね。ましてや寄処禍だったら……あれ? 純礼ちゃん?」

 

 天平が不意に横を見ると、先ほどまで隣にいた純礼がいなくなっていた。

 

「まさか……はぐれた?」

 

 歩きながら、周囲を見回すが純礼の姿は見当たらない。

 

「マジかよ」

 

 天平はスマホを取り出し、純礼に連絡を取ろうとする。

 しかし次の瞬間、

 

「きゃあああああああ!」

 

 女性の絶叫が響いた。

 声の出どころは通りに面したカフェの店内。

 天平はスマホをしまい、カフェに入る。

 そこには店員らしき若い男性を殴打し続ける男。

 店内は騒然となっており、止めに入る者もいない。

 

「やめろ!」

 

 天平は男を店員から引き離そうとする。

 男は暴れて抵抗するが、周囲にいた何人かの男性が傍観をやめ加勢する。

 

「ギッギッギッ!」

 

「ん!?」

 

 男を抑える天平の視界に、笑い転げている猿のような生き物が入った。

 単眼に大きな口、両手両足には鋭い爪を備えている。

 

──こいつか!

 

 この事態を引き起こしている禍霊を見つけた天平は、羽交い締めにしている男を禍霊のいる反対方向にある無人のテーブルに怪我をしない程度の威力で投げ飛ばす。

 店内にいるすべての人間の視線がそちらに向いた瞬間に、禍仕分手を発動。

 未だ笑い転げている禍霊とともに間世に移動した。

 

「ギッ?」

 

 異変に気づき立ち上がる禍霊。

 天平はそれに素早く近づき、蹴り飛ばした。

 

「ギエッ!」

 

「"明星"」

 

 天平はそのまま憑霊術を発動、吹き飛ぶ禍霊を追撃する。

 五つの球体による攻撃を続けざまに浴びせる。

 さらに一つの球体と位置を入れ替え、背後を取ると、再び蹴り飛ばす。

 吹き飛ぶ禍霊はガラスを突き破り、通りに倒れ込む。

 

「ギッギィ……」

 

 連続攻撃でダメージを負った禍霊は、よろよろと立ち上がる。

 

──よし。良い感じだ。

 

 天平も通りに出て、球体を一つ、身体の正面に配置する。

 

「実験台になってもらうぜ」

 

「ギ?」

 

 天平は右の拳を握り、親指と人差し指を開いて銃の形を作る。

 そして人差し指の先端を禍霊に向け、狙いを定める。

 

──重要なのはイメージだ。球体が持つ熱を光線にして放つイメージ。

 

 頭の中で何度もシュミレーションを行う。

 

「ギィ?」

 

 手を銃の形にしたまま動かない天平を見て、禍霊は怪訝な顔をする。

 来ないのならこちらから行くとばかりに禍霊が一歩を踏み出した瞬間、

 

「"明星・射光(しゃこう)"」

 

 天平の発した言葉に合わせ、球体から光線が放たれた。

 

「ギィヤァァァァッ!」

 

 光線は禍霊の右肩を射抜く。

 禍霊は絶叫をあげ、のたうち回る。

 

「くそっ。ちょっとズレたな」

 

 構えを解き、悔しそうに言う天平。

 彼は五時間目の自習中に考案した抖擻発動を、早くも実践し成功させたのだ。

 球体が持っている熱を一点に集中させて放つ、いわばレーザービーム。

 それが明星の抖擻発動だ。

 

──俺ってやっぱり才能があるのかもしれん。

 

 抖擻発動を成功させ悦に入る天平。

 

「ギッ……ギッ……ギッ……」

 

 一方の禍霊は、撃ち抜かれた肩を手で押さえながら立ち上がる。

 

「次でとどめだ」

 

 天平は再び右手を銃の形にして構える。

 

「あけぼ……」

 

「アイハブコントロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォル!」

 

 狙いを定め再び抖擻発動によるレーザービームを放とうとする天平、しかしそれより先に禍霊が単眼から光線を放った。

 それは天平の正面に銃口として配置されていた球体に直撃。

 

「なんだ?」

 

 天平は訝しむが、特に何も怒らない。

 

「あけぼ……うおっ!?」

 

 気を取り直して、抖擻発動を見舞おとする天平。

 しかし次の瞬間、光線を浴びた球体が天平に激突する。

 咄嗟に腕を交差させガードをするが、軽く吹き飛ばされた。

 

「なんだ?」

 

「ギッギッギッ」

 

 すぐに立ち上がり体勢を整える天平。

 対する禍霊は愉快そうに笑う。

 そしてその禍霊のそばには、付き従うように球体が浮遊している。

 天平はそれを自分の元に動かそうとするが、まるで初めて発動した時のようにピクリともしない。

 

「光線を浴びせたものの制御権を奪う能力か? それで人を操って傷害事件を起こさせてたんだな」

 

 目の前の光景と一連の出来事から禍霊の能力をそう判断する天平。

 

「厄介な能力だが。一つだけならなんとでもなる」

 

 そう言って天平は四つの球体と自分の位置を高速でシャッフルする。

 

「ギッ!?」

 

 次々と高速で天平と球体の位置が変わるのに禍霊は対応出来ない。

 背後に回り込んだ天平が蹴りを見舞う。

 

「ギィッ!」

 

 禍霊は負けじと爪を振るって攻撃するが、天平は位置交換で回避。

 その天平に制御権を奪った球体で攻撃を仕掛けるが、それもかわされる。

 

──制御権を奪うだけで、能力まで使えるわけじゃなさそうだな。

 

 これまで散々見せた球体との位置交換を行わないのを見て、あくまで動きを操れるだけと判断する天平。

 

「このまま押し切る!」

 

 再び球体との高速シャッフルで禍霊に迫る天平。

 

「アイハブコントロォォォォォル!」

 

 制御権を奪う光線を放つ禍霊だが、当然それを警戒している天平は確実に回避する。

 光線を回避し、球体と殴打の連続攻撃を浴びせる。

 

「ギィィィィィィィッ!」

 

 苛立った声をあげ、両手の爪を振り回す禍霊。

 

「"明星・射光"」

 

 距離を取って、抖擻発動による攻撃を放つ。

 しかし、禍霊はそれをギリギリで回避。

 

──やっぱり発動までのタメが長いよな。もっと短縮しないと。

 

「アイハブコントロォォォォォォォル!」

 

 天平のレーザービームを回避した禍霊は今度は自分のレーザービームを放つ。

 天平に向けて放たれたそれを横に飛んで回避する。

 

「ん?」

 

 天平が回避した光線の先には、禍霊の支配下にある球体。

 光線は球体に当たると、まるで球体を中継地点にするようにねじ曲がり、再び天平に向かう。

 

「嘘だろ!?」

 

 天平は驚きながらも位置交換能力で回避。

 自分の身体は守れたが、また球体の制御権を一つ奪われた。

 二つの球体が天平に迫る。

 

「くそっ!」

 

「アイハブコントロォォォォォォォル!」

 

「うおおっ!」

 

 球体への対処を迫られる天平に光線も飛んでくる。

 球体を中継して軌道を変えるそれを回避するのは難しく、また一つ一つ球体の制御権を奪われていく。

 そして、

 

「やっばい」

 

 五つすべての球体の制御権を奪われてしまった。

 

「ギッギッギッギッギッギッ!」

 

 すべての球体を従え、禍霊はご満悦だ。

 一方の天平は冷や汗をかいている。

 

「返してくんない?」

 

「ギィヤッ!」

 

 天平のダメ元のお願いも当然届かず、五つの球体がすべて天平に迫る。

 次の瞬間、

 

「"臈闌花"」

 

 色とりどりの美しい花びらが、星を遮った。

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