決戦兵器の制御コアにされた俺のパイロット候補が全員ヤンデレで依存してくる   作:なっくる@2作品書籍化

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第29話 旗艦級を墜とせ(上)

『超々長距離オムニゲートレーダーに感! プローバー旗艦級を確認。識別コード、ベクター2!』

 

 ビーッ、ビーッ、ビーッ!

 

 けたたましいアラームが鳴り響き、基地全体が急速に戦闘態勢を整えていく。

 

『対プローバー最高警戒態勢(デフコン1)を発動、関係各所へ伝達……内閣統合作戦本部からの承認、頂きました!』

 

 いつもは冷静な中央作戦室のオペレーターの声も上ずっている。

 約7か月半ぶりのデフコン1、しかも人類初の本格攻勢である。仕方ないと言えるだろう。

 

 だが、張り詰めた空気が漂う作戦指令室の中で、我らが満里奈博士は右手にアイスココアの入ったマグカップを持ち、悠然と司令官席にその小さな肢体を沈めている。

 

『いやぁ、素晴らしいねぇ……最高司令官の椅子の座り心地は』

 

 すらりとした脚を組み、パンプスタイプのシークレットシューズを足先でプラプラさせている博士はゴキゲンだ。

 

『ワタシが指示すれば、戦略自衛隊の全部隊が動く……そうだねぇ、いっそのことこのまま中央政府に巣食う奸賊どもを一掃してやろうか。何しろ最強の剣(あめのむらくものつるぎ)はこの手にあるのだから。くくく』

 

(ちょっと博士!ヤバいですって!)

 

 マイクに乗らないほどの小声でとんでもない事をのたまう博士に、テキストチャットでツッコミを入れる。

 

『くくっ、冗談に決まっているだろう? まだ今は』

 

(今って言ったぞこの人!?)

 

 そう。先日人類で初めてフリゲート級を撃沈した我らが博士率いるカグツチ弐型部隊。

 日本中……いや世界中から賞賛された俺たちには、内閣統合作戦本部から対プローバー作戦時の自由裁量権と実働部隊の最高指揮権が与えられた。

 

『……まあ、飛び切りの鈴をつけられているがね』

 

 ちらりと動いた博士の視線の先を追うと、完全装備の武装兵が十名ほど指令室の入り口を固めている。名目上は警備だが、だれを警戒しているのかは明白である……ていうか、俺でもそうする。

 

『おいおい、失礼だねぇ。ワタシは連中と違って、真に人類の未来のために動いているのだが。まあ、その未来に奴等はいなくてもいいのだが……ふふふふふっ』

 

(その言動のせいですからね!)

 

 相変わらずマッドな我が上司にハリセンスタンプを送ると、俺はカグツチ弐型の操縦に意識を切り替える。

 今回は本格攻勢という事で、改修なったカグツチ弐型……非公式に弐型改と呼ばれている三機は、既に大空に舞い上がっている。

 

 ピーッ、ピーッ、ピーッ!

 

『敵戦闘機を確認! 機数は10、旗艦級の前面空域に扇状に展開しています! 敵速マッハ15、急速に距離を詰めてきます!』

 

 俺と博士の微笑ましい(?)やり取りが終わるのを待っていたかのように、オペレーターが敵の出現を告げる。3Dマップに敵機のシルエットがポイントされ、俺の視界に投影された。

 

『ちっ、流石にこちらの意図に気付いたか……三俣君、露払いを頼む』

 

 博士の声色がきりりと引き締まった。

 博士のしなやかな指が司令席のコンソールを踊り、敵機の追加情報が俺の情報ライブラリに登録される。

 

「了解です、博士。新装なった壱号機の狙撃モードを使います」

 

 編隊の右翼を担う、壱号機に秘匿通信を繋ぐ。

 こういう時は彼女の出番である。

 

『……優っち? もしかして美嘉の出番なん?』

 

 スクリーンに映し出されたのは、さらさらとした金髪で、緑の瞳を持つ美少女。

 赤を基調としたブレーザーに白いミニスカート。まるで私立の学園に通うような恰好でメカニカルなコックピットに座っている。

 

「ああ。狙撃で敵直衛機を排除したい……美嘉ならできるよな?」

 

 優しい声色で、彼女のプライドをくすぐるように囁く。渾身のASMR音質である。

 

『え~、どうしよっかなぁ? 狙撃する間無防備になっちゃうしぃ……他の子を突っ込ませるんじゃだめ?』

 

 火器管制用のコントロールパネルから手を引き、胸元のリボンを掴む美嘉。不安そうだが視線はちらちらとこちらを見ている。

 分かっている。こういう時の彼女は優しい言葉が欲しいのだ。

 

「大丈夫。美嘉のことは俺が守る。怖い思いはさせないさ」

 

 ピピピピピッ

 

 ロックオン警報。

 星形の敵戦闘機から数十条のミサイルが飛んでくるが、距離があるため回避は難しくない。俺は壱号機の偏向スラスターを操作し、ミサイルの束を軽く躱して見せた。

 

「……ほらな?」

 

『やった! さすが優っち!』

 

 コックピットの中で、手を叩いて喜ぶ美嘉。こうしていると年相応の無邪気な少女なのだ……が。

 

「何より、撃墜数は美嘉が圧倒的一番だ。いいだろ?」

 

『!! わかった。美嘉頑張るし。もし生きて基地に戻れたら、ごほうび頂戴。ちゃんとお金も払うからぁ、”パパ”』

 

「いやいや、金なんていいって」

 

『で、でもぉ……』

 

「美嘉と過ごす時間が、最高のご褒美だからな」

 

『ゆ、優っち♡ へ、へへっ』

 

 頬を赤く染めながら、美嘉のしなやかな指がコンソール上を踊る。壱号機の主武装は、長砲身のカノン砲。元は水上艦に積まれていたもので軽く100キロを超える射程を誇る。

 

 さらに、今回の大規模改修でマガジン式の弾倉に交換した。長距離用強装弾の弾数は3から15発に大幅アップ。その分機動性はオミットされたが、壱号機は狙撃タイプの機体だから問題ないはずだ。

 

『優っちのために、全部美嘉の前から消えてねぇ』

 

 ドンッ、ドンッ、ドンッ

 

 少々物騒なセリフと共に、カノン砲を三連射。同時に、放たれた砲弾がぐにゃりと歪む。

 

『うん。オムニゲート機関の逆位相発生を確認。仮称、ヤンデレシフト発動』

 

 博士の声が仮想空間に響き、マップに長距離砲撃の進路予想がプロットされる。

 敵機の移動予測ポイントに先回りした完璧な狙撃。さすが美嘉である。

 

 ドウウウッ!!

 

 着弾、星形の敵戦闘機は粉々になった。

 

「よし! さすが俺の美嘉だな。この調子で残りの戦闘機も頼むぞ?」

 

『!! うんっ! 分かった優っち! 美嘉に任せろし!』

 

 ドンッ、ドンッ、ドンッ!

 

『いえ~い!』

 

 トリガーハッピーな美嘉の声と共に、カノン砲が火を噴いていく。

 星形敵戦闘機8機を撃墜するまで、わずか三分。

 残りの2機は、叶わぬと見たか撤退していく。

 

『やったぁ! あ、追撃するふりをして他の二人を誤射すれば、美嘉が優っちを独り占めできるんじゃ? ふ、ふふふふふ……』

 

(こらっ!)

 

 危険なことを言い出した美嘉機の武装をロックしておく。

 

(はぁ、なんとか美嘉をコントロール出来た)

 

 俺の操る三機編隊は、敵戦闘機の爆発を隠れ蓑にしてスピードを上げる。

 キリキリキリ。存在しないはずの胃が痛む音がする。

 まだまだ戦いは始まったばかりである。

 

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