幻想世界の、身の程知らずな迷い人 作:いつだって全力全開で怠けていたい
昔、というか前世で死んで神様に会ったときのこと。当時それなりにハマっていた原神の世界に、チート付きで転生させてもらえると聞いたボクは、俺TUEEEEがしたいと思い、浅はかにも三つのチートを願ってテイワットにやって来た。別にチートは一つだけとは言われなかったからね。
ただ、流石によくばり過ぎたようで、神様から貰ったのは注文していた俺TUEEEEとは遥かに遠い、不便な力だけ。気づけば一文無しの浮浪人になってしまっていた。
ボクは神様から貰ったその力を「
転移と聞けば、便利なものを想像するかもしれないけれど、残念。これは自分の意思とは無関係に、勝手に転移する厄介な代物だ。
一応、長年この体と向き合って来たから、転移する感覚や力の動きは分かってきた。その力の制御の仕方も日々牛歩の勢いで上達している。それでも精々、転移する間隔を遅らせる程度のものでしかなく、その感覚が外れることもある。自分の望んだ場所に転移するなんて芸当はできた試しがない。
後悔先に立たずと言うけど、もし立ってくれるなら先に立ってほしいと思ってしまう。こういう欲ばりな所が影響したのか、なんて考えてもみたり。
とにかく、そんな能力にボクは未だに折り合いというものを付けられずにいる。ボクの人生の死活問題で、なまじ希望が少し見えているばかりに、諦めきれないのだ。
希望と言ってもそこら辺にいた、いかにも占い師っぽい占い師に聞いただけの些細な助言でしかないんだけどね。
ちなみに占い師に聞いた助言はたった一言、古今東西あらゆる人に尋ねてみなさい、という本当に占い師かどうか疑うレベルの助言だ。
そんな小さな、希望と呼べない程小さなものであっても、ボクは信じた。他にすることが思いつかなかったのも理由のひとつではあるけれども。
だから、ボクは転移して人に会ったら真っ先に尋ねることにしている。どうにかしてこの厄介な体質を変えられないかと、誰彼構わず尋ねるようにしている。
ちょっと威厳ありげに言うなら──歳を問わず、学を問わず、善悪を問わず、この身の行方の如何のみを問うている。なんてね。
ついさっき転移した先にあったモンド城の橋の上にいた子供にもこうして尋ねていたりするわけだし。
「と、言うわけでとにかく困っていてね。何か思い浮かんだなら、是非とも教えてくれないかな」
「よくもみんなを!お前なんか誰が助けるっていうんだ。このハト殺し!」
改めて言おう。ボクは尋ねている。
尋ねている、のだけど……どうにも、この子はさっきから同じ言葉しか喋らない。前世でやっていたRPGのNPC達の中にいた、一際幼さの残る少年を思い出させる。そのくせして、言動は全然可愛らしくない。やれ人でなしだのハト殺しだの、人を猟奇殺人鬼みたいに言ってくれる。
一体全体、ボクが何をしたって言うんだ。ただその辺にいた邪魔なハトを殺す程度、そうギャーギャー騒ぐ程のことじゃないだろうに。せめて騒ぐならボクの質問に答えてからにしてほしいものだ。
そもそも、ハトを見つけたら殺すのは冒険者ならやって当然の行動、通路を妨害する鳥畜生を片付けるのは人としても当然の行為だ。それをとやかく騒ぐのはきっと、この少年は冒険者と無縁の生活を送ってきたからに違いない。
そう考えると、この少年は全くと言って良いほど世間知らずなんだろう。冒険者なんてそこら中に転がっているのに未だに見たことがないなんて、哀れな少年だ。なんなら外出したのも初めてなんじゃなかろうか。だからこうして、ハトを殺したボクを非難している。まるで親の仇みたいに、まるで恋人の仇みたいに責め立てている。ニコラ・テスラじゃあるまいし。はてさて、どうしたものやら。
そうだ。ここは一つ教育というものをしてみるのはどうだろう。ただの教育じゃなくて、冒険者の教育をしてやるのだ。今のところ、転移しそうな感覚はないから少なくとも一日くらいは付き合えるはずだ。人助けにも、遺憾ではあるけれど、ハトを殺したお詫びにもなるだろうし、もしかしたら機嫌を直して、ボクの質問に答えてくれるかもしれない。
そうと決まればやることはひとつ。ボクは喚き散らしている少年を担いだ。
「何するんだお前、離せ!」
「よし出発だ、舌を噛まないよう気を付けてね!」
「は?何いっデぇぇえええ?!!」
そうして抵抗し続ける少年を右肩に抱えながら、モンド城郊外に向けて走っていった。
なにも、ボクは考えなしに郊外に向かった訳じゃない。冒険者がやることと言えば、やはり冒険だ。城内でもできることはあるかもしれないが、お生憎様、ボクはそのできることを知らない。郊外に向けて走るのは至極当然のことだった。
それはそれとして、一口に教育をすると言っても、どういう形でするかは決めていないから何をすればいいのか見当がつかない。考えているようでよく考えずに行動する。行き当たりばったりなボクはいつだって過去の自分を恨むのだ。
とりあえず、それっぽいことを言いながらそれっぽいことをさせれば良いだろうか。ちょうど良いところに草スライムを見つけたことだし、とりあえず戦わせるのもいいだろう。少年の現状の力量を確かめてもおきたいからね。
そういうわけで……ポンポンと、あまりの速さに目を回している少年の背中を軽く優しく叩いてやる。人によってはバンバンと表現するかもしれない威力ではあったが。
「ぐっぅう?!……お、お前なんて父さんがいれば!!」
「おお、戻ったようでなにより。意外と早かったね。あと十秒ぐらいは待つつもりでいたんだけど」
抱えられた状態での、予想より早い少年の復活に割と本心で驚きながらも、とりあえず少年の戦闘力を測るべく地面に立たせる。
あっ、まずい。足元にあった石が草に隠れていて見えなかったのだろう。せっかく草スライムから離れた所にいたのに、コケてその弾みで草スライムの真横まで転がっていってしまった。
……一旦待ってみようか。さっき復活するの早かったから案外勝てるかもだし。念の為にシールドでも着けてやってと。発動条件は……まあ、死にかけたら発動でいいか。
「がんばれー。相手は草スライム、スライムの中でも比較的弱いほうだぞー」
ひとまず様子を伺いながら応援に徹することにしよう。ボクは深く息を吸い、胸を大きく膨らませる。
「少年が蹴ったぁ!草スライム避けるゥ!!」
気分はそう。競馬とかプロレスとかの実況のアレだ。前世なんて随分と昔のことだから、あまり覚えてはいないけど。たぶんこういう感じだった気がする。ちなみにこの間、わずか0.1秒である。
「おおっとここで攻守交替草スライムの体当たりだァ!避けられるか少年どうする!?」
そんな風に無駄な思考を無駄に速く巡らせていると、草スライムと少年の戦いに変化があった。つい先程まで草の中に隠れていた草スライムが姿を現したのだ。よく見れば草元素を足元に集めているのが見てとれる。負けると判断して一撃必殺で決めるつもりだろう。
「草スライム飛んでそのまま少年ごと消えて砂埃が舞ってしまったァ!!」
……少年ごと消えて?
異変に気づき、すぐさま辺りを見渡すと、先程まで草木が生い茂っていた場所が消え、代わりのように砂が辺り一面を覆い尽くしていた。どこからどう見ても砂漠。当然草スライムなどいるはずがなく、少年もまた姿を消していた。
とまあ状況を並び立ててみたけれど、要するにボクはまた転移してしまったという訳だ。少年を草スライムの前に置き去りにして。
さっきまでいた場所はモンド。そして、ここはおそらくスメール南西部に当たる場所だろう。スメールからモンドまでの距離はだいたい五百キロメートル。たとえボクが全速力で走ったとしても、日の入り前に璃月港を越えるかどうか。少年を助けるには、あまりにも遅過ぎる。
能力には極力気を付けていた。今日中には転移しないだろうと、タカをくくっていた。それでこの結果とはざまあないね。
一応シールドを貼っておいたから時間は稼げるだろう。確かこの時間帯は野外に行っている冒険者達が帰路に着く辺りの時間だった。その冒険者達が運良く通りすがれば少年は助かるはずだ。
ボクはその場に端座して胸の前に手を固く組み、目を閉じる……何もできないのと変わらないかもしれないけれど、やらないよりはやっておいた方が少しだけ良いような気がするから。
──神よ、ワタシは罪を犯しました。ワタシの過ちによって、一つの命が失われようとしています。どうか少年に、彼に憐れみをお与えください。
あぁ、やっぱり何も出来ないのはつらいな。それが自分のせいで起きたことなんだから、なおさら。
きっと、こんな風に適当に生きてるから。いつまで経っても変わらないから。ボクの体はいつまでもボクの意見を聞いてくれないのだろうかと、そう思った。
どうも怠けたい人です。初心者なので超遅筆です。一年に三回書ければ良い方……可愛らしいものを見る目で見てください。_|\○_
ところで、橋の上のハトがお友達な少年、一体誰なんでしょうか?
そうです。我らがハトガキこと通路妨害のティミーくんです。最初の国モンドの主要通路である橋の上を通ろうとする度にハトが逃げると騒いで避難してくる子供、つまり超ヤバい奴です。
おや、そんなティミーくんの近くに何かが……
草スライム(そんな狂人はここで始末するに限るんだよなぁ?)
さっすが草スライム!俺たちができないこと(システムの都合上)を平然とやってのける!そこにシビれる憧れるゥ!!
というわけで、今回!ティミー死す!(1d100 → 7)