残機無限系クソボケ   作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)

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好きなもの全部詰め込んだゴチャゴチャ世界を書きたくなってしまったので、初投稿です。



その男、残機無限

 

 

 仄かな蝋燭の灯りのみが揺らめく不気味な地下室。そこに一人の男がぽつんと佇んでいる。

 

 彼は一つも服を身に纏っていない。生まれたままの姿でただ立っていた。そして、彼の視線の先には普通ならおよそ見かけるはずのないものが鎮座していた。

 

 ギロチンを備えた断頭台。効率的に人を殺す為の道具が地下室の真ん中に聳え立っている。その刃は鋭く研がれており、蝋燭の火を反射して鈍く光り輝いている。よく観察すると古くなった血が台に付着しており、何度も使われた痕跡が認められる。

 

 男はその断頭台に自ら首を置いた。一連の動作に恐怖はかけらも見受けられない。そして、彼はあろうことかギロチンを落とす為のレバーに手をかけた。

 

 自身の首を落とす為のレバー。それを彼は躊躇いもなく引いた。

 

 重い金属の塊が自由落下を始める。どんな首でさえも断ち斬る斜めの刃が、男の首に迫る。

 

 肉と骨を切断する鈍い音と共に彼の首はいとも容易くその胴体から分かたれた。ゴロリ、と重い音を立てて石造りの地下室の床へと首が落ちる。そして切断面から激しく血が噴き出た。しかし、切られた当人の顔はまるで寝ているかのように穏やかなものだった。

 

 しばらくして、胴体と首からの出血が落ち着く。血を失った体は青白くなっていた。こうして、意味のわからないまま一人の男の命がこの世から消えた――かに思えた。

 

 落とされた首の断面から赤い煙が噴き出る。その煙は一瞬にして彼の首から下の形を象り、次の瞬間収縮したかと思えば彼の体を元通りに復元した。

 

 そして地下室は首のない人の体と全裸の男が寝そべる混沌とした空間となった。首の状態から完全に蘇生した彼は、昼寝から起きるかのように気だるげに立ち上がり、ぐぐっと背伸びをした。

 

「日課終了、っと」

 

 姓は神谷(かみや)、名は(めぐむ)。彼は決して死ぬことのない不死身の男であった。

 

「えーっと、肺は爺さんに渡して、肝臓はヨルさん、あとはなんか決まってたっけな……」

 

 龍は首のない自身の青白くなった肉体を見つめながらその肉体をどこに売るか考え始めていた。彼にとって死ぬことは日常であり、自身の肉体を文字通り売ることで生計を立てていた。

 

 ある程度の見積もりを立て、自身の肉体を解体しようと刃物を手に取ろうとしたその時である。地下室の扉が唐突に二回大きく叩かれる。

 

「え……!? なになに!?」

 

 彼は天涯孤独の身であり、同居人どころか家を知る者も殆どいない。そんな彼にとってその乱暴なノック音はまさに青天の霹靂であった。

 

 彼の返事も待たずにその扉が開かれる。重く錆びついた音が地下室に響いた。

 

「"動かざる天秤(バランサー)"の殲滅者、ニア=ヒューストンです! 観念してください! 貴方の罪は明らかなのですよ! 」

「…………」

 

 シミひとつない純白で仕立ての良い服を着た若い女性。見たところ二十歳にもなっていないであろうその小柄な女性が、ビシッと左肩に刻まれた天秤のシンボルを見せつけるようにポーズを取って彼を睨みつけた。

 

「って、きゃあああああああ!?!?」

「きゃあああああああ!?!?」

 

 地下室に二人の絶叫が響く。一人は目を覆い、もう一方は身体を捻って局部を隠した。

 

「な、なんで貴方全裸なんですか! このヘンタイ!」

 

 穢らわしいものを見てしまった、とでも言うかのように彼女は全力で目を覆っている。しかしそれでも、不審者である龍の一挙手一投足を見逃さぬように指の隙間からチラチラと彼を見つめている。

 

「ヘンタイはこっちのセリフだ! お前は風呂場にズカズカと入ってきてそこにいる全裸の人間にヘンタイって言ってるのと同じだぞこの野郎! ここは俺の家なの! 全裸でもいいだろ!」

「……た、たしかに。一理ありますね」

「お、おう。聞き分けいいな」

 

 奇妙な沈黙。彼女は納得したように静かに頷いた。

 

「私の罪は認めましょう。不法侵入ですね。ですがそれで貴方の罪が帳消しになったと思わないでください。調べはついているのです」

「へえ。この善良なる市民であるワタクシめに罪があると。ぜひ教えていただきたいものでございますわね?」

「いいでしょう。貴方は身元不明の人の臓器を不特定多数に売り払っていますね? その臓器は一体どこから来たのでしょうか。聞けばまるでその日のうちに殺されたかのように新鮮らしいじゃないですか。ここから導き出される結論は一つ!」

 

 彼女は指をビシッと指した。その仕草はどこかわざとらしいものであり、まるで名探偵にでもなったかのように芝居がかっていた。

 

「貴方は沢山の無辜なる人々を殺してその臓器を売り払う極悪人なのです!」

「うーん……」

 

 彼女の指摘は間違っている。事実、龍は人を殺していない。殺しているのは自分自身だけであり、その臓器や肉体も自身のものである。しかし自身の異常性についても自覚している。いかにして穏便にこの場を切り抜けるか。それが問題だった。

 

「落ち着いて聞いてほしい。俺は誰も殺していない」

「証拠は上がっているんですよ!」

 

 そこでニアはようやく暗い地下室に目が慣れたのか、足元に横たわる死体に気がついた。

 

「……現行犯でしたか」

「え? いやいや違う違う!」

 

 龍は背中に冷や汗が伝うのを感じた。まずい。実にまずい状況だった。余りにもタイミングが悪すぎる。自分が首を落とす前にニアがこの地下室に来てくれればまだ弁明の余地があったというのに……そう思わざるを得なかった。

 

 不死身であるという体質を知られるのはまずいし、かといって動かざる天秤に捕まるのもまずい。龍は高速で思考を走らせる。

 

「問答無用! ここで捕まえます!」

 

 ニアは小柄な身体に見合わぬ大きな二丁拳銃を取り出した。黒光りするその銃身と彼女が身に纏う純白の衣装の対照さが武器の物騒さをどこか神聖で美しいものに見せている。

 

 ズドン、と重々しい発砲音が響く。足を狙ったその弾丸は、龍が咄嗟に飛び退いたが故に地下室の床を残酷に砕いた。床に残された弾痕が弾丸に込められた威力を物語っている。

 

「避けないでください!」

「アホか! 威嚇射撃から始めろよ!」

「今のご時世でそんなことをする人を見たことあります?」

「ないな!」

 

 平和ボケした人間はいなくなって久しい。200年も前ならまだいたらしいが。龍はこんな状況にも関わらずそんなことを思い出した。

 

 飛び退いた先で龍は一つの小さなリモコンを手に取った。そのリモコンにはいくつかボタンが取り付けられてはいるが、目を引くのはやはり中心の赤く大きな丸いボタンである。それを躊躇いもなく押した。

 

「今、自爆スイッチを押した。あと10秒で此処は粉微塵になる」

「はい!? な、なにを……!?」

「はは、ハッタリじゃないぞ。壁から聞こえるこの空気が抜けるような音と僅かに香る火薬の匂いを嗅げばわかるだろ? 死にたくないなら逃げるんだな!」

「なんてやつ……」

 

 ニアは「生きてたら必ず捕まえてやりますからね!」と吐き捨てながら地下室から急いで脱出した。その直後、地下室が爆発する。当然龍は地下室に居座っていた為、その爆破を全身でモロに喰らった。

 

 爆炎と共に地下室が破壊される。その衝撃は地上にある建物にまで波及し、窓のガラスが砕けて割れ、黒煙がもくもくと空へと立ち昇った。

 

 それから暫くして、瓦礫が積み上がった地下室に赤い煙が集まり始める。そしてその煙が人の形を取り、神谷龍は再び蘇生した。

 

「は〜……バレちまったらしょうがないか。引っ越しするかね」

 

 今回の住処をかなり気に入っていた為、龍はそこそこ凹んだ。それでも、ここまで派手に騒ぎを起こせばもう居座ることはできない。なんとも世知辛い世の中だ、と嘆いた。

 

 地上の自宅からお気に入りの服を選び、無事だった幾らかの装備となけなしの金を握りしめ、彼は一瞬で廃墟になってしまった住処を後にするのだった。

 

 

 

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