戦う事が好きすぎるつよつよ中年冒険者おじさん vs剣の 『称号』を持つ激重感情の者達   作:ハンノーナシ

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剣客『アーノン・シュヴァルツ』

 

──歓声渦巻く闘技場に僕は立つ。

人目がある場所で戦うのはあまり得意じゃないが……『強者』と戦えるとなると、話は別。

僕は闘技場の歓声を浴びながら、目の前に現れる女の子を見つめる。

その華奢な容姿に秘められた膨大な魔力と鍛え上げられた肉体。

これこそ、僕が求めていた物だ……圧倒的なまでの強者と戦える。

 

「貴方は、一体何を求めてここに来たのですか」

「君と戦う事だけさ!」

「……私を負かしたいという欲求は、理解し難いですね。私に敗北などと言う文字はありません。『剣客』の称号を舐めないで頂きたい」

 

左手に持った刺剣は見事に研ぎ切られている。

心臓を一突きする為の得物か、はたまた……剣勢を受け流す為の道具か。

右手のロングソードは凡庸で、ありふれた物。

けれど……この子の力量ならば、それは神器に等しい物に成り得るだろう。

くぅ、興奮で心臓が跳ね上がる。

 

「早速始めましょう、観客が血を求めていますので」

「野蛮な争いも、戦いの内!僕はとことん付き合おう!」

 

彼女は揺らめいた様に動いたかと思うと、姿を消す。

残ったのは残像のみ……これに惑わされて心臓を背中から。

これが彼女の弱者の狩り方法なんだろう。

 

参ったね、舐め腐られてる……これじゃさっさと彼女の『本気』が見れない。

そうだ……少しサプライズでもしよう。

 

──彼女が背に現れた瞬間、その背中に更に移動する。

そして剣の柄で彼女の背をとん、と叩いてやる。

 

「なッ……!」

 

「詰めが甘いよ!これじゃ殺されてる」

 

彼女は驚異的な反射神経で僕の首筋に剣を振るう。

軽くしゃがんで避けると、彼女は連撃を繰り出し始めた。

右から左、左から右上……確実に首を狙って来ている。

 

「一撃必殺を求めるのも良いけれど、コロシアムの者達は血を求めているんじゃないのかい?」

「余裕ぶった真似を……しかし」

 

彼女の次の動作は、こうだ。

あえて左手の刺剣を視界から外し、右手のロングソードのみで攻撃を。

そして単調な攻撃に油断した者を隠し持った刺剣で急所を一突き。

──これだ。

 

彼女の左手の刺剣が伸びる様に僕の心臓に向かう。

けれど、甘い。

僕は刺剣を左手で掴むと、軽く上へと向ける。

 

「怖いね……少ししたら死んでいたよ」

「……並大抵の雑魚ではありませんね、貴方は?」

 

身分を聞かれても答える物がない。

一般人が目指せる最高ランクのプラチナ級目前辺りで冒険者をしているだけの、ただのおっさんだから。

 

「僕は『カイ・レグルス』と言う。折角の一期一会だ、ここで……名乗りを挟もうじゃないか!」

 

「……私は『剣客』アーノン・シュヴァルツ。コロシアムの王者、数多の血で染まった者。レグルス、貴方を全力で相手しましょう」

 

やっぱりコレ!

戦いにはアツい名乗りがあるべきだ。

観客達は全くもって血が見れない事にブーイング中。

でも関係ない。『僕』が楽しいから。

 

アーノンのロングソードと刺剣は冷たい冷気を帯び始め……辺りの空気を一変させる。

肌寒い空気に思わず寒気がする。

この寒気はただの寒さか?それとも……死の予兆か。

例えそれでも文句はないさ。『死闘』が演じられるのなら。

 

アーノンが朧気に、冷気の中に身を消す。

辺りはいつの間にか霧に満ちていた。

視界不良程度で止まれる物か。

 

「……そこ!」

 

僕が剣を振るうと、霧が掻き消える。

火花が飛び散り、金属音が鳴り響くと……霧の中から剣を弾かれ呆然とするアーノンが現れる。

この戦法が通じない相手は久々だったんだろう。

 

「人の雰囲気ってのは、暖かいんだ。だから……すぐにわかる」

「『心気』で存在を感知しますか。……中々、胸が踊りますね」

 

やっぱりだ!僕と同じで、この子も戦闘が大好きなんだろう。

久しぶりの仲間に嬉しさで心が満ち溢れる。

けれど、油断も慈悲もかけはしない。

どちらかが降参するか、それとも……死ぬまで。

戦い続ける、それだけの事!

 

アーノンは着地の隙を産まない様に空中に留まる中でも魔法で僕を牽制する。

冷たい氷柱は肌に染みる、少し突き刺さってもいる。

やはり盾位はあった方が良いな……腕で防ぐのも良いが、なんせ耐久力が無いからな。

 

魔法で牽制し、アーノンは距離を図る。

不意打ちが通じないとわかった以上、正面衝突のみだろう。

けれど……ただ単純に突っ込んでくるとも思えない。

 

──僕の予想通り、アーノンは魔法を唱えながらこちらに向かってくる。

巨大な氷柱を掌に呼び出し、僕へと放つ。

そしてアーノンは空中に飛び立つと、見事な跳躍力で一回転しながら僕の背中へと。

擬似的な挟み撃ち……これは。

 

「『回転斬り』」

 

くるり、と一回転する様に風を纏い剣を振るう。

ジャストミート!剣は氷柱を切り裂き、アーノンを牽制した。

今度は僕が攻める番かな?

戦いは時折じゃんけんみたくなる時がある。

 

「それじゃ、行くよ!」

「構いません、受け止めます」

 

剣を重心に、軽くスキップする様な勢いで前へと跳躍する。

下から切り上げる様に剣を振るうと、地面に叩き付ける様にアーノンは弾き返す。

今度はフルスイング!切りつける程度で良いけれど、全力で左右に振るう。

勿論剣は真っ直ぐに。

 

流石に僕の力には勝てなかった様で完全に弾くのは不可能だった様だ。

その隙を突く。

脳天をかち割る様に剣を振るうが……少し、手加減をする。

……戦いに手加減は不要だ、けれど。

アーノンは死なせるには惜しい、こんなにも若くして僕という中年のライバルになり得る存在だ。

少し速度を緩め、手加減がバレないような範疇に。

 

「……甘いですね」

「たはー、受け止められちゃったか……」

 

剣身で受け止め、腰を入れて弾き返される。

胸が踊る、これからの更なる展開に期待が膨らむ。

 

──間を置いた一拍。

──お互い剣を鞘に収めると……。

 

一閃。

 

閃光の様にぶつかり合うと、ジリジリと鍔迫り合いを始める。

力の勝負には自信がある。

けれど……そろそろ潮時だ。

これ以上戦いを長引かせると、この神聖な戦いに観客からの石が投げられそうだ。

 

相手を殺さず、僕も死なない最前の方法。

それは。

 

「……降参するよ、流石に僕の負けだ!」

「……は?」

 

鍔迫り合いの最中にパッと表情を笑顔にして、降参を宣言する。

会場はブーイングの嵐。

だって仕方ないだろう、この子は生きるべきだ。

この言い方だと……僕が確実にアーノンを殺せるって言い方に見えるだろう。

勿論、僕が死ぬ可能性も十二分……7割以上はあった。

 

「あの鍔迫り合いで、私は押されていました。貴方が私の首を切るのはいとも容易い筈。何故?」

「あは〜……死ぬのが怖くなっちゃったから?かなぁ〜……」

 

適当はホラを吹く。

戦いに水を差すのは性じゃないし、嫌いだけど。

穏便に戦いを終え、もう一度アーノンと戦うにはこれしかなかった。

 

「……認めません、私の勝利など。敗者は殺されるべき……貴方には、私を殺す資格があります」

「……僕は殺すのは性分じゃないんだ。そういうのは、処刑人とかに任せてるからさ」

「いいえ。貴方には……絶対に私を殺して貰います。貴方を地の果てまで追いかけてでも……私と何度も戦い、私を殺して下さい」

 

ハイライトの無い目で見つめられ、僕は冷や汗が止まらない。

困ったな……この子は強迫観念が強すぎる。

でも、もう一度戦ってくれるって言ってくれるのは嬉しいな。

 

「もう一度戦ってくれるのは大歓迎さ!これ、僕のアーケロイの連絡先ね。戦いたい時はいつでも連絡してくれ!」

 

どうせなら、仲良くなって……『殺されるべき』といった強迫観念から、ライバルへと進化しよう。

そして、僕はコロシアムから出ていくのだった……。

 

──────

 

ピコン、と魔法連絡網アーケロイの通知が鳴る。

 

『レグルス』

『早く私を殺してください』

『今すぐで良いです』

『早く』

『貴方に殺されたい』

『レグルス』

『早く既読を付けてください』

『レグルス』

 

……こりゃ、間違ったかもね!

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