思い立ったが吉日ということで、投稿します。
目を覚ますと…そこは見知らぬ森の中だった。
木々の隙間から木漏れ日がちらちらと差し込んで、やけに目に焼きつく。ーー鬱陶しい。
「転生…したのか?」
ぼんやりとした頭で、僕はそんな結論を出していた。
だって、ここはどう見ても元の世界じゃない。
見たことのない様々な植物達が生い茂り、遥か上空には尾羽に美しい火を纏った鳥が優雅に飛んでいる。
間違いない…幼い頃に読んでいた、ファンタジーの世界そのもの。
ファンタジーには窮地は付きもの…
そして何よりも、目の前に居る獣がここはファンタジーであると身思って教えてくれている。
「グルルル…」
至近距離…
鋭い牙の隙間からどろりとたれた涎が僕の服を汚す。
日本狼に西洋のドラゴンの要素を混ぜた禍々しい獣がいた。
あまりの威圧感に、僕の思考は完全にショートする。
そして、この窮地を脱する為に僕が取った行動は…
「あの…えっと…お手?」
完全に冷静さを失った僕は、訳も分からず手を差し出していた。
差し出した手のひらに、獣特有の荒く野生臭い吐息が吹きかかる。
ーー生暖かい…それは嫌でも死を予感させた。
「あはは、やっぱりダメだよね…」
引きつった笑顔を浮かべながら差し出してしまった手をゆっくりと引こうとする。
ーーその瞬間だった。
その獣の琥珀色の瞳が、ギラリと不気味に鋭く細くなる。
それは絶対的な捕食者が獲物と認識した強者の瞳。
ガルゥウウォオオオオオン!!
鼓膜が破けんばかりの、それでいてどこか美しいとさえ感じてしまう遠吠え。
凄まじい存在感と共に放たれた嵐のような風圧が僕の体を地面に縫い付ける。
「ひっ、あ…」
恐怖で言葉が出なくなった。
次の瞬間、視界が半周していた。
普通じゃ信じられないぐらい、軽く投げ飛ばされ、仰向けに叩きつけられていたのだ。
凄まじい衝撃、肋骨が折れた音が嫌でもわかる。
「が、あ…」
息がしづらい…熱い…熱い?
僕は回転の仕方から、軸となったであろう、右側に視線を落とした。
「え?…」
目に映るはずだったモノがなかったのだ。
そう、ついさっきまで差し出していた僕の右腕が…なくなっていた。
厳密には半袖ぐらいの位置がエグレ血が慕ったていた。
ーバリ、クチャ…
獣の口元が、血で赤黒く染まっていた。
そして、咀嚼するたびに聞こえてくる、骨を嚙み砕く音。
微かにはみ出てくる、人の指。
「い…やだ、嫌だ嫌だ嫌だ! 腕が、僕の腕がァアアア!!」
脳が恐怖と激痛で焼き切れる。
僕は残った左手で狂ったように地面を掻きむしり、なりふり構わず這いつくばって逃げようとする。
涙と鼻水で視界がぐしゃぐしゃになりながらも、「死にたくない」との思いで、叫び、取り乱す。
だが、その無様な抵抗が、絶対的な捕食者の神経を逆撫でした。
「グルゥ……」
獣の琥珀色の瞳が、冷徹に、そしてひどく不快そうに細められる。
ーまるで、「うるさい餌だ」とでも言うように。
ー影が、視界を覆った。
あ、と僕が察した時には、すでに全てが遅かった。
逃げる隙も、叫ぶ暇も与えられない。
世界が反転するほどの凄まじい力で、僕の首元に、あの鋭い牙が深く突き立てられた。
ブチ、リ。
肉の裂ける嫌な音と共に、視界が大きく宙を舞う。
そして目に映る…首がなくなった片腕が無くなっている人の身体が。
(あ…僕、死んだんだ。)
ドサリ、と頭部が地面に転がり落ちる。
急速に狭まっていく視界の隅で、獣が僕の身体へ近寄っていくのが見える…
(二匹?…ああ、良かった食べられる痛みは感じなくて済む…)
その二匹は、身体を貪り始めた。
(ああ、せかっく転生したのに…)
ー「餌」から始まる異世界生活。
その幕開けは、あまりにも呆気なく、最悪の結末で塗り潰されたのだった。
最後までお読みいただきありがとうがざいました。
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